認知症のリハビリ|生活の中でできる関わり方

認知症のリハビリは、記憶を取り戻すために行うものではありません。失われた記憶を訓練で回復させることはできません。目指すのは、今できていることを、できるだけ長く続けられるようにすることです。
そしてもう一つ重要な視点があります。認知症の方の生活が急に難しくなるとき、原因が認知症の進行ではなく体が動かなくなったこと(廃用)や、環境が合っていないことである場合が少なくありません。そこは戻せます。この記事では、関わり方と、医療・介護それぞれの制度を整理しました。
この記事でわかること
- 認知症のリハビリで目指すこと
- 生活リハビリという考え方
- 関わり方の原則(否定しない・指示を単純に)
- 体を動かすことと認知機能の関係(厚労省ガイド)
- コグニサイズのやり方
- BPSDへの対応は「原因を探す」こと
- 認知症患者リハビリテーション料は入院でしか使えないこと
- 在宅で使える認知症短期集中リハビリテーション実施加算
認知症のリハビリで目指すこと
認知症のリハビリには、3つの目標があります。
| 目標 | 内容 |
|---|---|
| 生活機能の維持 | 着替える、トイレに行く、食べる。今できていることを続ける |
| 身体機能の維持 | 歩ける状態を保つ。動けなくなると認知面も一気に落ちる |
| 本人と家族の生活の安定 | 混乱や不安を減らし、在宅生活を続けられるようにする |
ここで押さえるべきは、認知症の進行と、廃用による低下は別物だということです。
「最近急にできなくなった」という変化の裏に、入院、骨折、体調不良による寝たきり期間が隠れていることがよくあります。認知症は年単位で進行しますが、廃用は週単位で進みます。急な低下は、まず廃用や身体疾患を疑ってください。
廃用症候群については廃用症候群とは?症状とリハビリの進め方で詳しく解説しています。
ちびウルフ脳トレのドリルをやらせたほうがいいですか?
リハウルフ本人が楽しんでいるなら構いません。ただし無理にやらせると逆効果です。できないことを突きつけられる時間になり、自信を失います。それより、家の中で役割を持ってもらうほうが有効です。洗濯物をたたむ、野菜の皮をむく。それが立派なリハビリになります。
生活リハビリという考え方
訓練の時間をつくるのではなく、日常生活そのものをリハビリとして扱うという考え方です。
- 着替えを自分でしてもらう:時間がかかっても、できる部分は残す
- 食事は食卓で座って:移動・座位保持・上肢の動作がすべて含まれます
- トイレまで歩く:移動の機会を奪わない
- 家事の一部を担ってもらう:洗濯物をたたむ、食器を拭く、野菜の皮をむく
- 買い物に一緒に行く:歩行・判断・社会参加が同時に含まれます
- 日中は着替える:パジャマのままだと生活のリズムが崩れます
「やってあげる」が機能を奪う
これは現場で最も繰り返し起きることです。時間がかかる、失敗する、見ていられない。だから代わりにやってしまう。
しかしやらなくなった動作は、数週間で本当にできなくなります。そして一度できなくなると、認知症がある場合は再習得が難しい。だからこそ、できているうちに手放さないことが重要です。
忙しい日は手伝って構いません。ただ、1日に1つは本人の役割を残してください。
役割は「うまくできること」でなくていい
洗濯物のたたみ方が雑でも、皮むきが厚くても構いません。目的は成果物ではなく、手を動かすことと「自分は役に立っている」という感覚です。
やり直しを目の前でしないでください。せっかくの役割が、自信を失う時間に変わります。
関わり方の原則
- 否定しない・訂正しない:間違いを正しても本人は納得できず、混乱と不信だけが残ります
- 短く、一度に一つだけ伝える:「着替えて、それから食事にしましょう」は情報が多すぎます
- 選択肢は2つまで:「何が食べたい?」より「うどんとおにぎり、どっち?」
- 正面から、目線を合わせて話す:横や後ろから突然触らない
- 急がせない:反応に時間がかかるだけで、理解していることがあります
- 手順を一定にする:毎回同じ順序だと、体が覚えていることがあります
- 環境を変える:本人を変えようとするより、はるかに現実的です
接し方の具体は認知症の親との接し方|否定しない声かけのコツで詳しく解説しています。
環境を変えるほうが早い
「トイレの場所が分からない」なら、ドアに大きく表示する。「服の前後が分からない」なら、タグに印をつける。「日付が分からない」なら、日めくりカレンダーを置く。
本人に覚えてもらうのは難しくても、分かるようにすることはできます。これは作業療法士が得意とする領域で、訪問リハビリで自宅を見てもらうと具体的な提案が受けられます。
体を動かすことの意味
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、身体活動と認知機能の関係について次のように整理しています。
ガイドの記載(原文より)
「身体活動と認知機能に関するアンブレラレビューにより、有酸素性身体活動は認知機能低下を予防する可能性があることが確認されています」
また同ガイドは、高齢者に対して次を推奨しています。
- 3メッツ以上の身体活動を1日40分以上(1日約6,000歩以上に相当)
- 筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上
- 筋力トレーニングを週2〜3日
- 座りっぱなしの時間が長くなりすぎないよう注意する
認知症があっても、この推奨は変わりません。歩ける状態を保つことが、結果として生活全体を支えます。具体的な運動は高齢者の筋トレメニュー9選をご覧ください。
コグニサイズ
厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」は、認知機能低下予防の運動プログラムの代表例として、国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」を紹介しています。「コグニ」は cognition(認知)、「サイズ」は exercise(運動)を合わせた造語で、体を動かしながら同時に頭を使うのが特徴です。
マニュアルが挙げる例は次のとおりです。
- スキップをしながら手拍子
- ウォーキングをしながら計算
- 椅子に座って足踏み・腕振りをしながら3の倍数で手拍子
- ステップ台の昇降運動をしながら語想起
- コグニラダー
自宅で取り入れやすいのは3つ目です。座ったまま行えるので転倒の心配がありません。
できない課題を押しつけない
コグニサイズは、時々間違えるくらいの難易度が適切とされます。ただし認知症が進んでいる方の場合、難しすぎる課題は混乱と不安を生みます。
間違いを指摘されて落ち込む、やりたがらなくなる、という状態になったら難易度を下げてください。笑いながら続けられるかどうかが判断基準です。運動の目的は成績ではありません。
BPSDへの対応は「原因を探す」
興奮、徘徊、物盗られ妄想、帰宅願望といった行動・心理症状(BPSD)は、本人にとっては理由のある行動であることがほとんどです。
| 確認すること | 例 |
|---|---|
| 身体的な不快 | 痛み、便秘、尿意、空腹、暑さ寒さ、かゆみ |
| 薬の影響 | 新しく始まった薬はないか。主治医・薬剤師に相談 |
| 環境 | うるさい、まぶしい、人が多い、知らない場所 |
| 不安・混乱 | 何をされるか分からない、居場所が分からない |
| 役割の喪失 | することがない、必要とされていないと感じている |
| 身体疾患 | 感染症・脱水。急な変化なら特に疑う |
特に注意したいのが最後です。急に落ち着かなくなった、急にぼんやりしてきたという変化は、認知症の進行ではなくせん妄(身体疾患・薬・脱水などによる一時的な意識の障害)であることがあります。せん妄は原因を治療すれば改善します。
「急な変化は受診」。これを原則にしてください。BPSDの詳細は認知症のBPSD周辺症状とは?種類と対応方法で解説しています。
医療保険の認知症患者リハビリテーション料
診療報酬には認知症に特化したリハビリの区分がありますが、対象は限定的です。診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)の原文で確認しました。
告示の原文(H007-3 認知症患者リハビリテーション料)
1日につき240点。
「別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、重度認知症の状態にある患者(認知症治療病棟入院料を算定するもの又は認知症に関する専門の保険医療機関に入院しているものに限る。)に対して、個別療法であるリハビリテーションを20分以上行った場合に、入院した日から起算して1年を限度として、週3回に限り算定する」
読んでのとおり、この区分は入院中の重度認知症の方が対象であり、在宅では使えません。「認知症のリハビリを医療保険で受けたい」と考えても、通常はこの区分には該当しないということです。
在宅の方が身体機能のリハビリを受ける場合は、脳血管疾患等リハビリテーション料(180日)や運動器リハビリテーション料(150日)など、原因となる疾患に応じた区分で算定されることになります。
介護保険の認知症短期集中リハビリテーション実施加算
在宅で使えるのはこちらです。介護保険には、認知症の方に対して短期集中的にリハビリを行う加算が設けられています。
| サービス | 加算 |
|---|---|
| 訪問リハビリテーション | 認知症短期集中リハビリテーション実施加算 |
| 通所リハビリテーション | 認知症短期集中リハビリテーション実施加算(Ⅰ)(Ⅱ) |
| 介護老人保健施設 | 認知症短期集中リハビリテーション実施加算 |
| 介護医療院 | 認知症短期集中リハビリテーション実施加算 |
いずれも退院(所)日または認定日等から一定期間に限って算定される設計になっており、単位数・算定要件はサービスごとに異なります。詳細は各記事で解説しています。
加算の有無にかかわらず、訪問リハビリ・通所リハビリ・通所介護は利用できます。「認知症があるとリハビリは受けられない」ということはありません。ケアマネジャーにご相談ください。
よくある質問
リハビリで認知症は良くなりますか?
失われた記憶を訓練で取り戻すことはできません。目指すのは、今できていることをできるだけ長く続けることです。ただし、廃用や身体疾患による低下は戻せる部分があります。
急にできないことが増えました。進行でしょうか?
まず廃用や身体疾患を疑ってください。認知症は年単位で進行しますが、入院や体調不良による廃用は週単位で進みます。急な変化はせん妄の可能性もあるため、受診をおすすめします。
脳トレのドリルは効果がありますか?
本人が楽しんでいるなら構いませんが、無理にやらせると「できない」ことを突きつける時間になり逆効果です。家事の一部を担ってもらうなど、生活の中で手を動かすほうが有効なことが多いです。
時間がかかるので、つい代わりにやってしまいます。
忙しい日は手伝って構いません。ただしやらなくなった動作は数週間でできなくなり、認知症がある場合は再習得が難しくなります。1日に1つは本人の役割を残してください。
間違いは訂正すべきですか?
訂正しないでください。本人は納得できず、混乱と不信だけが残ります。事実の正誤より、本人が安心して過ごせることを優先してください。
コグニサイズは認知症があってもできますか?
難易度を調整すればできます。ただし難しすぎる課題は混乱と不安を生みます。笑いながら続けられるかどうかを基準に、難易度を下げてください。
落ち着かず歩き回ります。どうすればいいですか?
まず原因を探してください。痛み、便秘、尿意、空腹、暑さ寒さ、薬の影響、環境の不快、不安。急な変化ならせん妄や身体疾患の可能性もあるため受診してください。
医療保険で認知症のリハビリは受けられますか?
認知症患者リハビリテーション料は、認知症治療病棟等に入院中の重度認知症の方が対象で、在宅では使えません。在宅では原因疾患に応じた区分か、介護保険のリハビリを利用します。
認知症があるとリハビリは受けられませんか?
受けられます。訪問リハビリ・通所リハビリ・通所介護はいずれも利用できます。認知症短期集中リハビリテーション実施加算という仕組みもあります。ケアマネジャーにご相談ください。
家族は何をすればいいですか?
環境を整えること、役割を残すこと、急な変化に気づくことの3つです。本人を変えようとするより、分かりやすい環境をつくるほうが現実的で、負担も少なくて済みます。
まとめ
- 認知症のリハビリは記憶を取り戻すためのものではない
- 目指すのは、今できていることを長く続けること
- 認知症の進行と廃用による低下は別物
- 急な低下は、まず廃用・身体疾患・せん妄を疑う
- 生活そのものをリハビリとして扱う(生活リハビリ)
- やらなくなった動作は数週間でできなくなる
- 役割は「うまくできること」でなくてよい。やり直しを目の前でしない
- 否定しない、短く一つずつ伝える、選択肢は2つまで
- 本人を変えるより、環境を分かりやすくするほうが早い
- 厚労省ガイドは有酸素性身体活動が認知機能低下を予防する可能性を示している
- コグニサイズは座ったままでもできる(足踏み+3の倍数で手拍子)
- 難しすぎる課題は混乱を生む。笑って続けられる難易度に
- BPSDは原因を探す。痛み・便秘・薬・環境・不安を確認する
- 認知症患者リハビリテーション料は1日240点だが入院中の重度認知症が対象
- 在宅では介護保険の認知症短期集中リハビリテーション実施加算がある
参考にした情報
- 診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)H007-3 認知症患者リハビリテーション料
- 厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」(令和4年3月)第6章 認知機能低下予防・支援マニュアル
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)
- 厚生労働省「介護予防マニュアル 第4版」
※本記事の点数・算定要件は、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)にもとづいて整理したものです。コグニサイズおよび認知機能低下予防に関する記述は厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」、身体活動と認知機能の関係は「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」によります。介護保険の認知症短期集中リハビリテーション実施加算の単位数・算定要件はサービスごとに異なるため、各サービスの記事および事業所にご確認ください。関わり方や生活リハビリの進め方に関する記述は、リハビリテーション・認知症ケア領域で一般に用いられている整理および筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづくものであり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません(確度:中)。症状の現れ方や適切な関わり方は、認知症の原因疾患や進行度、本人の生活歴によって大きく異なります。必ず主治医および担当の専門職にご相談ください。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。





