椅子から立ち上がれない|原因と立ち上がりの筋トレ

椅子から立ち上がれない原因は、筋力だけではありません。座面が低い、足が前に投げ出されている、前傾できていない。この3つのどれかが当てはまっているだけで、健康な人でも立てなくなります。
試しに、背もたれに背中をつけたまま、足を前に伸ばした状態で立ち上がってみてください。おそらく立てません。筋力の問題ではなく、動作の条件が揃っていないからです。この記事では、原因の切り分けと、立ち上がりに直結する筋トレを整理しました。
この記事でわかること
- 立ち上がれない原因の4分類
- 立ち上がり動作の正しい順序
- 座面の高さがどれだけ影響するか
- 5回立ち上がりテストによる評価
- 立ち上がりに直結する筋トレ3種
- 椅子・便座・ベッドの高さの目安
- 介助するときの位置と支え方
- 手すりの位置
椅子から立ち上がれない原因は4つに分けられる
| 原因 | 確認方法 | 対策 |
|---|---|---|
| 座面が低い | 膝が股関節より高い位置にある | 座面を上げる。クッション、補高便座、椅子の変更 |
| 足の位置が前すぎる | かかとが膝より前にある | 足を手前に引く |
| 前傾できていない | 背もたれに寄りかかったまま立とうとする | お辞儀をしてから立つ |
| 筋力不足 | 上記3つを整えても立てない | 立ち座り・膝伸ばしの筋トレ |
順番が重要です。筋力を疑う前に、上の3つを確認してください。現場では、座面を5cm上げただけで自力で立てるようになる方が珍しくありません。
立ち上がりに必要な条件
- 足裏が床にしっかり着いている
- かかとが膝より後ろにある
- お尻が座面の前のほうにある(浅く座り直す)
- 頭が足より前に出るまで前傾できる
- 座面が低すぎない
この5つが揃えば、必要な筋力は大幅に下がります。
立ち上がり動作の正しい順序
人は真上に立ち上がっているわけではありません。一度、前へ移動してから上へ向かいます。
- 浅く座り直す(お尻を座面の前へ)
- 足を手前に引く(かかとが膝より後ろ)
- お辞儀をする(頭が足より前に出るまで前傾)
- お尻が浮く
- 膝と股関節を伸ばして立ち上がる
- 体を起こす
つまずきやすいのは3番目です。「立って」と声をかけると、多くの方は体を垂直に保ったまま真上に立とうとします。これは最も力が必要な方法です。
「立ってください」より「おじぎしてください」と声をかけるほうが、実際にはうまくいきます。介助する側も、この一言を変えるだけで結果が変わります。
ちびウルフ父が立てなくなってきて、筋トレをさせるべきか悩んでいます。
リハウルフ筋トレの前に、いま座っている椅子の高さを測ってください。ソファや低い座椅子だと、それだけで立てません。環境を変えれば今日から立てる可能性があります。筋トレは数か月かかります。両方やるのが正解です。
座面の高さの目安
| 場所 | 目安 |
|---|---|
| 椅子 | 足裏が床につき、膝が股関節と同じかやや低い位置 |
| 便座 | 同上。低ければ補高便座で5〜10cm上げる |
| ベッド | 端に座ったとき、足裏が床にしっかり着く高さ |
| 避けるべき | ソファ、低い座椅子、和式の座卓、床に直接座る |
高すぎても問題が出る
座面が高すぎると、今度は足が床に届かなくなります。足が浮くと、立ち上がるときに踏ん張れず、座っている間も姿勢が安定しません。
目安は「足裏がしっかり床につき、膝が股関節と同じかやや低い」です。高くして足が浮くなら、足台を併用してください。
介護保険で使えるもの
- 補高便座:告示では腰掛便座の「洋式便器の上に置いて高さを補うもの」。特定福祉用具販売(購入)の対象で、年間10万円の枠内・自己負担は原則1割
- 昇降便座:「電動式又はスプリング式で便座から立ち上がる際に補助できる機能を有しているもの」。同じく購入対象
- 介護ベッド(特殊寝台):高さを無段階に調整できる。福祉用具貸与の対象
- 据置型・突っ張り型の手すり:工事不要。福祉用具貸与の対象
トイレでの立ち上がりについてはトイレ介助のやり方|9工程の見極めと手すりの位置、ベッドの高さについては介護ベッドの選び方|レンタルの条件とモーター数で詳しく解説しています。
5回立ち上がりテストで評価する
立ち上がりの能力は、数字で測れます。
5回立ち上がりテスト
高さ40cm程度の椅子に座り、腕を胸の前で組んだ状態から、できるだけ速く5回立ち座りを繰り返す時間を測ります。
12秒以上かかる場合、サルコペニアの疑いがあるとされます(AWGS2019の基準。確度:中〜高=学会の診断基準であり、厚生労働省の告示・通知ではありません)。
測定時の注意
速さを求めるテストなので、必ず誰かが横についてください。膝や腰に強い痛みがある方、めまいがある方は行わないでください。
また、テスト(全力で速く)と運動(ゆっくり丁寧に)は目的が違います。毎日測る必要はなく、月1回程度で十分です。
サルコペニアについてはサルコペニアとは?診断基準と改善する運動で詳しく解説しています。
年代別の基準値と比べる
5回立ち上がりテストには、サルコペニアの診断基準(12秒以上)とは別に、年代ごとの平均値が示されています。
厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」の「別添資料2-4 年齢別体力基準値表」から引用します。地域在住高齢者の測定データにもとづくもので、市町村の介護予防事業で参加者にフィードバックする際の参考値とされています。
5回立ち上がりテスト(秒)|原文より
| 年代 | 平均値±標準偏差 | 最も低い区分(★1) |
|---|---|---|
| 65〜69歳 | 7.77±1.90秒 | 9.20秒超 |
| 70〜74歳 | 8.28±2.03秒 | 9.90秒超 |
| 75〜79歳 | 8.52±2.12秒 | 10.10秒超 |
| 80歳以上 | 9.67±2.51秒 | 11.50秒超 |
ここから読み取れることが2つあります。
- 平均はどの年代も12秒より速い:サルコペニアの基準(12秒以上)は、平均から相当離れた水準です。該当するなら明確な低下があるということ
- 80歳以上でも平均9.67秒:年齢を理由に諦める段階ではありません
同マニュアルは、体力測定として「5m歩行時間(通常・最大)・Timed Up & Go Test・開眼片足立ち時間・5回立ち上がりテスト・握力等を測定することが望ましい」とし、結果を年齢別体力基準値表を参考に5段階で評価して「どの要素がより低下しているのかを把握し、個別プログラムに生かす」としています。
立ち上がりだけが落ちているのか、歩行やバランスも落ちているのか。それによって組むべきメニューが変わります。通所リハビリや市町村の介護予防事業では、この一式の測定を受けられます。
立ち上がりに直結する筋トレ3種
使う筋肉は、太ももの前(大腿四頭筋)とお尻(大殿筋)です。
① 椅子からの立ち座り
最も効率がよく、動作そのものの練習にもなります。10回×2〜3セット。
- 腕を胸の前で組む(きつければ手をついてよい)
- 足を引き、浅く座り直す
- おじぎをしてから立つ
- 座る直前に3秒かけてゆっくり下ろす:これが最も効きます
楽にできるようになったら、回数を増やすより「ゆっくり下ろす」時間を延ばすほうが負荷が上がります。
② 座ったままの膝伸ばし
椅子に深く座り、片脚をゆっくり水平まで伸ばして3秒止め、ゆっくり下ろす。左右10回×2セット。膝に痛みがある方でも行いやすい種目です。
③ ブリッジ(お尻上げ)
仰向けで膝を立て、お尻を持ち上げて3秒。10回×2セット。大殿筋を鍛えます。おむつ交換や更衣の介助量も減ります。
厚労省が推奨する頻度
「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、高齢者に筋力トレーニングを週2〜3日、筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上推奨しています。
また「少しずつ負荷を高めていく(漸進性過負荷の原則)ことが重要」「しっかりと筋肉を休める時間(休息日)をとることも同じく重要」としています。毎日同じ部位を鍛える必要はありません。
ほかの種目は高齢者の筋トレメニュー9選|安全なやり方と週の回数をご覧ください。
柔軟性も影響する
足首が硬いと、立ち上がるときに必要な前傾がつくれません。ふくらはぎのストレッチも並行してください。詳しくは高齢者のストレッチ|優先する部位と安全なやり方で解説しています。
介助するときの位置と支え方
- 正面に立たない:本人の前傾を邪魔します。斜め前に立つ
- 腕を引っ張らない:肩関節を痛めます。特に麻痺側は危険です
- 脇や腰(骨盤)を支える
- 膝で本人の膝を軽く支える:膝折れを防ぎます
- 「おじぎしてください」と声をかける
- 立ち切らせようとしない:移乗なら、中腰でお尻が浮けば方向転換できます
介助者の腰を守る
厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日 基発0618第1号)は、対象者の抱上げについて「原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」とし、立位保持ができる場合はスタンディングマシーン等の使用を含めて検討するとしています。
また「対象者が労働者の手や身体、手すり等をつかむだけでも、労働者の負担は軽減される」とも記載されています。本人にできることを使うほうが、双方にとって安全です。
移乗の具体的な手順は移乗介助のやり方|ベッドと車椅子の手順をご覧ください。
手すりの位置
立ち上がりに使う手すりは縦手すりです。横手すりは座位の保持に使うもので、役割が違います。
- 縦手すり:体を引き上げる。便器や椅子の先端から20〜30cm前方の側壁が目安
- 横手すり:座っている間の姿勢保持
- L字手すり:両方を兼ねる
位置の数値は一般的な目安です。実際には本人の身長・麻痺の側によって最適な位置が変わるため、必ず本人が使う姿勢で決めてください。
壁に固定する手すりは住宅改修(支給限度基準額20万円・原則1人1回)、工事不要の据置型・突っ張り型は福祉用具貸与です。工事は元に戻せないので、まずレンタルで試すことをおすすめします。
床からの立ち上がりは別の動作
椅子から立てても、床から立てるとは限りません。必要な筋力も関節の柔らかさも、まったく違うレベルが求められます。
| 椅子から | 床から | |
|---|---|---|
| 膝の曲がり | 約90度 | 深く曲げる必要がある |
| 必要な筋力 | 体重の一部を支える | 全体重を低い位置から持ち上げる |
| 手の使用 | なくても可能なことが多い | ほぼ必須 |
| 難易度 | 低い | 高い |
床からの立ち上がりが重要なのは、転倒したときに自力で起き上がれるかどうかを左右するからです。転倒そのものより、倒れたまま長時間動けないことのほうが危険な場合があります。
床から立つ手順(四つ這いを経由する)
- 横向きになり、肘をついて上体を起こす
- 四つ這いの姿勢になる
- 椅子など安定した物まで這って移動する
- 片膝立ちになる(強いほうの脚を前に)
- 椅子に手をついて、前の脚に体重を乗せながら立ち上がる
ポイントは「直接立ち上がろうとしない」ことです。四つ這いと片膝立ちを経由すれば、必要な力は大幅に減ります。
転倒後は、すぐ立たせない
転んだ直後は、まず痛みの有無、頭を打っていないか、意識ははっきりしているかを確認してください。
特に、頭を打った場合や抗凝固薬(血をサラサラにする薬)を服用中の方は、その場で元気に見えても受診が必要です。骨折している状態で無理に立たせると、状態を悪化させます。
転倒対策全般は高齢者の転倒予防|原因と自宅でできる対策をご覧ください。
立ち上がりの回数を1日の中で増やす
筋トレの時間を別に設けるより、生活の中で立ち上がる回数を増やすほうが続きます。
- テレビのCMごとに1回立つ:1時間に数回になります
- お茶は自分で取りに行く:立つ理由をつくる
- トイレまで歩く:ポータブルトイレに頼りすぎない
- 座りっぱなしを30分〜1時間で区切る
- 食卓で食事をする:ベッド上での食事をやめるだけで回数が増えます
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」も、座位行動について「座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する(立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす)」としています。
1日20回の立ち上がりは立派な筋トレ
「10回×2セットを週3日」より、1日に10回以上、毎日自然に立ち上がっているほうが、実際には多くの回数を積んでいます。
立つ機会を奪わないことが、最も確実な筋力維持です。介助する側は「座っていて」「持ってくるから」と言いたくなりますが、その一言が回数を減らします。
立てなくなったときに考えること
これまで立てていた方が立てなくなった場合、原因は筋力低下だけとは限りません。
| 状況 | 考えられること |
|---|---|
| 急に立てなくなった | 骨折、脳血管疾患、感染症、脱水。まず受診 |
| 入院・体調不良の後から | 廃用症候群。運動で戻せる余地が大きい |
| 痛みで立てない | 膝・股関節・腰の問題。痛みの治療が先 |
| ふらつきが強い | 起立性低血圧、薬の影響、めまい |
| 徐々に立てなくなった | 筋力低下、サルコペニア、低栄養 |
特に「急に」立てなくなった場合は、運動の前に受診してください。入院後の低下であれば廃用症候群の可能性が高く、こちらは戻せます。
よくある質問
立てないのは筋力不足ですか?
筋力を疑う前に、座面の高さ・足の位置・前傾の3つを確認してください。健康な人でも、低い座面で足を前に投げ出し、背もたれに寄りかかったままでは立てません。
座面はどのくらいの高さがいいですか?
足裏がしっかり床につき、膝が股関節と同じかやや低い位置になる高さです。高すぎて足が浮くと踏ん張れないため、その場合は足台を併用してください。
「立って」と声をかけても立てません。
「おじぎしてください」と言い換えてみてください。人は真上ではなく、一度前へ移動してから立ち上がります。垂直のまま立とうとするのが最も力の要る方法です。
便座が低くて立てません。
補高便座で5〜10cm上げると立てるようになることがあります。介護保険の購入対象(特定福祉用具販売)で、年間10万円の枠内・自己負担は原則1割です。ケアマネジャーにご相談ください。
立ち上がりの筋トレは何をすればいいですか?
椅子からの立ち座りが最も効率的です。10回×2〜3セット、座る直前に3秒かけてゆっくり下ろすのがコツです。膝が痛い場合は座ったままの膝伸ばしから始めてください。
毎日筋トレしたほうがいいですか?
厚労省のガイドは筋力トレーニングを週2〜3日としており、「しっかりと筋肉を休める時間(休息日)をとることも同じく重要」としています。毎日同じ部位を鍛える必要はありません。
介助するとき、どこを持てばいいですか?
脇や腰(骨盤)です。腕を引っ張ると肩関節を痛めます。正面ではなく斜め前に立ち、本人の前傾を邪魔しないようにしてください。
手すりは縦と横のどちらですか?
立ち上がりには縦手すりです。横手すりは座っている間の姿勢保持に使います。両方必要ならL字型を検討してください。
5回立ち上がりテストとは何ですか?
高さ40cm程度の椅子から、腕を組んだ状態でできるだけ速く5回立ち座りする時間を測るテストです。12秒以上でサルコペニアの疑いとされます。必ず誰かが横についた状態で行ってください。
急に立てなくなりました。
まず受診してください。骨折、脳血管疾患、感染症、脱水などの可能性があります。急な変化は運動で対処するものではありません。
まとめ
- 立てない原因は座面の高さ・足の位置・前傾・筋力の4つ
- 筋力を疑う前に、前の3つを確認する
- 座面を5cm上げただけで立てるようになることがある
- 足裏が床につき、かかとが膝より後ろにあることが条件
- 人は真上ではなく、前へ移動してから立ち上がる
- 「立って」より「おじぎしてください」のほうが伝わる
- 座面が高すぎて足が浮くと、今度は踏ん張れない
- 補高便座・昇降便座は介護保険の購入対象
- 介護ベッドと据置型手すりは貸与の対象
- 5回立ち上がりテストは12秒以上でサルコペニアの疑い
- 厚労省の基準値では平均が65〜69歳7.77秒、80歳以上でも9.67秒
- 12秒は平均から相当離れた水準。該当するなら明確な低下がある
- 立ち座りは座る直前に3秒かけてゆっくり下ろすと効く
- 筋トレは週2〜3日、休息日をとる
- 介助は斜め前に立ち、脇と腰を支える。腕を引かない
- 立ち上がりに使うのは縦手すり
- 急に立てなくなった場合は、運動の前に受診
参考にした情報
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)
- 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針及び解説」
- 厚生労働大臣が定める特定福祉用具販売に係る特定福祉用具の種目(平成11年厚生省告示第94号)
- 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診断基準の改訂(AWGS2019発表)」
※本記事の運動に関する推奨は厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」、介助者の姿勢に関する記述は「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日 基発0618第1号)、福祉用具の種目は平成11年厚生省告示第94号にもとづいて整理したものです。5回立ち上がりテストの基準値は日本サルコペニア・フレイル学会が公表したAWGS2019の内容によるもので、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません(確度:中〜高)。座面の高さや手すりの位置の数値は一般的な目安であり、本人の身長・身体状況・住環境によって最適値は異なります。急に立ち上がれなくなった場合は、骨折や脳血管疾患などの可能性があるため、運動を始める前に受診してください。福祉用具・住宅改修の給付範囲や手続きは市町村(保険者)によって運用が異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。





