老人ホームへの入居が決まると、次に来るのが「何を持たせればいいのか」という問題です。施設からリストは渡されるものの、数量の書き方があいまいで、結局どれをどれだけ買えばいいのか分からない——ご家族から本当によく相談されます。

この記事では、理学療法士・介護支援専門員として施設と在宅の両方に関わってきた立場から、入居前にそろえる持ち物を用途別に整理します。あわせて、買う必要がないもの入居後に買い足しになりがちなものという、リストには書かれていない部分まで書きます。ここが分かっていないと、確実に無駄が出ます。

この記事でわかること
  • 入居前にそろえる持ち物の一覧(用途別・目安の数量つき)
  • 買わなくていいもの/買うと損をするもの
  • 名前つけの正しいやり方と、失敗しやすい落とし穴
  • 入居後に「やっぱり要る」となりがちなもの
  • いつ何を買えばいいかのスケジュール

大前提:買い出しは「施設のリストを見てから」

いちばん最初にお伝えします。施設から持ち物リストをもらう前に、まとめ買いをしないでください。

持ち物の指定は施設ごとにまったく違います。特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅では、居室の設備も、施設側が用意するものも異なります。同じ「特養」でも、洗濯を施設が請け負うか家族が持ち帰るかで、必要な衣類の枚数は倍近く変わります。

現場でよくある無駄入居の話が出た時点で張り切って衣類を10着買いそろえ、いざリストを見たら「乾燥機にかけるので、乾燥機不可の衣類は不可」と書かれていた——という失敗を何度も見ています。買うのはリストを受け取ってから。これだけで数万円変わります。
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リストをもらったら、「これは施設で用意してもらえますか」「洗濯はどちらがしますか」の2つは必ず聞いてね。この2つで買う物の半分が決まるんだ。

持ち物リスト一覧(用途別・早見表)

一般的な施設で求められることが多いものを、用途別にまとめました。数量は「洗濯を施設が週2〜3回してくれる場合」の目安です。

区分持ち物目安の数量
衣類上衣・ズボン(前開き推奨)、下着、靴下、パジャマ、羽織もの各5〜7組
履物かかとのある室内履き、外出用の靴各1足
口腔ケア歯ブラシ、コップ、入れ歯ケース、入れ歯洗浄剤、歯みがきシート各1〜2
入浴・清拭バスタオル、フェイスタオル、シャンプー、ボディソープ、清拭用シートタオル各3〜5
排泄紙パンツ、尿とりパッド、おしりふき各1〜2パック
食事食事用エプロン、飲みやすいコップエプロン2〜3
居室時計、カレンダー、ティッシュ、ハンガー、洗濯ネット、写真各1式
その他保湿クリーム、爪切り、眼鏡・補聴器と替え電池、常用薬とお薬手帳各1
数量の考え方迷ったら「洗濯の頻度 × 2 + 1」で考えてください。週2回洗濯なら5組。少なすぎると職員が着回しに困り、多すぎると居室のタンスに入りきりません。居室の収納は想像よりずっと小さいので、詰め込みすぎは禁物です。

買わなくていいもの・買うと損をするもの

ここが、他の持ち物リスト記事にはあまり書かれていない部分です。

1. 車いす・歩行器・介護ベッド

施設に入居すると、これらは施設の備品を使うのが基本です。在宅では介護保険のレンタル(福祉用具貸与)で借りるものであり、いずれにしても自費で買うものではありません。「入居するから買っておこう」は、いちばん高くつく勘違いです。

2. ポータブルトイレ・シャワーチェア

これらは在宅では特定福祉用具販売の対象で、指定を受けた事業者から購入すれば費用の一部が戻ります。施設では設備を使うため、そもそも不要なことがほとんどです。通販で定価購入するのがいちばん損な品目です。

3. 高価な衣類・思い入れのある衣類

施設の洗濯は、大量の衣類を高温で洗い、乾燥機にかけます。ウール、シルク、装飾のついた服は縮む・傷むと思ってください。綿混の、洗濯機と乾燥機に耐える普段着が正解です。大切な一着は、面会や外出のときのために自宅で保管しておくほうが安心です。

4. 大量のまとめ買い

紙パンツやパッドは、入居後に体調やサイズが変わることが珍しくありません。最初は1〜2パックにとどめ、施設で実際に使っている物を確認してから買い足すのが確実です。

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じゃあ、家族が用意するものって意外と少ないの?

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大きな物はほとんど施設側なんだ。家族がそろえるのは「身につける物」と「消耗品」。ここに集中すればいいよ。

衣類:前開きと「かかとのある靴」が基本

選び方の基準は3つ

施設の衣類選びは、おしゃれよりも次の3点が優先されます。

  • 前開きであること——かぶりの服は、肩や腕が上がりにくい方には介助でも着せにくい
  • 伸縮性があること——ウエストがゴムのズボンが最も扱いやすい
  • 洗濯機・乾燥機に耐えること——縮む素材は避ける

靴は「かかとのあるもの」を必ず

施設での転倒は、スリッパやサンダルが原因になることが本当に多いです。かかとが覆われていて、面ファスナー(マジックテープ)で調整できる靴を選んでください。むくみで足のサイズが変わる方が多いため、ひも靴よりも面ファスナーが扱いやすいです。

口腔ケア用品:入れ歯まわりを忘れずに

意外と抜けやすいのが、入れ歯の保管容器と洗浄剤です。入れ歯を使っている方は、ケースに必ず名前を書ける物を選んでください。施設では入れ歯の紛失・取り違えが起こりやすく、作り直しには時間もお金もかかります。

また、体調が悪い日や、洗面所まで行くのが難しい日のために、拭き取りタイプの口腔ケア用品があると職員も助かります。

入浴・清拭用品

入浴は施設の設備で行うので、家族が用意するのはタオルと洗浄料が中心です。バスタオルは意外とかさばるので、薄手のものを多めにするほうが収納に収まります。

入浴できない日の体拭きに使う清拭シートは、施設が用意する場合と持参の場合があります。リストに記載があれば用意してください。

保湿は「入居後の必需品」になりやすい

高齢の方は皮膚が乾燥しやすく、施設では入浴後の保湿を家族の持参品で行うことがよくあります。乾燥が気になる方は、使い慣れたものを1本持たせておくと安心です。

排泄用品:最初は少なめに

紙パンツ・尿とりパッドは、施設が一括購入して実費請求する方式のところもあります。持参が必要かどうかは必ず確認してください。持参の場合も、最初から大量に買わないこと。サイズや吸収量は入居後に変わります。

食事まわりの持ち物

食事用エプロンは、洗い替えを考えて2〜3枚が目安です。首まわりがきつくないもの、丸洗いできるものを選んでください。

コップは、割れない素材が基本です。むせやすい方には、傾けずに飲めるタイプが向きます。ただしどの形が合うかは飲み込みの状態によって変わるため、施設の言語聴覚士や看護職員に確認してから買うのがいちばん確実です。

居室で使うもの

ここは「その人らしさ」が出る部分です。実用面では、日付と時間が分かるものを置いてください。

入居直後は環境が変わることで混乱しやすく、日付や時間が目で確認できると落ち着く方が多いです。文字が大きく、暗くても見えるデジタル時計が扱いやすいです。

そして、写真です。ご家族の写真、昔の職場の写真、飼っていた犬の写真。これは職員にとっても大きな意味があります。その人がどんな人生を送ってきたのかが分かると、会話が生まれます。持ち物リストには絶対に載りませんが、私がいちばんおすすめする持ち物です。

名前つけ:全部の物に、必ず

これを甘く見ると、あとで泣きます。

施設では大量の洗濯物を一括で扱うため、名前のない衣類は高確率で行方不明になります。タオル、靴下、下着、コップ、入れ歯ケース、眼鏡ケース——持ち込むもの全部に名前を書いてください。

名前つけのコツ ・衣類は洗濯タグではなく、目立つ位置に。タグは色あせて読めなくなります
・靴下は左右それぞれに
・油性ペンは洗濯でにじむので、布用スタンプかアイロンシールが確実
・フルネームで。同じ名字の入居者がいることは珍しくありません
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入居初日にご家族が慌てるのが、この名前つけなんだ。買った当日に、洗濯する前に書く。これを習慣にしてしまうのがいちばんラクだよ。

入居後に「やっぱり要る」となりがちなもの

最初のリストには載っていないのに、後から必要になるものをまとめます。あらかじめ知っておくと、二度手間が減ります。

  • 季節ものの衣類——入居が夏なら、秋には長袖と羽織ものが要ります
  • 洗濯ネットと予備のハンガー——施設によって指定があるので、入居後に確認を
  • 補聴器の替え電池——切れると会話ができず、生活が一気に不便になります
  • 眼鏡の予備・眼鏡バンド——紛失・破損が多い品目の代表です
  • 爪切り・耳かき——共用を避けたい場合は個人持ちで
  • 小銭——理美容代や自販機など、現金が要る場面があります(金銭管理の方法は施設に確認)
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足りない物って、どうやって気づけばいいの?

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面会のたびに「何か足りない物はありますか」と職員に一言聞くのがいちばん早いよ。職員は気づいていても、遠慮して言い出しにくいことがあるからね。

準備のスケジュール

入居日から逆算して動くと、慌てずに済みます。

  • 入居2週間前:持ち物リストを受け取る。洗濯の担当、施設で用意される物、持ち込み禁止の物を確認する。
  • 入居10日前:足りない物を買う。まずは最低限。まとめ買いはしない。
  • 入居1週間前:名前つけをする。ここがいちばん時間を食います。1日では終わりません。
  • 入居3日前:荷物をまとめ、持ち物の一覧表を作る。何を何枚持ち込んだかを控えておくと、紛失時にすぐ気づけます。
  • 入居後2週間:不足を確認して買い足す。職員に「足りない物はありますか」と聞くのが最短です。

よくある質問

持ち込んではいけない物はありますか?
多くの施設で、火気(ライター・線香)、刃物、高価な貴金属や多額の現金、ガラス製品などが制限されます。電気ポットや電気毛布も、火災や事故の観点から不可のことがあります。判断に迷う物は、勝手に持ち込まず必ず事前に確認してください。
テレビや冷蔵庫は自分で持ち込むのですか?
施設によります。居室に備え付けの場合、持ち込み可の場合、レンタルの場合があります。持ち込み可でも、電気代が別途かかることが多いので、費用も一緒に確認してください。
衣類は何枚あれば足りますか?
洗濯の頻度によります。「洗濯の回数×2+1」が目安で、週2回洗濯なら5組程度です。居室の収納は小さいので、多ければいいというものではありません。まずは少なめに用意し、様子を見て足すほうが失敗しません。
スマートフォンは持たせてもいいですか?
可能な施設が増えています。ただし紛失や充電の管理が課題になるため、事前に相談してください。ご本人が操作に不安を感じている場合は、居室の固定電話や施設の電話を使う方法もあります。
持ち物にかかる費用はどのくらいですか?
衣類を新調するかどうかで大きく変わります。手持ちの衣類が使えるなら、消耗品と小物中心で数万円程度に収まることが多い印象です。ただし施設ごとに指定が異なるため、あくまで目安として考えてください。
まとめ
  • 買い出しは施設の持ち物リストを受け取ってから。先走ると無駄が出る。
  • 車いす・ベッド・ポータブルトイレは買わない。施設の備品か、制度で用意する物。
  • 衣類は前開き・伸縮性・乾燥機OKの3条件。「洗濯回数×2+1」が目安。
  • 靴はかかとがあり、面ファスナーで調整できるものを。
  • 持ち込む物すべてにフルネームの記名を。布用スタンプかアイロンシールが確実。
  • 写真はリストに載らないが、いちばん効く持ち物。
参考にした情報(公的機関等)

※本記事の制度に関する内容は、2026年8月時点の情報にもとづいています。持ち物の指定・数量・費用は施設ごとに異なります。最終的な判断は、必ず入居先の施設が交付する持ち物リストと担当職員の説明にしたがってください。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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