高齢者のせん妄|認知症との違いと家族の対応

入院した親が、急に別人のようになった。つじつまの合わないことを言い、夜中に動き回る。家族が「認知症が始まった」と受け止めてしまう場面ですが、急に始まったのなら、まず疑うのはせん妄です。
せん妄は、体の状態や薬が引き金になって起こります。つまり原因を取り除けば戻ることがあるという点が、認知症と決定的に違います。この記事では、厚生労働省の指針の原文を確認して、見分け方と家族にできることを整理しました。
この記事でわかること
- せん妄と認知症の違い
- 見分けるときの3つのポイント
- せん妄の原因になりやすい薬(厚労省の指針)
- 入院や転居で起こりやすい理由
- 静かなタイプのせん妄があること
- すぐ受診すべき場合
- 家族ができる環境の整え方
- 本人への接し方
高齢者のせん妄とは?
せん妄は、体の不調や薬などをきっかけに、急に起こる意識と注意の障害です。話のつじつまが合わない、見えないものが見える、時間や場所が分からなくなる、落ち着きなく動き回る、といった状態になります。
特徴は次の3つです。
- 急に始まる…数時間から数日で変化する
- 波がある…夕方から夜に悪化し、日中は普通に話せることがある
- 原因がある…感染、脱水、薬、痛み、便秘、環境の変化など
そして最も重要なのは、原因が取り除かれれば改善しうるということです。認知症のようにゆっくり進むものではありません。
せん妄と認知症の違い
現場で区別に使っているポイントを整理します。
| せん妄 | 認知症 | |
|---|---|---|
| 始まり方 | 急(数時間〜数日) | ゆるやか(数か月〜数年) |
| 経過 | 1日の中で変動する。夕方から夜に悪化しやすい | 比較的一定。日内の大きな変動は少ない |
| 意識 | ぼんやりする、集中が続かない | 意識は清明なことが多い |
| きっかけ | 身体の不調、薬、環境の変化 | はっきりしないことが多い |
| 見通し | 原因が取り除かれれば改善しうる | 進行性 |
家族が伝えるべき一言
受診時にいちばん役に立つのは、「いつから、どう変わったか」です。「先週までは普通に話していました」という情報が、せん妄を疑う決め手になります。
なお、認知症のある方にせん妄が重なることもよくあります。認知症だから、で片づけないでください。いつもと違う急な変化があれば、別の原因を探す理由になります。
認知症そのものへの関わり方は認知症のリハビリ|生活の中でできる関わり方をご覧ください。
せん妄の原因になりやすい薬
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」は、薬が原因で起こる老年症候群を一覧にしています。せん妄の欄に挙げられているのは次の薬効群です。
指針の原文(せん妄の原因となる薬剤)
「パーキンソン病治療薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬(三環系)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、降圧薬(中枢性降圧薬、β遮断薬)、ジギタリス、抗不整脈薬(リドカイン、メキシレチン)、気管支拡張薬(テオフィリン、アミノフィリン)、副腎皮質ステロイド」
指針は別表でも、せん妄のリスクがある薬を個別に挙げています。
| 薬 | 指針の記載 |
|---|---|
| H2受容体拮抗薬(胃薬) | 高齢者ではせん妄や認知機能低下のリスクの上昇があり、可能な限り使用を控える |
| 第一世代H1受容体拮抗薬(古いタイプの抗ヒスタミン薬) | 可能な限り使用を控える。認知機能低下、せん妄のリスク |
| 過活動膀胱治療薬(オキシブチニン経口) | 可能な限り使用しない。尿閉、認知機能低下、せん妄のリスクあり |
| パーキンソン病治療薬(抗コリン薬) | 可能な限り使用を控える。認知機能低下、せん妄、過鎮静 |
| 活性型ビタミンD3製剤 | Ca製剤との併用で高カルシウム血症による認知機能低下やせん妄を引き起こすことがある |
胃薬と、かゆみ止め・風邪薬に含まれる抗ヒスタミン薬が入っている点に注意してください。市販薬でも起こりえます。総合感冒薬には強い抗コリン作用をもつ成分が含まれるものがあります。
薬全般については高齢者が飲んではいけない薬はある?指針の中身と高齢者の薬が多いとどうなる?ポリファーマシーの基準をご覧ください。
入院や引っ越しで起こりやすい
薬以外で多いのが、環境の変化です。指針(各論編)は、療養環境が変わる時期について次のように書いています。
指針の原文(回復期・慢性期への移行時)
「身体機能や活動性の低下に伴い薬物有害事象(過降圧、低血糖、転倒、せん妄など)が起こりやすくなるため、『現在の患者の状態』に対応した処方であるかを評価することが重要である」
入院、転院、施設入所、子の家への引っ越し。こうした場面でせん妄は起こりやすくなります。加えて、次の身体的な原因が重なります。
- 感染症(肺炎、尿路感染など。高齢者は発熱しないこともある)
- 脱水
- 便秘、尿がたまっている(尿閉)
- 痛み
- 低血糖、電解質の異常
- 手術のあと、麻酔のあと
- 眠れていない、昼夜が逆転している
便秘と尿閉は見落とされます。本人が訴えられないぶん、そわそわする・怒りっぽくなるという形で出ます。急に落ち着かなくなったら、まず排泄を確認してください。
排便の確認方法は高齢者の便秘|原因と薬に頼る前の対策、昼夜の乱れについては高齢者が眠れない原因|寝床にいる時間を見直すをご覧ください。
ちびウルフ入院したら急に変になって、家に帰ったら戻ったの。あれは何だったの?
リハウルフせん妄だった可能性が高いです。見慣れた環境に戻ると落ち着く方は多いです。ただし繰り返すことがあるので、次の入院時には「前回せん妄がありました」と必ず伝えてください。
静かなタイプのせん妄もある
せん妄というと、興奮して動き回るイメージがあります。しかし実際には、逆に静かになるタイプがあります。
- ぼんやりして反応が乏しい
- 一日中うとうとしている
- 話しかけても返事が遅い、話が続かない
- 食事に手をつけない
こちらは「落ち着いている」「疲れているだけ」と見なされて見逃されます。うつ状態と間違われることもあります。
判断のポイントは同じです。急に始まったか、波があるか。昨日までしっかり話していた人が、今日は一日中ぼんやりしているなら、それは正常な変化ではありません。
すぐ受診すべき場合
せん妄は、体に何かが起きているサインです。次の場合は早めに受診してください。
- 急に様子が変わった(数時間〜数日以内)
- 発熱、咳、排尿時の痛みなど感染を疑う症状がある
- 水分がとれていない、尿の量が減っている
- 転倒や頭を打ったあとに様子がおかしい
- 新しい薬が始まった、薬が変わった直後である
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が鈍い
受診時には、お薬手帳を必ず持参してください。市販薬やサプリメントも含めて伝えます。原因薬剤の特定は、時系列の情報がないとできません。
家族ができる環境の整え方
せん妄の対応は、薬より先に環境です。次のことが助けになります。
| 整えること | 具体的に |
|---|---|
| 見当識の手がかり | 時計とカレンダーを見える位置に置く。今日の日付と場所を自然に伝える |
| 昼夜のメリハリ | 日中はカーテンを開けて光を入れる。夜は静かに暗くする |
| 慣れたもの | 眼鏡、補聴器、いつも使っている枕やタオルを持ち込む |
| 感覚を補う | 眼鏡・補聴器を必ず装着する。見えない聞こえない状態は混乱を強める |
| 安全 | ベッド周りの物を減らす。夜間の足元灯。転倒への備え |
| 身体の状態 | 水分、排便、痛みの有無を毎日確認する |
眼鏡と補聴器は効果が大きい割に忘れられます。入院時に持参しない家庭が多いのですが、必ず持っていってください。見えない・聞こえない状況は、混乱をそのまま強めます。
夜間に動き回る場合の転倒対策は高齢者の転倒予防|原因と自宅でできる対策をご覧ください。
本人への接し方
つじつまの合わないことを言われたとき、どう返すかで状況が変わります。
- 否定も同調もしない…「そんなものはいない」と否定せず、話に乗って広げもしない
- 感情に応じる…「怖かったですね」「不安ですよね」と、気持ちの部分に返す
- 短く、ゆっくり、一度に1つ…情報を詰め込まない
- 正面から、顔が見える距離で…後ろから声をかけない
- 身体を押さえつけない…興奮が強まります
そして家族側の負担です。夜間の対応が続くと、介護する側が先に限界を迎えます。せん妄は数日から数週間続くことがあります。一人で抱えず、医師や看護師、ケアマネジャーに早い段階で相談してください。
在宅で続く場合は、ショートステイなど介護する側を休ませる手段の検討も必要です。
よくある質問
せん妄と認知症はどう違いますか?
せん妄は数時間から数日で急に始まり、1日の中で波があります。原因が取り除かれれば改善しうる点が、進行性の認知症と異なります。
認知症の人にもせん妄は起こりますか?
起こります。むしろ起こりやすいとされています。認知症だからと片づけず、急な変化があれば別の原因を探してください。
薬が原因になることはありますか?
あります。厚労省の指針は、パーキンソン病治療薬、睡眠薬、抗不安薬、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、一部の降圧薬、ステロイドなどをせん妄の原因薬剤として挙げています。
市販薬でも起こりますか?
起こりえます。古いタイプの抗ヒスタミン薬や、総合感冒薬に含まれる強い抗コリン作用をもつ成分が関係することがあります。受診時に市販薬も伝えてください。
入院すると起こりやすいのはなぜですか?
環境の変化に加え、手術や感染、脱水、痛み、睡眠の乱れが重なるためです。指針も療養環境の移行時にせん妄などの有害事象が起こりやすくなるとしています。
静かなせん妄もあるのですか?
あります。ぼんやりして反応が乏しい、一日中うとうとしているタイプで、疲れやうつ状態と間違われやすく見逃されがちです。
どのくらいで治りますか?
原因によりますが、数日から数週間かかることがあります。原因が解決しても、もとの状態に戻るまで時間がかかる場合があります。
家でできることはありますか?
時計とカレンダーを見える位置に置く、日中は光を入れる、眼鏡と補聴器を必ず使う、水分・排便・痛みを毎日確認することです。
落ち着かないとき、どう声をかければいいですか?
否定も同調もせず、感情の部分に返してください。短くゆっくり、一度に1つの情報で伝えます。身体を押さえつけないでください。
また入院するときに伝えるべきことはありますか?
「前回の入院でせん妄がありました」と必ず伝えてください。あらかじめ分かっていれば、薬の選択や環境の配慮につながります。
まとめ
- せん妄は急に起こる意識と注意の障害
- 数時間から数日で始まり、1日の中で波がある
- 夕方から夜に悪化しやすい
- 原因が取り除かれれば改善しうる点が認知症と違う
- 認知症のある方にせん妄が重なることもある
- 受診時は「いつから、どう変わったか」を伝える
- 睡眠薬、抗不安薬、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬などが原因薬剤に挙げられている
- 胃薬(H2受容体拮抗薬)や過活動膀胱治療薬もリスクとされる
- 市販の風邪薬やかゆみ止めでも起こりえる
- 入院・転院・施設入所など環境の移行時に起こりやすい
- 感染、脱水、便秘、尿閉、痛み、不眠が引き金になる
- ぼんやりして動かない静かなタイプもある
- 急な変化、発熱、水分がとれない、頭を打った後は受診
- 時計・カレンダー・眼鏡・補聴器・光の管理が助けになる
- 否定も同調もせず、感情に返す。押さえつけない
参考にした情報
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編・療養環境別)」(2019年6月)
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
※薬剤に関する記述は、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」の表1および別表にもとづいて整理したものです。記載された薬剤を服用しているすべての方にせん妄が生じるわけではありません。本記事は特定の薬剤の中止・減量を勧めるものではなく、薬の変更・中止の判断は必ず医師が行います。自己判断での中止は危険です。せん妄と認知症の違いに関する整理は一般的な臨床上の特徴をまとめたもので、診断は医師が行います。せん妄は身体疾患が背景にあることが多く、放置すると重篤化するおそれがあります。急な変化がみられた場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。記述は2026年9月時点の内容として整理しています。





