COPDのリハビリ|息切れを減らす運動と呼吸法

COPDのリハビリで最も効果が大きいのは、実は呼吸の練習ではなく脚の筋力トレーニングです。息切れの原因が肺だけにあるとは限らないからです。動かない→筋力が落ちる→同じ動作でより多くの酸素が必要になる→さらに息切れする、という悪循環が起きています。
制度面では、呼吸器リハビリテーション料の算定限度が90日と、疾患別リハビリの中で最も短い点を押さえてください。しかも起算日は「発症日」ではなく「治療開始日」です。この記事では、告示の原文を確認したうえで、運動の内容・呼吸法・酸素療法中の注意を整理しました。
この記事でわかること
- COPDで息切れが悪化していく仕組み
- 呼吸練習より脚の筋トレが重要な理由
- 口すぼめ呼吸・腹式呼吸のやり方
- 動作と呼吸を合わせるコツ(息を止めない)
- 息切れが起きたときのパニックコントロール
- 在宅酸素療法中でも運動してよいのか
- 呼吸器リハビリテーション料の点数と90日ルール
- 感染予防が最大の悪化対策である理由
COPDのリハビリが必要な理由
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主に長期の喫煙によって気道や肺胞が傷み、息を吐き出しにくくなる病気です。失われた肺の機能は戻りません。
ではリハビリに何ができるのか。ここが重要です。
息切れの正体は「肺」だけではない
息切れがつらい → 動かない → 脚の筋肉が落ちる → 同じ距離を歩くのにより多くの酸素が必要になる → さらに息切れがひどくなる → ますます動かない。
この悪循環をデコンディショニングと呼びます。肺の機能は変わっていないのに、息切れだけが悪化していく。そして、この部分は運動で戻せます。
つまり、COPDのリハビリは肺を治すものではなく、「同じ肺機能でより楽に動けるようにする」ものです。だからこそ、呼吸練習より下肢の運動が中心になります。
ちびウルフ息が苦しいのに運動して大丈夫なんですか?
リハウルフ息切れがあること自体は運動をやめる理由になりません。むしろ動かないほうが悪化します。ただし強度の設定と、酸素の状態の確認は必須です。自己流で始める前に、一度は呼吸リハビリを行っている医療機関で評価を受けてください。
脚の筋力トレーニングと持久力
COPDのリハビリの中心はここです。
- 椅子からの立ち座り:10回×2〜3セット。息を止めず、立つときに息を吐く
- かかと上げ:15回×2セット
- 座ったままの膝伸ばし:左右10回×2セット
- 横への脚上げ:左右10回×2セット
- 歩行:休憩を挟みながら、合計時間を伸ばす
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、高齢者に対して筋力トレーニングを週2〜3日、筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上推奨しています。また、慢性疾患を有する人については「成人・高齢者の推奨事項を踏襲し、これまでの疾患ガイドラインで示されてきた1日30分とも矛盾しない形とした」と整理しています。
具体的な種目のやり方は高齢者の筋トレメニュー9選をご覧ください。
絶対に息を止めない
力を入れる瞬間に息を止める(いきむ)と、胸の中の圧が上がり、COPDでは特に苦しくなります。力を入れるときに息を吐く。厚労省の介護予防マニュアル第4版も、筋力トレーニングについて「バルサルバ効果を避けるため実施中は呼吸を止めないよう気をつける」としています。
呼吸法|口すぼめ呼吸と腹式呼吸
口すぼめ呼吸
COPDでは、息を吐くのが難しくなります。吐ききれずに肺に空気が残るため、次に吸える量が減ってしまいます。
- 鼻から軽く息を吸う(1〜2秒)
- 口をすぼめて(ろうそくの火を揺らす程度に)、吸った時間の2倍以上かけてゆっくり吐く
- 吐くことに意識を置く。吸おうとしない
口をすぼめると気道内に圧がかかり、気道がつぶれるのを防いで息を吐き出しやすくなります。息切れしたときにその場でできる、最も実用的な方法です。
腹式呼吸
お腹に手を当て、吸うときにお腹が膨らみ、吐くときにへこむように意識します。肩や首の筋肉を使った浅い呼吸を減らす目的です。
ただし、重症の方では腹式呼吸がかえって苦しくなる場合もあります。楽にならないなら無理に続けないでください。優先すべきは口すぼめ呼吸です。
動作と呼吸を合わせる
ここが日常生活で最も効く工夫です。COPDの方が苦しくなるのは、たいてい動作中に息を止めているときです。
| 動作 | 呼吸の合わせ方 |
|---|---|
| 立ち上がる | 座ったまま息を吸い、立ちながら吐く |
| 階段を上る | 吸って止まる→吐きながら1〜2段上る→また吸う |
| 物を持ち上げる | 吸ってから、吐きながら持ち上げる |
| 靴下を履く・前かがみ | 前かがみは横隔膜を圧迫する。息を吐きながら短時間で |
| 洗髪・洗濯物干し | 腕を上げると苦しくなる。休みを入れながら |
| 入浴 | 湯船は浅めに。胸まで浸かると圧迫される |
原則は「力を入れる動作は、息を吐きながら」です。そして連続して行わないこと。階段も2〜3段ごとに止まって呼吸を整えるほうが、結果的に早く上れます。
腕を上げる動作は特に苦しい
洗髪、洗濯物を干す、高い棚の物を取る。これらは呼吸を助ける筋肉(呼吸補助筋)が腕の動作に取られるため、息切れが強く出ます。物干しの高さを下げる、シャワーチェアに座って洗髪する、よく使う物を手の届く高さに置く。環境を変えるだけで日常の負担が減ります。
息切れが起きたときの対処
強い息切れが起きたとき、パニックになるとさらに呼吸が乱れます。あらかじめ対処法を決めておくことが重要です。
- 動作をすぐ止め、その場で座る(立ったままこらえない)
- 前かがみになり、両肘をテーブルや膝に乗せて体を支える(呼吸が楽な姿勢)
- 口すぼめ呼吸を行う。吐くことに集中する
- 肩の力を抜く。「吸わなきゃ」と思わない
- 落ち着いたら、ゆっくり動作を再開する
2番目の前傾姿勢で肘を支えるのがポイントです。腕を固定すると呼吸補助筋が使いやすくなり、呼吸が楽になります。外出時にベンチやカートがあると助かるのはこのためです。
すぐ受診すべきサイン
- いつもより息切れが強く、休んでも改善しない
- 痰の色が変わった(黄色・緑色)、量が増えた
- 発熱がある
- 唇や爪の色が紫っぽい
- 意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍い
- 足のむくみが急に強くなった
これらは急性増悪や合併症のサインです。COPDの増悪は1回起こるごとに肺機能を落とすとされており、早期受診が重要です。
息切れの強さを数字で管理する
「今日は苦しい」という感覚だけで判断していると、悪化に気づくのが遅れます。息切れの強さを点数で記録すると、変化が分かります。
| 点数 | 息切れの強さ(修正ボルグスケール) |
|---|---|
| 0 | 感じない |
| 0.5〜1 | 非常に弱い |
| 2〜3 | 弱い〜中くらい |
| 4〜5 | ややきつい〜強い |
| 7〜9 | とても強い |
| 10 | 最大 |
運動中の目安は3〜5(中くらい〜やや強い)とされることが多いです(確度:中=呼吸リハビリテーション領域で一般に用いられている指標であり、厚生労働省が示した数値ではありません)。0〜2では運動量が足りず、7以上は過剰です。
厚労省の介護予防マニュアル第4版も、運動の負荷量の目安を「ややきついと感じる程度」としています。数字で表現するとブレが減り、家族や医療者にも伝えやすくなります。
記録しておくと受診時に役立つ項目
- いつもと同じ距離を歩いたときの息切れの点数
- 痰の色・量
- 体重(週1回でも)
- 足のむくみの有無
- 夜間に息苦しくて目が覚めたか
「最近つらい」より「先週まで3だった動作が今週は6」のほうが、はるかに正確に伝わります。
運動を控えるべき状態
厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」は、安静時に次のいずれかに該当する場合は運動を実施しないとしています。
運動を控えるべきチェック項目(原文より)
- 収縮期血圧 180mmHg以上、または 80mmHg未満
- 拡張期血圧 110mmHg以上
- 体温 37.5℃以上
- 脈拍が 120拍/分以上
- いつもと異なる脈の不整がある場合
- 関節痛など慢性的な症状の悪化
運動中については、開始時と比較して収縮期血圧が40mmHg以上または拡張期血圧が20mmHg以上上昇した場合、脈拍が140回/分を越えた場合は中止とされています。強い呼吸困難感、頻呼吸(1分間に25回以上)、めまい、狭心痛、頭痛、強い疲労感が出た場合も中止です。
COPDの方では、この中でも頻呼吸(1分間に25回以上)が重要な指標になります。呼吸が浅く速くなっている状態は、効率の悪い呼吸です。いったん止めて、口すぼめ呼吸で整えてください。
在宅酸素療法(HOT)中の運動
酸素を使っていても、運動は行います。むしろ酸素があるから安全に動けるという側面があります。
- 流量は必ず指示どおりに:苦しいからと自己判断で上げない(CO2が溜まる危険があります)
- 労作時の流量指示があるか確認する:安静時と労作時で流量が違う場合があります
- パルスオキシメーターがあれば活用する:目標値は主治医に確認してください
- チューブに足を引っかけない:転倒の原因になります
- 火気厳禁:喫煙、ガスコンロ、仏壇のろうそくに注意
とくに酸素流量の自己調整は危険です。COPDでは、酸素を増やしすぎると二酸化炭素が体内に溜まる(CO2ナルコーシス)ことがあります。「苦しいから上げる」は絶対に避け、必ず主治医の指示に従ってください。
感染予防が最大の悪化対策
COPDでは、風邪や肺炎をきっかけに急性増悪を起こし、そのたびに肺機能が落ちていきます。運動よりも先に、感染させない・しないことが重要です。
- 手洗い・うがい
- 予防接種(インフルエンザ・肺炎球菌など。主治医に相談)
- 口腔ケア:口の中の細菌が誤嚥性肺炎の原因になります
- 禁煙:受動喫煙も含めて
- 体調の変化を記録する:痰の色・量・息切れの程度
また、低栄養にも注意が必要です。COPDでは呼吸そのものにエネルギーを使うため、体重が落ちやすくなります。厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」は、65歳以上の目標BMIの範囲を21.5〜24.9kg/m²としています。体重減少が続く場合は主治医・管理栄養士にご相談ください。
呼吸器リハビリテーション料と90日ルール
診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)の原文で確認しました。
| 区分 | 点数(1単位=20分) |
|---|---|
| 呼吸器リハビリテーション料(Ⅰ) | 175点 |
| 呼吸器リハビリテーション料(Ⅱ) | 85点 |
算定限度について、告示の注1は「治療開始日から起算して90日を限度として」と定めています。ここには2つの特徴があります。
- 90日は疾患別リハビリの中で最短:脳血管疾患等180日、運動器150日、廃用症候群120日に対して90日
- 起算日が「治療開始日」:他の区分が「発症・手術・急性増悪または最初に診断された日」であるのに対し、呼吸器リハは治療開始日が基準
90日を超えた場合は、注6により1月13単位に限り算定できます。ただし注1のただし書きにより、「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合」等には90日を超えて算定できる旨も定められています。
要介護・要支援の認定があれば、介護保険の訪問リハビリ・通所リハビリは日数制限なく利用できます。90日で終わりではなく、その先をどうつなぐかを早めに相談しておくことが現実的です。
よくある質問
息が苦しいのに運動していいのですか?
息切れがあること自体は運動をやめる理由になりません。動かないことで脚の筋力が落ち、さらに息切れが強くなる悪循環(デコンディショニング)が起こります。ただし強度の設定と酸素の状態の確認が必要なため、まず医療機関で評価を受けてください。
呼吸の練習と筋トレ、どちらが大事ですか?
運動療法(特に脚の筋力・持久力トレーニング)が中心です。呼吸法は、息切れが起きたときの対処や動作中の工夫として重要ですが、それだけで歩ける距離は伸びません。
口すぼめ呼吸のやり方を教えてください。
鼻から軽く吸い、口をすぼめて吸った時間の2倍以上かけてゆっくり吐きます。吐くことに集中してください。気道がつぶれるのを防ぎ、息を吐き出しやすくする方法です。
階段がとてもつらいです。
連続して上らないでください。吸って止まる→吐きながら1〜2段上る→また吸う、を繰り返します。2〜3段ごとに止まるほうが、結果的に楽に早く上れます。
洗髪すると息が切れます。
腕を上げる動作は、呼吸を助ける筋肉が腕に取られるため特に苦しくなります。シャワーチェアに座る、物干しの高さを下げる、よく使う物を手の届く位置に置くなど、環境を変えると負担が減ります。
苦しいときに酸素の量を増やしてもいいですか?
絶対に自己判断で増やさないでください。COPDでは酸素を増やしすぎると二酸化炭素が体内に溜まることがあります(CO2ナルコーシス)。流量は必ず主治医の指示に従ってください。
息切れが起きたらどうすればいいですか?
すぐ動作を止めて座り、前かがみになって両肘をテーブルや膝に乗せ、口すぼめ呼吸を行います。腕を固定すると呼吸補助筋が使いやすくなり楽になります。
痰の色が変わりました。受診すべきですか?
受診してください。痰の色の変化や量の増加、発熱、休んでも改善しない息切れは急性増悪のサインです。COPDの増悪は1回ごとに肺機能を落とすとされており、早期の対応が重要です。
体重が落ちてきました。
COPDでは呼吸自体にエネルギーを使うため体重が落ちやすくなります。厚労省の介護予防マニュアル第4版は65歳以上の目標BMIを21.5〜24.9としています。体重減少が続く場合は主治医・管理栄養士にご相談ください。
医療保険のリハビリは何日受けられますか?
呼吸器リハビリテーション料は治療開始日から90日が限度で、疾患別リハビリの中で最も短い設定です。90日超は原則1月13単位までですが、医学的に改善が期待できる場合の除外規定があります。介護保険のリハビリには日数制限がありません。
まとめ
- COPDのリハビリの中心は呼吸練習ではなく脚の筋力・持久力トレーニング
- 動かない→筋力低下→さらに息切れ、という悪循環(デコンディショニング)は運動で戻せる
- 失われた肺機能は戻らないが、同じ肺機能でより楽に動けるようにはできる
- 筋トレ中に息を止めない。力を入れるときに吐く
- 口すぼめ呼吸は吸った時間の2倍以上かけて吐く
- 腹式呼吸が苦しい場合は無理に続けない。優先は口すぼめ呼吸
- 動作は「力を入れるときに吐く」。連続して行わない
- 腕を上げる動作は呼吸補助筋が取られるため特に苦しい
- 息切れ時は座って前かがみ、肘を支えて口すぼめ呼吸
- 酸素流量の自己調整は危険(CO2ナルコーシス)
- 痰の色の変化・発熱・改善しない息切れは急性増悪のサイン
- 増悪は1回ごとに肺機能を落とすため、感染予防が最大の対策
- 呼吸器リハビリテーション料は(Ⅰ)175点・(Ⅱ)85点
- 算定限度は治療開始日から90日で、疾患別リハビリの中で最短
参考にした情報
- 診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)第7部 リハビリテーション
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)
- 厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」(令和4年3月)
- 健康日本21アクション支援システム「情報シート:慢性疾患を有する人の身体活動のポイント」
※本記事の点数・算定要件は、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)にもとづいて整理したものです。運動に関する推奨は厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」および「介護予防マニュアル【第4版】」によります。呼吸法・動作時の工夫・息切れ時の対処に関する記述は、呼吸リハビリテーション領域で一般に用いられている整理および筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづくものであり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません(確度:中)。運動の強度、酸素流量、目標とする酸素飽和度は個人によって異なります。必ず主治医および担当の理学療法士の指示に従ってください。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。





