高齢者のリハビリは、「何のために行うか」で内容がまったく変わります。筋力を戻したいのか、転ばないようにしたいのか、病気の後の生活を立て直したいのか。目的が違えば、やるべきことも、使える制度も別です。

このページは、目的別・症状別・疾患別に、必要な記事へたどり着くための入口です。いずれも厚生労働省の告示・通知・マニュアルの原文を確認したうえで書いています。気になる項目から読み進めてください。

このページの構成

  • まず知っておきたい4つの考え方
  • 目的から選ぶ(筋力・転倒予防・歩行・バランス・柔軟性)
  • 症状から選ぶ(すり足・立てない・むくみ・息切れなど)
  • 病気から選ぶ(脳血管・運動器・内部障害・神経難病・認知症)
  • 介助の方法から選ぶ
  • 福祉用具から選ぶ
  • 制度の基本(医療保険と介護保険の使い分け)

高齢者のリハビリは目的から選ぶ

個別の記事に入る前に、全体を通じて共通する考え方を4つ挙げます。

① 加齢による低下と、廃用による低下は別物

「急にできなくなった」の原因は、多くの場合が加齢ではありません。入院、骨折、体調不良で動かない期間が続いたことによる廃用です。

加齢による低下は年単位で進みますが、廃用は週単位で進みます。そして廃用は戻せます。まずはこの切り分けから始めてください。

廃用症候群とは?症状とリハビリの進め方

② 運動と栄養はセット

厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」は「運動と栄養摂取を組み合わせたプログラムは、サルコペニアやフレイル高齢者の筋肉量や筋力、身体パフォーマンスを改善させる効果が示されている」としています。

ただし順序があり、体重が減っている時期はまず栄養が先です。エネルギーが不足したまま運動量を増やすと、筋肉を分解して補うことになります。

フレイルとは?チェック方法と予防の3本柱高齢者の体重減少|危険な目安と原因・対策

③ 環境整備は今日できて、その日から効く

運動で体が変わるには数か月かかります。一方、床の物を撤去する、足元灯を置く、椅子の高さを変えるといった環境整備は今日できて、効果もその日から出ます。

そして1回の転倒・骨折で、それまで積み上げた訓練の成果は失われます。運動と環境整備は、同時に進めるものです。

高齢者の転倒予防|原因と自宅でできる対策

④ 数値で変化を追う

厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」には「別添資料2-4 年齢別体力基準値表」が収載されています。地域在住高齢者の測定データにもとづく、年代別の平均値です。

測定項目65〜69歳75〜79歳80歳以上
快適歩行速度(m/秒)1.38±0.231.24±0.231.13±0.25
Timed up & go(秒)6.34±1.157.44±1.518.69±2.21
5回立ち上がり(秒)7.77±1.908.52±2.129.67±2.51
片脚立位時間(秒)40.8±20.725.5±19.916.2±17.9
握力・男性(kg)38.7±5.934.3±6.129.7±5.3
握力・女性(kg)23.8±4.021.5±3.719.6±3.5

標準偏差の大きさに注目してください。片脚立位は80歳以上で±17.9秒。同じ年代でも個人差が極端に大きいため、平均との比較より3か月前の自分との比較のほうが有用です。

目的から選ぶ

目的記事要点
筋力をつけたい高齢者の筋トレメニュー9選週2〜3日。週130〜140分を超えると効果が消える
転ばないようにしたい高齢者の転倒予防骨折・転倒は要介護原因の第3位(13.9%)
体操をしたい高齢者の体操|介護予防体操のメニュー厚労省の公式タイムスケジュールを再現
体を柔らかくしたい高齢者のストレッチ最優先はふくらはぎ。拘縮は予防が圧倒的に楽
歩けるようになりたい高齢者の歩行訓練距離から始めない。まず立位保持の確認
ふらつきを減らしたい高齢者のバランス訓練静的・動的・機能的の3種類。片脚立ちだけでは足りない

状態・症状から選ぶ

状態・症状記事要点
フレイルが心配フレイルとは?健康と要介護の間の「戻れる状態」
筋肉が落ちてきたサルコペニアとは?ふくらはぎを測るだけでスクリーニングできる
移動機能の低下ロコモとは?ロコモ度1〜3を数値で判定できる
入院後に動けなくなった廃用症候群とは?週単位で進むが、戻せる
すり足・つまずく高齢者のすり足つまずく高さは数ミリ
椅子から立てない椅子から立ち上がれない筋力より先に座面の高さを疑う
足がむくむ高齢者の足のむくみ片足だけ急にむくんだらすぐ受診
足がつる高齢者の足がつる原因脱水と、布団の重みで足首が伸びること
息切れがする高齢者の息切れ横になると苦しいのは心不全のサイン
体重が減ってきた高齢者の体重減少6か月で2〜3kgが公的な基準
腰が痛い高齢者の腰痛有訴者率は男女とも第1位。安静にしすぎない
便秘が続く高齢者の便秘65歳以上では男女差がほぼない
眠れない高齢者が眠れない原因睡眠時間より寝床にいる時間を見る
急に様子が変わった高齢者のせん妄認知症と違い、原因を取れば戻りうる
薬が多い・薬の影響が心配高齢者の薬が多いとどうなる?薬が原因の症状は7つに整理されている
肩が痛い・腕が上がらない高齢者の肩の痛み支えれば上がるかどうかで切り分ける
水分がとれていない高齢者の脱水症状渇きを感じないため周りが確認する
暑い時期が心配高齢者の熱中症搬送の57%が高齢者、最多の場所は住居
寝たきりで床ずれが心配床ずれの予防寝返りが困難ならエアマットを借りられる

病気から選ぶ

脳血管疾患・神経の病気

骨・関節の病気(運動器)

腰の疾患は、安全な方向が正反対

脊柱管狭窄症は前かがみが楽。圧迫骨折は前かがみが最も危険。同じ「腰が痛い」でも、やってよい体操が逆になります。

自己判断でストレッチや体操を始める前に、必ず診断を確認してください。両方を併せ持っている方もいます。

心臓・肺・飲み込み(内部障害)

介助の方法から選ぶ

介助はすべて、厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日 基発0618第1号)の考え方が土台になります。同指針は「原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」と明記しています。

場面記事要点
ベッド⇔車椅子移乗介助のやり方持ち上げず滑らせる/立ち切らせない
歩く・階段歩行介助のやり方患側の斜め後ろ/手を引かない
着替え更衣介助のやり方脱健着患/麻痺側の肩を引っ張らない
トイレトイレ介助のやり方9工程のどこでつまずくかを特定する
食事食事介助のやり方立ったまま上から食べさせない

福祉用具から選ぶ

用具記事制度
高齢者の杖の選び方多点杖は貸与対象、T字杖は対象外
歩行器歩行器の選び方シルバーカーは介護保険の対象外
車椅子車椅子の選び方クッションは「車いす付属品」として貸与対象
介護ベッド介護ベッドの選び方要介護1以下でも例外給付がある
入浴用具・便座シャワーチェアの選び方購入(年間10万円の枠内)

「要介護1だから借りられない」は誤解のことがある

車いす・介護ベッドは原則として要介護2以上が貸与の対象ですが、告示(平成27年厚生労働省告示第94号)には例外が規定されています。

  • 車いす:日常的に歩行が困難な者/日常生活範囲において移動の支援が特に必要と認められる者
  • 特殊寝台(介護ベッド):日常的に起きあがりが困難な者/日常的に寝返りが困難な者

介護ベッドの要件は「起き上がり」「寝返り」であって、歩行能力ではありません。日中は杖で歩けても、朝の起き上がりに苦労しているなら該当する可能性があります。手続きは市町村によって異なるため、ケアマネジャーにご確認ください。

制度の基本|医療保険と介護保険

リハビリには、医療保険と介護保険の2つのルートがあります。

医療保険|疾患別に日数の限度がある

診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)から整理しました。

区分点数(Ⅰ・1単位20分)算定限度起算日
脳血管疾患等245点180日発症・手術・急性増悪又は最初に診断された日
心大血管疾患205点150日治療開始日
運動器185点150日発症・手術・急性増悪又は最初に診断された日
廃用症候群180点120日廃用症候群の診断又は急性増悪
呼吸器175点90日治療開始日

注目すべきは起算日が区分ごとに違うことです。運動器は「最初に診断された日」でもよいため、発症日が不明確な変形性膝関節症や脊柱管狭窄症でも、診断日から150日を使えます。

限度を超えた場合は原則として1月13単位まで。ただし「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合」等の除外規定があります。

入院期間については高齢者のリハビリ病院の入院期間は?で詳しく解説しています。

介護保険|日数制限がない

サービス特徴
訪問リハビリテーションPT・OT・STが自宅に来る。実際の生活動線で評価できる
通所リハビリテーション(デイケア)医師の指示のもと実施。機器を使った訓練も
通所介護(デイサービス)機能訓練指導員が対応。入浴・食事・交流も

医療保険の算定日数が終わった後の受け皿になります。制度上の「リハビリテーション」と「機能訓練」の違いは機能訓練とは?リハビリとの違い、デイケアとデイサービスの違いはデイサービスとデイケアの違いをご覧ください。

40〜64歳でも介護保険を使える場合がある

介護保険は65歳からと思われがちですが、特定疾病に該当すれば40歳以上65歳未満(第2号被保険者)でも要介護認定を申請できます。

脳血管疾患、パーキンソン病関連疾患、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、関節リウマチ、骨折を伴う骨粗鬆症、初老期における認知症などが含まれます。

介護保険の特定疾病一覧16種類

どこに相談すればよいか

状況相談先
要介護認定を受けていない地域包括支援センター(無料・認定不要)
要支援1・2地域包括支援センター
要介護1以上担当のケアマネジャー
入院中・退院が近い医療ソーシャルワーカー
痛み・急な変化があるまず主治医
指定難病がある保健所の難病担当、都道府県の窓口

介護が始まったばかりで何から手をつけるか迷う場合は、親の介護が始まったら|最初の1か月でやることもご覧ください。

市町村の介護予防事業(通いの場、運動器の機能向上プログラム)は、要介護認定がなくても参加できる場合が多いです。内容・対象・費用は市町村によって異なるため、地域包括支援センターにお問い合わせください。

よくある質問

何から始めればいいですか?

「急にできなくなった」のか「徐々に落ちてきた」のかを切り分けてください。急な変化は病気や廃用の可能性があり、受診が先です。徐々になら、筋トレ・転倒予防・栄養の3つから始めるのが基本です。

運動はどのくらいやればいいですか?

厚労省のガイドは高齢者に、筋力トレーニングを週2〜3日、筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上推奨しています。ただし「推奨値に満たなくとも、少しでも身体活動を行うことを推奨する」ともしています。

医療保険と介護保険はどちらを使いますか?

原則として要介護認定がある方は介護保険が優先されます。医療保険は疾患別に算定日数の限度があり、その後の受け皿として介護保険のリハビリを使う流れが一般的です。

リハビリの日数が終わったらどうなりますか?

完全に終わるわけではありません。限度を超えた場合も1月13単位までの算定や、医学的に改善が期待できる場合の除外規定があります。また介護保険のリハビリには日数制限がありません。

65歳未満でも介護保険は使えますか?

特定疾病に該当すれば、40歳以上65歳未満でも要介護認定を申請できます。脳血管疾患、パーキンソン病関連疾患、ALS、脊髄小脳変性症などが含まれます。

自分の体力がどの程度か知りたいです。

厚労省の年齢別体力基準値表に、歩行速度・TUG・5回立ち上がり・片脚立位・握力の年代別平均が示されています。ただし個人差が大きいため、平均との比較より自分の変化を追うほうが有用です。

要介護認定がなくてもリハビリできますか?

市町村の介護予防事業(通いの場、運動器の機能向上プログラム)は認定がなくても参加できることが多いです。地域包括支援センターにお問い合わせください。

家族が介助方法を知りたいのですが。

訪問リハビリでは、家族への介助指導も業務の一部です。実際の自宅で、その家に合った方法を確認できます。ケアマネジャーにご相談ください。

このページのまとめ

  • 高齢者のリハビリは目的によって内容も制度も変わる
  • 加齢による低下と廃用による低下は別物。廃用は戻せる
  • 運動と栄養はセット。ただし体重が減っている時期は栄養が先
  • 環境整備は今日できて、その日から効く
  • 1回の転倒で、積み上げた訓練の成果は失われる
  • 体力は年齢別体力基準値表で5段階評価できる
  • 個人差が大きいため、平均より自分の変化を見る
  • 脊柱管狭窄症と圧迫骨折は、安全な方向が正反対
  • 人工股関節の禁忌肢位は、手術の進入方向で逆になる
  • 介助の土台は「原則として人力による人の抱上げは行わせない」
  • シルバーカーは介護保険の対象外
  • 介護ベッドの例外給付の要件は「起き上がり」「寝返り」
  • 医療保険のリハビリは疾患別に90〜180日の限度がある
  • 起算日は区分ごとに違う(治療開始日・発症日・診断日)
  • 介護保険のリハビリには日数制限がない
  • 特定疾病なら40〜64歳でも介護保険を申請できる

参考にした情報

※本ページは、厚生労働省の告示・通知・マニュアルにもとづいて整理した各記事への案内です。点数・算定要件は診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)、福祉用具の種目は平成11年厚生省告示第93号および平成27年厚生労働省告示第94号、運動の推奨は「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」、体力基準値は「介護予防マニュアル【第4版】」によります。個別の運動の可否・強度、介助方法、用具の選定は、本人の状態と疾患によって大きく異なります。必ず主治医および担当の理学療法士・作業療法士にご確認ください。福祉用具・住宅改修の給付範囲、例外給付の手続き、介護予防事業の内容は市町村(保険者)によって運用が異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。

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リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味