親の退院が決まったら|入院中に頼めること

退院の準備は、退院してから始めるものではありません。入院しているうちにしか頼めないことがあります。
しかも、病院側が家族の求めに応じて行える支援は、診療報酬の条文で決まっています。知らないまま退院日を迎えると、自宅で一から手探りになります。この記事では、条文を確認して「入院中に頼めること」と「退院前にやること」を整理しました。
この記事でわかること
- 退院が決まったら最初にやる3つのこと
- 入院中に介護保険を申請できること
- 病院に頼める支援と、その根拠(条文)
- 退院前カンファレンスで確認する項目
- 自宅で先に整えるべき場所
- 退院直後に起きやすいこと
- 退院時が薬の見直しの好機である理由
- サービスを退院初日から入れる方法
親の退院が決まったら最初にすること
順番があります。この3つを退院日の2週間前までに動かせると、その後が楽になります。
- 病院の相談窓口に連絡する…医療ソーシャルワーカー(MSW)や地域連携室。「退院後の生活が不安です」と伝えれば動き出します
- ケアマネジャー、いなければ地域包括支援センターに連絡する…要介護認定がある人は担当ケアマネへ。なければ地域包括支援センターへ
- 退院前カンファレンスの開催を依頼する…病院・ケアマネ・家族が同席して、退院後の生活を詰める場です
家族から言い出してよいのかと迷う方が多いのですが、言ってください。病院側も体制を整えていますが、家族が不安を口にしないと「自宅に帰れる」と判断されたまま進むことがあります。
まだ介護保険を使っていない場合の相談先は地域包括支援センターとは?相談できることと使い方をご覧ください。
入院中に介護保険を申請できる
認定を受けていない場合、退院を待つ必要はありません。介護保険法第27条は、要介護認定の効力について次のように定めています。
介護保険法第27条第8項
「要介護認定は、その申請のあった日にさかのぼってその効力を生ずる」
申請は代行も可能です(同条第1項)。地域包括支援センターや居宅介護支援事業所に頼めます。本人が入院中で窓口に行けない場合も進められます。
結果が出る前でも、暫定のケアプランでサービスを始められます。退院日からベッドや手すりが入っている状態をつくるには、入院中の申請が前提になります。詳しくは親の介護が始まったら|最初の1か月でやることと要介護認定の申請方法は?流れ・必要書類・かかる期間をご覧ください。
入院中に病院へ頼めること
病院が退院支援として行えることは、診療報酬で定められています。代表的なものを整理します。
| できること | 条文上の位置づけ | 回数 |
|---|---|---|
| 病院とケアマネジャーが一緒に、退院後に使うサービスを説明・指導する | 介護支援等連携指導料1(400点)/2(500点) | 入院中2回 |
| 退院後に診てもらう医療機関や訪問看護と、病院が一緒に説明・指導し、文書で情報提供する | 退院時共同指導料2(400点) | 入院中1回(一定の疾病等は2回) |
| 医師同士が共同して指導した場合 | 同・加算300点 | — |
| 病院のスタッフが自宅を訪問し、退院後の住環境を評価する | 入院時訪問指導加算(150点) | 入院中1回 |
最後の1つは知られていません。条文はこうです。
入院時訪問指導加算(原文)
「当該保険医療機関の医師、看護師、理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士が、患家等を訪問し、当該患者(回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者に限る。)の退院後の住環境等を評価した上で、当該計画を策定した場合に、入院時訪問指導加算として、入院中1回に限り、150点を所定点数に加算する」
条件に注意
この加算は回復期リハビリテーション病棟に入院している患者に限られます。急性期病棟からそのまま退院する場合は対象外です。回復期リハビリ病棟に移った場合は、担当の理学療法士・作業療法士に「自宅を見てもらえますか」と相談する価値があります。
自宅を見てもらえると、手すりの位置、段差、トイレや浴室の広さ、ベッドを置く場所までが具体的に決まります。写真や口頭の説明より、はるかに精度が上がります。
退院前カンファレンスで確認すること
集まる機会は限られます。次の項目を用意して臨んでください。
- どこまで自分でできるか…歩行、トイレ、入浴、着替え、食事を動作ごとに
- やってはいけない動作・制限…禁忌肢位、体重をかけてよい範囲、運動の可否
- 薬…入院前から変わった薬、中止した薬、自己判断で休薬できない薬
- 食事…形態(きざみ・とろみ)、量、制限
- 飲み込み…むせの有無、食事の姿勢
- 排泄…トイレまで行けるか、夜間はどうするか
- 次の受診…いつ、どこへ、誰が連れて行くか
- 悪化したときの連絡先…夜間・休日を含めて
特に最後の2つを詰めてください。「何かあったらどこへ連絡するか」が決まっていないと、救急車しか選択肢がなくなります。
また、家族が「できないこと」を正直に伝えてください。遠慮して「なんとかやれます」と答えると、その前提で計画が組まれます。
ちびウルフ退院できるって言われたら、断れないよね?
リハウルフ「断る」ではなく「この状態では自宅で支えきれない」と具体的に伝えてください。準備が整うまでの調整や、他の選択肢の相談につながります。黙って受けて、1週間で再入院になるほうが本人に負担です。
自宅で先に整える場所
すべてを完璧にする必要はありません。優先順位はこうなります。
| 優先 | 場所 | 整えること |
|---|---|---|
| 1 | トイレ | 動線を短く、手すり、便座の高さ、夜間の照明。間に合わないならポータブルトイレ |
| 2 | 寝る場所 | 起き上がりやすい高さ。介護ベッドの検討。トイレに近い部屋へ移すことも考える |
| 3 | 玄関・廊下 | 段差、手すり、滑るもの、置いてある物を片づける |
| 4 | 浴室 | 手すり、シャワーチェア、滑り止め。無理なら訪問入浴やデイでの入浴 |
ベッドは早めに決めてください。搬入と設置に日数がかかります。選び方は介護ベッドの選び方|レンタルの条件とモーター数、費用の全体像は在宅介護の費用はいくら?平均と内訳を解説をご覧ください。
住宅改修(手すりの取り付けなど)は工事の前に申請が必要です。先に工事をすると対象外になることがあります。必ずケアマネジャーに先に相談してください。
退院直後に起きやすいこと
入院前の状態に戻ったわけではありません。次のことが起こりえます。
- 体力・筋力が落ちている…入院中の安静で動けなくなる(廃用症候群)
- 転倒…病院と自宅では環境が違う。段差、敷居、コード類
- せん妄…環境が変わる時期に起こりやすい
- 食事量の低下…病院食から家庭の食事に戻る時期のずれ
- 薬の飲み間違い…入院前と処方が変わっていることが多い
とくに廃用症候群は数日の安静でも進みます。廃用症候群とは?症状とリハビリの進め方、転倒対策は高齢者の転倒予防|原因と自宅でできる対策をご覧ください。
せん妄については、退院後しばらく続くことがあります。高齢者のせん妄|認知症との違いと家族の対応もご確認ください。
退院時は薬を見直す好機
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編)」は、療養環境が変わる時期についてこう書いています。
指針の原文
「身体機能や活動性の低下に伴い薬物有害事象(過降圧、低血糖、転倒、せん妄など)が起こりやすくなるため、『現在の患者の状態』に対応した処方であるかを評価することが重要である」
入院で状態が変わっているのに、処方が入院前のままということがあります。退院時は医師・薬剤師が処方を見直せる数少ない機会です。
家族からは次のように伝えてください。
- 入院前に飲んでいた薬のうち、退院後も続けるものはどれか
- 中止した薬はあるか、再開の予定はあるか
- 自宅で飲めなくなったときにどうするか(シックデイの対応)
- 他の病院からもらっている薬との重複はないか
お薬手帳は1冊にまとめて持参してください。詳しくは高齢者の薬が多いとどうなる?ポリファーマシーの基準をご覧ください。
サービスは退院初日から入れる
「まず様子を見てから」と考えると、家族が抱え込んだまま数週間が過ぎます。
退院直後こそ手が必要な時期です。最初から入れて、落ち着いたら減らすほうが安全です。
| 状況 | 検討するサービス |
|---|---|
| 医療的な管理が必要(傷、点滴、カテーテル、病状が不安定) | 訪問看護 |
| 動作・歩行が不安、家の中で転びそう | 訪問リハビリ、通所リハビリ |
| 入浴が難しい | デイサービス、訪問入浴 |
| 日中ひとりになる | デイサービス、訪問介護 |
| 家族が仕事を休めない | 訪問介護、ショートステイの登録 |
退院直後は、医療保険で訪問看護を使える場合があります。制度の切り分けはケアマネジャーと訪問看護ステーションが調整します。「どちらの保険か」を家族が判断する必要はありません。
よくある質問
退院の準備はいつから始めればいいですか?
退院日が見えた時点、遅くとも2週間前には動いてください。介護保険の申請、用具の手配、住宅改修にはいずれも日数がかかります。
入院中に介護保険を申請できますか?
できます。要介護認定は申請のあった日にさかのぼって効力を生じると法律に定められており、申請の代行も可能です。
退院前カンファレンスは家族から頼んでいいですか?
頼んでください。病院の相談窓口(医療ソーシャルワーカー・地域連携室)かケアマネジャーに伝えます。
病院のスタッフに自宅を見てもらえますか?
回復期リハビリテーション病棟に入院している場合、入院時訪問指導加算として病院の医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が自宅を訪問し住環境を評価する仕組みがあります(入院中1回)。急性期からの退院では対象外です。
ケアマネジャーに病院へ来てもらえますか?
介護支援等連携指導料として、病院とケアマネジャーが共同で退院後のサービスを説明・指導する仕組みがあり、入院中2回まで算定できるとされています。
退院を延ばしてもらうことはできますか?
状況によります。「断る」ではなく、どの動作が自宅で支えきれないかを具体的に伝えてください。準備期間の調整や他の選択肢の検討につながります。
退院してすぐサービスを使えますか?
使えます。暫定のケアプランで退院初日から開始できます。認定結果を待つ必要はありません。
手すりは退院前に付けられますか?
住宅改修は工事の前に申請が必要です。先に工事をすると対象外になることがあるため、必ずケアマネジャーに先に相談してください。
退院後に気をつけることは何ですか?
体力低下、転倒、せん妄、食事量の低下、薬の飲み間違いです。入院前の状態に戻ったわけではないという前提で見てください。
薬について何を確認すればいいですか?
入院前の薬のうち継続するもの、中止したもの、再開の予定、他院の薬との重複です。指針も療養環境の移行時を処方見直しの機会としています。
まとめ
- 退院準備は入院中に始める。2週間前が目安
- 病院の相談窓口とケアマネジャー(または地域包括支援センター)に連絡する
- 退院前カンファレンスは家族から依頼してよい
- 要介護認定は申請日にさかのぼって効力を生じる
- 申請は代行でき、入院中でも進められる
- 介護支援等連携指導料は入院中2回まで
- 退院時共同指導料2は入院中1回(一定の疾病等は2回)
- 入院時訪問指導加算で病院スタッフが自宅を評価できる
- ただし回復期リハビリテーション病棟の患者に限られる
- カンファレンスでは動作・制限・薬・食事・排泄・受診・連絡先を確認する
- 家族ができないことを正直に伝える
- 自宅はトイレ・寝る場所・玄関・浴室の順に整える
- 住宅改修は工事の前に申請する
- 退院直後は廃用・転倒・せん妄・薬の変更に注意
- サービスは最初から入れて、落ち着いたら減らす
参考にした情報
- 診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)B004・B005・B005―1―2・H003―2
- 介護保険法(平成9年法律第123号)第27条
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編・療養環境別)」(2019年6月)
※点数・回数・対象は診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)にもとづいて整理したものです。実際の算定可否は医療機関の届出状況や患者の状態によって異なり、すべての医療機関・すべての患者で実施されるとは限りません。入院時訪問指導加算は回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者に限られます。要介護認定の効力および申請代行に関する記述は介護保険法第27条によります。暫定ケアプランの取扱い、住宅改修の申請手続きは市区町村および事業所によって異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。実際の手続きにあたっては、病院の相談窓口・担当ケアマネジャー・お住まいの市区町村にご確認ください。


の人員基準を解説!厚生労働省の資料をもとに-640x360.png)

