車椅子の選び方で最初に決めるのは、機種ではなく「自分でこぐのか、押してもらうのか」です。介護保険の告示も、車いすを3つの型に限定して定めています。ここを間違えると、体に合っていても生活に合わない車椅子になります。

そしてもう一つ、知られていない事実があります。要介護1や要支援でも、車椅子を借りられる場合があります。「要介護2以上でないと無理」と言われて諦めている方がいますが、告示には例外の規定が明記されています。この記事では、原文を確認したうえで選び方とクッションの考え方を整理しました。

この記事でわかること

  • 介護保険の対象になる車いすの3つの型
  • 自走用と介助用の見分け方
  • 体に合わせるために測るべき4か所
  • クッションが「車いす付属品」として借りられること
  • ずり落ちる・傾くときの原因
  • 要介護1・要支援でも借りられる例外給付の要件(告示原文)
  • 購入とレンタルの使い分け
  • 日常の点検項目

車椅子の選び方は3つの型から

介護保険でレンタルできる車いすは、告示で限定されています。「厚生労働大臣が定める福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目」(平成11年厚生省告示第93号)の第1号です。

告示の原文(1 車いす)

自走用標準型車いす、普通型電動車いす又は介助用標準型車いすに限る。

また第2号「車いす付属品」は、「クッション、電動補助装置等であって、車いすと一体的に使用されるものに限る。」とされています。

特徴向いている人
自走用標準型車いす後輪が大きく、ハンドリム(手でこぐ輪)がある自分で腕や足を使って移動できる
介助用標準型車いす後輪が小さく、ハンドリムがない。軽量・コンパクト常に介助者が押す。持ち運びを重視
普通型電動車いすモーターで走行。ジョイスティック操作など自走したいが上肢の力が足りない。屋外の移動距離を保ちたい

見分け方は簡単です。後輪にハンドリム(タイヤの内側にある細い輪)があれば自走用、なければ介助用です。

「軽いから」で介助用を選ばない

介助用は軽くて車にも積みやすく、家族にとっては扱いやすい。しかし、本人が少しでも自分でこげるなら、自走用を選ばないと移動の機会そのものが失われます。

「押してもらうだけ」になると、本人は行きたいときに行けません。活動量が落ち、廃用が進みます。介助者の都合で選ぶと、本人の生活範囲が縮みます。足でこぐ(足こぎ)という方法もあるため、まず可能性を確認してください。

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腕の力が弱くても自走用にする意味はありますか?

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足が使えるなら十分あります。座面を低くして、両足または片足で床を蹴って進む方法があります。片麻痺の方なら健側の手と足を同時に使います。この場合、座面高さの調整が必須なので、必ず福祉用具専門相談員と理学療法士に相談してください。

体に合わせるために測る4か所

車椅子は「座れればよい」ものではありません。合っていないと、ずり落ち、傾き、褥瘡、そして転落につながります。

寸法合わせ方の目安合わないと起こること
座幅お尻の幅+2〜3cm程度広すぎると体が傾く、狭いと圧迫と褥瘡
座面の奥行き膝の裏に指2〜3本分の隙間が空く深すぎると膝裏を圧迫、浅いと太ももが支えられない
座面の高さ足裏がフットレストまたは床にしっかり着く高いと足が浮いてずり落ちる、低いと立ち上がれない
背もたれの高さ肩甲骨の下あたり(自走する場合)高すぎると腕が動かせない、低いと体が支えられない

特に見落とされやすいのが座面の奥行きです。深すぎると、膝の裏が圧迫されて痛くなり、本人は無意識にお尻を前へずらします。これが「ずり落ちる」の最大の原因です。

ずり落ちる人に「背もたれに寄りかかって」と言っても直らない

ずり落ちは、姿勢の意識の問題ではなく寸法か座面の問題であることがほとんどです。次を確認してください。

  • 座面の奥行きが深すぎないか
  • 足がフットレストに届いているか(浮いていると前へ滑ります)
  • 座面のシートがたわんでハンモック状になっていないか
  • クッションが適切か、へたっていないか
  • 骨盤が後ろに倒れていないか

ベルトで固定して解決しようとするのは最後の手段です。まず寸法と座面を見直してください。

クッションは「車いす付属品」として借りられる

告示の第2号は、車いす付属品を「クッション、電動補助装置等であって、車いすと一体的に使用されるものに限る」と定めています。つまりクッションは介護保険のレンタル対象です。

ただし条件があります。「車いすと一体的に使用されるもの」とされているため、車いす本体とセットで使うことが前提です。

クッションの種類特徴向いている場面
ウレタンフォーム安価、軽い、メンテナンスが楽座位が安定していて、短時間の使用
ゲル・ジェル圧を分散しやすい。やや重い座る時間が長い、褥瘡のリスクがある
エア(空気)圧分散に優れる。空気圧の管理が必要褥瘡リスクが高い。管理できる人がいる
ハイブリッド複数素材の組み合わせ安定性と除圧の両立

座る時間が長い人ほどクッションが重要

1日に数時間以上座る方は、クッションを「あったほうがよいもの」ではなく必需品と考えてください。お尻の骨が当たる部分(坐骨結節)に圧が集中し、褥瘡の原因になります。

また、座ったままでも15〜30分に1回は除圧(お尻を浮かせる、左右に体重を移す、背もたれを倒す)を行ってください。自力でできない方は介助者が体位を変えます。

要介護1・要支援でも借りられる例外がある

ここが最も知られていない部分です。

車いす・車いす付属品は、原則として要介護2以上が貸与の対象とされています。しかし、「厚生労働大臣が定める基準に適合する利用者等」(平成27年厚生労働省告示第94号)には、軽度者であっても対象となる場合が規定されています。

告示の原文(福祉用具貸与費の注6の厚生労働大臣が定める者)

「(1) 車いす及び車いす付属品 次のいずれかに該当する者

(一) 日常的に歩行が困難な者
(二) 日常生活範囲において移動の支援が特に必要と認められる者

つまり、要支援1・2や要介護1であっても、この要件に該当すれば車いすを借りられる可能性があります。

同じ告示には、特殊寝台(介護ベッド)についても「日常的に起きあがりが困難な者」「日常的に寝返りが困難な者」、移動用リフトについて「日常的に立ち上がりが困難な者」などの要件が定められています。

「要介護1だから無理」で終わらせない

例外給付を受けるには、判断の根拠となる資料(主治医の意見やサービス担当者会議での検討など)が必要になり、手続きや必要書類の運用は市町村(保険者)によって異なります。

ただし、少なくとも「要介護度だけで一律に判断されるものではない」ことは告示に書かれています。該当しそうな場合は、ケアマネジャーに例外給付の可否を確認してもらってください。

車椅子で起こる二次的な問題

車椅子は移動の手段ですが、座りっぱなしの時間を増やす道具にもなり得ます。ここを意識せずに導入すると、別の問題が生まれます。

問題起こる理由対策
下肢の筋力低下立つ・歩く機会が減る立つ機会を1日のどこかに残す
関節拘縮膝・股関節が曲がったまま1日1回は膝を伸ばす。寝る時間に伸展位を
褥瘡坐骨に圧が集中し続けるクッションと定期的な除圧
むくみ足を下げたままで血流が滞る足首の運動、時々足を上げる
便秘・食欲低下活動量の低下活動の機会を確保する

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」も、座位行動について「立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす」としています。車椅子に座っていても、足首を動かす、体をひねる、手を上げるといった動きは行えます。

車椅子は「歩けなくなった証」ではない

導入をためらう方がいますが、考え方が逆です。車椅子があるから外出できる、人に会える、活動量が増えるという場面のほうが多い。

歩ける距離が100mしかない方が、それ以上を諦めて家にこもるより、車椅子を併用して500m先の場所へ行き、着いてから歩くほうが、生活は明らかに広がります。「歩くか車椅子か」ではなく「使い分ける」のが現実的です。

住環境との相性を確認する

カタログ上は良い車椅子でも、自宅で使えなければ意味がありません。導入前に必ず測ってください。

  • 廊下の幅:直線で通れても、曲がり角で回れないことがあります
  • ドアの幅:開き戸は、開けた状態の実際の通行幅で測る
  • 玄関の段差:スロープが必要か、何cmか
  • トイレの入口と内部:車椅子で入れるか、方向転換できるか
  • 床の材質:畳は車輪が沈みます。カーペットは抵抗が大きい
  • 屋外の経路:家の前の段差、道路の傾斜、近所の歩道の状態

ここで問題が見つかった場合、住宅改修(手すり設置、段差解消、床材変更など)で対応できることもあります。住宅改修は支給限度基準額20万円(原則1人1回)の範囲で利用できます。

※住宅改修の対象範囲と手続きは市町村(保険者)によって運用が異なります。ケアマネジャーにご確認ください。

購入とレンタルの使い分け

レンタル(福祉用具貸与)購入(自費)
費用月額の1〜3割負担全額自己負担
交換合わなければ交換できるできない
メンテナンス事業者が行う自分で行う
体の変化への対応状態に合わせて変更可能買い直しが必要
向いている場面継続的に使う、状態が変わりうる旅行時のみなど一時的・限定的な使用

原則としてレンタルを優先してください。高齢者の身体状況は変化します。半年後に合わなくなった車椅子を買い直すより、交換できるほうが合理的です。

福祉用具貸与の仕組みは福祉用具貸与(レンタル)とは?対象品目と自己負担を解説、費用は福祉用具貸与の自己負担額と上限額をご覧ください。

日常の点検と安全

  • ブレーキの効き:ゴムが摩耗するとタイヤに届かなくなります
  • タイヤの空気圧:空気が減るとブレーキも効かなくなります
  • フットレストの状態:跳ね上げ・取り外しがスムーズか
  • 座面シートのたわみ:ハンモック状になっていないか
  • クッションのへたり:手を入れて底づきしないか確認
  • ネジの緩み:ガタつきがないか

移乗時の事故はブレーキとフットレスト

車椅子で最も多い事故は、ブレーキをかけ忘れた移乗と、フットレストに足を引っかけた転倒です。移乗の前に、必ず「ブレーキ両方・フットレスト上げる」を声に出して確認してください。

移乗の具体的な手順は移乗介助のやり方|ベッドと車椅子の手順で解説しています。

押すときの注意

  • 段差は前輪を上げて正面から:ティッピングバー(後輪前の突起)を踏んで前輪を浮かせる
  • 下り坂・下りスロープは後ろ向きで:前向きだと前方へ投げ出される危険があります
  • エレベーターは後ろ向きで乗る:出るときに前向きで出られます
  • 声をかけてから動かす:無言で動かすと驚いて体が緊張します
  • 手を外に出していないか確認:ドア枠やタイヤに巻き込みます

よくある質問

自走用と介助用はどう見分けますか?

後輪にハンドリム(タイヤの内側の細い輪)があれば自走用、なければ介助用です。介助用は後輪が小さく軽量ですが、本人が自分で移動できなくなります。

腕の力が弱くても自走用にする意味はありますか?

足が使えるならあります。座面を低くして足で床を蹴って進む方法があります。ただし座面高さの調整が必須なので、福祉用具専門相談員と理学療法士に相談してください。

車椅子からずり落ちてしまいます。

姿勢の意識ではなく、寸法や座面の問題であることがほとんどです。座面の奥行きが深すぎないか、足がフットレストに届いているか、シートがたわんでいないか、クッションがへたっていないかを確認してください。

クッションは介護保険で借りられますか?

借りられます。告示で「車いす付属品」として定められており、クッションが明記されています。ただし「車いすと一体的に使用されるもの」が条件です。

要介護1ですが車椅子は借りられませんか?

借りられる場合があります。告示には、軽度者であっても「日常的に歩行が困難な者」「日常生活範囲において移動の支援が特に必要と認められる者」は対象となる旨が規定されています。手続きや必要書類は市町村によって異なるため、ケアマネジャーにご確認ください。

座る時間が長いのですが注意することは?

クッションを必需品と考えてください。お尻の骨が当たる部分に圧が集中し、褥瘡の原因になります。また15〜30分に1回は除圧(お尻を浮かせる、体重を左右に移す)を行ってください。

購入とレンタルはどちらがいいですか?

原則としてレンタルをおすすめします。身体状況は変化するため、合わなくなったときに交換できることが重要です。メンテナンスも事業者が行います。

下り坂はどう押せばいいですか?

後ろ向きで、ゆっくり下ります。前向きだと本人が前方へ投げ出される危険があります。エレベーターも後ろ向きで乗ると、出るときに前向きで出られます。

電動車椅子も介護保険の対象ですか?

「普通型電動車いす」は告示に明記されており、貸与の対象です。ただし本人が安全に操作できることが前提で、認知機能や視力なども含めた評価が必要です。

車椅子の点検は誰がしますか?

レンタルの場合は福祉用具貸与事業者が定期的にメンテナンスとモニタリングを行います。日常的には、ブレーキの効き、タイヤの空気圧、クッションのへたりを家族が確認してください。

まとめ

  • 告示は車いすを自走用標準型・普通型電動・介助用標準型の3つに限定している
  • ハンドリムがあれば自走用、なければ介助用
  • 介助者の都合で介助用を選ぶと、本人の生活範囲が縮む
  • 足でこげる場合は座面を低くして自走できることがある
  • 合わせる寸法は座幅・奥行き・座面高さ・背もたれの高さの4つ
  • ずり落ちの最大の原因は座面の奥行きが深すぎること
  • ずり落ちは姿勢の意識ではなく寸法・座面の問題であることが多い
  • クッションは「車いす付属品」として貸与の対象
  • 座る時間が長い人ほどクッションは必需品
  • 15〜30分に1回は除圧を行う
  • 要支援・要介護1でも「日常的に歩行が困難」等に該当すれば貸与の対象になり得る
  • 例外給付の手続き・必要書類は市町村によって異なる
  • 原則としてレンタルを優先する(交換・メンテナンスができる)
  • 事故が最も多いのはブレーキのかけ忘れとフットレストへの引っかけ
  • 下り坂・下りスロープは後ろ向きで押す

参考にした情報

※本記事の福祉用具の種目・例外給付の要件は、厚生労働大臣が定める福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目(平成11年厚生省告示第93号)および厚生労働大臣が定める基準に適合する利用者等(平成27年厚生労働省告示第94号)にもとづいて整理したものです。軽度者への例外給付にあたっては、該当を判断するための資料や手続きが必要であり、その運用は市町村(保険者)によって異なります。実際の可否はケアマネジャーおよび市町村の窓口にご確認ください。寸法の合わせ方・除圧の間隔などの目安は、リハビリテーション領域で一般に用いられている整理および筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづくものであり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません(確度:中)。適切な車いすとクッションは本人の状態により異なるため、担当の理学療法士・作業療法士・福祉用具専門相談員にご相談ください。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味