高齢者の筋トレは、週2〜3日・1回15分程度の自重トレーニングから始めれば十分です。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、高齢者に対して筋力トレーニングを週2〜3日行うことを推奨しています。特別な器具もジムも必要ありません。

そして意外に知られていないのが、筋トレは「やればやるほど良い」わけではないという点です。同ガイドが引用した研究では、週130〜140分を超えると総死亡リスクの低下効果が消えることが示されています。この記事では、厚労省ガイドの原文を確認したうえで、自宅でできる具体的なメニューと、現場でつまずきやすい点を整理しました。

この記事でわかること

  • 高齢者の筋トレが必要な医学的な理由
  • 厚労省が推奨する頻度(週2〜3日)の根拠
  • 筋トレは「やりすぎ」で効果が消えるという事実
  • 自宅でできる下肢の筋トレ5種類のやり方
  • 上半身・体幹の筋トレ4種類のやり方
  • 効果を出すために外せない3つの原則
  • 中止すべき危険なサインと、やってはいけない方法
  • 介護保険を使って運動できる場所と選び方

高齢者の筋トレはなぜ必要なのか

年齢を重ねると筋肉量は自然に減っていきます。一般に、下肢の筋肉は上肢よりも早く落ちます。太ももの前側(大腿四頭筋)やお尻の筋肉(殿筋群)は、立ち上がる・歩く・段差を越えるといった動作を直接支えているため、ここが落ちると生活がそのまま不自由になります。

訪問リハビリで担当するケースでも、「転んで骨折した」より前に、「ここ半年で椅子から立つのに手すりが要るようになった」という変化が必ず先にあります。筋力低下は、ある日突然起きるのではなく、生活動作の小さな変化として先に現れます。

重要なのは、筋肉は年齢に関係なく鍛えられるという点です。厚労省のガイドも「筋肉は年齢に関係なく鍛えることができます。特に、高齢者は筋力が低下しやすいため、筋力の維持・向上に努めましょう」と明記しています。80代・90代でも、負荷のかけ方さえ適切であれば筋力は向上します。

筋トレで期待できること(厚労省ガイド)

ガイドでは、筋トレによって「筋力、身体機能、骨密度が改善し、高齢者では転倒や骨折のリスク低下」につながると整理されています。さらに、筋トレの実施は生活機能の維持・向上だけでなく、疾患発症予防や死亡リスクの軽減にもつながると報告されています。

筋トレをしていない高齢者が多いという現実

同ガイドが引用した調査によると、国内で筋トレを実施している人の割合は、18〜19歳の29%に対し、60歳代で9%、70歳以上で11%にとどまります。つまり、最も筋トレが必要な年代が、最も筋トレをしていないという状態です。

ガイドは、この層について「ロコモティブシンドロームやフレイル、骨粗鬆症を特に発症しやすいことが知られています」と指摘しています。裏を返せば、ここに手を入れる余地が最も大きいということでもあります。詳しくはフレイルとは?チェック方法と予防の3本柱サルコペニアとは?診断基準と改善する運動で解説しています。

ちびウルフちびウルフ

90歳の祖母でも、今から始めて意味がありますか?

リハウルフリハウルフ

あります。むしろ落ちている人ほど、少しの負荷で変化が出ます。ただし90歳と70歳で同じメニューは組みません。回数を減らして、座ったままできる種目から入るのが現実的です。

高齢者の筋トレは週何回?やりすぎは逆効果

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)の高齢者向け推奨事項は、次のとおりです。原文の表現をそのまま挙げます。

高齢者の推奨事項(原文より)

  • 強度が3メッツ以上の身体活動を週15メッツ・時以上(=歩行又はそれと同等以上の身体活動を1日40分以上、1日約6,000歩以上に相当)
  • 筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上
  • 筋力トレーニングを週2〜3日(多要素な運動に含めてもよい)
  • 特に身体機能が低下している高齢者については、安全に配慮し、転倒等に注意する
  • 座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する

ポイントは2つあります。1つは、筋トレ単独ではなく「多要素な運動」が推奨されていること。ガイドは多要素な運動の例として「体操やダンス、ラジオ体操、ヨガなどの多様な動きを伴う運動」も含めています。ラジオ体操は、それ自体が推奨に合致する運動です。

もう1つは、推奨に届かなくても意味があるということ。ガイドは「上記の強度、推奨値に満たなくとも、少しでも身体活動を行うことを推奨する」「身体活動の少ない人ほど、少しの身体活動で大きな健康増進効果が期待できる」としています。1日40分歩けない人が、それを理由に何もしないほうが損です。

週130〜140分を超えると効果が消える

ここが最も知られていない点です。ガイドが引用した研究(Momma H, et al. Br J Sports Med. 2022)では、筋トレの実施時間と総死亡リスクの関係は次のようになっています。

筋トレの週あたり時間総死亡心血管疾患発症
約40分/週リスク比 0.83(最も低い)
約60分/週リスク比 0.82(最も低い)
約130分/週リスク比 1.00(効果が消える)
約140分/週リスク比 1.00(効果が消える)

つまり、週30〜60分程度が最も効率がよく、それを大きく超えても上乗せ効果はないということです。週2〜3日、1回15〜20分で、ちょうどこの範囲に収まります。「毎日1時間やらないと」と考えて疲弊する必要はありません。

※この数値は成人を含む集団を対象とした研究にもとづく整理です(確度:高=厚労省ガイド本文で確認)。高齢者だけを抽出した数値ではない点はご留意ください。

組み合わせが最も効果的

同ガイドでは、有酸素性身体活動と筋トレの両方を実施している群の総死亡の相対リスクが0.60で、有酸素のみ(0.75)・筋トレのみ(0.82)のどちらよりも低いことが示されています。ウォーキングだけ、筋トレだけ、ではなく、両方を回すのが最も効率的です。

自宅でできる下肢の筋トレ5選

下肢は「立つ・歩く」を支える部分なので、優先度が最も高いところです。すべて椅子と壁があればできます。回数は目安です。翌日に強い痛みが残らない範囲まで減らしてください。

① 椅子からの立ち座り(スクワットの代わり)

椅子に浅く腰かけ、腕を胸の前で組み、立ち上がって座る。これを10回×2〜3セット。膝がつま先より大きく前に出ないよう、お尻を後ろに引きながら立つのがコツです。

きつい場合は手すりや机に手をついて構いません。逆に楽すぎる場合は、座る直前に3秒かけてゆっくり下ろすと負荷が上がります。この「ゆっくり下ろす」が、高齢者にとって最も安全に負荷を上げる方法です。

② 座ったままの膝伸ばし(大腿四頭筋)

椅子に深く座り、片脚をゆっくり水平まで伸ばして3秒止め、ゆっくり下ろす。左右10回×2セット。膝に痛みがある人でも比較的行いやすい種目です。勢いをつけて振り上げると効果が落ちるので、必ずゆっくり動かします。

③ かかと上げ(ふくらはぎ)

椅子の背もたれや壁に手を添えて立ち、かかとをゆっくり上げて下ろす。15回×2セット。ふくらはぎは歩行時の蹴り出しと、立位バランスの微調整を担います。ここが落ちると、平地でつまずきやすくなります。

④ 横への脚上げ(中殿筋)

椅子や壁につかまって立ち、片脚を横にゆっくり20〜30度上げて下ろす。左右10回×2セット。体を傾けて脚を上げると別の筋肉が働いてしまうので、上体はまっすぐのまま行います。

中殿筋は「片脚立ちのときに骨盤が落ちないよう支える」筋肉です。ここが弱いと、歩行時に体が左右に揺れ、ふらつきの原因になります。

⑤ 後ろへの脚上げ(大殿筋)

同じくつかまって立ち、片脚を後ろへゆっくり上げて下ろす。左右10回×2セット。腰を反らせて代償しやすいので、お腹に軽く力を入れたまま行います。上がる範囲は狭くて構いません。

回数より「フォームと速さ」

現場で最も多い失敗は、回数をこなそうとして動きが速くなり、反動で振り回すパターンです。反動を使うと筋肉ではなく関節に負担が乗ります。「上げる2秒・止める1秒・下ろす3秒」を守れば、回数は半分でも十分効きます。

上半身・体幹の筋トレ4選

下肢ほど優先度は高くありませんが、起き上がり・寝返り・立ち上がりの補助、そして「転びかけたときに手すりをつかむ」動作に直結します。

① タオルつぶし(胸・腕)

丸めたタオルを胸の前で両手ではさみ、5秒間ぎゅっと押し合う。5回。関節を動かさずに力を出す「等尺性運動」なので、関節に痛みがある人でも取り入れやすい種目です。

② 壁腕立て伏せ

壁から一歩離れて立ち、手をついて肘を曲げ伸ばしする。10回×2セット。壁からの距離を離すほど負荷が上がります。床での腕立て伏せは高齢者には負荷が高すぎることが多く、壁で十分です。

③ 座ったままの体幹ひねり

椅子に座り、腕を胸の前で組んで上体を左右にゆっくりひねる。左右10回。振り向き動作が楽になり、後方確認がしやすくなります。

④ お腹の引き締め(ドローイン)

座位または仰向けで、息を吐きながらお腹を凹ませ、その状態で5秒呼吸を続ける。5回。腰痛がある人にも比較的安全に行える体幹トレーニングです。

ちびウルフちびウルフ

全部やると大変そうです…全種目やらないとダメですか?

リハウルフリハウルフ

全部やらなくていいです。続かないメニューは意味がないので。まずは「①椅子からの立ち座り」と「③かかと上げ」の2つだけでも構いません。2つを3か月続けるほうが、9種目を2週間でやめるよりはるかに効果があります。

筋トレの効果を出すための3つの原則

厚労省ガイドは、筋トレを行ううえでの考え方として次の点を挙げています。回数やメニューより、こちらのほうが結果を左右します。

  • 少しずつ負荷を高める(漸進性過負荷の原則):同じ回数・同じ重さを続けても、体が慣れた時点で伸びは止まります。ガイドは「負荷は重さや回数で調整可能」としています。楽にできるようになったら、回数を増やすか、下ろす速さを遅くします。
  • 休息日をとる:ガイドは「しっかりと筋肉を休める時間(休息日)をとることも同じく重要」と明記しています。週2〜3日という推奨は、裏を返せば「毎日やらない」という指示でもあります。連続しない日に行うのが基本です。
  • 個人に合わせる(個別性の原則):ガイドは、集団の運動教室では「一律の目標回数(ノルマ)を設けるのではなく、個人に合った目標を設定することを勧めましょう」としています。隣の人と同じ回数をやろうとして無理をするのが、最もよくないパターンです。

やってはいけない筋トレ・中止すべきサイン

ここは安全に関わるので、必ず押さえてください。

すぐ中止して受診を検討すべきサイン

  • 胸の痛み・締めつけ感
  • いつもと違う息切れ、休んでも治まらない動悸
  • 強いめまい、目の前が暗くなる
  • 関節の鋭い痛み(じわっとした筋肉の張りとは別物)
  • 運動後2日以上続く強い痛み・腫れ
  • 息を止めて力む:血圧が急上昇します。力を入れるときに息を吐くのが鉄則です。
  • 反動をつけて振り回す:関節と腱を痛めます。ゆっくり動かすほうが筋肉には効きます。
  • 痛みを我慢して続ける:関節の痛みは「フォームが違う」か「負荷が高すぎる」のサインです。
  • つかまるものがない場所で立位の種目をする:ガイドも身体機能が低下している高齢者について「転倒等に注意する」としています。
  • 体調不良・発熱時に予定どおりやる:休む日を決められることも、続けるスキルのうちです。

また、持病がある人は、始める前に主治医に確認してください。特に、心疾患・コントロール不良の高血圧・重度の骨粗鬆症・眼科疾患(網膜剥離等)がある場合は、避けるべき種目があります。ガイドも、慢性疾患を有する人には別途の配慮が必要だとしています。

介護保険を使って運動できる場所

1人で続けるのが難しい場合、介護保険のサービスを使って専門職の指導を受ける方法があります。要介護認定を受けている(または受けられる)場合の選択肢は主に次の3つです。

サービス特徴向いている人
通所リハビリ(デイケア)医師の指示のもと、PT・OT・STが配置される疾患があり、医学的な管理下で運動したい
通所介護(デイサービス)入浴・食事を含む。機能訓練指導員が対応外出の機会や交流も併せて持ちたい
訪問リハビリ自宅にPT・OT・STが訪問する外出が難しい、自宅の環境に合わせたい

どれを選ぶかは、ケアマネジャー(介護支援専門員)に相談するのが近道です。デイケアとデイサービスの違いは分かりにくいので、デイサービスとデイケアの違いを先に読んでおくと話が早くなります。

なお、デイサービスで行われるのは制度上「機能訓練」で、リハビリテーションとは位置づけが異なります。この違いは機能訓練とリハビリの違いで整理しています。

よくある質問

高齢者の筋トレは毎日やってもいいですか?

推奨は週2〜3日です。厚労省ガイドは「しっかりと筋肉を休める時間(休息日)をとることも同じく重要」としています。同じ部位を毎日鍛えるのは避け、連続しない日に行ってください。ただしウォーキングなどの有酸素運動は毎日行って構いません。

1回何分やればいいですか?

15〜20分で十分です。ガイドが引用した研究では、週約40分で総死亡リスクが最も低く、週130〜140分を超えると効果が消えると示されています。週2〜3日×15〜20分で、ちょうど最も効率のよい範囲に収まります。

何歳からでも筋肉はつきますか?

つきます。厚労省ガイドは「筋肉は年齢に関係なく鍛えることができます」と明記しています。ただし若い人より変化のスピードは緩やかなので、効果判定は最低でも3か月単位で考えてください。

筋肉痛があるときは休むべきですか?

軽い張り程度なら、その部位を避けて別の種目を行って構いません。動かすのがつらいほどの痛みや、2日以上続く強い痛みがある場合は負荷が高すぎるサインなので、回数を半分に減らしてください。

ダンベルやマシンは必要ですか?

必要ありません。ガイドも、筋トレには「自重で行う腕立て伏せやスクワットなどの運動も含まれる」としています。自重で楽にできるようになってから、初めて重りを検討する順番で十分です。

膝が痛くてスクワットができません。

座ったままの膝伸ばし(本記事の下肢②)から始めてください。関節を動かさずに力を入れる等尺性運動なら、痛みを誘発しにくいです。痛みの原因が変形性膝関節症などの場合は、自己判断せず医師や理学療法士に相談してください。

ウォーキングだけではダメですか?

ウォーキングだけでも効果はありますが、組み合わせたほうが効率的です。ガイドの引用研究では、有酸素運動と筋トレの両方を行う群の総死亡の相対リスクが0.60で、有酸素のみの0.75より低い値でした。

1日6,000歩も歩けません。意味がないですか?

意味はあります。ガイドは「推奨値を達成しないような少しの身体活動を行った場合でも、身体活動をほとんど行わない場合と比較すると死亡率は低下します」「身体活動の少ない人ほど、少しの身体活動で大きな健康増進効果が期待できます」としています。数字に届かないことを理由にやめるのが一番よくありません。

ラジオ体操は筋トレの代わりになりますか?

完全な代わりにはなりませんが、ガイドが推奨する「多要素な運動」には体操・ラジオ体操・ヨガが含まれます。週3日以上の多要素な運動としてカウントできます。そのうえで、負荷をかける種目を週2〜3日足すのが理想です。

介護保険を使わずに運動できる場所はありますか?

市町村の介護予防事業(通いの場・住民主体の体操教室)があります。要介護認定がなくても参加できることが多いので、お住まいの市町村の地域包括支援センターに問い合わせてみてください。内容・費用は市町村によって異なります。

まとめ

  • 厚労省ガイドは高齢者に筋力トレーニングを週2〜3日行うことを推奨している
  • あわせて、筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上推奨している
  • 筋トレは週約40分で総死亡リスクが最も低く、週130〜140分を超えると効果が消える
  • 有酸素運動と筋トレの両方を行う群が、どちらか一方より死亡リスクが低い
  • 筋肉は年齢に関係なく鍛えられる、とガイドに明記されている
  • 下肢の優先度が最も高い。椅子からの立ち座りとかかと上げが基本
  • 「上げる2秒・止める1秒・下ろす3秒」で、回数が半分でも効く
  • 楽になったら負荷を上げる(漸進性過負荷)、休息日をとる、個人に合わせる
  • 集団教室で一律のノルマを課さないこともガイドが求めている
  • 胸痛・強いめまい・関節の鋭い痛みが出たら中止する
  • 息を止めて力む、反動で振り回すのは避ける
  • 続かない場合は、通所リハ・通所介護・訪問リハビリという選択肢がある

参考にした情報

※本記事の推奨値・数値は、厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」およびその引用文献にもとづいて整理したものです。実際の運動の開始にあたっては原文および主治医の判断をご確認ください。持病のある方に適した運動内容は個人によって異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。運動の進め方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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