廃用症候群とは、安静にしすぎたことで、体の機能が二次的に低下してしまう状態のことです。病気やケガそのものではなく、「動かなかったこと」が原因で起こります。

やっかいなのは進む速さです。加齢による衰えが年単位で進むのに対し、廃用症候群は週単位で進みます。肺炎で2週間入院しただけで歩けなくなる、という事態が現実に起こるのはこのためです。この記事では、症状・進み方・リハビリの内容を整理し、あわせて医療保険の「廃用症候群リハビリテーション料」の算定ルールも告示の原文から確認しました。

この記事でわかること

  • 廃用症候群の定義と、加齢による衰えとの決定的な違い
  • 筋肉だけでなく全身に及ぶ症状の一覧
  • なぜ2週間の入院で歩けなくなるのか
  • 廃用症候群のリハビリで実際に行うこと
  • 在宅で寝たきりを防ぐための具体策
  • 廃用症候群リハビリテーション料の点数と120日ルール(告示の原文)
  • 120日を超えた後はどうなるのか
  • 退院後にどのサービスへつなぐか

廃用症候群とは?動かないことで起こる二次的な障害

廃用症候群は「生活不活発病」とも呼ばれます。骨折、肺炎、手術、あるいは入院そのものをきっかけに、体を動かさない期間が続くことで生じる全身の機能低下を指します。

ここで最も重要なのは、原因が病気ではなく「安静」だという点です。だからこそ、予防できるし、戻せる可能性も高い。加齢によるサルコペニアと決定的に違うのはこの部分です。

廃用症候群加齢による衰え(サルコペニア)
原因安静・不活動加齢
進む速さ週単位年単位
戻しやすさ戻る余地が大きい時間がかかる
きっかけ入院・骨折・肺炎・手術など明確はっきりしないことが多い

訪問リハビリで依頼を受けるケースのうち、かなりの割合がこの廃用症候群です。「入院前は自分でトイレに行けていた」「デイサービスに通えていた」という方が、退院時には見違えるほど動けなくなっている。骨は治っているのに、生活は戻っていないという状態です。

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病院ではしっかり治療してもらったはずなのに、どうしてですか?

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病気の治療と、生活機能の維持は別の話だからです。点滴で肺炎は治りますが、その間ベッドで寝ていた分の筋力は治療では戻りません。治療と並行して動かすことでしか防げない領域です。

廃用症候群の症状は全身に及ぶ

「筋力が落ちる」だけではありません。実際には、動かないことの影響は全身に出ます。

部位・系統起こること
筋肉筋力低下、筋萎縮(特に下肢・抗重力筋)
関節関節拘縮(動く範囲が狭くなり、戻りにくい)
骨萎縮、骨密度低下(骨折しやすくなる)
循環器起立性低血圧、心機能低下、深部静脈血栓症
呼吸器肺活量低下、排痰しにくくなる、誤嚥性肺炎のリスク上昇
消化器食欲低下、便秘
皮膚褥瘡(床ずれ)
精神・認知意欲低下、抑うつ、見当識障害、せん妄

特に見落とされやすいのが関節拘縮精神面です。

筋力は後から鍛え直せますが、一度固まった関節は戻すのに何倍も時間がかかります。特に足首が下を向いたまま固まる(尖足)と、かかとが床につかず、立つこと自体ができなくなります。ここは予防が圧倒的に有利な部分です。

精神面も同様です。「やる気が出ない」を性格や年齢のせいにしてしまうと、そこで止まります。動かない状態が続くと意欲は確実に落ちます。順番が逆なのです。

廃用症候群が進む速さ

一般に、安静臥床が1週間続くと筋力は10〜15%程度低下すると言われます(確度:中=複数の二次情報で一致、厚生労働省の告示・通知で示された数値ではありません)。

数字の厳密さはさておき、現場の実感としては「2週間寝ていたら、元に戻すのに2か月かかる」という感覚に近いです。落ちるのは速く、戻すのは遅い。この非対称性が廃用症候群の本質です。

入院中に家族ができること

病院に「もっとリハビリを」と頼むより、面会時にベッドから起こして座らせる時間をつくるほうが効きます(医療者の許可が前提です)。1日30分座っているだけでも、寝たきりとはまったく違います。食事を座って食べられているか、トイレに歩いて行けているかを確認してください。

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」も、座位行動(座りっぱなし)について「立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす」としています。立てない人にも、その人なりの「動く」があるという考え方です。

廃用症候群のリハビリで行うこと

順序としては、寝た状態でできることから始め、段階的に起こしていきます。

関節を動かす(拘縮予防)

最優先です。自分で動かせない場合は、他者が動かします(他動運動)。足首、膝、股関節、肩、肘、手指。特に足首は毎日動かしてください。1日1回でも動かしていれば、固まる速度はまったく違います。

座る時間を増やす(離床)

ベッドを起こす(ギャッチアップ)→ 端座位(ベッドの端に足を下ろして座る)→ 車椅子へ移乗、という順で進めます。端座位が30分保てるかどうかが、その後の分かれ目になることが多いです。

起こしたときにふらつく、気分が悪くなるのは起立性低血圧です。急に起こさず、段階的に角度を上げてください。

筋力トレーニング

寝たままでもできる種目から入ります。

  • 足首の曲げ伸ばし:ふくらはぎのポンプ作用で血栓予防にもなる。1日何回でも
  • 膝の下にタオルを入れて押しつぶす:大腿四頭筋。関節を動かさないので安全
  • お尻を持ち上げる(ブリッジ):殿筋。おむつ交換の介助量も減る
  • 座って膝を伸ばす:端座位が取れるようになったら
  • 椅子からの立ち座り:立てるようになったら中心に据える

立つ・歩く

平行棒や歩行器を使い、支えた状態から始めます(歩行介助のやり方)。歩行距離より立っている時間を先に確保するのが、実務上うまくいきやすい順番です。

日常生活動作の練習

最終的な目標はここです。トイレに行く、服を着替える、食事を座って食べる。リハビリ室でできることより、家でできることのほうが重要です。在宅なら、実際の自宅のトイレ・浴室で練習できるのが訪問リハビリの強みです。

在宅で寝たきりを予防する

退院後、あるいは自宅で過ごしている段階での予防策です。

  • 食事は必ず座って、できれば食卓で食べる:ベッド上での食事は誤嚥リスクも上げます
  • トイレはできる限りトイレで:おむつ・尿器は楽ですが、移動の機会を失います
  • 日中は着替える:パジャマのままだと生活のリズムが崩れます
  • 週1回は外に出る用事をつくる:通院以外の外出があるかが分かれ目
  • 座る時間を分割する:1時間座りっぱなしより、30分ごとに立つほうが有効

介護する側が「やってあげすぎない」

これは現場で毎回悩む部分です。着替えを手伝えば5分で済みますが、本人がやれば20分かかる。忙しい日は手伝っていいです。ただし「全部やってあげる日」が常態化すると、できていたことが数週間で失われます。週に何回かは、時間がかかっても本人にやってもらう日をつくってください。

廃用症候群リハビリテーション料とは

ここからは医療保険の制度の話です。専門職の方、費用が気になる方向けの内容になります。診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)の原文で確認しました。

区分点数(1単位=20分)
廃用症候群リハビリテーション料(Ⅰ)180点
廃用症候群リハビリテーション料(Ⅱ)146点
廃用症候群リハビリテーション料(Ⅲ)77点

いずれも理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・医師のいずれが行っても同じ点数です((Ⅲ)にはそれ以外の場合77点も設定されています)。

対象者と120日ルール

告示の注1は、対象を次のように定めています。

告示の原文(注1)

「急性疾患等に伴う安静による廃用症候群の患者であって、一定程度以上の基本動作能力、応用動作能力、言語聴覚能力及び日常生活能力の低下を来しているものに対して個別療法であるリハビリテーションを行った場合に、当該基準に係る区分に従って、それぞれ廃用症候群の診断又は急性増悪から120日を限度として所定点数を算定する」

起算日は「発症日」ではなく「廃用症候群の診断又は急性増悪」の日です。ここは実務で間違えやすい点です。脳血管疾患等リハ(180日)や運動器リハ(150日)と比べて120日と短いことも押さえておいてください。

120日を超えたらどうなるか

告示は、120日超の取扱いを2通りに分けています。

  • 要介護被保険者等以外(注6):必要があって120日を超えて行った場合、1月13単位に限り算定できる
  • 入院中の要介護被保険者等(注7):1月13単位に限り、(Ⅰ)108点/(Ⅱ)88点/(Ⅲ)46点で算定できる

つまり、120日を過ぎると月13単位=月およそ4時間20分まで縮みます。外来で週1回20分程度、という水準です。ここが、120日を目安に介護保険のリハビリへ移行していく実務上の理由です。

ただし告示は「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合その他の別に厚生労働大臣が定める場合には、120日を超えて所定点数を算定することができる」とする除外規定も置いています。全員が一律に打ち切られるわけではありません。

入院中に算定できる主な加算

加算点数(1単位につき)限度
早期リハビリテーション加算60点(入院日から4日目以降は25点)入院日から14日
初期加算45点発症・手術・急性増悪から14日
急性期リハビリテーション加算50点同上14日
休日リハビリテーション加算25点発症等から30日目まで

加算が最初の14日に集中している点に注目してください。これは制度として「早期に、集中的に介入せよ」というメッセージです。廃用症候群が週単位で進むという事実と、きれいに対応しています。

離床を伴わない場合は10%減

注9により、特定の患者に離床を伴わずに20分以上の個別リハビリを行った場合は、所定点数の100分の90で算定し、1日2単位までとされています。ベッド上だけで完結させないことが、点数の面でも求められています。

どこに相談すればよいか

状況相談先
入院中病棟の看護師、リハビリスタッフ、医療ソーシャルワーカー
退院が近い医療ソーシャルワーカー(退院前カンファレンスの依頼)
退院後・要介護認定あり担当のケアマネジャー
退院後・認定なし地域包括支援センター

退院後の選択肢としては、通所リハビリ(デイケア)、通所介護、訪問リハビリがあります。外出が難しい段階なら訪問リハビリ、通えるなら通所リハビリ、という順で考えると整理しやすいです。制度上の「リハビリ」と「機能訓練」の違いはこちらの記事で解説しています。

よくある質問

廃用症候群は治りますか?

改善が期待できます。原因が「動かなかったこと」なので、動かすことで戻る余地があります。ただし関節拘縮まで進むと回復に時間がかかるため、早い段階での介入が重要です。

何日くらい寝ていると危ないですか?

明確な日数の基準はありませんが、数日単位で影響は始まります。一般に安静臥床1週間で筋力が10〜15%低下するとされます(確度:中=二次情報で一致、厚労省の告示・通知の数値ではありません)。日数で考えるより「今日どれだけ座れたか」で管理するほうが実際的です。

廃用症候群リハビリテーション料はいくらですか?

1単位(20分)あたり、(Ⅰ)180点・(Ⅱ)146点・(Ⅲ)77点です。1点10円なので(Ⅰ)なら1単位1,800円、自己負担1割なら180円が目安です(入院料等は別途)。

120日を過ぎるとリハビリは受けられなくなりますか?

完全に受けられなくなるわけではありません。告示上、120日超は原則1月13単位までとされますが、治療の継続により改善が期待できると医学的に判断される場合などの除外規定もあります。多くの場合、この時期に介護保険のリハビリへ移行していきます。

起算日はいつからですか?

「廃用症候群の診断又は急性増悪」の日からです。もとの病気の発症日ではない点に注意してください。

寝たきりでもリハビリはできますか?

できます。関節を他者が動かす他動運動、足首の曲げ伸ばし、ベッド上での筋力トレーニング、呼吸の練習などがあります。厚労省の身体活動・運動ガイド2023も、立位困難な人についても「じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす」としています。

家族がリハビリを手伝ってもいいですか?

関節を動かす運動などは、専門職から方法を教わったうえで行ってください。痛みのある関節を無理に動かすと危険です。訪問リハビリでは、家族への指導も業務のうちなので遠慮なく依頼してください。

本人にやる気がありません。

意欲低下は廃用症候群の症状の一つです。性格の問題として扱わないでください。まず座る時間をつくる、着替える、といった環境面から変えると、後から意欲がついてくることがよくあります。抑うつが疑われる場合は主治医に相談してください。

介護保険のリハビリと医療保険のリハビリは併用できますか?

原則として同時併用はできず、要介護認定がある方は介護保険が優先されます。ただし例外的な取扱いや移行期間のルールがあるため、個別には主治医・ケアマネジャーにご確認ください。

退院後すぐにリハビリを始めるべきですか?

できる限り早いほうがよいです。制度上も、加算が入院から14日に集中している設計になっており、早期介入が重視されています。退院前にケアマネジャーへ連絡し、退院直後からサービスが入る段取りを組んでおくのが理想です。

まとめ

  • 廃用症候群は、安静・不活動によって起こる二次的な機能低下
  • 原因が病気ではなく「動かなかったこと」なので、予防も回復も可能
  • 加齢性の衰えが年単位なのに対し、廃用症候群は週単位で進む
  • 症状は筋肉だけでなく、関節・骨・循環・呼吸・消化・皮膚・精神に及ぶ
  • 関節拘縮と意欲低下は特に見落とされやすく、戻すのに時間がかかる
  • リハビリは関節を動かす→座る→立つ→歩く→生活動作の順で進める
  • 入院中は「ベッドから起こして座る時間」を確保することが最も効く
  • 在宅では食事・トイレ・着替えの3つを寝床から切り離す
  • 廃用症候群リハビリテーション料は(Ⅰ)180点・(Ⅱ)146点・(Ⅲ)77点
  • 算定限度は廃用症候群の診断又は急性増悪から120日
  • 120日超は原則1月13単位まで。ただし医学的に改善が期待できる場合の除外規定あり
  • 早期リハ加算・初期加算・急性期リハ加算はいずれも14日限度で、早期介入が重視されている
  • 離床を伴わない個別リハは所定点数の90%・1日2単位まで

参考にした情報

※本記事の点数・算定要件は、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)にもとづいて整理したものです。実際の算定にあたっては原文および地方厚生局の解釈をご確認ください。施設基準の区分により算定できる点数が異なります。安静臥床による筋力低下率など一部の数値は二次情報にもとづく整理であり、厚生労働省が示した数値ではありません。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。リハビリの進め方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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