誤嚥性肺炎で最も危険なのは、むせる誤嚥ではなく「むせない誤嚥」です。むせるということは、気管に入ったものを出そうとする反射が働いている証拠でもあります。反射が弱ると、誤嚥しても咳が出ません。これを不顕性誤嚥といい、気づかないうちに肺炎につながります。

そしてもう一つ。食事中より、夜間の唾液の誤嚥のほうが問題になることがあります。だからこそ口腔ケアが予防の中心になります。この記事では、厚生労働省の資料と診療報酬の告示を確認したうえで、予防とリハビリの具体策を整理しました。

この記事でわかること

  • 誤嚥性肺炎が起こる仕組みと、むせない誤嚥の怖さ
  • 口腔ケアが予防の中心である理由
  • 厚労省の口腔機能向上プログラム8項目
  • 嚥下機能をチェックする方法
  • 食事の姿勢と一口量の具体的な工夫
  • 食後2時間の過ごし方
  • 摂食機能療法の点数と算定回数の制限
  • 肺炎を疑うサイン(発熱がないこともある)

誤嚥性肺炎のリハビリと予防で最も大事なこと

誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液、胃の内容物が気管に入り、それに含まれる細菌が肺で炎症を起こす病気です。高齢者の肺炎の多くがこれに該当するとされています。

ここで押さえるべきなのは、「何が入ったか」より「何が一緒に入ったか」という視点です。

誤嚥そのものは誰にでも起こる

健康な人でも、寝ている間に少量の唾液を誤嚥していることがあります。それでも肺炎にならないのは、唾液に含まれる細菌が少なく、体の抵抗力と咳反射が働いているからです。

逆に言えば、口の中が汚れている=細菌の多い唾液を誤嚥していることになります。これが、口腔ケアが誤嚥性肺炎予防の中心に置かれる理由です。

むせない誤嚥(不顕性誤嚥)が最も危険

むせるのは、気管に入った異物を出そうとする防御反応です。つまりむせている間は、防御が働いています。

問題は、加齢や脳血管疾患、薬の影響などで咳反射が弱くなったときです。誤嚥しても咳が出ない。本人も家族も気づかない。「最近むせなくなった」は、良くなったのではなく悪くなっているサインのことがあります。

ちびウルフちびウルフ

むせなくなったから安心だと思っていました。

リハウルフリハウルフ

そこが落とし穴です。食事量が減った、食べるのが遅くなった、食後に声がガラガラする、微熱が続く。むせ以外のサインを見てください。むせなくなったのに肺炎を繰り返す方は実際にいます。

むせや嚥下障害のサイン全般についてはむせやすいのは病気?原因・嚥下障害のサインと家庭でできる対処法で詳しく解説しています。

口腔ケアが予防の中心

口の中の細菌を減らすことが、そのまま肺炎の予防になります。厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」も、口腔機能向上プログラムの目的として「誤嚥、肺炎、窒息の予防をする」ことを挙げています。

  • 毎食後の歯みがき:特に就寝前は必ず。夜間の唾液誤嚥に直結します
  • 義歯も毎日洗う:義歯にも細菌は付着します。夜は外して保管
  • 舌の清掃:舌苔(ぜったい)は細菌のかたまり。専用ブラシで奥から手前へ優しく
  • 粘膜のケア:口が乾いている方はスポンジブラシや保湿剤も
  • 歯科の定期受診:虫歯・歯周病・義歯の不適合を放置しない

食べていない人ほど口が汚れる

誤解されやすい点です。経管栄養で口から食べていない方は、咀嚼による自浄作用がなく、唾液も減るため、口の中はむしろ汚れやすくなります。「食べていないから歯みがきは不要」は逆です。口腔ケアの必要性はむしろ高くなります。

歯ブラシの選び方は高齢者向け歯ブラシおすすめ10選|訪問リハ目線の選び方と使い方で解説しています。

厚労省の口腔機能向上プログラム8項目

市町村の介護予防事業で行われる内容です。厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」に示された8項目を、原文の表現のまま挙げます。

項目内容(原文より)
①口腔体操の指導口唇や頬、歯や咽頭などの咀嚼や嚥下の器官の動きを維持し、高めていくための直接的な機能訓練
②口腔清掃の指導清掃しづらい部位を指摘し、歯ブラシの仕方、義歯の清掃法・管理法等を指導
③口腔清掃の実施本人では清掃困難な部位の清掃介助等を実施
④唾液腺マッサージ指導三大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)へのマッサージ法を指導
⑤咀嚼訓練・指導おいしく食べ、窒息予防など安全な食事を継続するための訓練及び指導
⑥嚥下訓練・指導むせの軽減、肺炎予防などを目的とした訓練及び指導
⑦発音・発声に関する訓練・指導構音機能の維持・向上を目的とし、ひいては咀嚼や嚥下機能に関する訓練指導
⑧食事姿勢や食環境についての指導食事の時の姿勢や適切な食具の選択など、環境面への援助や指導助言

注目したいのが⑦の発音・発声です。声を出すことが、そのまま嚥下の訓練になります。歌う、音読する、大きな声で話す。これらは自宅でも今日からできます。

また④唾液腺マッサージも自宅で行えます。耳の下(耳下腺)、顎の下(顎下腺)、顎の先の裏側(舌下腺)を、それぞれ10回程度やさしく押します。口が乾きやすい方には有効です。

嚥下機能をチェックする

厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」は、口腔機能のスクリーニング方法として次を挙げています。

方法判定
基本チェックリスト(口腔 No.13〜15)2項目以上該当で口腔機能低下
OFI-8(Oral Frailty Index-8)3点以上で「オーラルフレイルの危険性あり」、4点以上で「危険性が高い」
EAT-10摂食・嚥下に特化したスクリーニング。10項目を5段階で回答
反復唾液嚥下テスト(RSST)事前・事後アセスメントの指標として使用

基本チェックリストの口腔3項目は、原文の表現で次のとおりです。

  • 半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか(はい=該当)
  • お茶や汁物等でむせることがありますか(はい=該当)
  • 口の渇きが気になりますか(はい=該当)

2項目以上に該当すれば、市町村の口腔機能向上プログラムの対象になり得ます。窓口は地域包括支援センターです。

オーラルフレイルは全身に波及する

厚労省マニュアルは、大規模縦断研究の結果として「軽微な口腔機能の低下であってもサルコペニアや要介護認定、死亡のリスクを高めることが示されており、将来的な身体的フレイルへの影響も示された」と記載しています。口の問題は口だけで終わりません。

フレイル全般についてはフレイルとは?チェック方法と予防の3本柱をご覧ください。

食事の姿勢と食べ方の工夫

同じものを食べても、姿勢と食べ方で誤嚥のリスクは変わります。

項目工夫理由
座る姿勢深く腰かけ、足裏を床につける体が安定しないと飲み込みに集中できない
顎の角度やや引く(うなずく程度)顎が上がると気管が開いて誤嚥しやすい
ベッド上指示された角度に起こす。背中に隙間をつくらない角度は個別に決まります。自己判断で下げない
一口量ティースプーン1杯程度から多いと処理しきれず、こぼれて誤嚥する
ペース飲み込んだのを確認してから次の一口口に溜めたまま次を入れると危険
介助する位置目線が同じか、やや下から上から食べさせると顎が上がる
食事中の声かけ飲み込む瞬間は話しかけない会話しながらの嚥下は誤嚥の原因

特に重要なのが「顎を引く」ことと、介助者が立ったまま食べさせないことです。立って上から介助すると、本人は自然に顎を上げて見上げる姿勢になり、気管が開きます。必ず座って、同じ目線かやや下から介助してください。

水分が最も誤嚥しやすい

サラサラした水分は、のどを速く流れ落ちるため、飲み込む準備が間に合わずに気管へ入りやすくなります。むせやすい方には、とろみをつけると安全性が上がります。

ただしとろみの濃さは濃ければよいわけではありません。濃すぎると口やのどに残り、それがまた誤嚥の原因になります。適切な濃さは言語聴覚士や医師の評価で決めます。

とろみ剤や介護食については、嚥下食宅配のおすすめ介護食レトルトおすすめ7選も参考にしてください。

食後の姿勢

食事が終わった後も重要です。

  • 食後すぐに横にならない:目安として2時間程度は座位を保つ
  • 食後の口腔ケア:食べかすを残さない
  • 口の中に残っていないか確認する:麻痺がある方は頬の内側に溜まりがち
  • 横になるときも上半身を少し上げる:胃からの逆流を防ぐ

胃の内容物の逆流による誤嚥も、肺炎の原因になります。厚労省マニュアルも「窒息に至らなくても食道残渣や胃液の気管内への流入は肺炎の原因となるため注意が必要」としています。

肺炎を疑うサイン

高齢者の肺炎は、典型的な症状が出ないことがあります。「熱が出て咳が出る」と思っていると見逃します。

高齢者の肺炎で見られるサイン

  • なんとなく元気がない、反応が鈍い
  • 食事量が急に減った
  • いつもより傾眠がち、意識がぼんやりする
  • 呼吸が速い(1分間に25回以上)
  • 食後に声がガラガラする、痰がらみの声になる
  • 微熱が続く、または熱が出ない
  • だるさ、せん妄のような言動

発熱と咳がないから肺炎ではない、とは言えません。いつもと違う様子があれば受診してください。

摂食機能療法という制度

嚥下の訓練には、診療報酬上の区分があります。診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)の原文で確認しました。

区分点数(1日につき)算定の条件
摂食機能療法(30分以上)185点摂食機能障害を有する患者に、1月に4回。ただし治療開始日から3月以内は1日につき算定可
摂食機能療法(30分未満)130点脳卒中の患者で摂食機能障害を有するものに、発症から14日以内に限り1日につき

ここで押さえるべきは「治療開始日から3か月以内は毎日、それ以降は月4回まで」という構造です。最初の3か月が集中的に訓練できる期間だということになります。

さらに、施設基準を届け出た医療機関では摂食嚥下機能回復体制加算(1:210点、2:190点、3:120点)が算定できます。多職種でのチーム対応を評価するものです。

在宅でも訓練は受けられる

訪問リハビリや訪問看護で、言語聴覚士(ST)による嚥下訓練を受けられる場合があります。また、口腔ケアについては歯科医師・歯科衛生士の訪問(訪問歯科診療、居宅療養管理指導)という選択肢もあります。

「通院できないから何もできない」ということはありません。ケアマネジャー・主治医にご相談ください。

よくある質問

むせなくなったのは良くなったということですか?

そうとは限りません。咳反射が弱ると、誤嚥しても咳が出なくなります(不顕性誤嚥)。むせなくなったのに食事量が減った、食後に声がガラガラする、微熱が続くといった変化があれば受診してください。

なぜ口腔ケアが肺炎予防になるのですか?

誤嚥そのものは誰にでも起こりますが、肺炎になるかどうかは唾液に含まれる細菌の量と体の抵抗力によります。口の中が汚れていると、細菌の多い唾液を誤嚥することになります。就寝前のケアが特に重要です。

口から食べていない人にも口腔ケアは必要ですか?

必要です。むしろ重要度は上がります。咀嚼による自浄作用がなく唾液も減るため、口の中は汚れやすくなります。「食べていないから不要」は逆です。

食事のときの姿勢で気をつけることは?

深く座って足裏を床につけ、顎をやや引いた姿勢です。顎が上がると気管が開いて誤嚥しやすくなります。介助する側は必ず座り、同じ目線かやや下から介助してください。

とろみは濃いほうが安全ですか?

違います。濃すぎると口やのどに残り、それが誤嚥の原因になります。適切な濃さは個人によって異なるため、言語聴覚士や医師の評価で決めてください。

食後すぐ横になってもいいですか?

避けてください。目安として2時間程度は座位を保ちます。胃の内容物の逆流による誤嚥も肺炎の原因になります。横になる場合も上半身を少し上げてください。

嚥下の訓練は自宅でもできますか?

できます。厚労省の口腔機能向上プログラムには、発音・発声の訓練や唾液腺マッサージも含まれています。歌う、音読する、大きな声で話すことは嚥下の訓練になります。

嚥下機能はどこでチェックできますか?

地域包括支援センターや市町村の口腔機能向上プログラムで確認できます。基本チェックリストの口腔3項目のうち2項目以上に該当する場合は相談の目安です。

摂食機能療法は何回受けられますか?

30分以上の場合、原則として1月に4回までです。ただし治療開始日から3か月以内は1日につき算定できます。最初の3か月が集中的に訓練できる期間になります。

熱がなければ肺炎ではないですか?

そうとは限りません。高齢者では発熱しないことがあります。元気がない、反応が鈍い、食事量が減った、呼吸が速い、傾眠がちといった変化も肺炎のサインです。いつもと違う様子があれば受診してください。

まとめ

  • 最も危険なのは、むせない誤嚥(不顕性誤嚥)
  • 「最近むせなくなった」は悪化のサインのことがある
  • 誤嚥そのものは誰にでも起こる。問題は唾液に含まれる細菌の量
  • 口腔ケアが予防の中心。特に就寝前のケアが重要
  • 口から食べていない人ほど口の中は汚れやすい
  • 厚労省の口腔機能向上プログラムは8項目で構成される
  • 発音・発声の訓練や唾液腺マッサージは自宅でもできる
  • 基本チェックリストの口腔3項目のうち2項目以上該当が相談の目安
  • 軽微な口腔機能の低下でもサルコペニア・要介護・死亡のリスクを高める
  • 食事は深く座り、足裏を床につけ、顎をやや引く
  • 介助者は立たず、同じ目線かやや下から介助する
  • 水分が最も誤嚥しやすい。ただしとろみは濃すぎても危険
  • 食後は2時間程度、座位を保つ
  • 高齢者の肺炎は発熱・咳が出ないことがある
  • 摂食機能療法は30分以上185点。治療開始3か月以内は毎日、以降は月4回

参考にした情報

※本記事の口腔機能向上プログラムの内容・スクリーニング方法は、厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」にもとづいて整理したものです。点数・算定要件は診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)によります。食事姿勢・一口量・食後の座位時間などの具体的な目安は、摂食嚥下リハビリテーション領域で一般に用いられている整理および筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづくものであり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません(確度:中)。適切な食事形態、とろみの濃度、ベッドアップの角度は個人によって大きく異なり、誤った設定はかえって危険です。必ず医師・歯科医師・言語聴覚士の評価と指示に従ってください。介護予防事業の内容・対象は市町村によって異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味