高齢者の体操|介護予防体操のメニュー

高齢者の体操は、ストレッチ・筋力・バランス・有酸素の4つを1回に組み合わせるのが正解です。厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、高齢者に対して「筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上」を推奨しており、ラジオ体操やヨガもこの多要素な運動に含まれるとしています。
そして、市町村が行う介護予防教室には公式のタイムスケジュールと負荷の目安があります。厚労省の介護予防マニュアル第4版に、準備運動5分・筋トレ10分・バランス10分・有酸素30分という構成まで明記されています。この記事では、その原文を確認したうえで、自宅で同じ組み立てを再現する方法をまとめました。
この記事でわかること
- 高齢者の体操に必要な4つの要素
- 厚労省が示す介護予防教室の公式タイムスケジュール
- 負荷の目安「ややきつい」の意味
- 座ったままできる体操メニュー
- 立って行うバランス体操メニュー
- 認知症予防を狙う「コグニサイズ」のやり方
- どれくらいやれば効果が出るのか(総時間の目安)
- 体操を中止すべき数値基準
高齢者の体操に必要な4つの要素
「体操」と一口に言っても、狙う機能はばらばらです。厚労省の考え方に沿うと、次の4つを組み合わせます。
| 要素 | 目的 | 具体例 |
|---|---|---|
| ストレッチ(柔軟性) | 運動準備、柔軟性改善 | ふくらはぎ、太もも裏、肩・首 |
| 筋力増強運動 | 筋力増強 | 立ち座り、かかと上げ、脚上げ |
| バランス運動 | バランス機能向上 | 片脚立ち、つぎ足歩行、重心移動 |
| 有酸素運動 | 持久力向上 | ウォーキング、足踏み、踏み台昇降 |
この4分類は、厚労省「介護予防マニュアル【第4版】」の運動プログラム例に示されているものです。どれか1つでは足りません。筋力だけ鍛えても、バランス反応が鈍ければ転びます。
厚労省の身体活動・運動ガイド2023も、多要素な運動には「サーキットトレーニングのような有酸素運動、筋力トレーニング、バランス運動などを組み合わせて実施する運動や、体操やダンス、ラジオ体操、ヨガなどの多様な動きを伴う運動が含まれます」としています。ラジオ体操は、それ自体が推奨に合致する立派な運動です。
ちびウルフラジオ体操だけで十分ですか?
リハウルフ多要素な運動としては十分カウントできます。ただし、ラジオ体操には負荷をかける要素が弱い。筋肉を増やしたいなら、週2〜3日は立ち座りのような筋トレを足してください。ガイドも筋トレを別立てで推奨しています(高齢者の筋トレメニューで解説しています)。
介護予防体操の公式タイムスケジュール
市町村の介護予防教室で使われる、厚労省マニュアルの教室でのタイムスケジュール例です。原文の記述から整理しました。
| 順序 | 内容 | 時間 | 留意点(原文より) |
|---|---|---|---|
| 1 | バイタルサインの測定 | - | 血圧・脈拍・体温を測る |
| 2 | 準備運動・ストレッチ | 5分 | 呼吸器・循環器疾患、フレイルを伴う場合はより時間をかける |
| 3 | 筋力トレーニング | 10分 | 下肢を中心に。呼吸を止めない。軽負荷・低頻度から開始 |
| 4 | バランス運動 | 10分 | 立位・座位で行う。レクリエーション運動を取り入れてもよい |
| 5 | 有酸素運動 | 30分 | 運動習慣が乏しい場合はまず10分程度から開始し漸増。途中で休憩を挟んでよい |
| 6 | 整理運動・ストレッチ | 5分 | ストレッチを含む軽負荷の運動 |
| 7 | バイタルサインの測定 | - | 終了後にも測る |
自宅で同じことをするなら、合計60分は長すぎるので、時間を圧縮して構いません。順番と比率だけ真似てください。ストレッチ2分 → 筋トレ5分 → バランス3分 → 足踏み5分 → ストレッチ2分。これで17分です。
負荷の目安は「ややきつい」
マニュアルは、筋力トレーニングも有酸素運動も、負荷量の目安を「ややきつい」と感じる程度としています。「楽である」では足りず、「きつい」では続きません。
もう1点、筋トレについて「バルサルバ効果を避けるため実施中は呼吸を止めないよう気をつける」と明記されています。息を止めて力むと血圧が急上昇します。力を入れる瞬間に息を吐く、これだけは必ず守ってください。
座ったままできる体操メニュー
立位に不安がある方、まず始める方向けです。すべて椅子に座って行えます。
- 足首の曲げ伸ばし(20回):つま先を上げる・下げるを交互に。血流改善も兼ねます
- 膝伸ばし(左右10回):片脚を水平まで伸ばし3秒止めてゆっくり下ろす。大腿四頭筋
- もも上げ(左右10回):座ったまま膝を持ち上げる。腸腰筋。すり足対策の中心
- かかと上げ・つま先上げ(各15回):床に足をつけた状態で交互に。ふくらはぎと前脛骨筋
- 体幹のひねり(左右10回):腕を胸の前で組み、上体をゆっくりひねる。振り向き動作が楽に
- 肩回し(前後各10回):肩の柔軟性。腕を上げる動作や更衣が楽になります
- タオルつぶし(5秒×5回):丸めたタオルを胸の前ではさんで押す。関節を動かさないので安全
マニュアルが挙げる対象筋群は、大腿四頭筋・ハムストリングス・大殿筋・腸腰筋・股関節外転筋・股関節内転筋・下腿三頭筋です。いずれも下肢です。上半身より下半身を優先する、という方針がここに表れています。
立って行うバランス体操
必ず椅子の背もたれやテーブルに手を添えて行ってください。マニュアルも、身体機能が低下している人には「座位での運動を指導する」といった配慮を求めています。
- 片脚立ち(左右30秒):最も基本的なバランス運動。5秒からで構いません
- つぎ足立ち(30秒):一方の足のかかとに、もう一方のつま先をつけて一直線に立つ
- 前後の重心移動(20往復):つま先立ちとかかと立ちを交互に。足首の反応を鍛えます
- 横歩き(5歩×往復):壁づたいに横へ移動。中殿筋とバランスを同時に
- つぎ足歩行(5歩):一本線の上を歩くイメージ。難易度が高いので最後に
目を閉じてやらない
「閉眼片脚立ち」という種目がありますが、自宅で1人で行うものではありません。視覚を遮るとバランスは急激に落ちます。測定として行う場合も、必ず介助者がついてください。
認知症予防を狙うなら「コグニサイズ」
ここが、単なる体操と一段違う部分です。厚労省の介護予防マニュアル第4版は、認知機能低下予防の運動プログラムの代表例として、国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」を紹介しています。
「コグニ」はcognition(認知)、「サイズ」はexercise(運動)を合わせた造語で、体を動かしながら同時に頭を使うのが特徴です。マニュアルが挙げる例は次のとおりです。
- スキップをしながら手拍子
- ウォーキングをしながら計算
- 椅子に座って足踏み・腕振りをしながら3の倍数で手拍子
- ステップ台の昇降運動をしながら語想起(「か」で始まる言葉を挙げるなど)
- コグニラダー
自宅で最も取り入れやすいのは3つ目です。椅子に座って足踏みをしながら数を数え、3の倍数(3・6・9…)で手を叩く。これなら転倒リスクなしで始められます。
間違えるくらいがちょうどいい
コグニサイズは、課題が簡単すぎると効果が薄れます。スムーズにできるようになったら、「3と5の倍数で手拍子」のように難易度を上げてください。時々間違えるレベルが適切です。「間違えたら失敗」ではなく、「間違える課題を選べている」と考えてください。
厚労省の身体活動・運動ガイド2023も、アンブレラレビューにより「有酸素性身体活動は認知機能低下を予防する可能性があることが確認されています」としています。体を動かすこと自体に、認知面への効果が期待されています。
どれくらいやれば効果が出るのか
厚労省マニュアルは、介護予防教室の総時間について具体的な例を示しています。
| パターン | 1回の時間 | 頻度 | 期間 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 例1 | 1.5時間 | 週2回 | 12週間 | 36時間 |
| 例2 | 0.5時間 | 教室 週1回+自宅 週4回 | 12週間 | 30時間 |
注目すべきは例2です。教室だけでなく自宅での週4回がプログラムに組み込まれている。つまり制度の設計上、「週1回のデイサービスや教室に行くだけ」では足りないと想定されているということです。
そして、総時間は3か月で30〜36時間。1日あたりに直すと約20分です。「毎日20分を3か月」が、効果を期待できる最低ラインの目安になります。
3〜6か月で終わる設計である
マニュアルは、短期集中予防サービスについて「この短期集中プログラムには身体機能を向上させる効果が期待できるが、中長期的に効果が持続するわけではない」と明記し、終了後に個人または集団で運動を継続できるようになることを目指すとしています。教室は卒業が前提です。そこで自宅の習慣をつくれるかどうかが分かれ目になります。
体操を中止すべき基準
介護予防マニュアル第4版は、運動を実施しない基準を数値で示しています。自宅で行う場合の目安としても使えます。
運動を控えるべきチェック項目(安静時・原文より)
- 収縮期血圧 180mmHg以上、または 80mmHg未満
- 拡張期血圧 110mmHg以上
- 体温 37.5℃以上
- 脈拍が 120拍/分以上
- いつもと異なる脈の不整がある場合
- 関節痛など慢性的な症状の悪化
運動中については、開始時と比較して収縮期血圧が40mmHg以上、または拡張期血圧が20mmHg以上上昇した場合、あるいは脈拍が140回/分を越えた場合は中止とされています。強い呼吸困難感、頻呼吸(1分間に25回以上)、めまい、狭心痛、頭痛、強い疲労感が出た場合も同様です。
また、事前の注意事項として「運動直前の食事は避ける」「水分補給を十分に行う」「睡眠不足・体調不良の時には無理をしない」の3点が挙げられています。高齢者は喉の渇きを感じにくく、頻尿を心配して水分を控えがちなため、運動中に必ず水分補給の時間をとるよう求められています。
どこで体操に参加できるか
| 場所 | 対象 | 窓口 |
|---|---|---|
| 市町村の通いの場・体操教室 | 要介護認定がなくても可の場合が多い | 地域包括支援センター |
| 短期集中予防サービス | 事業対象者・要支援者 | 地域包括支援センター |
| 通所介護(デイサービス) | 要介護認定あり | ケアマネジャー |
| 通所リハビリ(デイケア) | 要介護認定あり・医師の指示 | ケアマネジャー |
まずは地域包括支援センターに電話してください。要介護認定を受けていなくても相談でき、近所の通いの場を教えてもらえます。内容・費用・対象は市町村によって異なります。
よくある質問
高齢者の体操は毎日やってもいいですか?
ストレッチ・バランス・有酸素運動は毎日で構いません。筋力トレーニングは週2〜3日が厚労省の推奨で、休息日をとることも重要とされています。毎日やるなら、日によって内容を変えるのが理想です。
体操は何分やればいいですか?
厚労省マニュアルの教室例では1回60分ですが、自宅なら15〜20分で構いません。3か月で合計30〜36時間という設計なので、1日あたり約20分が目安になります。
ラジオ体操は介護予防になりますか?
なります。厚労省の身体活動・運動ガイド2023は、多要素な運動に「体操やダンス、ラジオ体操、ヨガなどの多様な動きを伴う運動が含まれます」としています。ただし負荷をかける要素が弱いため、筋トレは別に足すのが理想です。
「ややきつい」とはどれくらいですか?
会話はできるが、歌は歌えない程度が目安です。厚労省マニュアルは筋トレも有酸素運動も「ややきつい」と感じる程度の負荷量を目安としています。楽に感じるようになったら、回数や時間を増やしてください。
コグニサイズとは何ですか?
国立長寿医療研究センターが開発した、運動と認知課題を同時に行うプログラムです。厚労省の介護予防マニュアル第4版でも認知機能低下予防の代表例として紹介されており、「椅子に座って足踏み・腕振りをしながら3の倍数で手拍子」などが例に挙げられています。
立てないのですが体操できますか?
できます。座ったままの足首の曲げ伸ばし、膝伸ばし、もも上げ、体幹のひねりなどがあります。厚労省のガイドも「立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす」としています。
血圧が高い日はやめたほうがいいですか?
安静時に収縮期180mmHg以上(または80mmHg未満)、拡張期110mmHg以上の場合は行わないでください。厚労省マニュアルが運動を実施しない基準として示しています。判断に迷う場合は主治医にご相談ください。
1人でやると続きません。
市町村の通いの場や体操教室の利用をおすすめします。厚労省マニュアルのプログラム例も、教室と自宅を組み合わせる設計になっています。人と会う予定があるほうが続きやすいのは、現場でも共通しています。
朝と夜どちらがいいですか?
続けられる時間帯が正解です。ただし起床直後は血圧が変動しやすく、体も硬いため、起きて1時間ほど経ってからのほうが安全です。また、食事の直前直後は避けてください。
効果はどれくらいで出ますか?
厚労省マニュアルのプログラムは3か月(12週間)を単位としています。筋力の変化を実感するには最低でも1〜3か月かかると考えてください。週単位で判断しないことが続けるコツです。
まとめ
- 高齢者の体操はストレッチ・筋力・バランス・有酸素の4要素を組み合わせる
- 厚労省は高齢者に多要素な運動を週3日以上、筋トレを週2〜3日推奨している
- ラジオ体操・ヨガ・ダンスも多要素な運動に含まれる
- 公式の教室構成は準備5分・筋トレ10分・バランス10分・有酸素30分・整理5分
- 自宅なら比率だけ真似て15〜20分に圧縮してよい
- 負荷の目安は「ややきつい」。楽すぎても、きつすぎてもいけない
- 筋トレ中は呼吸を止めない(バルサルバ効果の回避)
- 対象とすべき筋群はすべて下肢。上半身より下半身が優先
- バランス運動は必ず手を添えて。閉眼での片脚立ちは1人で行わない
- 認知症予防を狙うならコグニサイズ。座って足踏み+3の倍数で手拍子から
- コグニサイズは時々間違えるくらいの難易度が適切
- プログラムは3か月で合計30〜36時間、1日あたり約20分の設計
- 自宅での週4回がプログラムに組み込まれている=教室だけでは足りない
- 収縮期180以上/80未満、拡張期110以上、体温37.5℃以上、脈拍120以上では行わない
参考にした情報
- 厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」(令和4年3月)
- 厚生労働省「介護予防マニュアル 第4版」
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)
- 健康日本21アクション支援システム「推奨シート:高齢者版」
※本記事のプログラム構成・基準値は、厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」および「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」にもとづいて整理したものです。実際の運動の開始・継続にあたっては原文および主治医の判断をご確認ください。介護予防事業の内容・対象・期間・費用は市町村によって異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。体操の進め方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。





