脊柱管狭窄症のリハビリは、腰を反らさず、前かがみの姿勢を活かすのが基本方針です。神経の通り道が狭くなっている状態なので、腰を反ると通り道はさらに狭まり、前かがみになると広がります。この原理さえ押さえれば、何をすべきかはほぼ決まります。

同じ腰の疾患でも、圧迫骨折とは対応が正反対です。圧迫骨折では前かがみが禁忌ですが、脊柱管狭窄症では前かがみが症状を和らげます。自己判断で腰の体操を始める前に、どちらなのかを必ず確認してください。この記事では、楽になるストレッチと、受診すべきサインを整理しました。

この記事でわかること

  • 脊柱管狭窄症で症状が出る仕組み
  • 間欠跛行という特徴的な症状
  • 前かがみが楽になる理由
  • 自宅でできるストレッチ4種類
  • やってはいけない動作
  • 歩く距離を伸ばすための工夫
  • 血管の病気(閉塞性動脈硬化症)との見分け方
  • すぐ受診すべき危険なサイン

脊柱管狭窄症とは|症状が出る仕組み

背骨の中には、脊髄や神経が通る「脊柱管」というトンネルがあります。加齢によって椎間板が膨らむ、靭帯が厚くなる、骨が変形するなどして、このトンネルが狭くなり、神経が圧迫されるのが脊柱管狭窄症です。

症状は、腰そのものより脚に出るのが特徴です。

  • お尻から太もも、ふくらはぎにかけてのしびれ・痛み
  • 歩いていると脚が重くなり、だんだん歩けなくなる
  • 座って休むと、また歩けるようになる
  • 立っているだけでもつらい
  • 足の裏の感覚が鈍い、砂利の上を歩いているような感じ

間欠跛行(かんけつはこう)

最も特徴的な症状です。歩く → 脚がしびれて歩けなくなる → 前かがみで休む → また歩けるという繰り返しが起こります。

「300m歩くと休まないといけない」「スーパーのカートを押していれば歩けるのに、手ぶらだと100mで限界」という訴えは、この疾患を強く示唆します。

なぜ前かがみが楽なのか

腰を反らすと脊柱管は狭くなり、前かがみになると広がります。つまり前かがみは神経の通り道を確保する姿勢です。自転車には長時間乗れるのに歩けない、という方がいるのはこのためです(自転車は前傾姿勢になります)。

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背筋を伸ばして歩きなさい、と言われたのですが。

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その助言は、脊柱管狭窄症では逆効果になることがあります。姿勢の見た目より、歩ける距離が伸びるかどうかで判断してください。ただし圧迫骨折がある方は真逆なので、まず診断を確認することが先です。

自宅でできるストレッチ

方針は「腰を丸める方向に動かす」「股関節まわりの硬さをとる」の2つです。

① 膝抱えストレッチ

仰向けになり、両膝を抱えて胸に引き寄せ、20〜30秒キープ。腰が丸まり、脊柱管が広がる方向の動きです。2〜3回繰り返します。

両膝が抱えられない場合は、片膝ずつでも構いません。反動をつけず、ゆっくり引き寄せてください。

② 太もも裏(ハムストリングス)のストレッチ

仰向けで片膝を立て、もう一方の脚を上げてタオルを足裏にかけ、手前に引く。20〜30秒×左右2回。膝は軽く曲がっていて構いません。

ここが硬いと骨盤が後ろに引っ張られ、歩き方が崩れます。

③ 腸腰筋(股関節の前)のストレッチ

片膝立ちになり、後ろ脚側の股関節を前に押し出すようにして20〜30秒×左右2回。膝が痛い場合は、クッションを膝の下に敷いてください。

股関節の前が硬いと、立ったときに腰が反ります。腰の反りを減らす近道は、腰ではなく股関節を柔らかくすることです。

④ お尻(殿筋)のストレッチ

椅子に座り、片方の足首を反対の膝の上に乗せ、背中を丸めないように上体を前に倒す。20〜30秒×左右2回。お尻の外側が伸びる感覚があれば正解です。

しびれが強くなる動きは中止する

ストレッチ中に脚のしびれや痛みが強くなる場合は、その動きは合っていません。すぐに中止してください。ストレッチは「気持ちよく伸びる」範囲で行うものです。痛みを我慢して伸ばしても良くなりません。

筋力トレーニングも必要

ストレッチだけでは歩ける距離は伸びません。歩くために必要な筋力を並行して鍛えます。

  • 椅子からの立ち座り:太ももとお尻。10回×2〜3セット
  • ブリッジ(お尻上げ):仰向けで膝を立て、お尻を持ち上げる。10回×2セット
  • かかと上げ:ふくらはぎ。15回×2セット
  • ドローイン:息を吐きながらお腹を凹ませて5秒。体幹の安定に

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、高齢者に筋力トレーニングを週2〜3日、筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上推奨しています。詳しいやり方は高齢者の筋トレメニュー9選をご覧ください。

やってはいけない動作

  • 腰を反らす:上を向く、洗濯物を高い位置に干す、うつ伏せで上体を反らす体操
  • 長時間立ち続ける:立位そのものが腰を反らせます
  • 重い物を持って歩く:腰への負担が増えます
  • 痛みを我慢して歩き続ける:しびれが強くなったら休む
  • 硬すぎる寝具で仰向けに寝る:腰が反ります。膝の下にクッションを

圧迫骨折とは対応が正反対

脊柱管狭窄症では前かがみが楽になり、圧迫骨折では前かがみが最も危険です。両方を併せ持っている方もいます。その場合、どちらを優先するかは症状の強さと骨折の時期によって変わるため、自己判断は避けてください。まず主治医・理学療法士に「自分はどちらの姿勢が安全なのか」を確認することが最優先です。

歩く距離を伸ばす工夫

歩けないからと外出をやめると、筋力が落ちてさらに歩けなくなります。歩き方を変えて、歩ける量を確保するのが現実的な方針です。

工夫理由
シルバーカー・歩行車を使う自然に前傾姿勢になり、歩ける距離が伸びます
杖を使うわずかに前傾でき、体重も分散できます
休憩を前提に計画するベンチの位置を把握しておく。座れば回復します
買い物カートを押すスーパーでは歩けるのはこのためです
自転車・エアロバイク前傾姿勢なので長く運動できます
水中歩行浮力で負担が減ります

特に歩行車(シルバーカーではなく、体重を預けられるタイプ)は、この疾患と相性が良い用具です。ただしシルバーカー(買い物カート型)は荷物を運ぶ用具であり、体重を預けると前へ走って転倒します。用具の選定は福祉用具専門相談員に相談してください。

杖の選び方は高齢者の杖の選び方で解説しています。

日常生活での姿勢と環境の工夫

ストレッチと運動に加えて、1日の姿勢を変えると症状の出方が変わります。

場面工夫理由
仰向けで寝る膝の下にクッションを入れる腰の反りが減る
横向きで寝る両膝の間にクッションをはさむ腰のねじれを防ぐ
椅子に座る深く座り、背もたれを使う。足台を置くのも有効骨盤が立ち、腰が反りにくい
台所仕事片足を低い踏み台に乗せる骨盤が後傾し、腰の反りが減る
洗濯物を干す物干しの高さを下げる上を向く動作を減らす
掃除機・掃き掃除柄の長い道具を使う前かがみと反りの両方を避ける

特に効果が分かりやすいのが台所での踏み台です。片足を10〜15cm程度の台に乗せるだけで、立ち仕事の持続時間が変わる方がいます。道具を1つ置くだけの対策なので、まず試す価値があります。

薬・注射という選択肢

運動療法だけで対応しようとすると、痛みで動けず結果的に筋力が落ちることがあります。医学的な治療も並行するのが現実的です。

  • 血流を改善する薬:神経の血流を良くする目的で処方されることがあります
  • 痛みやしびれに対する薬:神経障害性の痛みに用いる薬などがあります
  • 神経ブロック注射:痛みが強い時期に行われることがあります

いずれも医師が判断します。「薬に頼りたくない」という理由で痛みを我慢し、動けない期間が長引くほうが不利益になることがあります。動けるようにして運動を続けることが目的だと考えてください。

運動を控えるべき数値基準

厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」は、安静時に次に該当する場合は運動を実施しないとしています。自宅で運動する際の目安にもなります。

  • 収縮期血圧 180mmHg以上、または 80mmHg未満
  • 拡張期血圧 110mmHg以上
  • 体温 37.5℃以上
  • 脈拍が 120拍/分以上
  • いつもと異なる脈の不整がある場合
  • 関節痛など慢性的な症状の悪化

血管の病気との見分け方

ここは見落とされやすく、かつ重要な部分です。

「歩くと脚が痛くなって休む」という症状は、閉塞性動脈硬化症(ASO)という血管の病気でも起こります。脚の血流が足りなくなるためです。脊柱管狭窄症と間違われることがあります。

脊柱管狭窄症閉塞性動脈硬化症
休むときの姿勢前かがみで座ると楽になる姿勢に関係なく、立ち止まれば楽になる
自転車長く乗れるこいでいると同じように痛くなる
足の脈触れる触れにくい・触れない
足の冷え・色通常は目立たない冷たい、色が悪い、毛が薄くなる

判断の目安は「自転車に長時間乗れるかどうか」です。自転車はこげるのに歩けないなら脊柱管狭窄症、自転車でも同じように症状が出るなら血管の問題を疑います。

閉塞性動脈硬化症は、心筋梗塞や脳梗塞のリスクとも関係する全身の動脈硬化の一部です。「腰のせい」と思い込んで整形外科だけを受診していると見逃されます。心当たりがあれば主治医に伝えてください。

すぐ受診すべきサイン

緊急性のある症状(馬尾症状)

  • 排尿・排便がしにくい、失禁する
  • お尻・股のまわり(会陰部)のしびれ、感覚がない
  • 両脚に急速に広がるしびれ・脱力
  • 足首やつま先に力が入らず、上がらない(下垂足)
  • 安静にしていても激しく痛む

これらは神経の強い圧迫を示すサインで、手術が必要になる場合があります。様子を見ずに受診してください。

これらがなければ、まずは保存療法(薬、運動療法、神経ブロックなど)が選択されるのが一般的です。手術を検討するのは、保存療法を続けても生活に支障が出る場合や、上記の症状が出た場合です。判断は整形外科医が行います。

医療保険と介護保険のリハビリ

診療報酬の運動器リハビリテーション料は、告示の原文で「発症、手術若しくは急性増悪又は最初に診断された日から150日を限度として」算定するとされています。点数は(Ⅰ)185点・(Ⅱ)170点・(Ⅲ)85点(1単位=20分)です。

脊柱管狭窄症は発症日がはっきりしないことが多い疾患ですが、「最初に診断された日」を起算日にできるため、診断を受けた日から150日が目安になります。

150日を超えた場合は原則として1月13単位までですが、「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合」等の除外規定があります。また、要介護・要支援の認定があれば、介護保険の訪問リハビリ・通所リハビリは日数制限なく利用できます。

よくある質問

脊柱管狭窄症は手術しないと治りませんか?

多くの場合、まず保存療法(薬・運動療法・神経ブロックなど)が選択されます。ただし、排尿排便の障害や会陰部のしびれ、急速に進む脱力がある場合は手術が必要になることがあります。判断は整形外科医が行います。

なぜ前かがみだと楽になるのですか?

腰を反らすと神経の通り道である脊柱管が狭くなり、前かがみになると広がるためです。自転車に長時間乗れるのに歩けないのは、自転車が前傾姿勢になるからです。

背筋を伸ばして歩いたほうがいいですか?

脊柱管狭窄症では、腰を反らすと症状が強くなることがあります。見た目の姿勢より、歩ける距離が伸びるかどうかで判断してください。ただし圧迫骨折がある場合は対応が逆になるため、必ず診断を確認してください。

歩けないので運動をやめたほうがいいですか?

やめないでください。歩かないと筋力が落ち、さらに歩けなくなります。歩行車の使用、休憩を前提とした計画、自転車や水中歩行など、症状が出にくい方法で運動量を確保してください。

ストレッチでしびれが強くなります。

その動きは合っていません。すぐ中止してください。ストレッチは気持ちよく伸びる範囲で行うものです。どの方向に動かすと楽になるかは個人差があるため、理学療法士に確認することをおすすめします。

シルバーカーを使うと歩けます。使い続けていいですか?

前傾姿勢になるため症状が出にくくなります。ただしシルバーカーは荷物を運ぶ用具で、体重を預けると前へ走って転倒します。体重を預けたい場合は歩行車を検討してください。福祉用具専門相談員に相談を。

血管の病気との違いはどう見分けますか?

目安は自転車です。自転車には長く乗れるのに歩けないなら脊柱管狭窄症、自転車でも同じように症状が出るなら閉塞性動脈硬化症などの血管の問題を疑います。足の脈が触れにくい、足が冷たい場合も血管を疑います。

コルセットは有効ですか?

腰の反りを抑えて症状が軽くなる場合があります。ただし長期間の常用は体幹の筋力低下につながるため、使う場面を限るのが無難です。使用については主治医にご確認ください。

医療保険のリハビリは何日受けられますか?

運動器リハビリテーション料は、発症・手術・急性増悪または最初に診断された日から150日が限度です。脊柱管狭窄症は発症日が不明確なことが多いため、診断日が起算日になります。

介護保険でリハビリは受けられますか?

要介護・要支援の認定があれば、訪問リハビリ・通所リハビリ・通所介護が利用できます。医療保険の150日を過ぎた後の受け皿にもなります。ケアマネジャーにご相談ください。

まとめ

  • 脊柱管狭窄症は神経の通り道が狭くなる疾患で、症状は主に脚に出る
  • 間欠跛行(歩く→しびれて休む→また歩ける)が最も特徴的
  • 腰を反らすと脊柱管は狭くなり、前かがみになると広がる
  • 自転車には長く乗れるのに歩けないのは前傾姿勢のため
  • 圧迫骨折とは対応が正反対。まず診断の確認が最優先
  • ストレッチは膝抱え・太もも裏・腸腰筋・殿筋の4つ
  • 腰の反りを減らす近道は、腰ではなく股関節を柔らかくすること
  • しびれが強くなる動きは中止する
  • ストレッチだけでは歩けない。筋力トレーニングを併用する
  • 腰を反らす動作、長時間の立位、重い物を持っての歩行は避ける
  • 歩行車・杖・買い物カートで前傾をつくると歩ける距離が伸びる
  • 自転車で症状が出るなら閉塞性動脈硬化症を疑う
  • 排尿排便障害、会陰部のしびれ、下垂足は緊急受診のサイン
  • 運動器リハビリテーション料は診断日から150日が限度

参考にした情報

※本記事の点数・算定要件は、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)にもとづいて整理したものです。運動に関する推奨は厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」によります。症状の特徴・ストレッチの方法・閉塞性動脈硬化症との鑑別点に関する記述は、リハビリテーション領域で一般に用いられている整理および筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづくものであり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません(確度:中)。診断および治療方針の決定は医師が行います。症状が出る姿勢・適切な運動は個人によって異なるため、必ず主治医または担当の理学療法士にご確認ください。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味