高齢者が眠れない原因|寝床にいる時間を見直す

高齢の方の「眠れない」は、睡眠時間を増やして解決する問題ではありません。厚生労働省の睡眠ガイドは、高齢世代について睡眠時間よりも「寝床で過ごす時間」を重視するよう求めています。
しかも、長く寝床にいることは健康リスクとして数字で示されています。この記事では、睡眠ガイド2023と医薬品適正使用の指針の原文を確認して、眠れない原因の切り分けと、薬の前にできることを整理しました。
この記事でわかること
- 高齢者が眠れなくなる理由
- 「眠れない」と感じている人の割合
- 寝床にいる時間の目安(8時間)
- 長時間睡眠と長い昼寝のリスク(具体的な数字)
- 眠れないときに寝床を離れる理由
- 睡眠薬を使う前に行うべきこと
- 眠れない裏に隠れている病気
- 認知症の方の昼夜逆転への対応
高齢者が眠れない原因
原因は1つではありません。まず加齢そのものによる変化があります。
- 加齢に伴い、生理的に必要な睡眠時間が減少する
- 体内時計の加齢性変化により、昼夜のメリハリが低下する
- 日中の活動量が減り、昼寝が増える
- 眠りが浅くなり、途中で目が覚めやすくなる
- 夜間の頻尿で起きる
- 服用している薬の影響
- 痛み、かゆみ、息苦しさなどの身体症状
ここで重要なのは1つめです。必要な睡眠時間は年齢とともに減ります。若い頃と同じだけ眠ろうとすれば、当然眠れません。「眠れない」のではなく「眠る必要がない時間まで寝床にいる」状態になっていることがあります。
国民生活基礎調査(2022年)で「眠れない」と答えた人の割合(有訴者率・人口千対)は、全年齢29.6に対して65歳以上は47.6です。男38.1、女55.4で、女性に多い傾向があります。
寝床にいる時間が長すぎないか
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」の高齢者版は、推奨事項の冒頭にこう書いています。
睡眠ガイド2023(高齢者版)の推奨事項
「長い床上時間は健康リスクとなるため、床上時間が8時間以上にならないことを目安に、必要な睡眠時間を確保する」
「食生活や運動等の生活習慣、寝室の睡眠環境等を見直して、睡眠休養感を高める」
「長い昼寝は夜間の良眠を妨げるため、日中は長時間の昼寝は避け、活動的に過ごす」
床上時間とは、実際に眠っているかどうかに関係なく寝床に入っている時間のことです。ガイドはこの2つを区別するよう求めています。
根拠として示されている数字は次のとおりです。
| 状態 | 報告されている将来の死亡リスク |
|---|---|
| 7時間未満の短時間睡眠 | 1.07倍 |
| 8時間以上の長時間睡眠 | 1.33倍 |
| 30分以上の昼寝を習慣にしている | 1.27倍 |
成人では睡眠不足の害が語られますが、ガイドは高齢世代について「むしろ長時間睡眠による健康リスクの方がより強く表れる」としています。
さらに、65歳以上では睡眠時間と総死亡率の関連は明確にならず、床上時間が約8時間以上の場合に総死亡率が増加すると報告されていることも書かれています。
誤解しないでほしいこと
これは「睡眠時間を削れ」という意味ではありません。ガイドは6時間以上を目安に、睡眠休養感が得られる時間を見つけるとしています。減らすのは、眠っていないのに寝床にいる時間です。
床上時間の目安の出し方
ガイドは具体的な計算方法も示しています。
睡眠ガイド2023の原文(床上時間の目安)
「床上時間の目安は、1週間の平均睡眠時間(実際に眠っている時間)+30分程度です。床上時間が8時間以上にならないことを目安に、必要な睡眠時間を確保するようにしましょう」
「自身で床上時間を短縮する際には、6時間を限度にすることをお勧めします」
まず1週間、記録をつけます。記録するのは「寝床に入った時刻」「起きた時刻」「実際に眠れた時間の感覚」の3つです。
たとえば21時に寝床へ入り6時に起きているなら床上時間は9時間です。実際に眠れているのが6時間なら、3時間は「眠れずに寝床にいる時間」ということになります。この場合、寝床に入る時刻を遅らせるのが対策になります。
早く寝床に入るほど、眠れない時間が増えて「眠れない」という感覚が強まります。夕食後すぐに寝床へ行く習慣がある方は、ここを見直す価値があります。
眠れないときは寝床を離れる
これもガイドに書かれている対処です。
睡眠ガイド2023の原文(眠れないとき)
「その際、寝床で考えごとをするのは避けましょう。なかなか眠れないときはいったん寝床を離れ、寝床以外の静かで暗めの安心感が得られる場所で、眠気が訪れるまで安静状態で過ごします。そして、しばらくして眠気が訪れてから寝床に戻りましょう」
寝床で「眠れない」と考え続けると、寝床が「眠れない場所」として結びついていきます。それを避けるための方法です。
ただし高齢の方の場合、夜間に起き上がると転倒のリスクがあります。足元灯をつける、手すりを設ける、動線に物を置かないといった準備をしてから行ってください。高齢者の転倒予防|原因と自宅でできる対策もあわせてご覧ください。
あわせて、ガイドは寝室環境についても「テレビやラジオをつけながら寝る」「電気をつけたまま寝る」は気づかないうちに良眠の妨げになっている可能性があるとしています。
ちびウルフ昼寝はしちゃだめなの?
リハウルフ短ければ問題ありません。ガイドが避けるよう言っているのは「長時間の昼寝」です。午後の早い時間に短く、目覚ましをかけるか誰かに起こしてもらう形にしてください。
睡眠薬を使う前にすること
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」は、睡眠薬について明確な順番を示しています。
指針の原文(催眠鎮静薬・抗不安薬)
「加齢により睡眠時間は短縮し、また睡眠が浅くなることを踏まえて、薬物療法の前に、睡眠衛生指導を行う」
そのうえで、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬について「過鎮静、認知機能の悪化、運動機能低下、転倒、骨折、せん妄などのリスクを有しているため、高齢者に対しては、特に慎重な投与を要する」とし、長時間作用型は「使用するべきでない」としています。
投与期間についても、海外のガイドラインが4週間以内としていることに留意すべきだと書かれています。
自己判断でやめない
指針は「ベンゾジアゼピン系薬剤は急な中止により離脱症状が発現するリスクがある」とも明記しています。減らす場合も医師の管理下で行ってください。
一方、各論編には希望の持てる記述もあります。「リハビリテーションなどの日中活動や環境改善の影響で催眠鎮静薬・抗不安薬が無くても眠れるようになることがある」。日中の過ごし方を変えることで、薬を減らせる可能性が示されています。
薬全般については高齢者が飲んではいけない薬はある?指針の中身をご覧ください。
眠れない裏に病気があることもある
生活を整えても改善しない場合、睡眠ガイドは睡眠障害の可能性を指摘しています。
- 不眠症
- 閉塞性睡眠時無呼吸(いびき、日中の強い眠気)
- むずむず脚症候群(脚の不快感でじっとしていられない)
- 周期性四肢運動障害
ガイドは「特に50歳代より徐々に」これらが出現しやすくなるとし、対策で改善しない場合は睡眠障害が潜んでいないか医師に相談をとしています。
あわせて、夜間頻尿で目が覚めている場合は、そちらが原因です。指針は塩分の過剰摂取も夜間頻尿を生じ中途覚醒を増やしうるとしています。
また、日中の強い眠気や、夕方から落ち着かなくなる状態が急に始まった場合は、せん妄の可能性もあります。この場合は早めの受診が必要です。
認知症のある方の昼夜逆転
睡眠ガイドは、Q&Aでこの相談に答えています。
睡眠ガイド2023のQ&A(抜粋)
「6割から7割の認知症患者が、睡眠の乱れで悩んでいるといわれています。(中略)認知症になると、体内時計の機能変化がさらに進む傾向にあり、昼夜のメリハリがさらに弱まり、活動パターンが完全に昼夜逆転してしまう人もいます。さらに、認知症が進むと自らこれを修正する意識も弱まることから、睡眠・覚醒リズムを是正するのは困難な場合が少なくありません」
正直な記述です。6〜7割で起こり、直すのは難しい。そのうえで、太陽光の活用、日中の運動習慣、社会的交流がリズムの調整に役立つことがあるとし、それでも困難な場合は医師に相談するようすすめています。
介護する側にとって重要なのは、「直らないことがある」と知っておくことです。努力不足ではありません。夜間の対応が続くなら、ショートステイなど介護する側を休ませる手段を先に検討してください。
関わり方は認知症のリハビリ|生活の中でできる関わり方にまとめています。
日中の過ごし方を変える
結局のところ、夜の問題は日中に対処します。睡眠ガイドが挙げているのは次の3つです。
| すること | 具体的に |
|---|---|
| 日光を浴びる | 日中にできるだけ長く。朝の光は体内時計をリセットする |
| 運動を習慣にする | 散歩、体操、家事など。継続できる強度でよい |
| 人と関わる | 地域活動や対人関係が睡眠と身体活動を促進する |
運動が制限されている方については、Q&Aで「可動部位の局所運動を取り入れることで、散歩や運動の代わりとなります」「他人と話をするなど、社会的交流をもつことも良質な睡眠の確保に役立ちます」と答えています。
デイサービスやデイケアに通う日は夜よく眠れる、という話をよく聞きます。日中の活動と人との関わりが同時に確保されるからです。
よくある質問
高齢者は何時間眠ればいいですか?
睡眠ガイド2023は、個人差を考慮しつつ6時間以上を目安に、睡眠休養感が得られる時間を見つけるとしています。必要な睡眠時間は加齢とともに減少します。
寝床にいる時間の目安はありますか?
1週間の平均睡眠時間+30分程度が目安とされ、8時間以上にならないことが推奨されています。短縮する場合も6時間を限度にすることがすすめられています。
長く寝るのは体に悪いのですか?
高齢世代では、8時間以上の長時間睡眠による将来の死亡リスクが1.33倍と報告されています。7時間未満の1.07倍より高い数字です。
昼寝はしてもいいですか?
短時間であれば問題ありません。ただし30分以上の昼寝を習慣にしている人は死亡リスクが1.27倍という報告があり、長時間の昼寝は避けるよう推奨されています。
眠れないとき、寝床で横になっているだけでもいいですか?
ガイドは、なかなか眠れないときはいったん寝床を離れ、静かで暗めの場所で眠気が訪れるまで過ごすようすすめています。ただし夜間の移動は転倒に注意してください。
睡眠薬を飲んでもいいですか?
医師の判断によります。ただし指針は、薬物療法の前に睡眠衛生指導を行うとしています。まず寝床にいる時間や日中の活動を見直してください。
睡眠薬をやめたいのですが。
自己判断で中止しないでください。ベンゾジアゼピン系は急な中止で離脱症状が出るリスクがあります。日中の活動や環境の改善で眠れるようになることがあるため、医師に相談してください。
お酒を飲むと眠れるのですが。
寝酒はすすめられません。ガイドは、過度の飲酒や睡眠薬代わりの寝酒は入眠困難や中途覚醒を引き起こし、睡眠休養感を低下させるとしています。
認知症の親が昼夜逆転しています。
6〜7割の認知症の方に睡眠の乱れがあるとされ、リズムの是正が困難な場合も少なくないとガイドは書いています。太陽光、日中の運動、社会的交流を試し、困難なら医師に相談してください。
生活を見直しても眠れません。
不眠症、閉塞性睡眠時無呼吸、むずむず脚症候群などの睡眠障害が隠れている可能性があります。改善しない場合は医師に相談してください。
まとめ
- 必要な睡眠時間は加齢とともに減少する
- 「眠れない」の有訴者率は65歳以上で人口千対47.6(全年齢29.6)
- 高齢世代では睡眠時間よりも床上時間を重視する
- 床上時間は8時間以上にならないことが目安
- 床上時間の目安は平均睡眠時間+30分程度
- 8時間以上の長時間睡眠は死亡リスク1.33倍との報告
- 30分以上の昼寝習慣は死亡リスク1.27倍との報告
- 睡眠時間は6時間以上を目安に、休養感で判断する
- 眠れないときは寝床を離れ、眠気が来てから戻る
- 夜間の移動は転倒対策をしてから
- 睡眠薬の前に睡眠衛生指導を行うのが指針の順番
- 長時間作用型のベンゾジアゼピン系は使用するべきでないとされる
- 急な中止は離脱症状のリスクがあるため自己判断でやめない
- 日中の活動や環境改善で薬なしに眠れるようになることがある
- 認知症では6〜7割に睡眠の乱れがあり、是正が困難なこともある
参考にした情報
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 健康づくりのための睡眠ガイド2023(高齢者版の推奨事項・Q&Aを含む)
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」性・年齢階級・症状別にみた有訴者率
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編・療養環境別)」(2019年6月)
※床上時間・睡眠時間の目安および死亡リスクの数値は、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」に引用された研究報告にもとづく記述です。個々の方の健康状態を予測するものではありません。有訴者率は「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」の数値(人口千対)です。薬剤に関する記述は「高齢者の医薬品適正使用の指針」にもとづく整理であり、本記事は特定の薬剤の中止・減量を勧めるものではありません。薬の変更・中止の判断は必ず医師が行います。睡眠時間や床上時間の調整は、心臓や呼吸器、関節の病気などにより難しい場合があります。症状が続く場合は主治医にご相談ください。記述は2026年9月時点の内容として整理しています。





