更衣介助のやり方|脱健着患の順序と片麻痺の工夫

更衣介助の原則は「脱健着患(だっけんちゃっかん)」――脱ぐときは健側(動くほう)から、着るときは患側(動きにくいほう)から。これだけ覚えれば、上着もズボンも手順は決まります。
この順序には理由があります。袖やズボンの筒に通すのは、先に入れるほうが楽だからです。動きにくい側を、まだ布が自由な状態で先に通す。逆にすると、動きにくい腕を狭くなった袖口にねじ込むことになり、肩を痛めます。この記事では、原理と具体的な手順、衣服の選び方までを整理しました。
この記事でわかること
- 脱健着患の意味と、そうする理由
- 上着(前開き・かぶり)の具体的な手順
- ズボンの手順(座位・臥位それぞれ)
- 麻痺側の肩を痛めない持ち方
- ベッド上で行う場合の注意
- 選ぶべき衣服の条件
- 自分で着られるようにする自助具
- 介助者の腰を守る姿勢(厚労省の指針)
更衣介助の基本は脱健着患
まず用語を整理します。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 健側(けんそく) | 麻痺のない側、動かしやすい側、痛くない側 |
| 患側(かんそく) | 麻痺のある側、動かしにくい側、痛みのある側 |
| 脱健着患 | 脱ぐときは健側から、着るときは患側から |
なぜこの順序なのか
袖に腕を通す場面を想像してください。
- 着るとき:まだどちらの腕も入っていない状態のほうが、衣服に余裕があります。動きにくい患側を、この余裕がある状態で先に通す
- 脱ぐとき:健側を先に抜けば、衣服が体から外れて自由になります。その状態で患側をゆっくり抜く
逆にすると、患側の腕を、張った布と狭い袖口に無理やり通すことになります。これが肩の痛みや亜脱臼の原因です。
麻痺側の肩は簡単に痛む
麻痺した肩は、周囲の筋肉が働かないため関節が緩んでいることが多く、引っ張られると亜脱臼を起こします。一度痛みが出ると、更衣・入浴・移乗のすべてが苦痛になります。
- 袖を通すときは、袖口を大きく広げてから腕を迎えに行く
- 腕を引っ張らず、肘と手首を支えて運ぶ
- 肩を無理に上げない。動く範囲で行う
- 痛がる動きは中止し、理学療法士・作業療法士に相談する
ちびウルフ時間がかかるので、つい全部やってしまいます。
リハウルフ忙しい日は手伝っていいです。ただ更衣は、練習すれば自分でできるようになりやすい動作なんです。全介助を続けると、できていたことが数週間で失われます。「今日はボタンだけ本人」でも構いません。毎日1か所だけ残してください。
上着の手順
前開きの上着(座位)
- 安定して座れる姿勢をとる(背もたれのある椅子、またはベッドの端に深く)
- 脱ぐ:ボタンを外し、健側の肩から衣服を下ろして健側の腕を抜く
- 背中側の衣服を患側へ回し、患側の袖をゆっくり抜く(肘と手首を支える)
- 着る:患側の袖口を広げ、患側の腕を肘・手首を支えながら通す
- 肩まで上げ、衣服を背中に回す
- 健側の腕を自分で通してもらう
- 前を整え、ボタンを留める(可能なら本人に)
前開きは、かぶりの服より格段に楽です。麻痺がある方の衣服は、まず前開きを基本に考えてください。
かぶりの上着(座位)
- 脱ぐ:裾をまくり上げ、健側の腕を抜く
- 頭を抜く(首元を広げて、前から後ろへ)
- 患側の袖を抜く
- 着る:患側の袖に腕を通す
- 健側の腕を通す
- 最後に頭を通す(首元を広げて後ろから前へ)
- 裾を整える
ポイントは頭を最後にすることです。先に頭を通すと、視界が塞がれた状態で腕を探すことになり、バランスを崩します。
ズボンの手順
座位で行う場合
- ベッドの端または椅子に深く座り、足裏を床につける
- 脱ぐ:立てる場合は少し腰を浮かせて腰まで下ろし、座ってから足を抜く(健側→患側)
- 着る:患側の足から通す。足を組むか、介助者が膝を持ち上げて通す
- 健側の足を通す
- 両方の足が通ったら、膝まで上げる
- 立てる場合は手すりにつかまって立ち、腰まで上げる
- 立てない場合は座ったまま左右に体重を移し、片側ずつ引き上げる
立てない人は「左右に傾けて片側ずつ」
座ったままズボンを上げるには、お尻を浮かせる必要があります。両側同時に浮かせるのは困難ですが、体を左に傾ければ右のお尻が浮き、右に傾ければ左が浮きます。
この「左右に体重を移して片側ずつ」は、ベッド上でも椅子上でも使える基本動作です。無理に持ち上げるより、はるかに少ない力で済みます。
ベッド上(臥位)で行う場合
- ベッドを介助者が前屈しない高さまで上げる
- 仰向けで両膝を立てる
- 患側の足からズボンを通し、次に健側
- 膝まで上げる
- お尻を持ち上げてもらう(できない場合は左右に体を傾けて片側ずつ)
- 腰まで上げ、しわを伸ばす
- ベッドの高さを元に戻す
臥位での更衣は介助者の負担が大きいため、座位が取れるなら座位で行うのが原則です。座れるかどうか迷う場合は、理学療法士に評価してもらってください。
しわを残さない
ズボンや下着にしわが残ったまま座り続けると、その部分に圧が集中し、褥瘡の原因になります。最後に必ず背中とお尻のしわを伸ばしてください。特に体を動かせない方では重要です。
介助者の腰を守る
厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日 基発0618第1号)は、更衣介助も腰痛のリスク要因となる作業として挙げています。
指針が示す不自然な姿勢の回避策(原文より)
- 対象者にできるだけ近づいて作業する
- ベッドや作業台等の高さを調節する(ベッドサイドに立って大腿上部から腰上部付近まで上がることが望ましい)
- 作業面が低くて調節できない場合は、椅子に腰掛けて作業するか、ベッドや床に膝を着く
- 対象者に正面を向けて作業できるように体の向きを変える
- 十分な介助スペースを確保し、手すりや持ち手つきベルト等の補助具を活用する
更衣介助で特に多いのが、低いベッドや椅子に対して、立ったまま前かがみになる姿勢です。数分の作業でも、毎日繰り返せば腰を壊します。
介護ベッドがあれば高さを上げる、なければ介助者が座って行う。この2つで負担は大きく変わります。ベッドの高さについては移乗介助のやり方|ベッドと車椅子の手順でも解説しています。
更衣がうまくいかないときの原因
「手順どおりにやっているのにうまくいかない」とき、原因は更衣の技術ではなく別のところにあることが多いです。
| 症状 | 考えられる原因 | 対応 |
|---|---|---|
| 座っていられず倒れてくる | 座位バランスの低下 | 背もたれ・肘掛けのある椅子に。臥位への変更も検討 |
| 腕が上がらない | 肩の可動域制限・痛み | 前開きの服に変更。理学療法士に可動域の評価を依頼 |
| 途中で嫌がる、怒る | 痛み、寒さ、手順が分からない不安 | 室温を上げる、声をかけてから触る、順序を一定にする |
| 服を裏返しに着る | 高次脳機能障害(着衣失行など)の可能性 | タグに目印、順番に手渡す、鏡の前で行う |
| 手が固く握られて開かない | 筋緊張の亢進 | 無理に開かず、前腕から手首をゆっくり支えて待つ |
| すぐ疲れる | 体力低下・心肺機能 | 途中で休憩を入れる。回数を分ける |
特に注意したいのが「服を裏返しに着る」「袖に足を入れようとする」といった場面です。これは意欲や理解力の問題ではなく、高次脳機能障害(着衣失行)の症状であることがあります。脳卒中の後によく見られます。
叱っても直りません。服を着る順番に並べて1枚ずつ手渡す、タグや模様で前後を分かるようにするといった環境の工夫が有効です。詳しくは脳梗塞のリハビリもご覧ください。
寒さは最大の失敗要因
更衣中は体が露出します。寒い部屋で行うと、体がこわばって関節が動かなくなり、本人も不快で拒否につながります。
先に部屋を暖めてから始めてください。特に冬場の脱衣所・浴室前は、血圧の急変(ヒートショック)のリスクもあります。室温を整えることは、技術より先に取り組むべき条件です。
拘縮がある場合の注意
関節が硬くなって動く範囲が狭くなっている(拘縮)場合、更衣は特に慎重に行います。
- 可動域の限界を超えて動かさない:痛みが出る手前で止める
- ゆっくり動かす:急に動かすと筋緊張が強まり、かえって動かなくなります
- 関節の近くを支える:先端(手や足)を持って引くと、関節に大きな力がかかります
- 衣服を体に合わせる:体を衣服に合わせようとしない。ゆったりした服に変える
- 無理なら方法を変える:前開き、ボタンをマジックテープに、袖を切って作り替えるなど
拘縮は一度進むと戻すのに時間がかかります。毎日少しずつ関節を動かすことが最大の予防策です。更衣そのものが、関節を動かす機会でもあります。
衣服の選び方
介助のしやすさは、技術より衣服そのもので決まる部分が大きいです。
| 条件 | 理由 |
|---|---|
| 前開き | 頭を通す必要がなく、座ったまま着られる |
| 伸縮性がある | 袖・裾を通しやすい。関節に無理がかからない |
| 袖口・裾がゆったり | 患側を通すときに引っかからない |
| ボタンが大きい/マジックテープ | 指先が使いにくくても自分で留められる |
| ウエストがゴム | ファスナー・ホックより格段に楽 |
| 滑りの良い素材 | 袖に腕を通しやすい |
| 前後が分かりやすい | タグや目印があると本人が判断できる |
「介護用」でなくても構わない
介護衣料は便利ですが、必須ではありません。前開き・伸縮性・ゴムウエストの3条件を満たせば、普通の衣料品店のものでも十分です。
むしろ、本人が着たいと思う服を選べるかどうかのほうが、着替えの意欲に影響します。「毎日パジャマのまま」を避けることが、生活リズムと活動量の維持につながります。
自分で着られるようにする
更衣は、練習によって自立度が上がりやすい動作です。作業療法士が最も関わる領域でもあります。
- ボタンエイド:片手でボタンを留められる自助具
- ソックスエイド:前かがみにならずに靴下を履ける
- リーチャー(マジックハンド):床の物や衣服を拾う、引き寄せる
- 長柄の靴べら:かがまずに靴を履く
- ループ付きタオル・衣服:指が引っかけられる
これらは圧迫骨折や人工股関節で前かがみが制限される方にも有効です。動作そのものを変えるのではなく、道具で届く範囲を広げるという発想です。
全部やってあげると、できなくなる
これは現場で最も悩ましい部分です。介助すれば5分、本人がやれば20分。忙しい朝に20分は待てません。
だからこそ、「全部」か「ゼロ」かにしないことが大切です。今日はボタンだけ、明日は袖を通すところだけ。1か所だけ本人に残す。できていたことが失われるのは、数週間という速さです。
また、時間に余裕のある日を決めて「その日は全部自分で」という方法もあります。方法の相談は、訪問リハビリや通所リハビリの作業療法士が応じられます。
よくある質問
脱健着患とは何ですか?
脱ぐときは健側(動くほう)から、着るときは患側(動きにくいほう)から行うという原則です。衣服に余裕がある状態で患側を通せるため、肩や関節への負担が減ります。
なぜ着るときは患側からなのですか?
どちらの腕も入っていない状態のほうが衣服に余裕があり、袖を大きく広げられるからです。健側を先に通すと布が張り、患側の腕を狭い袖口にねじ込むことになり、肩を痛めます。
麻痺側の腕を引っ張ってはいけませんか?
いけません。麻痺した肩は関節が緩んでいることが多く、引っ張ると亜脱臼や強い痛みを起こします。袖口を大きく広げ、肘と手首を支えて腕を運んでください。
かぶりの服はどう着せますか?
患側の袖→健側の袖→最後に頭、の順です。先に頭を通すと視界が塞がれてバランスを崩します。脱ぐときは、健側の腕→頭→患側の腕の順です。
立てない人のズボンはどう上げますか?
座ったまま左右に体を傾けて、片側ずつ引き上げます。左に傾ければ右のお尻が浮き、右に傾ければ左が浮きます。両側を同時に持ち上げようとしないでください。
ベッドの上と座った状態、どちらがいいですか?
座位が取れるなら座位です。臥位は介助者の負担が大きく、本人の活動にもなりません。座れるかどうか迷う場合は理学療法士に評価してもらってください。
介助すると腰が痛くなります。
ベッドや椅子が低く、立ったまま前かがみになっている可能性が高いです。厚労省の腰痛予防対策指針は、ベッドの高さを介助者の大腿上部から腰上部付近まで上げること、調節できない場合は椅子に座るか膝をつくことを挙げています。
どんな服を選べばいいですか?
前開き・伸縮性あり・ウエストがゴム、の3条件が基本です。介護用衣料でなくても構いません。ボタンが大きいもの、袖口がゆったりしたものも選びやすくなります。
自分で着られるようにする道具はありますか?
ボタンエイド、ソックスエイド、リーチャー、長柄の靴べらなどの自助具があります。作業療法士が本人の状態に合わせて提案できます。訪問リハビリや通所リハビリで相談してください。
時間がかかるので全部手伝ってしまいます。
忙しい日は手伝って構いません。ただし全介助が常態化すると、できていたことが数週間で失われます。「今日はボタンだけ本人」のように、1か所だけ残してください。
まとめ
- 更衣介助の原則は脱健着患(脱ぐのは健側から、着るのは患側から)
- 理由は、衣服に余裕がある状態で患側を通すため
- 麻痺側の肩は緩んでおり、引っ張ると亜脱臼や痛みを起こす
- 袖口を広げ、肘と手首を支えて腕を運ぶ
- 前開きの上着が最も介助しやすい
- かぶりの服は、患側→健側→最後に頭の順
- 先に頭を通すと視界が塞がれてバランスを崩す
- 立てない人のズボンは、左右に体を傾けて片側ずつ上げる
- 座位が取れるなら座位で行う。臥位は負担が大きい
- 最後に背中とお尻のしわを伸ばす(褥瘡予防)
- 厚労省の指針は更衣介助も腰痛のリスク作業として挙げている
- ベッドは介助者の大腿上部から腰上部付近の高さに。低ければ座って行う
- 衣服は前開き・伸縮性・ゴムウエストの3条件
- ボタンエイド・ソックスエイド・リーチャーで自立度が上がる
- 全介助を常態化させない。1か所だけでも本人に残す
参考にした情報
- 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針及び解説」
- 「職場における腰痛予防対策の推進について」(平成25年6月18日 基発0618第1号)
- 厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」(令和4年3月)
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)
※本記事の介助者の姿勢・ベッドの高さに関する記述は、厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日 基発0618第1号)にもとづいて整理したものです。同指針は事業者に向けたものであり、家庭での介護を直接規律するものではありませんが、腰部への負担という点では同じ考え方が当てはまります。脱健着患をはじめとする更衣の手順は、リハビリテーション領域で一般に用いられている方法および筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません(確度:中)。麻痺の程度、関節の可動域、痛みの有無によって適切な方法は異なります。特に人工関節や骨折の治療中で動作制限がある場合は、必ず主治医および担当の理学療法士・作業療法士の指示に従ってください。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。





