頻尿と尿失禁は、相談しにくいまま放置されやすい症状です。しかし国の調査では、65歳以上の男性で最も多い訴えの1つが頻尿で、女性では尿失禁が目立ちます。

そして見落とされやすいのが薬です。厚生労働省の指針は、排尿障害や尿失禁を起こす薬を挙げる一方、過活動膀胱の治療薬そのものにも注意を促しています。この記事では、原文を確認して原因の切り分けを整理しました。

この記事でわかること

  • 頻尿・尿失禁の有訴者率(男女差)
  • 尿失禁の4つのタイプ
  • 「間に合わない」が動作と環境の問題である場合
  • 排尿障害を起こす薬(厚労省の指針)
  • 過活動膀胱の薬で注意されていること
  • 夜間頻尿と転倒の関係
  • 受診すべきサイン
  • 水分を控えてはいけない理由

高齢者の頻尿・尿失禁はどのくらい多いか

厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」の有訴者率(人口千対)です。

症状全年齢65歳以上65歳以上 男65歳以上 女
頻尿(尿の出る回数が多い)38.893.3119.871.5
尿失禁(尿がもれる)14.938.730.645.4
尿が出にくい・排尿時痛い8.119.332.38.6

男女で傾向がはっきり分かれます。男性は頻尿と「出にくさ」が多く、女性は尿失禁が多い。男性の頻尿119.8は、同じ調査で65歳以上の男性の症状としては腰痛・肩こりに次ぐ水準です。

男性で「出にくい」と「回数が多い」が同時に起きているなら、前立腺の影響が考えられます。回数が多いから水分を減らす、という対処では解決しません。

尿失禁の4つのタイプ

「もれる」といっても中身が違います。対処が変わるため、まず切り分けます。

タイプどんなときにもれるか背景
腹圧性咳、くしゃみ、笑う、立ち上がる、重い物を持つ骨盤底の筋力低下。女性に多い
切迫性急に強い尿意が来て、間に合わない膀胱が過敏になっている(過活動膀胱)
溢流性(いつりゅうせい)出しきれず、少しずつもれ続ける前立腺肥大などで出口が狭い。男性に多い
機能性尿意はあるが、トイレまでの移動や動作が間に合わない歩行・着脱・認知機能・環境の問題

混在することもあります。特に腹圧性と切迫性の混合は女性で珍しくありません。

そしてリハビリの現場で最も多いのが、最後の機能性です。

「間に合わない」の多くは動作と環境の問題

機能性尿失禁は、膀胱に問題がなくても起こります。分解すると次の工程のどこかで詰まっています。

  • 尿意に気づく
  • 立ち上がる
  • トイレまで歩く
  • ドアを開ける
  • 向きを変える
  • ズボンと下着を下ろす
  • 座る
  • 拭く
  • 立ち上がって衣類を戻す

夜間に多いのは、この工程が暗い中で行われるからです。ズボンを下ろすのに10秒余計にかかるだけで間に合わなくなります。

対処は膀胱ではなく環境と動作です。

詰まっている工程対処
立ち上がりに時間がかかる椅子・ベッドの高さを上げる。手すりをつける
距離が遠い、間に合わない寝室を移す。夜間はポータブルトイレ
ドア・段差で手間取る引き戸にする、開けっぱなしにする、段差を解消する
衣類が下ろしにくいゴムのゆるいズボン、前開き、ボタンをやめる
便座が低くて座れない補高便座、手すり
夜、暗くて動けない足元灯、人感センサーライト

具体的な介助方法はトイレ介助のやり方|9工程の見極めと手すりの位置、着脱の工夫は更衣介助のやり方|脱健着患の順序と片麻痺の工夫をご覧ください。

排尿障害を起こす薬がある

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」は、薬が原因で起こる老年症候群の一覧に「排尿障害・尿失禁」の欄を設けています。

指針の原文(排尿障害・尿失禁の原因となる薬剤)

「抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬(ムスカリン受容体拮抗薬)、腸管鎮痙薬(アトロピン、ブチルスコポラミン)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗精神病薬(フェノチアジン系)、トリヘキシフェニジル、α遮断薬、利尿薬」

注目すべきは、過活動膀胱治療薬そのものが挙げられていることです。尿もれを治すための薬が、排尿症状を悪化させたり尿閉を起こしたりすることがあります。

また、利尿薬が入っている点も見落とされます。血圧や心不全のために飲んでいる薬が、頻尿の直接の原因になっていることがあります。

過活動膀胱の薬で注意されていること

指針は別表で、過活動膀胱治療薬を個別に取り上げています。

指針の原文(オキシブチニン経口)

推奨される使用法:「可能な限り使用しない。代替薬として:他のムスカリン受容体拮抗薬」

主な有害事象・理由:「尿閉、認知機能低下、せん妄のリスクあり。口腔乾燥、便秘の頻度が高い

他のムスカリン受容体拮抗薬についても記載があります。

指針の原文(ムスカリン受容体拮抗薬)

低用量から使用。前立腺肥大症の場合はα1受容体遮断薬との併用。必要時、緩下剤を併用する」(主な有害事象:口腔乾燥、便秘、排尿症状の悪化、尿閉)

「必要時、緩下剤を併用する」と書かれているのは、便秘が高い確率で起こることが前提にされているためです。尿の薬を飲み始めてから便秘になった場合、偶然ではない可能性があります。

あわせて、α遮断薬(前立腺肥大や血圧に使われる)については、指針が「起立性低血圧、転倒」のリスクを挙げ、受容体サブタイプ非選択的なものは「可能な限り使用を控える」としています。

薬と症状の関係は高齢者の薬が多いとどうなる?ポリファーマシーの基準、薬の一覧は高齢者が飲んではいけない薬はある?指針の中身にまとめています。

ちびウルフちびウルフ

尿もれの薬を飲んでから、ぼーっとしてる気がするんだけど…

リハウルフリハウルフ

その可能性はあります。指針も認知機能低下とせん妄のリスクを挙げています。やめるかどうかは医師の判断ですが、「薬を始めた時期」と「変化が出た時期」をメモして伝えてください。

夜間頻尿は転倒とつながっている

夜に何度も起きることは、睡眠の問題であると同時に転倒のリスクです。暗い、寝起きでふらつく、急いでいる。条件がそろいます。

夜間頻尿の背景には次のものがあります。

  • 日中に足にたまった水分が、横になることで血液に戻る(むくみがある人に多い)
  • 塩分のとりすぎ
  • 就寝前の水分・アルコール・カフェイン
  • 睡眠が浅く、目が覚めたついでにトイレに行く
  • 利尿薬の服用時間
  • 前立腺肥大、過活動膀胱

厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」も「塩分の過剰摂取も夜間頻尿を生じ中途覚醒を増加させうる」と指摘しています。

1つめは対処できます。夕方に足を上げて休む、日中に動く、弾性ストッキングを使うといった方法で、夜間の尿量が減ることがあります。むくみについては高齢者の足のむくみ|原因と受診の目安をご覧ください。

「目が覚めたからトイレに行く」のか「尿意で目が覚める」のかも区別してください。前者なら睡眠側の問題です。高齢者が眠れない原因|寝床にいる時間を見直すもあわせてご覧ください。

受診すべきサイン

  • 尿が出にくい、出るまで時間がかかる、勢いが弱い
  • 残尿感がある、少しずつもれ続ける
  • 血尿が出た
  • 排尿時に痛みがある、発熱がある
  • 急に症状が悪化した
  • まったく尿が出ない(尿閉・緊急)
  • 新しい薬を始めた直後に症状が出た

「まったく出ない」は緊急です。下腹部が張って苦しい、出ないのに尿意だけ強い状態は、すぐに受診してください。

また、発熱をともなう場合は尿路感染の可能性があります。高齢の方では、熱よりも先にぼんやりする・元気がないという形で出ることがあります。高齢者のせん妄|認知症との違いと家族の対応もご確認ください。

水分を控えてはいけない

最もよくある自己対処が「飲む量を減らす」ですが、これは避けてください。

起こること

尿が濃くなって膀胱を刺激し、かえって回数が増えることがあります。さらに脱水、便秘、尿路感染、せん妄、熱中症のリスクが上がります。

調整するなら量ではなく時間帯です。日中にしっかりとり、就寝前の数時間を控えめにする。ただし心臓や腎臓の病気で水分制限がある方は、必ず主治医の指示に従ってください。

脱水については高齢者の脱水症状|気づき方と薬の落とし穴をご覧ください。

記録をつけると診察が変わる

泌尿器科を受診するとき、次の記録があると診断が早くなります。

  • 何時に、何回トイレに行ったか(日中と夜間を分ける)
  • もれたときの状況(咳、急な尿意、間に合わなかった、気づかなかった)
  • 1回の量の感覚(たくさん出る/少ししか出ない)
  • 飲んだ量とタイミング
  • 服用している薬(お薬手帳)

2〜3日分で構いません。「少ししか出ないのに回数が多い」のか「毎回たくさん出る」のかで、考える方向が変わります。前者は膀胱や前立腺、後者は水分や尿量そのものの問題が疑われます。

おむつやパッドを使う場合の費用については介護保険でおむつ代は支給されるのか?、医療費控除の扱いは介護の医療費控除|対象になるサービス一覧をご覧ください。

よくある質問

高齢者の頻尿はどのくらい多いですか?

2022年の国民生活基礎調査では、頻尿の有訴者率は65歳以上で人口千対93.3、男性では119.8です。全年齢の38.8と比べて大幅に高くなります。

尿もれは女性に多いのですか?

65歳以上の尿失禁の有訴者率は男30.6、女45.4で女性に多い傾向です。一方、頻尿と「出にくさ」は男性に多くなります。

尿失禁にはどんな種類がありますか?

咳やくしゃみでもれる腹圧性、急な尿意で間に合わない切迫性、出しきれずもれ続ける溢流性、トイレまでの動作が間に合わない機能性があります。混在することもあります。

薬が原因になることはありますか?

あります。指針は排尿障害・尿失禁の原因薬剤として、三環系抗うつ薬、過活動膀胱治療薬、抗ヒスタミン薬、睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬、α遮断薬、利尿薬などを挙げています。

尿もれの薬なのに症状が悪くなることがありますか?

あります。指針は過活動膀胱治療薬について、排尿症状の悪化や尿閉を有害事象として挙げています。オキシブチニンの経口薬は「可能な限り使用しない」とされています。

尿の薬を飲み始めてから便秘になりました。

関連している可能性があります。指針はムスカリン受容体拮抗薬について「必要時、緩下剤を併用する」と記載しており、便秘が起こりやすいことが前提とされています。医師に伝えてください。

夜に何度も起きます。どうすればいいですか?

日中のむくみ、塩分、就寝前の水分やアルコール、睡眠の質、利尿薬の服用時間などが関係します。夕方に足を上げて休むだけで改善することもあります。

水分を減らせば回数は減りますか?

すすめられません。尿が濃くなって膀胱を刺激し、かえって回数が増えることがあります。脱水や尿路感染のリスクも上がります。調整するのは量ではなく時間帯です。

すぐ受診すべき状態はありますか?

まったく尿が出ない、下腹部が張って苦しい場合は緊急です。血尿、排尿時痛、発熱、急な悪化も早めに受診してください。

受診前に準備することはありますか?

2〜3日分の排尿の記録(時刻、回数、日中と夜間の別、もれた状況、飲んだ量)とお薬手帳を持参してください。診断が早くなります。

まとめ

  • 頻尿の有訴者率は65歳以上で93.3、男性は119.8
  • 尿失禁は65歳以上で38.7、女性45.4・男性30.6
  • 男性は頻尿と出にくさ、女性は尿失禁が多い
  • 尿失禁は腹圧性・切迫性・溢流性・機能性の4タイプ
  • 機能性は膀胱ではなく動作と環境の問題
  • ズボンを下ろす数秒の遅れが「間に合わない」を生む
  • 指針は排尿障害・尿失禁の原因薬剤を列挙している
  • 利尿薬が頻尿の直接の原因になっていることがある
  • 過活動膀胱治療薬自体が排尿症状の悪化や尿閉を起こしうる
  • オキシブチニン経口は「可能な限り使用しない」とされる
  • ムスカリン受容体拮抗薬は便秘を前提に緩下剤の併用が記載されている
  • 夜間頻尿は転倒リスクと直結する
  • 日中のむくみと塩分が夜間の尿量に影響する
  • 水分を減らすと逆効果になりうる。調整は時間帯で行う
  • まったく出ない状態は緊急。受診前に排尿記録を用意する

参考にした情報

※有訴者率は厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」の数値(人口千対)です。有訴者には入院者は含まれません。薬剤に関する記述は「高齢者の医薬品適正使用の指針」の表1および別表にもとづく整理であり、記載された薬剤を服用しているすべての方に症状が生じるわけではありません。本記事は特定の薬剤の中止・減量を勧めるものではなく、薬の変更・中止の判断は必ず医師が行います。自己判断での中止は危険です。尿失禁のタイプ分けと対処に関する記述は一般的な整理であり、診断は医師が行います。水分摂取量は、心疾患・腎疾患などにより制限がある場合があります。必ず主治医の指示に従ってください。まったく尿が出ない場合は緊急性が高いため、ただちに医療機関を受診してください。記述は2026年9月時点の内容として整理しています。

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リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味