手すりの後付け工事|住宅改修費20万円を解説

「玄関の上がりかまちに手すりを付けたい」——訪問先でいちばん多い相談です。ここで先に工事を発注してしまうと、介護保険は1円も出ません。住宅改修費は事前申請が原則だからです。
この記事では、理学療法士・介護支援専門員として住宅改修の理由書を書いてきた立場から、手すりの後付け工事が介護保険でどう扱われるのかを、厚生労働省の告示・通知の原文にもとづいて整理します。20万円という枠の正確な意味と、それがもう一度使えるようになる2つの場合まで書きます。
- 手すりが「レンタル」と「工事」に分かれる理由
- 介護保険で認められる手すりの取付けの範囲
- 20万円という枠の正確な中身
- 20万円がもう一度使えるようになる2つの場合
- 事前申請の手順と必要書類
- やってはいけない進め方
手すりは「レンタル」と「工事」に分かれる
まずここを押さえてください。同じ手すりでも、制度がまったく違います。
| 工事を伴わない手すり | 福祉用具貸与(レンタル)。据置型、突っ張り型など。毎月のレンタル料がかかり、支給限度額の枠を使う |
|---|---|
| 工事を伴う手すり | 住宅改修。壁に固定するものなど。生涯20万円の枠から、1割負担なら最大18万円が支給される |
解釈通知(老企第34号)は、福祉用具貸与の「手すり」について「取付けに際し工事(ネジ等で居宅に取り付ける簡易なものを含む)を伴うものは除かれる」とし、工事を伴う場合で「手すりの取付け」に該当するものは住宅改修としての給付の対象となると明記しています。
リハウルフ注目してほしいのは「ネジ等で居宅に取り付ける簡易なものを含む」という一文です。ネジ止めした時点で「工事」扱いになります。「簡単だからレンタルで」とはいきません。
認められる手すりの取付けの範囲
解釈通知は、住宅改修の「手すりの取付け」を次のように定義しています。
ポイントは3つです。
- 屋外も対象|「玄関からの道路までの通路等」が明記されています。門扉までのアプローチも検討できます
- 目的が要る|転倒予防、移動、移乗のいずれかに資すること。「あると便利」では通りません
- 形状は限定されない|二段式、縦付け、横付けなど、必要に応じて適切なものを選べます
壁の下地補強も対象になる
見落とされやすい点です。解釈通知は、住宅改修に付帯して必要となる改修として、手すりの取付けについて「手すりの取付けのための壁の下地補強」を挙げています。
古い家では、石膏ボードだけで下地が入っておらず、そのままではネジが効かないことがよくあります。その補強工事も含めて申請できます。「下地がないから諦める」必要はありません。
ちびウルフ下地の工事まで見てもらえるんだ。それは助かるね
住宅改修の対象は6種類
厚生省告示第95号は、住宅改修の種類を「一種類とし」たうえで、次の6つが含まれるとしています。
| 一 手すりの取付け | 廊下、便所、浴室、玄関、玄関から道路までの通路等 |
|---|---|
| 二 段差の解消 | 敷居を低くする、スロープを設置する、浴室の床のかさ上げなど。動力により段差を解消する機器(昇降機、リフト、段差解消機)の設置は除かれる |
| 三 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更 | 畳から板製床材・ビニル系床材へ、浴室の床を滑りにくいものへ、通路面を滑りにくい舗装材へ |
| 四 引き戸等への扉の取替え | 開き戸を引き戸・折戸・アコーディオンカーテン等に。扉の撤去、ドアノブの変更、戸車の設置も含まれる |
| 五 洋式便器等への便器の取替え | 和式から洋式へ、便器の位置や向きの変更。既に洋式の場合の暖房便座・洗浄機能の付加は含まれない |
| 六 その他前各号に付帯して必要となる住宅改修 | 手すりの下地補強、扉の取替えに伴う壁・柱の改修、便器の取替えに伴う給排水設備工事など |
住宅改修費20万円という枠の正確な中身
支給限度基準額は、厚生省告示第35号で「二十万円」と定められています。厚生労働省の資料では、次のように整理されています。
| 金額 | 生涯20万円(要支援・要介護区分にかかわらず定額) |
|---|---|
| 給付割合 | 原則9割(上限18万円)、所得に応じて8割(上限16万円)・7割(上限14万円) |
| 回数 | 限度額の範囲内であれば、複数回の申請も可能 |
| 支払い方 | いったん全額を支払い、後から支給を受ける(償還払い) |
「生涯20万円」という制限の理由も、厚生労働省の資料に書かれています。住宅改修が個人資産の形成につながる面があること、賃貸住宅等に居住する高齢者との均衡等を考慮したためです。
20万円がもう一度使えるようになる2つの場合
ここを知らない方が本当に多い。厚生労働省の資料は、次の2つの場合に再度20万円までの支給限度基準額が設定されるとしています。
三段階上昇の「段階」
| 第一段階 | 要支援1 |
|---|---|
| 第二段階 | 要支援2・要介護1 |
| 第三段階 | 要介護2 |
| 第四段階 | 要介護3 |
| 第五段階 | 要介護4 |
| 第六段階 | 要介護5 |
要支援2と要介護1が同じ第二段階である点に注意してください。たとえば要支援2(第二段階)から要介護4(第五段階)になれば、3段階上昇にあたります。
リハウルフ状態が大きく変われば、必要な改修も変わります。「もう20万円使ったから」と諦めている方を、私は何人も見てきました。今の要介護度と、改修したときの要介護度を並べて、ケアマネジャーに確認してもらってください。
事前申請は絶対
介護保険法第45条第2項は、居宅介護住宅改修費について「厚生労働省令で定めるところにより、市町村が必要と認める場合に限り、支給する」と定めています。市町村が事前に内容を確認して、はじめて給付の対象になるという構造です。
厚生労働省の資料も、「必要な書類(住宅改修が必要な理由書等)を添えて、事前に市町村へ申請書を提出し、工事完成後、領収書等を提出することにより、保険給付される」としています。
ちびウルフ先に工事したらダメ、って一番やっちゃいそうなやつだ
手続きの流れと必要書類
ここが起点です。何に困っているか(夜トイレに行けない、玄関で転ぶ)を伝えます。
厚生労働省の資料は、複数事業所からの見積もり提出を促進としています。1社で決めないでください。
提出書類は、①支給申請書、②工事費見積り書、③住宅改修が必要な理由書、④住宅改修後の完成予定の状態が分かるもの(日付入り写真または住宅の間取り図など)。
保険給付として適当な改修かどうかを、市町村が事前に確認します。
いったん全額を自分で支払います。
提出書類は、⑤領収書、⑥工事費内訳書、⑦改修後の状態を確認できる書類(箇所ごとの改修前後の写真。原則として撮影日がわかるもの)、⑧住宅の所有者の承諾書(本人が所有者でない場合)。
市町村が事前提出書類との照合と工事内容の確認を行い、必要と認めた場合に支給されます。
理由書は誰が書くのか
厚生労働省の資料によると、住宅改修が必要な理由書の作成者は次のとおりです。
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)
- 地域包括支援センター担当職員
- 作業療法士
- 福祉住環境コーディネーター検定試験2級以上
- その他これに準ずる資格等を有する者
ちびウルフ写真は撮影日が分かるようにするんだね。忘れそう
市町村が上乗せしている場合がある
介護保険法第45条第6項は、市町村が条例で定めるところにより、支給限度基準額に代えて、その額を超える額を当該市町村における支給限度基準額とすることができると定めています。
つまり、20万円より手厚い市町村が存在し得るということです。また、介護保険とは別に、市町村が独自の住宅改修助成を持っている場合もあります。「20万円が全国一律の上限」と思い込まず、自分の市町村に確認してください。
やってはいけない進め方
リハウルフ5番を強調しておきます。「せっかくだから全部やっておこう」で20万円を使い切ると、半年後に本当に必要な場所へ回せません。手すりの位置も、本人の動きに合わせて決めるもの。動きが変われば、正解も変わります。
賃貸住宅でも使えますか?
20万円を使い切った後は、もう使えませんか?
すでに工事をしてしまいました。
玄関の外、道路までの通路にも付けられますか?
階段昇降機は住宅改修で付けられますか?
- 手すりは、工事を伴わないものはレンタル、工事を伴うものは住宅改修。ネジ止めも「工事」に含まれる。
- 手すりの取付けは、廊下・便所・浴室・玄関・玄関から道路までの通路等が対象。屋外も含まれる。
- 形状は二段式、縦付け、横付け等。目的は転倒予防・移動・移乗に資すること。
- 壁の下地補強も、付帯して必要となる住宅改修として対象になる。
- 住宅改修の対象は6種類。ただし告示上は「一種類」で、20万円の枠を共有する。
- 支給限度基準額は生涯20万円。要支援・要介護区分にかかわらず定額。
- 給付は原則9割で上限18万円、所得に応じて8割16万円・7割14万円。
- 限度額の範囲内なら複数回の申請ができる。
- 三段階上昇時と転居時は、再度20万円の枠が設定される。要支援2と要介護1は同じ第二段階。
- 事前申請が原則。法律上、市町村が必要と認める場合に限り支給される。
- 改修前の写真を必ず撮る。複数事業所から見積もりを取る。
- 市町村が条例で20万円を超える額を定めている場合がある。必ず自分の市町村に確認する。
- 厚生労働省「厚生労働大臣が定める居宅介護住宅改修費等の支給に係る住宅改修の種類(平成11年3月31日厚生省告示第95号)」(住宅改修の6種類、「一種類とし」の規定)
- 厚生労働省「居宅介護住宅改修費支給限度基準額及び介護予防住宅改修費支給限度基準額(平成12年2月10日厚生省告示第35号)」(二十万円)
- 厚生労働省「告示に関する解釈通知(介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて/平成12年1月31日老企第34号)」(PDF。手すりの取付けの場所と形状、貸与の手すりとの区分、動力による段差解消機器の除外、付帯工事としての壁の下地補強)
- 厚生労働省「介護保険における住宅改修」(PDF。生涯20万円と9割・8割・7割の上限額、複数回申請、三段階上昇と転居によるリセット、段階区分、事前申請の手順と提出書類、理由書の作成者)
- e-Gov法令検索「介護保険法(平成9年法律第123号)」(第45条第2項:市町村が必要と認める場合に限り支給、第3項:百分の九十、第6項:市町村が条例で上乗せできること)
※本記事の制度に関する記述は、厚生労働省の告示・解釈通知・公表資料および介護保険法の条文にもとづきます。実務的な進め方に関する内容は筆者(理学療法士・介護支援専門員)の経験にもとづくものです。申請書類の様式、必要書類の細部、やむを得ない事情の判断、上乗せ助成の有無は市町村によって異なります。着工前に必ず市区町村・地域包括支援センター・担当ケアマネジャーにご確認ください。内容は2026年8月時点の情報です。




