高齢者のすり足|足が上がらない原因と対策

高齢者のすり足は、「足が上がらない」という一つの問題ではありません。足首が硬い、股関節を持ち上げる筋肉が弱い、歩幅が狭い、恐怖心で足を浮かせられない――原因が違えば、やるべきことも変わります。
そして最も重要なのは、つまずく高さは数ミリから数センチだという事実です。玄関の敷居、カーペットの端、畳のヘリ、電気コード。現場で聞く転倒場所は、ほぼこの4つに集中します。この記事では、原因の切り分けと対策を整理しました。
この記事でわかること
- すり足になる5つの原因
- 急に始まった場合に疑うべきこと
- 実際につまずく高さと場所
- 原因別の運動メニュー
- 足首を柔らかくするストレッチ
- 歩幅を広げる練習
- 環境を変えるほうが早い場面
- 靴選びで変わること
高齢者のすり足には5つの原因がある
| 原因 | 特徴 | 対策 |
|---|---|---|
| 足首が硬い | しゃがめない、正座で足首が痛い | ふくらはぎ・アキレス腱のストレッチ |
| すねの筋肉が弱い | つま先を上げる力が出ない | つま先上げ(前脛骨筋) |
| 股関節を上げる筋肉が弱い | もも上げができない | 座ってもも上げ(腸腰筋) |
| 歩幅が狭い | 小刻みになる。バランスへの不安 | 歩幅を意識した歩行、股関節のストレッチ |
| 恐怖心・慎重さ | 転ぶのが怖くて足を浮かせない | 手すり・杖など物理的な安心材料 |
この5つは重なって起こることがほとんどです。ただし、どれが主因かによって優先する運動が変わります。
最初に確認すること
椅子に座って、かかとを床につけたまま、つま先だけを上げてみてください。
- ほとんど上がらない:すねの筋肉(前脛骨筋)の低下、または足首の硬さ
- 上がるが、歩くと出ない:筋力はあるが、歩行時に使えていない。歩幅や恐怖心の問題
この簡単な確認で、鍛えるべき場所がある程度絞れます。
ちびウルフ「足を上げて歩いて」と声をかけていますが、変わりません。
リハウルフ声かけでは変わりません。上げられないのか、上げないのかで対応が違うからです。上げられないなら運動、上げないなら不安の解消。そして最も確実なのは、つまずく物を床からなくすことです。
急に始まった場合は受診が先
ここは重要です。徐々にではなく、数日〜数週間で急にすり足になった場合、運動で対処するものではありません。
受診すべきサイン
- 急に足が上がらなくなった(数日〜数週間)
- 片側だけ足が上がらない、引きずる
- しびれ、感覚の鈍さを伴う
- 足首から先がだらんと垂れる(下垂足)
- 腰や脚の痛みを伴う
- 排尿・排便の異常を伴う
- 手にも力が入りにくい、ろれつが回らない
- 歩幅が極端に狭くなり、最初の一歩が出ない
脳血管疾患、腰椎の病気(脊柱管狭窄症・椎間板ヘルニア)、末梢神経障害、パーキンソン病などの可能性があります。様子を見ないでください。
特に片側だけの場合は、加齢では説明がつきません。神経の問題を疑うべき状況です。
つまずく高さと場所
すり足の危険性を具体的に把握しておきましょう。
| 場所 | 高さの目安 | 対策 |
|---|---|---|
| 電気コード | 数ミリ | 壁際に固定する、撤去する |
| カーペット・マットの端 | 数ミリ〜1cm | 端をテープで固定、または撤去 |
| 畳のヘリ | 数ミリ | 意識して越える。夜は照明を |
| 敷居 | 1〜3cm | ミニスロープで解消 |
| 上がりかまち(玄関) | 10〜30cm | 手すり、踏み台、座って靴を履く |
| 屋外の段差・歩道の継ぎ目 | 1〜3cm | 杖・歩行器、経路の選択 |
数ミリでつまずく――これが現実です。運動で足が上がるようになるまでには時間がかかりますが、床の物を撤去するのは今日できます。順序としては、環境整備が先です。
原因別の運動メニュー
① 足首を柔らかくする
足首が硬いと、いくら筋力があってもつま先は上がりません。
- 壁を使ったストレッチ:壁に手をつき片脚を後ろに引き、かかとを床につけたまま20〜30秒。左右2回
- タオルを使う:座って脚を伸ばし、足裏にタオルをかけて手前に引く。20〜30秒×左右2回
- 足首回し:左右各10回
ストレッチの詳細は高齢者のストレッチ|優先する部位と安全なやり方をご覧ください。
② すねの筋肉(前脛骨筋)を鍛える
- つま先上げ:椅子に座り、かかとを床につけたままつま先を上げる。20回×2〜3セット
- 立位でのつま先上げ:椅子の背につかまり、かかと立ちになる。15回×2セット
- かかと歩き:つま先を上げたまま数歩歩く。必ず手すりを持って
つま先上げはテレビを見ながらでもできます。回数より頻度を優先してください。
③ 股関節を上げる筋肉(腸腰筋)を鍛える
- 座ってもも上げ:椅子に座り、膝を交互に持ち上げる。左右10回×2セット
- 立位でのもも上げ:つかまって、膝を腰の高さまで。左右10回
- またぎ動作:床に置いたタオルや低い棒をまたぐ。往復5回
またぎ動作は実用的です。実際の段差を越える動作そのものを練習できます。慣れてきたら、またぐ物の高さを少しずつ上げてください。
④ 歩幅を広げる
- いつもの1.5倍の歩幅を意識して歩く:廊下を往復
- 床に目印を置いてまたぐ:等間隔にテープを貼り、その間隔で歩く
- 股関節前面のストレッチ:ここが硬いと歩幅が出ません
- 「イチ、ニ」と声を出す:リズムがつくと歩幅が安定します
基本的な筋トレは高齢者の筋トレメニュー9選、歩行の段階的な進め方は高齢者の歩行訓練|自宅でできる段階別メニューをご覧ください。
歩き方を意識して変える練習
筋力と柔軟性が整っても、歩き方の癖は自動的には変わりません。意識して練習する時間が必要です。
かかとから着く
すり足の方は、足裏全体を同時に着く(ベタ足)か、つま先から着いていることがあります。本来の歩行はかかとから着いて、つま先で蹴り出すという順序です。
- 手すりを持ち、「かかと、つま先」と声に出しながらゆっくり歩く
- 1歩ずつ止まってもよい。速さは求めない
- 廊下を1往復から。慣れたら回数を増やす
かかとから着けるようになると、自然につま先が上がります。つま先を上げようとするより、かかとから着こうとするほうが動作は変わりやすいです。
床の目印を使う
- 廊下に等間隔でテープを貼る(30〜40cm程度から)
- その上をまたぐように歩く
- 間隔を少しずつ広げると、歩幅が伸びます
視覚的な目標があると、「大きく歩いて」と言われるより実際に歩幅が出ます。パーキンソン病のすくみ足対策としても知られる方法です。
練習は「疲れる前」に終える
意識した歩行は、普段より疲れます。疲れた状態で続けると、フォームが崩れて転倒します。
「もう少し」でやめる。短い距離を、良い状態で、回数を分けて。これが原則です。
家族が見るべきポイント
本人は自分の歩き方を見られません。家族が気づけることがあります。
- 左右差はないか:片方だけ引きずる、外に回して出す
- いつ悪くなるか:夕方、疲れたとき、特定の場所
- 靴の減り方:片側だけ極端に減っていないか、つま先が削れていないか
- 音:ズリッ、ズリッという音が増えていないか
- ヒヤリとした場面:どこで、何につまずきかけたか
靴のつま先が削れていたら要注意
靴底のつま先部分が削れているのは、歩くたびに地面をこすっている証拠です。本人に自覚がなくても、靴が教えてくれます。
同様に、片側だけ極端に減っている場合は左右差があるサインです。次の受診時に、靴の写真を見せるのも有効です。
こうした観察は、訪問リハビリや通所リハビリのスタッフにとって重要な情報になります。「最近すり足がひどくて」より「夕方になると左足だけ引きずる」のほうが、はるかに具体的な対応につながります。
靴で変わること
運動と同じくらい、足元の選択が影響します。
| 避けるべき | 理由 |
|---|---|
| スリッパ | 脱げる、つま先が引っかかる |
| かかとが潰れた靴 | 脱げやすく、足が固定されない |
| 大きすぎる靴 | 中で足が動き、つまずく |
| 底が厚く重い靴 | 足が上がりにくい |
| 底がツルツルの靴 | 滑る |
| 靴下だけで歩く | 最も滑る。フローリングでは特に危険 |
- かかとが覆われている
- 足の甲を固定できる(マジックテープ、紐)
- つま先が少し反り上がっている:引っかかりにくくなります
- 軽い
- 底が薄めで、床の感触が伝わる
- サイズが合っている
室内でも靴を履くという選択は、すり足がある方には有効です。スリッパをやめるだけで、つまずきが減ることがあります。
歩行速度で変化を数値化する
すり足は見た目で判断しがちですが、歩行速度で測ると変化が数字で追えます。足が上がらなくなると歩幅が狭くなり、速度が落ちるためです。
厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」の「別添資料2-4 年齢別体力基準値表」には、地域在住高齢者の測定データにもとづく平均値が示されています。
快適歩行速度(m/秒)|原文より
| 年代 | 平均値±標準偏差 | 最も低い区分(★1) |
|---|---|---|
| 65〜69歳 | 1.38±0.23 | 1.20以下 |
| 70〜74歳 | 1.33±0.23 | 1.20以下 |
| 75〜79歳 | 1.24±0.23 | 1.00以下 |
| 80歳以上 | 1.13±0.25 | 0.90以下 |
自宅での測り方
- 5mの距離に目印を置く(前後に助走・減速の余裕を取る)
- いつもの速さで歩いて、秒数を測る
- 5 ÷ 秒数=速度(m/秒)。例:5mを4秒なら1.25m/秒
- 2回測って良いほうを採用。必ず見守りのもとで
ポイントは、他人や平均と比べることではなく、3か月後の自分と比べることです。運動を続けて速度が保てていれば、それは成果です。
どの要素が落ちているかを見極める
同マニュアルは、体力測定として「5m歩行時間(通常・最大)・Timed Up & Go Test・開眼片足立ち時間・5回立ち上がりテスト・握力等を測定することが望ましい」とし、結果を年齢別体力基準値表を参考に5段階で評価して「どの要素がより低下しているのかを把握し、個別プログラムに生かす」としています。
すり足という「見た目の症状」の背後に、筋力・バランス・柔軟性のどれが効いているのか。複数の測定を組み合わせて初めて分かります。通所リハビリや市町村の介護予防事業で受けられます。
環境を変えるほうが早い
運動で足が上がるようになるには、数か月かかります。一方、環境整備は今日できて、効果もその日から出ます。
- 床の物を撤去する:コード、新聞、雑誌、カバン
- マット・カーペットを見直す:端が浮いているものは撤去か固定
- 敷居にミニスロープ:工事不要のものは福祉用具貸与の対象になる場合があります
- 夜間の足元灯:人感センサーライト。数千円で、その日から効きます
- 手すり:据置型はレンタル、壁固定は住宅改修
- 動線をシンプルにする:曲がり角や障害物を減らす
運動と環境整備は同時に進める
「運動で治してから」と環境整備を後回しにすると、その間に転倒します。1回の転倒・骨折で、それまでの訓練の成果は失われます。
環境は今日整える。運動は数か月かけて続ける。この両輪で進めてください。転倒予防全般は高齢者の転倒予防|原因と自宅でできる対策で解説しています。
よくある質問
すり足は年のせいですか?
徐々に進んだものは加齢の影響がありますが、急に始まった場合や片側だけの場合は別です。脳血管疾患や腰の病気、神経の問題が隠れていることがあるため受診してください。
何センチの段差でつまずきますか?
数ミリから数センチです。電気コード、カーペットの端、畳のヘリ、敷居。現場で聞く転倒場所はほぼこの4つに集中します。想像よりはるかに低い高さです。
「足を上げて」と声をかければ直りますか?
直りません。上げられないのか、不安で上げないのかで対応が違うためです。まず座ってつま先を上げられるか確認し、原因に応じた運動を選んでください。
どの運動から始めればいいですか?
足首のストレッチとつま先上げからです。足首が硬いと、筋力があってもつま先は上がりません。つま先上げはテレビを見ながらでもできます。
片側だけ足が上がりません。
受診してください。片側だけの症状は加齢では説明がつきません。脳血管疾患、腰椎の病気、末梢神経障害などの可能性があります。
スリッパはだめですか?
避けてください。脱げやすく、つま先が引っかかります。かかとが覆われ、甲を固定でき、つま先が少し反り上がった軽い靴が適しています。室内でも靴を履くという選択は有効です。
運動と環境整備、どちらを先にやるべきですか?
同時です。環境整備は今日できて効果もその日から出ますが、運動で足が上がるようになるには数か月かかります。その間に転倒すると、訓練の成果は失われます。
またぎ動作の練習は効果がありますか?
実用的です。実際に段差を越える動作そのものを練習できます。床に置いたタオルから始め、慣れたら高さを少しずつ上げてください。必ず支えを持って行います。
最初の一歩が出ない場合は?
すくみ足の可能性があります。パーキンソン病などで見られる症状で、引っ張ると余計に出なくなります。号令をかける、リズムをとる、床に目印を置くといった方法が有効です。受診もご検討ください。
敷居の段差はどうすればいいですか?
ミニスロープで解消できます。工事不要のものは福祉用具貸与の対象になる場合があります。ケアマネジャー・福祉用具専門相談員にご相談ください。
まとめ
- すり足の原因は足首の硬さ・すねの筋力・股関節の筋力・歩幅・恐怖心の5つ
- 座ってつま先を上げられるかで、鍛える場所が絞れる
- 急に始まった、片側だけ、しびれを伴う場合は受診が先
- つまずく高さは数ミリから数センチ
- 転倒場所はコード・カーペットの端・畳のヘリ・敷居に集中する
- 足首が硬いと、筋力があってもつま先は上がらない
- つま先上げ(前脛骨筋)は座ったままできる
- 座ってもも上げ(腸腰筋)で足の振り出しを改善する
- またぎ動作は段差を越える動作そのものの練習になる
- 歩幅はいつもの1.5倍を意識する
- スリッパ・かかとの潰れた靴・靴下だけは避ける
- つま先が少し反り上がった軽い靴が適している
- 環境整備は今日できて、その日から効く
- 運動で足が上がるようになるには数か月かかる
- 厚労省の基準値では快適歩行速度の平均が65〜69歳1.38、80歳以上1.13m/秒
- 5mを歩いた秒数で速度を計算でき、変化を数字で追える
- 環境と運動は同時に進める
参考にした情報
- 厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」(令和4年3月)
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況
- 厚生労働大臣が定める福祉用具貸与に係る福祉用具の種目(平成11年厚生省告示第93号)
※本記事の運動に関する推奨は、厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」および「介護予防マニュアル【第4版】」にもとづいて整理したものです。すり足の原因分類、運動メニュー、靴の選び方に関する記述は、リハビリテーション領域で一般に用いられている整理および筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづくものであり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません(確度:中)。急に足が上がらなくなった場合、片側だけの場合、しびれや下垂足を伴う場合は、脳血管疾患や神経の病気の可能性があります。運動で対処しようとせず、速やかに受診してください。福祉用具の給付範囲は市町村(保険者)によって運用が異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。





