高齢者の腰痛|受診の目安と安静にしない理由

腰痛は、国の調査で男女とも訴えのいちばん多い症状です。65歳以上ではさらに増えます。
ところが対処としては、いまだに「安静にする」が選ばれがちです。厚生労働省のガイドは逆の方向を示しています。この記事では、調査データと身体活動・運動ガイド2023、腰痛予防対策指針の原文を確認して、受診すべき腰痛の見分け方と、動かし方の考え方を整理しました。
この記事でわかること
- 高齢者の腰痛がどのくらい多いか(有訴者率)
- すぐ受診すべき腰痛の見分け方
- 背骨が原因の腰痛で多いもの
- 安静にしすぎてはいけない理由
- 高齢者に推奨されている運動量(国のガイド)
- 痛みがあるときの運動の始め方
- 痛み止めを使うときの注意
- 介護する側の腰痛を防ぐ方法
高齢者の腰痛はどのくらい多いのか
厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」の有訴者率(人口千対)です。
| 区分 | 総数 | 男 | 女 |
|---|---|---|---|
| 全年齢 | 102.1 | 91.6 | 111.9 |
| 65歳以上 | 174.7 | 164.8 | 182.8 |
同じ調査で、腰痛は男女とも有訴者率の第1位です(2位は肩こり)。65歳以上では、およそ6人に1人が腰痛を訴えている計算になります。
これだけ多いと「年のせい」で片づけられます。しかしその中に、放置してはいけないものが混ざっています。まずそこから切り分けます。
すぐ受診すべき腰痛
次の症状がある場合は、様子を見ずに受診してください。
- 転んだあと、または尻もちをついたあとから痛い
- 寝返りや起き上がりで強く痛む(動かなければ楽)
- 足にしびれや力の入りにくさがある
- 尿が出にくい、漏れる、便が出せない
- 安静にしていても痛む、夜間に痛みで目が覚める
- 発熱をともなう
- 体重が減ってきている
- がんの既往がある
特に1つめと2つめです。高齢の方では、しりもち程度の力でも背骨が潰れる(圧迫骨折)ことがあります。骨粗鬆症があると、はっきりした転倒がなくても起こります。
詳しくは圧迫骨折でやってはいけないこと|リハビリと生活の注意をご覧ください。
4つめの排尿・排便の異常は、緊急性が高いサインとされています。迷わず受診してください。
背骨が原因で多い腰痛
高齢者の腰痛でよく見られるものを整理します。
| 状態 | 特徴 |
|---|---|
| 腰部脊柱管狭窄症 | しばらく歩くと足がしびれて歩けなくなり、前かがみで休むとまた歩ける(間欠跛行) |
| 圧迫骨折 | 動き始めに強く痛む。寝返り・起き上がりがつらい。背中が丸くなってくる |
| 変形性腰椎症 | 朝や動き始めにこわばる。長く立つ・歩くと痛む |
| 筋・筋膜性の腰痛 | 動作や姿勢で痛みが変わる。押すと痛い場所がある |
間欠跛行がある場合は脊柱管狭窄症のリハビリ|楽になるストレッチと注意点を、背中の丸まりが進んでいる場合は圧迫骨折の記事をご覧ください。
なお、腰痛予防対策指針は腰痛の範囲を広くとらえています。「臀部から大腿後面・外側面、さらには、膝関節を越えて下腿(中略)にわたり痛み、しびれ、つっぱり等が広がるものもある」。足のしびれを腰と結びつけて考えていない方は多いです。
安静にしすぎない
危険なサインがない腰痛では、動きを止めすぎないことが基本になります。厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、身体活動の効果を次のように説明しています。
身体活動・運動ガイド2023の原文(運動器障害)
「身体活動は骨格筋での抗炎症作用があるマイオカインの産生や免疫細胞の活性化を通して、慢性炎症を抑制し、腰痛や関節痛を予防・改善します。また、身体活動に伴う骨や筋肉への物理的な刺激は、骨芽細胞と破骨細胞の活性を調節し、骨の形成と吸収のバランスを変化させます」
同じガイドは、座りっぱなしについても注意しています。
座位行動への注意(原文)
「座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する(立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないように、少しでも身体を動かす)」
立てない方であっても「じっとしている時間を減らす」が推奨されている点に注目してください。腰が痛いから一日中横になる、という対処は選択肢から外すべきです。
高齢者に推奨されている運動量
ガイドは、高齢者の推奨事項を具体的な数字で示しています。
| 項目 | 推奨 |
|---|---|
| 身体活動 | 歩行またはそれと同等以上(3メッツ以上)の身体活動を1日40分以上(1日約6,000歩以上、週15メッツ・時以上) |
| 運動 | 有酸素運動・筋力トレーニング・バランス運動・柔軟運動など多要素な運動を週3日以上 |
| 筋力トレーニング | 週2〜3日 |
| 座位行動 | 座りっぱなしの時間が長くなりすぎないよう注意 |
成人の推奨(1日60分・約8,000歩)より少なく設定されています。またガイドは全体の方向性として「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」「今よりも少しでも多く身体を動かす」としています。
6,000歩に届かないからやる意味がない、ということではありません。基準は目標であって、参加資格ではありません。
痛みがあるときの運動の始め方
腰痛がある状態で運動を始めるときの注意も、ガイドに書かれています。
ガイドの原文(運動で悪化する腰痛・膝痛がある場合)
「・あらかじめ医師に相談してから始める。・低強度、短い時間から始める。・該当箇所に負荷がかからないような運動を選択する。・筋力トレーニングやバランス運動を加える。」
4つめが見落とされます。痛いところを避けるだけでなく、筋力とバランスの運動を足すところまでが推奨です。腰をかばって全身の活動量が落ちると、結果として腰痛が長引きます。
具体的に取り組むなら、次の順で考えると無理がありません。
- 痛みが強い時期は、痛みの出ない範囲で寝返り・起き上がり・立ち上がりを続ける
- 座る時間が長くならないよう、30分〜1時間ごとに立つ
- 痛みが落ち着いたら、屋内歩行から距離を伸ばす
- 椅子からの立ち上がりなど、自重の筋力トレーニングを週2〜3日加える
- 片脚立ちなどのバランス練習を、手すりや椅子につかまって行う
運動の組み立ては高齢者の筋トレメニュー9選|安全なやり方と週の回数もあわせてご覧ください。
ちびウルフ痛いのに動いて、悪化しない?
リハウルフ動いた直後に強まって、翌日まで残るなら量が多すぎです。動いている間だけ痛くて、翌朝に戻っているなら続けて大丈夫。この見分け方を家族と共有しておくと判断しやすくなります。
痛み止めを使うときの注意
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」は、消炎鎮痛薬について次のように書いています。
指針の原文(消炎鎮痛薬)
「NSAIDsは上部消化管出血や腎機能障害、心血管障害などの薬物有害事象のリスクを有しており、高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬剤の一つである」
「NSAIDsは腎機能を低下させるリスクが高いため(中略)可能な限り使用を控え、やむを得ず使用する場合でもなるべく短期間・低用量での使用を考慮する」
あわせて、貼り薬と飲み薬の併用、市販薬との重複にも注意が必要と書かれています。湿布は薬ではないと考えて申告しない方が多いのですが、同じ成分が重なります。
指針は、アセトアミノフェンについて「消化管出血や腎機能障害、心血管障害などの薬物有害事象のリスクがNSAIDsに比べて低いと考えられるため、高齢者に鎮痛薬を用いる場合の選択肢として考慮される」としています。選択は医師が行いますが、痛み止めが体に合わないと感じたら相談する価値があります。
そしてもう1つ。「適切な評価を行うことなく鎮痛薬を漫然と継続することは避けるべき」とも書かれています。長く飲み続けているなら、一度見直しの相談を。高齢者が飲んではいけない薬はある?指針の中身もご覧ください。
介護する側の腰痛を防ぐ
腰痛は、介護される側だけの問題ではありません。厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」は、介護・看護作業について明確に書いています。
腰痛予防対策指針の原文(抱上げ)
「移乗介助、入浴介助及び排泄介助における対象者の抱上げは、労働者の腰部に著しく負担がかかることから、全介助の必要な対象者には、リフト等を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」
これは職場に対する指針ですが、家庭でも力学は同じです。指針が示している対策は次のとおりです。
- 残存機能を活かす…座位が保てるならスライディングボード、立位が保てるなら立ち上がりを支える方法に変える
- 福祉用具を使う…リフト、スライディングシート、手すり
- ベッドの高さを調整する…立位で前屈にならない高さまで上げる
- 不自然な姿勢を減らす…前屈やひねりの程度を小さくし、壁やベッドに手や膝をついて負担を分散する
ベッドの高さ調整は、指針が名指しで書いている対策です。介護用ベッドを一番低い位置のまま使っている家庭が多いのですが、介助するときは上げてください。下げるのは本人が乗り降りするときだけです。
福祉用具は介護保険でレンタルできます。福祉用具レンタル13品目一覧と自己負担額を解説をご覧ください。
よくある質問
高齢者の腰痛はどのくらい多いですか?
2022年の国民生活基礎調査では、腰痛の有訴者率は65歳以上で人口千対174.7です。男女とも有訴者率の第1位で、2位の肩こりを上回ります。
すぐ受診すべき腰痛はどんなものですか?
転倒やしりもちの後の痛み、寝返りや起き上がりで強く痛む、足のしびれや力が入らない、排尿・排便の異常、安静時や夜間の痛み、発熱、体重減少がある場合です。
転んでいないのに骨折することはありますか?
あります。骨粗鬆症があると、しりもち程度の力や、はっきりした転倒がなくても背骨が潰れることがあります。動き始めに強く痛む場合は受診してください。
腰が痛いときは安静にすべきですか?
危険なサインがなければ、動きを止めすぎないほうがよいとされています。身体活動・運動ガイド2023は、身体活動が腰痛や関節痛を予防・改善するとしています。
どのくらい動けばいいですか?
高齢者の推奨は、3メッツ以上の身体活動を1日40分以上(約6,000歩以上)、多要素な運動を週3日以上、筋力トレーニングを週2〜3日です。ただし可能なものから取り組むこととされています。
痛いのに運動して悪化しませんか?
ガイドは、医師に相談したうえで低強度・短時間から始め、痛む部位に負荷がかからない運動を選ぶこととしています。動いた翌日まで痛みが残る場合は量が多すぎます。
湿布は医師に伝えるべきですか?
伝えてください。指針は、消炎鎮痛薬の外用剤と内服薬の併用や市販薬との重複で有害事象が問題となる可能性があるとしています。
痛み止めを長く飲んでいますが大丈夫ですか?
指針は、適切な評価を行うことなく鎮痛薬を漫然と継続することは避けるべきとしています。また高齢者ではNSAIDsを短期間・低用量にとどめることが推奨されています。相談してください。
介護する側の腰痛はどう防げばいいですか?
抱え上げないことが基本です。腰痛予防対策指針は、全介助が必要な場合はリフト等を使用し、原則として人力による抱上げは行わせないこととしています。
介護用ベッドの高さはどうすればいいですか?
介助するときは、立位で前屈にならない高さまで上げてください。指針が名指しで挙げている対策です。低い位置のまま介助すると腰に負担がかかります。
まとめ
- 腰痛の有訴者率は65歳以上で人口千対174.7
- 男女とも有訴者率の第1位
- 転倒後・しりもち後の腰痛は圧迫骨折の可能性がある
- 足のしびれ、排尿排便の異常、夜間痛、発熱、体重減少は受診
- 歩くと足がしびれて休むとまた歩けるのは間欠跛行
- 腰痛にはお尻や太もも、ふくらはぎに広がる痛み・しびれも含まれる
- 危険なサインがなければ安静にしすぎない
- 身体活動は腰痛や関節痛を予防・改善するとされる
- 立位困難な人も、じっとしている時間を長くしすぎない
- 高齢者の推奨は1日40分以上(約6,000歩以上)
- 多要素な運動を週3日以上、筋トレを週2〜3日
- 痛みがあるときは低強度・短時間から、負荷がかからない運動を選ぶ
- NSAIDsは短期間・低用量が推奨され、湿布との重複にも注意
- 鎮痛薬を漫然と継続しない
- 介護する側は抱え上げない。リフトや福祉用具、ベッドの高さ調整を使う
参考にした情報
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」性・年齢階級・症状別にみた有訴者率
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
- 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)
※有訴者率は厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」の数値(人口千対)です。運動量の推奨は「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」にもとづく整理で、同ガイドは個人差を踏まえて強度や量を調整し、可能なものから取り組むこととしています。持病や痛みの状況により適切な運動は異なるため、開始前に主治医にご相談ください。腰痛予防対策指針は職場(事業者・労働者)を対象としたもので、家庭での介護を直接の対象とするものではありません。薬剤に関する記述は「高齢者の医薬品適正使用の指針」にもとづく整理であり、本記事は特定の薬剤の中止・減量を勧めるものではありません。受診の目安に当てはまる症状がある場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。記述は2026年9月時点の内容として整理しています。





