歩行器の選び方で最初に知っておくべきなのは、シルバーカーは歩行器ではないということです。見た目は似ていますが、介護保険の告示が定める歩行器の定義に当てはまりません。だから介護保険のレンタル対象にもなりません。

この違いは、単なる制度上の区分ではありません。シルバーカーに体重を預けると、前へ走り出して転倒します。この記事では、告示の原文で定義を確認したうえで、種類の選び方・高さの合わせ方・使い方・借りる手続きまで整理しました。

この記事でわかること

  • 介護保険の告示が定める歩行器の定義
  • シルバーカーが対象外である理由
  • 歩行器の主な種類と向いている人
  • 高さの合わせ方(目安となる位置)
  • 歩行器を使った歩き方と方向転換
  • 介護保険で借りる手続きと自己負担
  • 要介護2未満でも借りられる例外給付
  • 使ってはいけない場面と危険な使い方

歩行器とは|介護保険の定義

介護保険でレンタルできる福祉用具は、告示で種目が定められています。「厚生労働大臣が定める福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目」(平成11年厚生省告示第93号)です。

その第9号「歩行器」の定義を、原文のまま引用します。

告示の原文(9 歩行器)

「歩行が困難な者の歩行機能を補う機能を有し、移動時に体重を支える構造を有するものであって、次のいずれかに該当するものに限る。

一 車輪を有するものにあっては、体の前及び左右を囲む把手等を有するもの
二 四脚を有するものにあっては、上肢で保持して移動させることが可能なもの」

ここに2つの決定的な条件が書かれています。

  • 移動時に体重を支える構造であること
  • 車輪があるものは、体の前および左右を囲む把手を持つこと

つまり、体重を預けられることと、体が囲まれていること。この2つが歩行器の要件です。

シルバーカーが介護保険の対象外である理由

シルバーカー(買い物カート型の四輪車)は、体の前だけに把手があり、左右は囲まれていません。そして、荷物を運ぶことを主目的とした構造です。

したがって告示の定義に当てはまらず、介護保険の福祉用具貸与の対象になりません。全額自費での購入となります。

歩行器(歩行車)シルバーカー
主な目的歩行の支持荷物の運搬・休憩
体重を預けるできるできない
把手の位置体の前と左右を囲む体の前のみ
体との位置関係体が中に入る体の前を押す
介護保険福祉用具貸与の対象対象外(自費)
向いている人支えがないと歩けない自力で歩けるが、荷物・休憩が必要

シルバーカーに体重を預けると転倒する

シルバーカーは体の前を押す構造なので、寄りかかると前方へ滑り出し、体は取り残されて前のめりに転倒します。特に下り坂では加速します。

「歩くのがつらいからシルバーカーを買った」という方が、実際には歩行器を必要としている、という場面は現場でよくあります。体重を預けたい段階なら、シルバーカーではなく歩行器です。

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母がシルバーカーを押しています。買い替えたほうがいいですか?

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使い方を見てください。背筋を伸ばして押しているなら問題ありません。前かがみで寄りかかっているなら危険です。後者なら歩行車への変更を検討してください。介護保険なら月数百円程度でレンタルできることが多いです。

歩行器の種類と選び方

種類特徴向いている人
固定型(四脚・車輪なし)持ち上げて前に置き、その中へ進む安定性が最優先。屋内中心
交互型左右のフレームを交互に前に出せる持ち上げる力が弱い。屋内
二輪型(前輪のみ)前に車輪、後ろは脚。押して進み、止まるとブレーキがかかる持ち上げるのが難しいが、安定も必要
四輪型(歩行車)4つの車輪。ブレーキ・座面付きも多い屋外歩行、距離を伸ばしたい
サークル型(U字型)前腕を乗せる支持台つき。体を囲む立位が不安定。施設内でよく使われる

選ぶときの判断軸

  • どこで使うか:屋内は小回り重視、屋外は車輪の大きさと安定性
  • どれだけ体重を預けるか:強く預けるほど、支持面の広いものを
  • 持ち上げられるか:固定型は持ち上げる力が必要
  • 段差があるか:小さい車輪は数mmの段差でも止まります
  • 収納・持ち運び:折りたためるか、車に積めるか
  • ブレーキの形式:握って止めるか、手を離すと止まるか

選定は福祉用具専門相談員と一緒に

カタログだけでは決められません。実際に使う本人の力、自宅の廊下幅、敷居の高さ、玄関の構造によって適するものが変わります。レンタルなら合わなければ交換できるのが最大の利点です。まずは試して、数週間使ってから判断してください。

福祉用具専門相談員については福祉用具専門相談員とは?資格と仕事内容を解説をご覧ください。

歩行器の高さの合わせ方

高さが合っていない歩行器は、危険なだけでなく効果も出ません。

  • 基本の目安:まっすぐ立ち、腕を自然に下ろしたとき、手首の高さにグリップがくる
  • 握ったときの肘の角度:20〜30度くらい軽く曲がる状態
  • 前腕支持型の場合:肘を90度に曲げ、前腕を乗せた高さ
  • 靴を履いた状態で合わせる:裸足で合わせると低くなります

目安は杖と同じ考え方です(高齢者の杖の選び方で詳しく解説しています)。

高さ起こること
高すぎる肩がすくみ、腕が疲れる。体重を支えにくい
低すぎる前かがみになり、腰が痛くなる。前方へ転倒しやすい

最も多い間違いは「低すぎる」です。前かがみで押している方を見たら、まず高さを確認してください。

歩行器の使い方

基本の歩き方

  • 歩行器を体の前に置く(固定型なら持ち上げて、車輪付きなら押して)
  • ブレーキがある場合は、進む前に状態を確認する
  • 弱いほうの足を先に出す
  • 強いほうの足を続けて出す
  • 体が歩行器の中央にくる位置まで進む

ポイントは体と歩行器の距離です。

歩行器を体から離しすぎない

歩行器を遠くに置いて手を伸ばすと、前かがみになり、重心が前へ出て転倒します。体が歩行器の枠の中に入っている状態を保ってください。

介助する場合は、本人の体が歩行器の中央より前に出ていないかを確認します。歩行介助の立ち位置については歩行介助のやり方|立つ位置と階段での介助をご覧ください。

方向転換

その場で小さく回らず、少しずつ足を踏み替えて大きく回ります。小回りは、歩行器の脚に自分の足が引っかかる原因になります。

段差・坂道

  • 段差は正面から:斜めに乗り上げると横転します
  • 下り坂は要注意:四輪型は加速します。ブレーキを使いながらゆっくり
  • 敷居は無理に越えない:スロープの設置を検討してください
  • 階段では使わない:歩行器で階段は絶対に上り下りしません

座るとき(座面付きの場合)

必ずブレーキをかけてから座ります。ここを飛ばした事故が最も多い場面です。座面付きの歩行車は便利ですが、ブレーキ操作を確実に行えることが使用の前提になります。

令和6年度から歩行器は「貸与か販売か」を選べる

ここは新しい制度です。令和6年4月1日から、一部の福祉用具について、貸与(レンタル)と販売のどちらかを選べるようになりました。歩行器はその対象に含まれています。

「厚生労働大臣が定める特定福祉用具販売に係る特定福祉用具の種目」(平成11年厚生省告示第94号)には、令和6年3月15日の改正(令和6年4月1日施行)により、次の3種目が追加されています。

種目告示が定める範囲(原文)
スロープ段差解消のためのものであって、取付けに際し工事を伴わないものに限る
歩行器歩行が困難な者の歩行機能を補う機能を有し、移動時に体重を支える構造を有するものであって、四脚を有し、上肢で保持して移動させることが可能なもの
歩行補助つえカナディアン・クラッチ、ロフストランド・クラッチ、プラットホームクラッチ及び多点杖に限る

販売できる歩行器は「四脚のもの」だけ

よく読んでください。販売の対象になっているのは四脚を有する歩行器であって、車輪付きの歩行車は含まれていません。

貸与の定義(告示93号)が「車輪を有するもの」と「四脚を有するもの」の両方を挙げているのに対し、販売のほうは四脚のみ。つまり四輪の歩行車を使いたい場合は、貸与しか選べません。

同様に、販売対象の歩行補助つえには松葉づえが含まれていません(貸与の定義には含まれています)。細かい差ですが、実際の選択に影響します。

貸与と販売、どちらを選ぶか

貸与(レンタル)販売(購入)
費用毎月発生購入時に1回
交換できるできない
メンテナンス事業者が行う自分で行う
状態変化への対応変更できる買い直しになる
向いている場面状態が変わりうる、長期化が不確実長期間同じものを使う見通しがある

判断の軸は「身体状況が今後変わりそうかどうか」です。回復が見込まれる時期や、逆に低下が進む時期は貸与のほうが合理的です。状態が安定していて長く使う見通しがあるなら、販売も選択肢になります。

選択にあたっては、福祉用具専門相談員から貸与・販売それぞれのメリットとデメリットの説明を受けたうえで決める仕組みになっています。迷ったら、まず貸与で試してから判断するのが安全です。

介護保険で借りる手続き

  • 要介護認定を申請する(未取得の場合。窓口は市町村・地域包括支援センター)
  • ケアマネジャー(要支援なら地域包括支援センター)に相談する
  • 福祉用具専門相談員が自宅を訪問し、選定する
  • ケアプランに位置づけ、契約する
  • 納品・調整。使い方の説明を受ける
  • 定期的にモニタリングを受け、合わなければ交換する

自己負担は原則1割(所得により2割・3割)です。歩行器のレンタル料は商品によりますが、1割負担であれば月数百円程度のものが多くあります。

費用の詳細は福祉用具貸与の自己負担額と上限額をわかりやすく解説、対象品目の全体像は福祉用具レンタル13品目一覧と自己負担額を解説をご覧ください。

歩行器は要支援・要介護1でも借りられる

介護ベッド(特殊寝台)や車いすは原則として要介護2以上が貸与の対象ですが、歩行器と歩行補助つえは、要支援1・2および要介護1でも貸与の対象とされています。

「要介護1だから福祉用具は借りられない」と思い込んで諦めている方がいますが、歩行器は該当しません。ケアマネジャーにご確認ください。

歩行器と杖はどちらを使うべきか

どちらを選ぶかは、どれだけ体重を預ける必要があるかで決まります。

状態適した用具
ふらつきは時々。安心のために何か持ちたい一本杖(T字杖)
片側に体重をかけられない(痛み・麻痺)一本杖または多点杖
一本杖では支えきれない。立位が不安定多点杖または歩行器
両手で支えないと歩けない歩行器・歩行車
長い距離を歩くと息切れ・疲労が強い座面付きの歩行車

目安は「片手で足りるか、両手が必要か」です。片手の支えで安定するなら杖、両手で支えないと不安なら歩行器を検討します。

なお、告示では歩行補助つえについて「松葉づえ、カナディアン・クラッチ、ロフストランド・クラッチ、プラットホームクラッチ及び多点杖に限る」と定めています。一般的なT字型の一本杖は、この列挙に含まれていません。

一本杖は介護保険のレンタル対象外

最もよく使われているT字杖が、実は福祉用具貸与の対象に含まれていません。購入することになります(数千円程度から)。一方で多点杖(四点杖)は対象です。ここを知らずに「杖も借りられるはず」と考えて相談し、話が食い違うことがあります。

導入後に確認したいこと

歩行器は「納品して終わり」ではありません。むしろ使い始めてからの調整で結果が変わります。

  • 実際に生活動線で使えているか:廊下は通れるか、トイレまで持ち込めるか、方向転換できるか
  • 使わなくなっていないか:玄関に置きっぱなしなら、何かが合っていません
  • 高さは今も合っているか:靴を変えた、姿勢が変わったら見直す
  • ブレーキは効いているか:ゴムの摩耗、ワイヤーの緩み
  • 車輪の状態:髪の毛や糸が絡むと転がりが悪くなります
  • 歩ける距離は伸びたか:伸びていないなら選定の見直しを

福祉用具貸与では定期的なモニタリングが行われます。「せっかく借りたのだから」と我慢して使い続ける必要はありません。合わないものは交換できる、というのがレンタルの本来の意味です。

使ってはいけない場面・危険な使い方

  • 階段で使う:絶対にしないでください
  • 体重を預けたまま方向転換する:横方向には倒れやすい構造です
  • 荷物を前カゴに入れすぎる:前方に重心が偏り、つんのめります
  • ブレーキをかけずに座る:座面付きで最も多い事故
  • 濡れた床・段差のある場所で無理に進む
  • 高さを調整しないまま使い続ける:靴を変えたら高さも見直す
  • 他人の歩行器を借りて使う:高さも幅も本人用に調整されています

「歩行器があるから安全」ではない

歩行器は支えにはなりますが、バランスを崩したときに立て直してくれるわけではありません。むしろ、歩行器を使い始めた直後は操作に慣れておらず、かえって転びやすい時期があります。

導入時は必ず、理学療法士や福祉用具専門相談員から使い方の指導を受けてください。転倒予防全般は高齢者の転倒予防|原因と自宅でできる対策で解説しています。

よくある質問

シルバーカーと歩行器は何が違いますか?

歩行器は「移動時に体重を支える構造」を持ち、車輪があるものは体の前と左右を囲む把手を備えます(告示の定義)。シルバーカーは体の前だけを押す構造で、荷物の運搬が主目的です。体重を預けると前へ滑り出して転倒します。

シルバーカーは介護保険で借りられますか?

借りられません。介護保険の福祉用具貸与の種目を定めた告示の「歩行器」の定義に当てはまらないため、対象外です。全額自費での購入になります。

歩行器の高さはどう合わせますか?

まっすぐ立って腕を自然に下ろしたとき、手首の高さにグリップがくるのが目安です。握ったときに肘が20〜30度ほど軽く曲がります。靴を履いた状態で合わせてください。

前かがみになってしまいます。

高さが低すぎるか、歩行器を体から離しすぎている可能性があります。体が歩行器の枠の中に入る位置を保ってください。高さは福祉用具専門相談員に調整してもらえます。

要介護1でも借りられますか?

借りられます。介護ベッドや車いすは原則要介護2以上ですが、歩行器と歩行補助つえは要支援1・2および要介護1でも貸与の対象とされています。

レンタル料はいくらですか?

商品によりますが、1割負担であれば月数百円程度のものが多くあります。所得により2割・3割負担の場合があります。詳しくはケアマネジャー・福祉用具専門相談員にご確認ください。

合わなかったら交換できますか?

できます。これがレンタルの最大の利点です。定期的にモニタリングが行われるので、使いにくさを感じたら遠慮なく伝えてください。

歩行器で階段は使えますか?

使えません。階段では絶対に使用しないでください。階段には手すりを設置し、歩行介助を受けてください。

屋外用と屋内用は分けたほうがいいですか?

使用環境が大きく違う場合は分けることもあります。屋内は小回り、屋外は車輪の大きさと安定性が重視されます。2台必要かどうかは、生活範囲を踏まえてケアマネジャーにご相談ください。

購入とレンタル、どちらがいいですか?

歩行器は貸与(レンタル)の対象種目です。体の状態は変化するため、まずはレンタルで試すことをおすすめします。合わなければ交換でき、不要になれば返却できます。

まとめ

  • 告示は歩行器を「移動時に体重を支える構造を有するもの」と定義している
  • 車輪があるものは「体の前及び左右を囲む把手等」を持つことが要件
  • シルバーカーは体の前だけを押す構造で、この定義に当てはまらない
  • したがってシルバーカーは介護保険の対象外(自費購入)
  • シルバーカーに体重を預けると前へ滑り出して転倒する
  • 歩行器には固定型・交互型・二輪型・四輪型・サークル型がある
  • 選定は使用場所・体重を預ける度合い・段差の有無で判断する
  • 高さは手首の高さが目安。肘が20〜30度曲がる状態
  • 最も多い間違いは低すぎる設定。前かがみは危険信号
  • 歩行器は体から離しすぎず、枠の中に体を入れて使う
  • 方向転換は小回りせず、足を踏み替えて大きく回る
  • 階段では絶対に使わない
  • 座面付きは必ずブレーキをかけてから座る
  • 歩行器・歩行補助つえは要支援1・2、要介護1でも貸与対象
  • 令和6年4月から歩行器・杖・スロープは貸与か販売かを選べる
  • ただし販売対象の歩行器は「四脚のもの」のみ。車輪付きの歩行車は貸与だけ
  • レンタルなら合わなければ交換できる

参考にした情報

※本記事の福祉用具の定義・種目は、厚生労働大臣が定める福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目(平成11年厚生省告示第93号)にもとづいて整理したものです。要介護度による給付制限および例外給付の取扱いは、市町村(保険者)によって運用が異なる場合があります。レンタル料金は商品・事業者によって異なります。実際の選定・契約にあたっては、ケアマネジャーおよび福祉用具専門相談員にご確認ください。高さの合わせ方や使い方に関する記述は、リハビリテーション領域で一般に用いられている整理および筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづくものであり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません(確度:中)。適切な用具は本人の状態と住環境により異なるため、担当の理学療法士・福祉用具専門相談員にご相談ください。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。

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リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味