高齢者が飲んではいけない薬はある?指針の中身

「高齢者が飲んではいけない薬」を探している方は多いのですが、厚生労働省の指針にそういう名前のリストはありません。あるのは「特に慎重な投与を要する薬物」のリストです。
この違いは大きく、禁止されている薬ではなく「使うなら慎重に、代わりの選択肢も検討して」という意味です。この記事では、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」の原文を確認して、どの薬効群が名前を挙げられているのか、家族は何をすればよいのかを整理しました。
この記事でわかること
- 「飲んではいけない薬」というリストは存在しない理由
- 「特に慎重な投与を要する薬物」という言い方の意味
- 指針が名前を挙げている主な薬効群
- 睡眠薬・抗不安薬で特に注意されている種類
- 痛み止め・胃薬の長期使用で指摘されていること
- 別表2に挙がっている薬(パーキンソン病薬・利尿薬・制吐薬など)
- 急にやめてはいけない薬があること
- 受診のときに家族が伝えるべき3つのこと
高齢者が飲んではいけない薬はあるのか
結論から言うと、「高齢者は絶対に飲んではいけない」と国が定めた薬のリストはありません。厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)が用いているのは、「特に慎重な投与を要する薬物」という表現です。
言葉づかいが慎重なのには理由があります。たとえば睡眠薬にリスクがあるとしても、眠れないまま放置すれば生活は破綻します。抗凝固薬には出血のリスクがありますが、やめれば脳梗塞のリスクが上がります。薬のリスクは、やめたときのリスクと比べてはじめて判断できるもので、「この薬は危険だからやめる」という単純な話にはなりません。
指針も、この判断は医師が個別に行うものという前提に立っています。ですので、この記事も「この薬を飲んでいたら危ない」という読み方ではなく、「この薬を飲んでいて、この症状が出ているなら医師に相談する価値がある」という読み方をしてください。
先に読んでほしい注意
この記事に薬の名前が出てきても、自己判断で中止・減量しないでください。急にやめると危険な薬があります。判断は必ず医師が行います。
「特に慎重な投与を要する薬物」とは
指針には、日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」のリストを参考に作成した、2種類の資料が付いています。
- 別表1…高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(薬効群ごとの解説)
- 別表2…その他の特に慎重な投与を要する薬物のリスト(推奨される使用法つき)
どちらも「使用禁止」とは書かれていません。書かれているのは「可能な限り使用を控える」「必要最小限の使用にとどめる」「代替薬」といった表現です。つまり、より安全な選択肢があるなら、そちらを検討してほしいという趣旨です。
一部だけ「使用するべきでない」「禁忌」と強い表現が使われています。そこは薬の飲み合わせや持病との組み合わせに関する記述で、医師が処方時点で確認する部分です。
指針が名前を挙げている主な薬効群
別表1で、高齢者に対して特に注意が促されている代表的な薬効群を整理しました。カッコ内は指針に例示されている薬の一般名です。
| 薬効群 | 指針が指摘しているリスク |
|---|---|
| ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬 | 過鎮静、認知機能の悪化、運動機能低下、転倒、骨折、せん妄。長時間作用型は「使用するべきでない」とされる |
| 非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬(ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロン) | 転倒・骨折のリスクが報告されている |
| 三環系抗うつ薬 | 便秘、口腔乾燥、認知機能低下などの抗コリン症状、眠気、めまい。SSRIより高率 |
| 抗精神病薬 | 認知症患者への使用で脳血管障害・死亡率の上昇が報告。定型抗精神病薬はできるだけ控える |
| α遮断薬(降圧薬の一種) | 起立性低血圧、転倒。可能な限り使用を控える |
| SU薬などの糖尿病治療薬 | 低血糖。グリベンクラミドなど作用の強いものは避けるべきとされる |
| NSAIDs(ロキソプロフェンなどの消炎鎮痛薬) | 上部消化管出血、腎機能障害、心血管障害。「なるべく短期間・低用量」 |
| H2受容体拮抗薬(胃薬) | せん妄や認知機能低下のリスク上昇。可能な限り使用を控える |
| プロトンポンプ阻害薬(胃薬) | 長期投与で骨折リスク上昇などの報告。8週間を超える投与は控えるとされる |
この一覧を見て気づくのは、よく処方されている薬ばかりだということです。だからこそ指針は「禁止」ではなく「慎重に」という言い方をしています。
睡眠薬で特に注意されている点
別表1のうち、最も分量を割いて注意が書かれているのが睡眠薬・抗不安薬です。指針は次のように書いています。
指針の原文(催眠鎮静薬・抗不安薬)
「ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬(中略)は、過鎮静、認知機能の悪化、運動機能低下、転倒、骨折、せん妄などのリスクを有しているため、高齢者に対しては、特に慎重な投与を要する。長時間作用型(中略)は、高齢者では、ベンゾジアゼピン系薬剤の代謝低下や感受性亢進がみられるため、使用するべきでない」
あわせて、薬物療法の前に「睡眠衛生指導を行う」ことが前提として書かれています。加齢によって睡眠時間は短くなり、眠りも浅くなる。それ自体は異常ではないため、まず生活習慣の調整から入るという順番です。
投与期間についても、海外のガイドラインが4週間以内としていることに留意すべきだと書かれています。長く続いている場合は、一度見直しを相談する材料になります。
ただし、ベンゾジアゼピン系は急な中止で離脱症状が出るリスクがあると指針自身が明記しています。減らすとしても医師の管理下で段階的に行うものです。
別表2に挙げられている薬
別表2は「その他の特に慎重な投与を要する薬物のリスト」です。こちらは推奨される使用法まで書かれているのが特徴です。
| 分類 | 指針が推奨する使い方 | 主な有害事象 |
|---|---|---|
| パーキンソン病治療薬(抗コリン薬) | 可能な限り使用を控える。代替薬:L-ドパ | 認知機能低下、せん妄、口腔乾燥、便秘、尿閉 |
| 経口ステロイド薬 | 慢性安定期のCOPD患者には使用すべきでない | 呼吸筋の筋力低下、消化性潰瘍 |
| ジゴキシン | 0.125mg/日以下に減量する | ジギタリス中毒 |
| ループ利尿薬 | 必要最小限にとどめる。電解質・腎機能をモニタリング | 腎機能低下、起立性低血圧、転倒、電解質異常 |
| α1受容体遮断薬 | 可能な限り使用を控える | 起立性低血圧、転倒 |
| 第一世代H1受容体拮抗薬(古いタイプの抗ヒスタミン薬) | 可能な限り使用を控える | 認知機能低下、せん妄、口腔乾燥、便秘 |
| 制吐薬(メトクロプラミドなど) | 可能な限り使用を控える | パーキンソン症状の出現・悪化 |
| 過活動膀胱治療薬(オキシブチニン経口) | 可能な限り使用しない。代替薬あり | 尿閉、認知機能低下、せん妄、口腔乾燥、便秘 |
| 活性型ビタミンD3製剤 | アルファカルシドールは1μg/日以上の投与は控える | Ca製剤との併用で高カルシウム血症、認知機能低下、せん妄 |
ここで注目してほしいのが、「転倒」「せん妄」「便秘」「認知機能低下」が繰り返し出てくることです。どれも「年のせい」で片づけられやすい症状で、薬が原因である可能性は見落とされがちです。
薬が原因で起こる症状の一覧は、高齢者の薬が多いとどうなる?ポリファーマシーの基準で表にまとめています。
市販薬と健康食品も対象になる
見落とされやすいのが、処方薬以外です。指針は一般用医薬品(市販薬)と健康食品についても、はっきり注意を書いています。
指針の原文(市販薬・健康食品)
「健康食品は、薬剤との併用により、治療効果に重大な影響を及ぼすことがある。(中略)総合感冒薬など複数の成分を含有するものが多い一般用医薬品等では、ベラドンナ総アルカロイドなど医療用医薬品では使用されることは稀だが強力な抗コリン作用を有する薬物も含有するものもあり注意が必要である」
具体例として、ワルファリンとビタミンKを多く含む健康食品、骨粗鬆症治療薬とカルシウム含有製剤などが挙げられています。ワルファリンについては、納豆・クロレラ・青汁は摂取しないよう指導すると明記されています。
また、痛み止めの外用剤と内服薬の併用、市販の風邪薬と処方薬のアセトアミノフェン重複にも注意が書かれています。「市販薬だから伝えなくていい」ということはありません。
急にやめてはいけない薬がある
この記事で一番伝えたいのはここです。指針に名前が出ている薬のなかには、急に中止すると危険なものが含まれています。
- ベンゾジアゼピン系…急な中止で離脱症状が出るリスク
- SSRI…急な中止で離脱症状が出るリスク
- 抗凝固薬…中止により血栓のリスクが上がる
- 経口ステロイド…自己判断の中止は危険
- 降圧薬…血圧の急上昇につながることがある
「指針に載っていたからやめた」が最悪の結果を招きます。指針は医療者向けに書かれたもので、減量・中止の判断はリスクとベネフィットを比較したうえで医師が行うことが前提です。
一方で、指針は減薬の効果も認めています。「薬剤の減量や中止により病状が改善する場合があることを患者等にも理解していただく必要があり」と書かれており、相談すること自体は推奨されています。
家族が受診時に伝えるべき3つのこと
医師が処方を見直せるかどうかは、情報が揃っているかで決まります。訪問リハビリの現場でも、家族が次の3点を整理して伝えられたケースは、見直しにつながりやすいと感じます。
- 症状が出た時期…「いつから、ふらつくようになったか」
- その前後の薬の変更…「その頃、何か薬が増えたり変わったりしたか」
- 飲めていない薬の有無…飲み忘れ、自己判断で飲んでいない薬、市販薬、他院の薬
特に3つめは言いにくいのですが、飲めている前提で処方が調整されると危険です。飲めていない理由も含めて伝えてください。飲み忘れの原因別の対策は高齢者の服薬管理|飲み忘れの原因別の対策にまとめています。
指針は、処方の見直しの好機として「療養環境移行時」を挙げています。入院・退院、施設入所のタイミングです。この機会を逃さないでください。
ちびウルフ指針に載ってる薬を飲んでたら、やめてって言ったほうがいいの?
リハウルフ「やめてください」ではなく「最近ふらつきが増えたのですが、薬の影響はありますか」と聞くほうが通ります。薬の名前より、起きている症状を伝えるのが早いです。
ちびウルフ薬剤師さんに聞いてもいいのかな?
リハウルフむしろ薬剤師のほうが飲み合わせは詳しいです。薬局を1か所にまとめておくと、他院の薬まで含めて見てもらえます。
よくある質問
高齢者が飲んではいけない薬のリストはありますか?
「飲んではいけない薬」という名前のリストはありません。厚労省の指針にあるのは「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」です。使用禁止ではなく、より安全な選択肢を検討してほしいという趣旨です。
指針に載っている薬を飲んでいます。危険ですか?
載っていること自体は危険を意味しません。よく使われる薬ばかりが挙げられています。重要なのは、指摘されている症状(転倒、せん妄、便秘、認知機能低下など)が実際に出ているかどうかです。
睡眠薬は何年も飲み続けて大丈夫ですか?
指針は「漫然と長期投与せず、少量の使用にとどめる」とし、海外のガイドラインが投与期間を4週間以内としていることに留意すべきだと書いています。長く続いている場合は見直しを相談する材料になります。
睡眠薬を自分でやめてもいいですか?
やめないでください。ベンゾジアゼピン系は急な中止で離脱症状が出るリスクがあると指針に明記されています。減らす場合も医師の管理下で段階的に行います。
痛み止めはどれが安全ですか?
指針は、アセトアミノフェンについて消化管出血・腎機能障害・心血管障害のリスクがNSAIDsに比べて低いと考えられるため、高齢者に鎮痛薬を用いる場合の選択肢として考慮されると書いています。ただし高用量では肝機能障害のリスクがあります。選択は医師が行います。
胃薬を長く飲んでいますが問題ありますか?
指針は、プロトンポンプ阻害薬の長期投与で大腿骨頚部骨折などのリスク上昇が報告されているとし、一部の症例を除いて8週間を超える投与は控えるとしています。続いている場合は必要性を相談してください。
市販薬も医師に伝えるべきですか?
伝えてください。指針は、市販薬でも重複や誤用により重篤な有害事象を誘発するおそれがあるとしています。総合感冒薬には強力な抗コリン作用をもつ成分が含まれるものもあります。
健康食品やサプリも関係しますか?
関係します。指針はワルファリンとビタミンKを多く含む健康食品などの例を挙げています。ワルファリン服用中は納豆・クロレラ・青汁を摂らないよう指導するとされています。
転倒が増えたのは薬のせいですか?
可能性はあります。指針の別表では、睡眠薬、α遮断薬、ループ利尿薬などで転倒・起立性低血圧が挙げられています。いつから増えたか、その前後に薬の変更があったかを整理して相談してください。
どのタイミングで相談すればいいですか?
定期受診のときで構いませんが、指針は入院・退院・施設入所などの療養環境の移行時を処方見直しの好機として挙げています。その機会を逃さないのが現実的です。
まとめ
- 「高齢者が飲んではいけない薬」という国のリストは存在しない
- あるのは「特に慎重な投与を要する薬物」のリスト
- 使用禁止ではなく「可能な限り控える」「代替薬を検討」という趣旨
- 薬のリスクは、やめたときのリスクと比べて判断される
- 別表1は薬効群ごとの留意点、別表2は推奨される使用法つきのリスト
- 睡眠薬・抗不安薬は最も注意が割かれており、長時間作用型は使用するべきでないとされる
- 睡眠薬は薬物療法の前に睡眠衛生指導を行うことが前提
- NSAIDsは短期間・低用量、胃薬は長期使用を避けるとされる
- 別表2には転倒・せん妄・便秘・認知機能低下が繰り返し出てくる
- これらは「年のせい」にされやすく、薬の影響が見落とされる
- 市販薬・健康食品も有害事象の対象になる
- ワルファリン服用中は納豆・クロレラ・青汁を摂らない
- 急にやめると危険な薬がある(ベンゾジアゼピン系、SSRI、抗凝固薬、ステロイド、降圧薬)
- 家族が伝えるのは「症状が出た時期」「前後の薬の変更」「飲めていない薬」
- 入院・退院・施設入所は処方見直しの好機
参考にした情報
※本記事の薬効群・薬剤名・推奨される使用法は、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)の別表1・別表2にもとづいて整理したものです。同指針の別表は日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参考に作成されたものであり、記載は指針作成時点の内容です。掲載しているのは指針の一部の抜粋であり、すべてを網羅したものではありません。本記事は特定の薬剤の中止・減量を勧めるものではなく、記載された薬剤が禁止されていることを意味するものでもありません。薬の変更・中止の判断は必ず医師が行います。自己判断での中止・減量は、離脱症状、血栓、血圧の急上昇などの重大な事態を招くおそれがあります。気になる症状がある場合は、症状が出た時期と薬の変更時期を整理したうえで、主治医・薬剤師にご相談ください。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。




