高齢者の薬が多いとどうなる?ポリファーマシーの基準

高齢者の薬が多いことを心配して「何種類までなら大丈夫か」と考える方は多いのですが、厚生労働省の指針は「単に服用する薬剤数が多いことではない」と明確に否定しています。
問題なのは数ではなく中身です。3種類でも問題が起きることがあり、6種類以上が必要な場合もある。この記事では、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」の原文を確認したうえで、何を基準に判断すべきか、家族が何に気づくべきかを整理しました。
この記事でわかること
- ポリファーマシーの正確な定義(厚労省の指針)
- 「6種類以上」という数字の本当の意味
- 75歳以上で何種類飲んでいる人が多いのか
- 薬が増えていく2つの仕組み(処方カスケード)
- 薬が原因で起こる7つの症状と原因薬剤
- 家族が気づくべきサイン
- 減らすときにやってはいけないこと
- どこに相談すればよいか
高齢者の薬が多いと何が問題か
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)は、ポリファーマシーを次のように定義しています。
指針の原文(ポリファーマシーの概念)
「多剤服用の中でも害をなすものを特にポリファーマシーと呼び、本指針でも両者を使い分けた。ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である」
つまり、「多剤服用」と「ポリファーマシー」は別の言葉として使い分けられています。単に薬の数が多いことは「多剤服用」であって、そこに害が生じている状態が「ポリファーマシー」です。
「6種類以上」という数字の意味
よく聞く「6種類以上は危険」という話について、指針は次のように書いています。
指針の原文
「何剤からポリファーマシーとするかについて厳密な定義はなく、患者の病態、生活、環境により適正処方も変化する。薬物有害事象は薬剤数にほぼ比例して増加し、6種類以上が特に薬物有害事象の発生増加に関連したというデータもある。一方、治療に6種類以上の薬剤が必要な場合もあれば、3種類で問題が起きる場合もあり、本質的にはその中身が重要である。したがって、ポリファーマシーの是正に際しても、一律の剤数/種類数のみに着目するのではなく、安全性の確保等からみた処方内容の適正化が求められる」
ここが最も重要です。6種類は「目安の一つ」であって、基準ではありません。3種類でも問題が起きることがあり、6種類以上が必要な人もいる。数を減らすこと自体が目的ではないということです。
ちびウルフ父は8種類飲んでいます。減らしてもらうべきでしょうか。
リハウルフ数だけでは判断できません。見るべきは「困っている症状があるか」です。ふらつく、食欲がない、便秘がひどい、ぼんやりしている。そういう変化があるなら相談する価値があります。何もなければ、必要な8種類かもしれません。
実際に何種類飲んでいる人が多いのか
指針は、全国の保険薬局における処方調査の結果を示しています。
指針の原文
「75歳以上の約1/4が7種類以上、4割が5種類以上の薬剤を処方されている」
つまり、75歳以上で5種類以上飲んでいるのは珍しいことではありません。「うちだけ多いのでは」と不安になる必要はない一方、4人に1人が7種類以上という状況は、社会全体としての課題でもあります。
薬が増えていく2つの仕組み
指針は、ポリファーマシーが形成される典型的な2つの例を挙げています。
| パターン | 内容(指針より) |
|---|---|
| 足し算型 | 「新たな病状が加わる度に新たな医療機関又は診療科を受診していると、それぞれ2、3剤の処方でも足し算的に服用薬が積み重なり、ポリファーマシーとなることがある」 |
| 処方カスケード | 「新たな病状を薬剤で手当てしていくと、薬物有害事象に薬剤で対処し続ける“処方カスケード”と呼ばれる悪循環に陥る可能性がある」 |
処方カスケードとは
ある薬の副作用で出た症状を「新しい病気」と捉え、それに対してまた薬が追加される。その薬の副作用でまた別の症状が出て、さらに薬が増える――という連鎖です。
たとえば、ある薬の影響で便秘が起きる → 下剤が追加される → 食欲が落ちる → 食欲を改善する薬が出る。大もとの1剤を見直せば解決したかもしれないのに、薬だけが増えていきます。
指針は、解消の方向として「かかりつけ医による診療が開始された際に薬剤の処方状況全体を把握すること、又は薬局の一元化などで解消に向かうことが期待されている」としています。
ポイントは「全体を見る人がいるかどうか」です。複数の医療機関にかかっている場合、誰も全体像を把握していないという状態が起こりえます。
薬が原因で起こる7つの症状
ここが、家族にとって最も実用的な部分です。指針には「表1 薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤」が掲載されています。
指針の原文
「高齢者では、薬物有害事象が医療や介護・看護を要する高齢者に頻度の高い表1に掲げる症候(『老年症候群』という)として表れることも多く、見過ごされがちであることに注意が必要である。老年症候群を含めて薬剤との関係が疑わしい症状・所見があれば、処方をチェックし、中止・減量をまず考慮する。(中略)特に、患者の生活に変化が出たり、新たな症状が出現したりする場合には、まず薬剤が原因ではないかと疑ってみる」
| 症候 | 主な原因薬剤(指針の表1より) |
|---|---|
| ふらつき・転倒 | 降圧薬(特に中枢性降圧薬、α遮断薬、β遮断薬)、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、てんかん治療薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)、抗ヒスタミン薬、メマンチン |
| 記憶障害 | 降圧薬(中枢性降圧薬、α遮断薬、β遮断薬)、睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗うつ薬(三環系)、てんかん治療薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬、抗ヒスタミン薬 |
| せん妄 | パーキンソン病治療薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬(三環系)、抗ヒスタミン薬、降圧薬(中枢性降圧薬、β遮断薬)、ジギタリス、抗不整脈薬、気管支拡張薬、副腎皮質ステロイド |
| 抑うつ | 中枢性降圧薬、β遮断薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、抗甲状腺薬、副腎皮質ステロイド |
| 食欲低下 | 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、アスピリン、緩下剤、抗不安薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)、SSRI、コリンエステラーゼ阻害薬、ビスホスホネート、ビグアナイド |
| 便秘 | 睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬、腸管鎮痙薬、抗ヒスタミン薬、αグルコシダーゼ阻害薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬) |
| 排尿障害・尿失禁 | 抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬、腸管鎮痙薬、抗ヒスタミン薬、睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗精神病薬、トリヘキシフェニジル、α遮断薬、利尿薬 |
※この表は単剤でみられる薬剤起因性老年症候群を記載したものです。薬剤の併用による有害事象については、指針の別表をご参照ください。
「年のせい」で片づけない
ふらつく、もの忘れが増えた、元気がない、食欲がない、便秘、尿もれ。これらはすべて「加齢のせい」にされやすい症状ですが、薬が原因のことがあります。
指針も「見過ごされがちであることに注意が必要」と明記しています。特に、新しい薬が始まった時期と症状が出た時期が近いなら、必ず主治医・薬剤師に伝えてください。
家族が気づくべきサイン
本人は変化に気づかないことがあります。家族のほうが先に気づける項目を挙げます。
- 歩き方が変わった:ふらつく、つかまることが増えた
- 日中ぼんやりしている:話がかみ合わない、眠そう
- 食欲が落ちた:残す量が増えた、体重が減った
- 便秘・尿もれが始まった/悪化した
- 転倒した・転びかけた
- もの忘れが急に増えた
- 元気がない、何もしたがらない
これらに気づいたら、「いつから」と「その前後で薬に変更がなかったか」を確認してください。お薬手帳を見れば、いつ何が追加されたか分かります。
既存の症状も薬を疑う対象になる
当サイトでは、次のテーマで繰り返し「薬の影響を確認してください」とお伝えしてきました。この記事の表1が、その根拠にあたります。
減らすときにやってはいけないこと
自己判断で中止・減量しない
これは絶対に守ってください。薬によっては、急にやめると危険なものがあります。
- 血圧の薬:急な中止で血圧が跳ね上がることがあります
- 抗凝固薬(血をサラサラにする薬):中止で血栓のリスクが上がります
- ステロイド:急な中止は重篤な症状を招くことがあります
- 睡眠薬・抗不安薬:離脱症状が出ることがあります
- てんかんの薬:発作のリスクが上がります
「減らしたほうがよさそうだ」と思っても、判断するのは医師です。家族ができるのは、症状と時期を正確に伝えることです。
- 飲み忘れを黙っていない:飲めていない前提で処方が調整されると危険です
- 市販薬・サプリメントも伝える:相互作用があります
- 他院の薬を伝える:全体を把握している人がいないと調整できません
- 「効いていない気がする」も伝える:判断材料になります
どこに相談すればよいか
| 相談先 | できること |
|---|---|
| かかりつけ医 | 処方の全体を把握し、見直しを判断する |
| かかりつけ薬剤師・薬局 | 複数医療機関の薬を一元的に確認。重複や相互作用のチェック |
| 訪問薬剤管理指導 | 薬剤師が自宅を訪問し、服薬状況を確認・調整 |
| 訪問看護 | 服薬状況の確認、医師への報告 |
| ケアマネジャー | 関係者への連絡調整 |
指針が挙げる解消の方向は「処方状況全体の把握」と「薬局の一元化」です。複数の医療機関にかかっている場合、薬局を1か所にまとめるだけでも、重複や相互作用が見つかることがあります。
また指針は、有害事象の早期発見について「関連職種からの情報提供も有用である」としています。訪問看護師、訪問リハビリのセラピスト、ヘルパー、ケアマネジャー。生活を見ている職種が気づいた変化は、医師にとって重要な情報です。気になることがあれば、遠慮なく伝えてください。
よくある質問
何種類からが危険ですか?
厚労省の指針は「何剤からポリファーマシーとするかについて厳密な定義はない」としています。6種類以上で有害事象が増えるというデータはありますが、「3種類で問題が起きる場合もあり、本質的にはその中身が重要」とも明記されています。
ポリファーマシーとは「薬が多いこと」ですか?
違います。指針は「単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態」と定義しています。害が生じている状態を指します。
75歳以上は平均何種類くらい飲んでいますか?
指針が示す調査では、75歳以上の約1/4が7種類以上、4割が5種類以上を処方されています。5種類以上は珍しいことではありません。
処方カスケードとは何ですか?
ある薬の副作用で出た症状に対してまた薬が追加され、その副作用にまた薬が出る、という悪循環です。指針も「薬物有害事象に薬剤で対処し続ける悪循環に陥る可能性がある」と記載しています。
ふらつきは薬のせいのことがありますか?
あります。指針の表1では、ふらつき・転倒の原因薬剤として降圧薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬などが挙げられています。新しい薬が始まった時期と症状が出た時期を確認してください。
もの忘れが増えたのも薬の影響ですか?
可能性があります。指針の表1では、記憶障害の原因薬剤として降圧薬、睡眠薬・抗不安薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬などが挙げられています。認知症と決めつける前に、薬の変更歴を確認してください。
自己判断で薬を減らしてもいいですか?
絶対に避けてください。血圧の薬、抗凝固薬、ステロイド、睡眠薬、てんかんの薬などは、急に中止すると危険です。判断は医師が行います。家族は症状と時期を正確に伝えてください。
飲み忘れがあることは伝えるべきですか?
必ず伝えてください。飲めている前提で処方が調整されると、危険な状態になることがあります。飲めていない理由(数が多い、飲みにくい、忘れる)も含めて相談してください。
どこに相談すればいいですか?
かかりつけ医とかかりつけ薬剤師です。指針も解消の方向として「処方状況全体の把握」と「薬局の一元化」を挙げています。薬局を1か所にまとめるだけでも重複が見つかることがあります。
介護職や看護師が気づいたことも役に立ちますか?
役に立ちます。指針は「有害事象の早期発見には、関連職種からの情報提供も有用である」としています。生活を見ている職種が気づいた変化は、医師にとって重要な情報です。
まとめ
- ポリファーマシーは「薬剤数が多いこと」ではなく、害が生じている状態
- 厚労省の指針は「何剤から」という厳密な定義はないとしている
- 6種類以上で有害事象が増えるデータはあるが、3種類でも問題は起きる
- 一律の剤数ではなく、処方の中身が重要
- 75歳以上の約1/4が7種類以上、4割が5種類以上を処方されている
- 薬が増える仕組みは「足し算型」と「処方カスケード」の2つ
- 処方カスケードは、副作用に薬で対処し続ける悪循環
- 解消の鍵は「処方状況全体の把握」と「薬局の一元化」
- 薬が原因の症状は、ふらつき・記憶障害・せん妄・抑うつ・食欲低下・便秘・排尿障害
- これらは「年のせい」にされやすく、見過ごされがち
- 生活に変化が出たら、まず薬剤が原因ではないか疑う
- 家族は「いつから」と「その前後の薬の変更」を確認する
- 自己判断での中止・減量は危険。急にやめてはいけない薬がある
- 飲み忘れ、市販薬、他院の薬もすべて伝える
- 関連職種からの情報提供も早期発見に有用とされている
参考にした情報
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編・療養環境別)」(2019年6月)
- 厚生労働省「病院・地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」
- 厚生労働省「高齢者医薬品適正使用検討会」
※本記事の定義・数値・薬剤起因性老年症候群の一覧は、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)にもとづいて整理したものです。表1は単剤でみられる薬剤起因性老年症候群を記載したもので、薬剤の併用による有害事象については指針の別表をご参照ください。本記事は特定の薬剤の中止・減量を勧めるものではありません。薬の変更・中止の判断は必ず医師が行います。自己判断での中止・減量は、血圧の急上昇、血栓、離脱症状、発作などの重大な事態を招くおそれがあります。気になる症状がある場合は、症状が出た時期と薬の変更時期を整理したうえで、主治医・薬剤師にご相談ください。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。





