サルコペニアとは?診断基準と改善する運動

サルコペニアとは、加齢によって筋肉量と筋力が低下した状態のことです。フレイルが心身全体の衰えを指すのに対し、サルコペニアは筋肉に焦点を当てた概念で、身体的フレイルの中心的な原因になります。
2019年に診断基準が改訂され(AWGS2019)、特殊な機器がなくても、ふくらはぎを測るだけでスクリーニングできるようになりました。この記事では、その基準を確認したうえで、自宅でできる判定方法と、筋肉を戻すための運動・栄養を整理しました。
この記事でわかること
- サルコペニアの定義とフレイル・ロコモとの違い
- AWGS2019による診断基準の数値
- ふくらはぎを測るだけでできるスクリーニング
- 指輪っかテストのやり方と意味
- 握力・5回立ち上がりテストの判定ライン
- サルコペニアに効く運動の種類と頻度
- 運動だけでは戻らない理由(栄養との組み合わせ)
- 二次性サルコペニア(入院・低活動が原因のもの)への注意
サルコペニアとは?筋肉が減っていく状態
サルコペニアは、ギリシャ語の「sarx(筋肉)」と「penia(減少)」を合わせた造語です。加齢に伴う骨格筋量の減少に加えて、筋力または身体機能の低下を伴う状態を指します。
重要なのは、「筋肉が減っただけ」ではサルコペニアとは呼ばない点です。筋肉量が減り、かつ握力が落ちている、あるいは歩くのが遅くなっている。この組み合わせで初めて診断されます。逆に言えば、量より機能が問われるということです。
| 用語 | 何を指すか |
|---|---|
| サルコペニア | 筋肉量の減少+筋力または身体機能の低下 |
| ロコモ | 骨・関節・筋肉など運動器の障害で移動機能が低下した状態 |
| フレイル | 心身の予備能力が低下し要介護に近づいた状態(身体・精神・社会を含む) |
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」も、筋トレの実施割合が低い高齢者や女性について「ロコモティブシンドロームやフレイル、骨粗鬆症を特に発症しやすいことが知られています」として、筋力・身体機能・骨密度の維持改善が期待できる筋トレを積極的に推奨する必要があるとしています。
一次性と二次性の違い(ここが実務では重要)
サルコペニアは原因によって分けられます。
- 一次性(加齢性):加齢以外に明らかな原因がないもの
- 二次性:活動(安静臥床・不活発な生活)、疾患(がん・臓器不全・炎症性疾患)、栄養(摂取不足・吸収不良)が原因のもの
現場で圧倒的に多いのは二次性、特に「活動」が原因のものです。骨折で3週間入院した、肺炎で2週間寝ていた。それだけで筋肉は目に見えて落ちます。加齢による減少は年単位でゆっくり進みますが、安静による減少は週単位で進みます。
ちびウルフ入院前は歩けていたのに、退院したら歩けなくなっていました。なぜですか?
リハウルフそれが二次性サルコペニアです。病気は治っても、寝ていた分の筋肉は勝手には戻りません。そして、加齢性と違ってこちらは戻せる余地が大きい。退院直後の数か月が勝負どころです。この状態は廃用症候群としても整理されます。
サルコペニアの診断基準(AWGS2019)
アジアのサルコペニアワーキンググループ(AWGS)が2019年に公表した診断基準です。日本サルコペニア・フレイル学会も、この改訂内容を公表しています。
| 評価項目 | 基準値 |
|---|---|
| 下腿周囲長(ふくらはぎの太さ) | 男性34cm未満/女性33cm未満 |
| SARC-F(質問票) | 4点以上 |
| 握力 | 男性28kg未満/女性18kg未満 |
| 歩行速度 | 秒速1.0m未満 |
| 5回立ち上がりテスト | 12秒以上 |
| SPPB(身体機能バッテリー) | 9点以下 |
AWGS2019の最大の変更点は、筋肉量の測定機器(DXAやBIA)がない場所でも判定できるルートを設けたことです。ふくらはぎの周囲長やSARC-Fでスクリーニングし、握力または5回立ち上がりテストのどちらかが低下していれば「サルコペニアの可能性あり(possible sarcopenia)」と判定し、そこから介入を始めてよい、という考え方になりました。
これは実務上とても大きい変更です。機器がない診療所や地域の通いの場でも、メジャー1本と椅子1脚で判定に入れるということだからです。
※AWGS2019の数値は、日本サルコペニア・フレイル学会等が公表した基準にもとづく整理です(確度:中〜高=学会の公式資料で確認)。厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません。
自宅でできるサルコペニアのチェック
① 下腿周囲長を測る
椅子に座り、膝を90度に曲げた状態で、ふくらはぎの最も太い部分をメジャーで測ります。男性34cm未満、女性33cm未満が目安です。力を入れずに、皮膚を締めつけない程度に測ってください。
② 指輪っかテスト
両手の親指と人差し指で輪をつくり、利き足でないほうのふくらはぎの最も太い部分を、力を入れずに囲みます。
- 囲めない:筋肉量は保たれている可能性が高い
- ちょうど囲める:やや注意
- 隙間ができる:サルコペニアの可能性が高い
メジャーもいらず、その場でできるのが利点です(東京大学高齢社会総合研究機構が考案。確度:中=複数の二次情報で一致)。厳密な診断ではなく、あくまで気づきのきっかけとして使ってください。
③ 5回立ち上がりテスト
高さ40cm程度の椅子に座り、腕を胸の前で組んだ状態から、できるだけ速く5回立ち座りを繰り返す時間を測ります。12秒以上かかればサルコペニアの疑いです。
測定時の注意
必ず誰かが横について行ってください。速さを求めるテストなので、転倒のリスクがあります。膝や腰に強い痛みがある方、めまいがある方は行わないでください。
④ 歩行速度
秒速1.0m未満が基準です。5mを5秒以上かけて歩くなら該当します。日常では、横断歩道を青信号で余裕をもって渡り切れるかがおおよその目安になります。
サルコペニアを改善する運動
サルコペニアに対して最も確立された介入はレジスタンス運動(筋力トレーニング)です。有酸素運動だけでは筋肉量は増えません。
厚労省の身体活動・運動ガイド2023は、高齢者に対して筋力トレーニングを週2〜3日、筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上を推奨しています。また、筋トレを行ううえでは「少しずつ負荷を高めていく(=漸進性過負荷の原則)ことが重要」「しっかりと筋肉を休める時間(休息日)をとることも同じく重要」としています。
- 椅子からの立ち座り(10回×2〜3セット):大腿四頭筋と殿筋を同時に使う、最も効率のよい種目。座る直前に3秒かけてゆっくり下ろすと負荷が上がります。
- かかと上げ(15回×2セット):下腿三頭筋。下腿周囲長に直接関わる部分です。
- 横への脚上げ(左右10回×2セット):中殿筋。歩行時のふらつき対策になります。
- 座ったままの膝伸ばし(左右10回×2セット):膝に痛みがある人でも行いやすい大腿四頭筋の種目。3秒止めてゆっくり下ろします。
ポイントは負荷を上げ続けることです。同じ回数・同じ速さを半年続けても、体が慣れた時点で伸びは止まります。楽にできるようになったら、回数を増やすか、下ろす動作を遅くしてください。
有酸素運動も併用する
厚労省ガイドが引用した研究では、有酸素性身体活動と筋トレの両方を実施している群の総死亡の相対リスクが0.60で、有酸素のみ(0.75)・筋トレのみ(0.82)のどちらよりも低い値でした。筋肉を増やすのは筋トレですが、両方を回すほうが結果は良くなります。
運動だけでは戻らない|栄養との組み合わせ
ここを外すと、運動が空回りします。厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」は、次のように記載しています。
厚労省マニュアルの記載(原文)
「運動と栄養摂取を組み合わせたプログラムは、サルコペニアやフレイル高齢者の筋肉量や筋力、身体パフォーマンスを改善させる効果が示されているため、必要に応じ運動機能向上マニュアルの運動内容も参考に、運動も組み合わせた計画作成を行う」
同マニュアルは、地域で生活する高齢者について「低栄養またはそのリスクがある者が約4割いるという報告がある」とし、低栄養の高齢者は死亡率や要介護の増大、再入院、QOL低下などの問題が起きやすく、その多くがフレイルやサルコペニアを合併しているとしています。
また、65歳以上では日本人の食事摂取基準(2020年版)が当面目標とするBMIの範囲を21.5〜24.9kg/m²としていることから、BMIが18.5〜21.5の高齢者についても栄養改善プログラムの実施を検討するよう求めています。
低栄養のまま筋トレをすると逆効果
体を動かすエネルギーが足りなければ、体は筋肉を分解して補います。半年で2〜3kg以上体重が減っている場合は、運動より先に食事の立て直しが必要です。まず主治医・管理栄養士に相談してください。特に腎機能に問題がある方は、たんぱく質の量に制限があるため自己判断は禁物です。
サルコペニアに気づいたらどうするか
相談先は、状況によって変わります。
| 状況 | 相談先 |
|---|---|
| 要介護認定を受けていない | 地域包括支援センター(無料・要介護認定不要) |
| 要支援1・2 | 地域包括支援センター(介護予防ケアマネジメント) |
| 要介護1以上 | 担当のケアマネジャー |
| 体重減少・食欲低下がある | まず主治医(原因疾患の確認) |
体重減少がある場合、加齢のせいと決めつけず、まず受診してください。がん、甲状腺疾患、糖尿病、心不全など、体重が減る病気は複数あります。「サルコペニアだと思っていたら別の病気だった」というケースは実際にあります。
介護保険サービスの中では、通所リハビリ(デイケア)が最も専門職の関与が濃く、通所介護(デイサービス)では機能訓練指導員が対応します。両者の制度上の違いは機能訓練とリハビリの違いで整理しています。
よくある質問
サルコペニアは治りますか?
改善は可能です。特に入院や不活発な生活が原因の二次性サルコペニアは、運動と栄養を組み合わせることで戻る余地が大きいです。厚労省の介護予防マニュアル第4版も、運動と栄養摂取を組み合わせたプログラムが筋肉量・筋力・身体パフォーマンスを改善させる効果が示されているとしています。
サルコペニアとフレイルの違いは何ですか?
サルコペニアは筋肉に限定した概念、フレイルは心身全体(身体・精神心理・社会)の衰えを指す広い概念です。サルコペニアは身体的フレイルの主要な原因という関係にあります。
ふくらはぎが細ければサルコペニアですか?
下腿周囲長はスクリーニング(ふるい分け)の指標であって、それだけで診断はつきません。AWGS2019では、ふくらはぎが基準値を下回った場合に、握力や5回立ち上がりテストで筋機能を確認する流れになっています。
握力はどこで測れますか?
地域包括支援センター、市町村の通いの場、通所リハビリ、医療機関などで測定できることがあります。自宅で目安を知りたい場合は、ペットボトルのふたが開けにくくなった、買い物袋を持つのがつらくなった、といった生活の変化で見てください。
プロテインを飲めばいいですか?
食事で足りない場合の補助としては選択肢になりますが、まず食事の見直しが先です。また、腎機能が低下している方はたんぱく質の量に制限があるため、必ず主治医または管理栄養士に相談してください。自己判断での高たんぱく摂取は勧められません。
ウォーキングだけではだめですか?
筋肉量を増やす目的では不十分です。筋肉量にはレジスタンス運動(筋トレ)が必要です。ただし、有酸素運動と筋トレの両方を行う群のほうが死亡リスクが低いことも示されているため、両方を組み合わせるのが理想です。
5回立ち上がりテストは毎日やってもいいですか?
テストとして毎日測る必要はありません。月1回程度で十分です。ただし、立ち座り自体は運動として毎回の回数を決めて週2〜3日行う価値があります。テスト(全力で速く)と運動(ゆっくり丁寧に)は目的が違う点にご注意ください。
何歳から気をつけるべきですか?
一般には65歳以上が対象ですが、入院や長期の安静があった場合は年齢に関係なく注意が必要です。厚労省の身体活動・運動ガイド2023も、年齢で区切るのではなく個人の状況に応じた取組が重要としています。
サルコペニア肥満とは何ですか?
筋肉量が減っている一方で体脂肪が多い状態を指します。体重やBMIだけを見ていると見逃されやすく、握力や歩行速度が低下していれば該当する可能性があります。体重が保たれていても安心とは限りません。
介護保険を使って運動できますか?
要介護・要支援の認定があれば、通所リハビリ・通所介護・訪問リハビリが利用できます。認定がない場合でも、市町村の介護予防事業(通いの場など)に参加できることが多いです。まずは地域包括支援センターにご相談ください。
まとめ
- サルコペニアは筋肉量の減少に筋力または身体機能の低下を伴う状態
- 筋肉が減っただけでは該当せず、機能低下を伴うことが条件
- 一次性(加齢)と二次性(活動・疾患・栄養)に分かれる
- 現場で多いのは入院や安静による二次性。こちらは戻る余地が大きい
- AWGS2019は下腿周囲長 男性34cm未満/女性33cm未満をスクリーニング基準とする
- 握力は男性28kg未満/女性18kg未満、歩行速度は秒速1.0m未満が基準
- 5回立ち上がりテストは12秒以上で疑い
- 機器がなくてもメジャーと椅子で判定に入れるようになった
- 指輪っかテストで隙間ができるなら可能性が高い(簡易チェック)
- 改善にはレジスタンス運動(筋トレ)が必須。週2〜3日が推奨
- 楽にできるようになったら負荷を上げる。休息日もとる
- 運動と栄養の組み合わせで筋肉量・筋力・身体機能が改善すると示されている
- 65歳以上の目標BMIは21.5〜24.9。体重が減っているなら栄養が先
- 体重減少がある場合は加齢と決めつけず、まず受診する
参考にした情報
- 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診断基準の改訂(AWGS2019発表)」
- 厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」(令和4年3月)
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)
- 長寿科学振興財団「サルコペニア診断の変遷とAWGS2019」
- 一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会「フレイルとは」
※本記事の診断基準は、日本サルコペニア・フレイル学会が公表したAWGS2019の内容および厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」にもとづいて整理したものです。AWGS2019は学会の診断基準であり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません。実際の診断・治療にあたっては医師の判断をご確認ください。たんぱく質の必要量は腎機能等により異なるため、主治医・管理栄養士にご相談ください。介護予防事業の内容・対象・費用は市町村によって異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。運動の進め方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。





