脳梗塞のリハビリ|時期別の内容と自宅でできること

脳梗塞のリハビリは、急性期・回復期・生活期の3つの時期に分かれ、時期ごとに場所も目的も制度も変わります。ここを知らないまま進むと、「回復期病棟を出たら急にリハビリが減った」と戸惑うことになります。
制度の面で押さえるべき数字は2つです。医療保険の脳血管疾患等リハビリテーション料は発症から180日が限度、回復期リハビリテーション病棟の入院は脳血管疾患で原則150日(高次脳機能障害を伴う重症例等では180日)。この記事では、診療報酬の告示・通知の原文を確認したうえで、時期ごとの内容と自宅でできることを整理しました。
この記事でわかること
- 脳梗塞のリハビリの3つの時期と、それぞれの目的
- 急性期に「早く起こす」ことが重視される理由
- 回復期リハビリテーション病棟の入院日数の上限
- 退院後(生活期)に自宅でできること
- 片麻痺で起こる4つの問題(運動麻痺だけではない)
- 脳血管疾患等リハビリテーション料の点数と180日ルール
- 180日を過ぎたらどうなるのか
- 介護保険のリハビリへの移行の仕方
脳梗塞のリハビリは3つの時期に分かれる
脳梗塞も脳出血も、リハビリの流れは基本的に同じです(合わせて「脳卒中」「脳血管疾患」と呼ばれます)。
| 時期 | 場所 | 目的 | おおよその期間 |
|---|---|---|---|
| 急性期 | 救急病院・一般病棟 | 命を守りつつ、寝たきりを防ぐ | 発症〜2週間程度 |
| 回復期 | 回復期リハビリテーション病棟 | 集中的に機能を回復させ、家に帰る | 〜発症後150日(一部180日) |
| 生活期 | 自宅・施設 | できるようになったことを維持し、生活を広げる | その後ずっと |
回復期リハビリテーション病棟について、厚生労働省の通知は「脳血管疾患又は大腿骨頸部骨折等の患者に対して、ADLの向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に行うための病棟」と定義しています。目的が「家庭復帰」だと明記されている点が重要です。
ちびウルフ回復期を過ぎたら、もう良くならないのですか?
リハウルフそんなことはありません。麻痺そのものの回復スピードは確かに落ちますが、「できる生活」は何年でも広げられます。訪問リハで、発症から5年経って一人で買い物に行けるようになった方もいます。変わるのは目標の置き方です。
急性期のリハビリ
発症直後から始まります。目的は廃用症候群を防ぐことです。
- 体位変換:褥瘡(床ずれ)と肺炎の予防
- 関節を動かす:拘縮の予防。特に肩・足首
- 座る(離床):全身状態が許せば、可能な限り早く
- 嚥下の評価:誤嚥性肺炎を防ぐため。言語聴覚士が関わる
- 立つ・歩く:状態が安定したら早期に
制度の設計もこれに対応しています。脳血管疾患等リハビリテーション料には、早期リハビリテーション加算(1単位60点、4日目以降25点/入院日から14日)、初期加算(45点/発症から14日)、急性期リハビリテーション加算(50点/同14日)が設けられています。
加算が最初の14日に集中しているのは、この時期の介入が最も結果を左右するからです。詳しくは廃用症候群とは?症状とリハビリの進め方もあわせてご覧ください。
家族が病院でできること
面会時に「もっとリハビリを」と頼むより、起きている時間・座っている時間を増やすほうが効きます(医療者の許可が前提です)。話しかける、手を握る、テレビをつけて一緒に見る。刺激のある環境そのものがリハビリの一部です。
回復期のリハビリと入院日数の上限
状態が安定すると、回復期リハビリテーション病棟へ移ります。ここが最も集中的にリハビリを行う時期です。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が毎日関わり、休日も実施されることがあります。
入院できる日数には上限がある
回復期リハビリテーション病棟の入院料は、疾患ごとに算定できる日数が決まっています。
| 状態 | 算定上限 |
|---|---|
| 脳血管疾患等(一般的な場合) | 150日 |
| 高次脳機能障害を伴った重症脳血管障害、重度の頸髄損傷及び頭部外傷を含む多部位外傷の場合 | 180日 |
180日の区分については、厚生労働省の通知に「基本診療料の施設基準等別表第九に掲げる『高次脳機能障害を伴った重症脳血管障害、重度の頸髄損傷及び頭部外傷を含む多部位外傷の場合』に該当し、回復期リハビリテーション病棟入院料を算定開始日から起算して180日まで算定できるもの」という記載があり、原文で確認できます。
※150日の区分は別表第九に定められたものですが、本記事では原文の該当箇所を直接確認できていないため確度を中として記載します。正確な日数は入院先の医療ソーシャルワーカーにご確認ください。
また通知は、転院しても算定期間は通算されるとしています。「別の病院に移ればリハビリ期間がリセットされる」ということはありません。
退院日は「治ったから」決まるわけではない
ご家族が最も戸惑うのがここです。退院は、機能が完全に戻ったからではなく、制度上の期間と、在宅で生活できる見通しが立ったかどうかで決まります。「まだ歩けないのに退院と言われた」と感じたら、退院前カンファレンスの開催を医療ソーシャルワーカーに依頼してください。ケアマネジャー・訪問リハビリの担当者を交えて、自宅の環境と介助方法を決める場です。
生活期(自宅)のリハビリ
退院後が本番です。ここで何をするかで、その後の数年が変わります。
使えるサービス
| サービス | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 訪問リハビリ | PT・OT・STが自宅に来る | 外出が難しい。自宅の環境に合わせたい |
| 通所リハビリ(デイケア) | 医師の指示のもとPT・OT・STが対応 | 通える。機器を使った訓練をしたい |
| 通所介護(デイサービス) | 機能訓練指導員が対応。入浴・食事も | 外出機会や交流も併せて持ちたい |
| 外来リハビリ(医療保険) | 病院に通って受ける | 180日以内、または医師が必要と判断した場合 |
訪問リハビリの強みは、実際の自宅の玄関・トイレ・浴室で練習できることです。病院のリハビリ室で歩けても、自宅の狭い廊下で杖をつけるとは限りません。段差の高さ、手すりの位置、床材。これらは家ごとに違います。
自宅でできること
- 麻痺側の関節を毎日動かす:特に肩と足首。拘縮すると痛みが出て、着替えも困難になります
- 健側の筋力を落とさない:立ち座り、かかと上げ。健側が弱ると生活が一気に崩れます
- 座る時間・立つ時間を確保する:1日のうち、ベッドで過ごす時間を意識して減らす
- 麻痺側を使う場面を1つ決める:物を押さえる、支えにするなど、完全に使わなくならないように
- 屋内の移動は自分で:時間がかかっても、可能な範囲で本人が動く
筋力トレーニングの具体的なやり方は高齢者の筋トレメニュー9選で解説しています。麻痺があっても、健側と体幹のトレーニングはそのまま応用できます。
肩の痛みは予防が全て
麻痺した肩は関節が緩み、亜脱臼を起こしやすくなります。一度痛みが出ると、着替え・入浴・移乗のすべてが苦痛になります。麻痺側の腕を引っ張って起こす・立たせるのは絶対に避けてください。介助のときは体幹(腰・脇)を支えます。具体的な方法は移乗介助のやり方と歩行介助のやり方で解説しています。
片麻痺で起こることは運動麻痺だけではない
「手足が動かない」以外の問題が、生活のしにくさを決めていることがよくあります。
| 症状 | 内容 | 生活への影響 |
|---|---|---|
| 運動麻痺 | 手足が動かしにくい | 歩行・食事・更衣が困難に |
| 感覚障害 | 触った感じ、位置がわからない | 見ていないと手足を操作できない。やけど・傷に気づかない |
| 高次脳機能障害 | 注意・記憶・遂行機能の低下、半側空間無視など | 段取りが組めない、左側にぶつかる、疲れやすい |
| 失語症 | 話す・聞く・読む・書くが難しい | 意思疎通が困難。知的能力の低下とは別物 |
| 嚥下障害 | 飲み込みにくい | 誤嚥性肺炎のリスク |
特に誤解されやすいのが失語症と高次脳機能障害です。
失語症は、言葉の処理の問題であって知能が落ちたわけではありません。子ども扱いした話し方は、本人の自尊心を深く傷つけます。ゆっくり短く話す、選択肢を示す、書いて見せる、といった工夫が有効です。
高次脳機能障害は「見えない障害」と呼ばれます。体は動くのに段取りが組めない、疲れやすい、怒りっぽくなった。これを性格の変化と受け取られてしまうと、家族関係そのものが悪化します。症状であって性格ではありません。
脳血管疾患等リハビリテーション料と180日ルール
医療保険のリハビリには算定日数の限度があります。診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)の原文で確認しました。
| 区分 | 点数(1単位=20分) |
|---|---|
| 脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅰ) | 245点 |
| 脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅱ) | 200点 |
| 脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅲ) | 100点 |
告示の注1は、「発症、手術若しくは急性増悪又は最初に診断された日から180日を限度として所定点数を算定する」としています。ただし「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合その他の別に厚生労働大臣が定める場合には、180日を超えて所定点数を算定することができる」という除外規定も置かれています。
実施できる量は、通則により1人1日6単位(別に厚生労働大臣が定める患者は1日9単位)までです。
180日を超えた場合
告示の注6・注7は、180日超について1月13単位に限り算定できるとしています。入院中の要介護被保険者等については(Ⅰ)147点・(Ⅱ)120点・(Ⅲ)60点です。
月13単位は、週1回20分程度の水準です。ここが、多くの方が介護保険のリハビリへ移行していく理由になります。
「180日で打ち切り」ではない
よく誤解されますが、180日で完全に終了するわけではありません。医学的に改善が期待できると判断される場合の除外規定があり、また月13単位の継続もあります。加えて、介護保険のリハビリは日数制限なく利用できます。「もうリハビリは受けられない」と諦める前に、主治医とケアマネジャーに確認してください。
介護保険への移行
脳血管疾患は、介護保険の特定疾病に含まれます。そのため、40歳以上65歳未満(第2号被保険者)でも要介護認定を申請できます。これは知られていない重要な点です。
手続きの流れは次のとおりです。
- 入院中に、医療ソーシャルワーカーへ要介護認定の申請を相談する(退院を待たない)
- 市町村の窓口に要介護認定を申請する
- 認定調査と主治医意見書をもとに審査され、要介護度が決まる
- ケアマネジャー(要支援なら地域包括支援センター)を決める
- 退院前カンファレンスで、自宅の環境・介助方法・サービス内容を決める
- 退院に合わせてサービス開始
ポイントは1番目です。認定には申請から結果まで時間がかかるため、退院してから申請すると空白期間が生まれます。入院中に動き出すのが鉄則です。
なお、原則として要介護認定を受けている方は介護保険のリハビリが優先されます。医療保険との併用には制限があるため、個別には主治医・ケアマネジャーにご確認ください。
よくある質問
脳梗塞のリハビリはいつから始まりますか?
全身状態が許せば発症直後から始まります。制度上も、早期リハビリテーション加算・初期加算・急性期リハビリテーション加算がいずれも14日を限度として設けられており、早期の介入が重視されています。
回復期リハビリ病棟には何日入院できますか?
脳血管疾患等では一般に150日、高次脳機能障害を伴った重症脳血管障害・重度の頸髄損傷・頭部外傷を含む多部位外傷の場合は180日までとされています。転院しても算定期間は通算されます。正確な日数は入院先にご確認ください。
180日を過ぎるとリハビリは終わりですか?
終わりではありません。医学的に改善が期待できると判断される場合の除外規定があり、また1月13単位までの継続も定められています。加えて介護保険のリハビリは日数制限なく利用できます。
脳出血でもリハビリの流れは同じですか?
基本的に同じです。診療報酬上も「脳血管疾患等リハビリテーション料」として同じ区分で扱われます。ただし出血の場所や量によって回復の経過は異なります。
65歳未満でも介護保険は使えますか?
使える場合があります。脳血管疾患は介護保険の特定疾病に含まれるため、40歳以上65歳未満の第2号被保険者でも要介護認定の申請ができます。医療ソーシャルワーカーに相談してください。
要介護認定はいつ申請すればいいですか?
入院中に申請してください。退院してから申請すると、認定が出るまでサービスが使えない空白期間が生まれます。医療ソーシャルワーカーが手続きを案内してくれます。
麻痺は何年くらいで回復しますか?
一般に、麻痺そのものの回復は発症後6か月程度で緩やかになるとされます(確度:中=二次情報で一致、厚労省が示した数値ではありません)。ただし「できる生活」はその後も広げられます。目標を機能回復から生活の拡大へ切り替える時期だと考えてください。
自宅でのリハビリは毎日やるべきですか?
関節を動かす運動は毎日、筋力トレーニングは週2〜3日が目安です。厚労省の身体活動・運動ガイド2023も、筋トレは週2〜3日で休息日をとることが重要としています。
失語症の人にどう話しかければいいですか?
ゆっくり短く話す、はい・いいえで答えられる形にする、選択肢を示す、書いて見せる、といった方法が有効です。失語症は言葉の処理の障害であり、知的能力が落ちたわけではありません。子ども扱いは避けてください。
訪問リハビリと通所リハビリはどちらがいいですか?
外出が難しい段階や、自宅の環境に合わせた練習をしたい場合は訪問リハビリ、通える段階で機器を使った訓練や交流も求める場合は通所リハビリが向きます。両方を組み合わせることもあります。ケアマネジャーにご相談ください。
まとめ
- 脳梗塞のリハビリは急性期・回復期・生活期の3期に分かれる
- 脳出血も同じ「脳血管疾患等」として扱われ、流れは基本的に同じ
- 急性期の目的は廃用症候群の予防。早期の離床が最優先
- 早期リハ加算・初期加算・急性期リハ加算はいずれも14日限度
- 回復期リハ病棟は「家庭復帰を目的」と通知に明記されている
- 入院日数は脳血管疾患等で150日、高次脳機能障害を伴う重症例等は180日
- 転院しても算定期間は通算される
- 退院は機能の回復ではなく、期間と在宅の見通しで決まる
- 生活期は訪問リハ・通所リハ・通所介護から選ぶ
- 麻痺側の肩と足首は毎日動かす。肩の痛みは予防が全て
- 麻痺側の腕を引っ張って起こす・立たせるのは避ける
- 片麻痺では感覚障害・高次脳機能障害・失語症・嚥下障害も起こる
- 脳血管疾患等リハ料は(Ⅰ)245点・(Ⅱ)200点・(Ⅲ)100点、180日限度
- 180日超は1月13単位。ただし医学的除外規定がある
- 脳血管疾患は特定疾病。40〜64歳でも要介護認定を申請できる
- 要介護認定は退院を待たず、入院中に申請する
参考にした情報
- 診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)第7部 リハビリテーション
- 厚生労働省地方厚生局「A308 回復期リハビリテーション病棟入院料」(留意事項通知抜粋)
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)
※本記事の点数・算定要件は、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)および厚生労働省の留意事項通知にもとづいて整理したものです。回復期リハビリテーション病棟入院料の算定上限日数のうち150日の区分については、原文の該当箇所を直接確認できていないため確度を中として記載しています。実際の算定・入院期間については、入院先の医療機関および地方厚生局の解釈をご確認ください。施設基準の区分により算定できる点数が異なります。麻痺の回復経過に関する記述は二次情報にもとづくもので、個人差が非常に大きい領域です。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。リハビリの進め方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。





