杖選びで最初に知っておいてほしいことがあります。いちばんよく使われているT字杖は、介護保険のレンタルの対象外です。厚生労働省の告示で対象となる杖の種類が限定されており、そこにT字杖は入っていません。この点を知らずに「介護保険で借りられるはず」と思って相談し、驚かれる方が毎年います。

この記事では、高齢者の杖の選び方について、介護保険の告示の原文を確認したうえで整理しました。杖の種類ごとの向き不向き、長さの合わせ方、介護保険で借りられるものと自費になるものの線引きを、理学療法士の視点で書いています。

この記事でわかること
  • 介護保険でレンタルできる杖の種類が告示で限定されていること
  • T字杖が対象外で、全額自己負担になること
  • 杖の種類ごとの向いている人・向いていない人
  • 杖の長さの合わせ方と、合っていないときに起こること
  • 杖を持つのは「悪いほうの手」ではないこと
  • 階段での杖の使い方の原則
  • 先ゴムの交換時期という見落としやすい点
  • 杖より歩行器を検討したほうがよい場合

高齢者の杖の選び方の前に|介護保険の対象になる杖

介護保険で貸与できる福祉用具の種目は、厚生労働省の告示で定められています。歩行補助つえについては、次のように書かれています。

厚生労働大臣が定める福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目(平成11年厚生省告示第93号)第10号
  • 歩行補助つえ(松葉づえ、カナディアン・クラッチ、ロフストランド・クラッチ、プラットホームクラッチ及び多点杖に限る。)

「限る」と書かれているとおり、ここに挙げられていない杖は貸与の対象になりません。もっとも普及しているT字型の一本杖(単点杖)は、この5種類に含まれていません。

販売のほうの告示も確認しました。

厚生労働大臣が定める特定福祉用具販売に係る特定福祉用具の種目(平成11年厚生省告示第94号)
  • 歩行補助つえ(カナディアン・クラッチ、ロフストランド・クラッチ、プラットホームクラッチ及び多点杖に限る。)
杖の種類介護保険の貸与介護保険の販売
T字杖(単点杖・一本杖)対象外対象外
多点杖(4点杖など)対象対象
ロフストランド・クラッチ対象対象
カナディアン・クラッチ対象対象
プラットホームクラッチ対象対象
松葉づえ対象対象外

つまりT字杖は全額自己負担です。数千円から購入でき、ホームセンターや薬局でも手に入ります。逆に、多点杖やロフストランド・クラッチが必要な状態であれば、介護保険で月数百円程度の自己負担で借りられます。

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じゃあ、レンタルできる4点杖のほうがお得ってこと?

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そこは分けて考えてください。4点杖は接地面が広くて安定しますが、そのぶん重く、段差や傾いた場所では逆に危ないことがあります。「保険が使えるから」で選ぶと合いません。状態に合う杖を選んだうえで、それが保険の対象かを確認する順番です。

杖の種類と向いている人

種類向いている人注意点
T字杖自分の足で歩けるが、少し支えがほしい人。屋外の移動が多い人支える力は最も弱い。強い体重はかけられない
多点杖(4点杖)体重をしっかりかけたい人。片麻痺で立位が不安定な人重い。段差や傾斜では全脚が接地せず不安定になる
ロフストランド・クラッチ前腕でも支えたい人。握力が弱い人装着に手間がかかる。腕を抜きにくい
松葉づえ片足に体重をかけられない時期の人脇で体重を支えない。長期使用には向かない
シルバーカー荷物を運びたい人。歩行はおおむね自立している人体重を預ける道具ではない。介護保険の対象外
歩行器両手で支える必要がある人屋内向き。屋外は機種を選ぶ
シルバーカーと歩行車は別物 シルバーカーは、荷物を入れて押して歩く道具で、体重を預ける前提で作られていません。ふらついたときに支えようとすると、前に走って転倒します。歩行が不安定な方には歩行車(介護保険の対象になる歩行器)が適します。ここを混同したまま使っている方を、訪問先でしばしば見かけます。

杖の長さの合わせ方

長さが合っていないと、支える力が出ないだけでなく、姿勢が崩れて逆に転びやすくなります。

  • 靴を履いた状態で、自然に立つ
  • 杖を、足の小指の先から前に約15cm、外に約15cmの位置に置く
  • グリップの高さが、足の付け根の骨の出っぱり(大腿骨大転子)のあたりに来るよう調整する
  • 握ったときに、肘が30度くらい軽く曲がるかを確認する
  • 実際に数歩歩いて、肩が上がらないか、前かがみにならないかを見る
長さ起きること
長すぎる肩が上がり、脇が開く。肩こりや腕の疲れが出る。体重をかけにくい
短すぎる前かがみになり、視線が下がる。段差に気づきにくく、腰に負担がかかる

杖は「借り物のまま」「昔もらったまま」で長さが合っていないことが非常に多いです。とくに、若い頃に買った杖をそのまま使っていると、背中が丸くなった今の姿勢には長すぎることがあります。

杖を持つ手と歩き方

杖は「悪いほうの手」ではなく反対側で持つ

これは誤解が多い点です。痛い脚・弱い脚と反対側の手で持ちます。右膝が痛ければ、杖は左手です。反対側で持つことで、痛む側の脚にかかる体重を杖に逃がせるためです。同じ側で持つと、体が痛む側に傾き、負担が減りません。

歩く順番

  • 杖を前に出す
  • 痛い脚(弱い脚)を、杖と同じくらいの位置まで出す
  • 良いほうの脚を出す

「杖→悪い足→良い足」の順です。慣れるまでは、この順番を声に出して確認すると身につきやすくなります。

階段は「上りは良い足から、下りは杖と悪い足から」

階段では原則が変わります。

場面順番理由
上るとき良い足 → 悪い足 → 杖体を持ち上げる力が必要なため、強い脚から上げる
下りるとき杖 → 悪い足 → 良い足下の段で体を支える必要があるため、強い脚を最後に残す

覚え方は「上りは良い足から、下りは杖から」です。手すりがある場合は、杖より手すりを優先してください。両方を使おうとして、かえって不安定になることがあります。

見落としやすい点

  • 先ゴムの摩耗:すり減ると滑ります。溝がなくなっていたら交換してください。数百円で買え、これだけで安全性が変わります
  • ネジのゆるみ:伸縮式の杖は、使ううちにゆるみます。時々確認してください
  • グリップの太さ:握力が弱い方は、太めのグリップのほうが力が入ります
  • 室内と屋外で分ける:屋内は歩行器、屋外は杖、という組み合わせが現実的なこともあります
  • 杖に頼りすぎていないか:杖なしでまったく立てない状態なら、杖ではなく歩行器や車いすを検討する段階です

杖より歩行器を検討したほうがよい場合

  • 片手だけでは支えきれず、壁や家具を伝って歩いている
  • 杖を使っていても、ふらつきや転倒が続いている
  • 立ち上がった直後にふらつく
  • 長い距離を歩くと途中で休みが必要になる(座面つきの歩行車が有効なことがあります)
  • 両手を使わないと立位が保てない

どれを使うかは、体の状態と生活する場所によって変わります。選定はリハビリ専門職や福祉用具専門相談員に相談してください。介護保険で借りる場合は、担当のケアマネジャーを通して手配します。

よくある質問

T字杖は介護保険で借りられますか?

借りられません。告示第93号は歩行補助つえを「松葉づえ、カナディアン・クラッチ、ロフストランド・クラッチ、プラットホームクラッチ及び多点杖に限る」としており、T字杖(単点杖)は含まれていません。全額自己負担で購入することになります。

杖はどちらの手で持ちますか?

痛い脚・弱い脚と反対側の手で持ちます。同じ側で持つと体が傾き、負担を逃がせません。

杖の長さはどう決めますか?

靴を履いて立ち、足の小指の先から前に約15cm・外に約15cmの位置に杖を置いたとき、グリップが足の付け根の骨の出っぱり(大転子)あたりに来る高さが目安です。肘が30度ほど曲がるかも確認してください。

4点杖のほうが安全ですか?

平らな場所では安定しますが、段差や傾いた場所では脚が全て接地せず、かえって不安定になります。屋外が多い方には向かないことがあります。

シルバーカーでもよいですか?

シルバーカーは荷物を運ぶための道具で、体重を預ける前提で作られていません。歩行が不安定な方には歩行車が適しています。

階段はどう上り下りしますか?

上りは良い足から、下りは杖と悪い足からが原則です。手すりがある場合は手すりを優先してください。

先ゴムはいつ交換しますか?

溝がすり減って平らになったら交換してください。滑りの原因になります。数百円で購入できます。

要支援でも借りられますか?

介護予防福祉用具貸与として、対象種目であれば利用できます。ただし品目によっては要介護度による制限があるため、ケアマネジャーに確認してください。

杖は誰に選んでもらえばよいですか?

理学療法士・作業療法士などのリハビリ専門職、または福祉用具専門相談員に相談してください。介護保険で借りる場合は担当のケアマネジャーを通します。

まとめ
  • 介護保険で貸与できる歩行補助つえは告示第93号で5種類に限定されている
  • 松葉づえ、カナディアン・クラッチ、ロフストランド・クラッチ、プラットホームクラッチ、多点杖が対象
  • もっとも普及しているT字杖(単点杖)は貸与も販売も対象外で、全額自己負担
  • 販売の告示第94号では松葉づえが対象外になっている
  • 「保険が使えるか」ではなく「状態に合うか」で選ぶ
  • 4点杖は平地では安定するが、段差や傾斜では不安定になる
  • シルバーカーは体重を預ける道具ではない
  • 杖の長さは、グリップが大転子の高さ、肘が30度曲がる程度が目安
  • 長すぎると肩が上がり、短すぎると前かがみになって段差に気づきにくい
  • 杖は痛い脚と反対側の手で持つ
  • 歩く順番は「杖→悪い足→良い足」
  • 階段は上りが良い足から、下りは杖から
  • 先ゴムがすり減ったら交換する。数百円で安全性が変わる
  • 壁を伝って歩いている、ふらつきが続くなら歩行器を検討する
  • 選定はリハビリ専門職か福祉用具専門相談員に相談する
参考にした情報

※本記事の制度に関する記述は、厚生省告示第93号および第94号にもとづいて整理したものです。福祉用具の種目は改正されることがあり、要介護度による利用の制限や、貸与と販売の取扱いは制度改正によって変わる場合があります。実際に利用できるかどうかは、担当のケアマネジャーおよび福祉用具貸与事業者にご確認ください。杖の長さの目安や使い方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、個別の適否は理学療法士等の評価によります。痛みやふらつきが強い場合は、自己判断で用具を選ばず、まず医療機関にご相談ください。2026年9月時点の情報として整理しています。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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