肩が痛いとき、多くの方が「五十肩だろう」と考えます。しかし高齢の方の場合、動かせないのか、動かさないだけなのかで、原因も対処もまったく変わります。

放っておくと固まって戻らなくなる一方、無理に動かして悪化することもあります。この記事では、国の調査データと診療報酬の条文を確認して、原因の切り分けとリハビリを受けられる範囲を整理しました。

この記事でわかること

  • 高齢者の肩の痛みで多い原因
  • 五十肩と腱板断裂の見分け方
  • すぐ受診すべき肩の痛み
  • 肩こりと肩の痛みの違い(有訴者率)
  • リハビリを保険で受けられる期間(条文)
  • 起算日が「最初に診断された日」でもよいこと
  • 時期によって変わる家庭での対処
  • やってはいけないこと

高齢者の肩の痛みで多い原因

「五十肩」は正式には肩関節周囲炎と呼ばれますが、肩の痛みがすべてこれではありません。高齢の方で多いものを整理します。

原因特徴
肩関節周囲炎(五十肩)徐々に痛くなる。動かせる範囲がだんだん狭くなる。夜間に痛む時期がある
腱板断裂自分では腕を上げられないが、他の人に支えてもらうと上がる。力が入らない。ひっかかる感じ
石灰沈着性腱板炎突然、激烈に痛む。夜中に急に始まることが多い。動かせない
頚椎から来る痛み首を動かすと響く。腕や指にしびれがある。肩から腕の外側に痛みが走る
変形性肩関節症動かすと痛む。ごりごりと音がする。長い経過で進む
使いすぎ・姿勢によるもの動作や時間帯で痛みが変わる。押すと痛い場所がある

高齢の方で見落とされやすいのが腱板断裂です。加齢とともに増え、はっきりしたけががなくても起こります。五十肩と診断されたまま、実は腱板が切れていたというケースは珍しくありません。

五十肩と腱板断裂の見分け方

家庭でできる簡単な確認方法があります。

他の人に支えてもらう

自分では上がらない腕を、家族が支えてゆっくり上げてみてください。

・痛みは出るが、支えれば上がる → 腱板断裂の可能性がある(動かす力の問題)

・支えてもらっても途中で止まる、硬くて上がらない → 関節が固まっている状態(五十肩など)

ただしこれは目安です。無理に押し上げないでください。強い痛みが出たらすぐ中止します。確定は医師の診察と画像検査で行います。

もう1つの目安が経過です。五十肩は数か月かけて「痛い時期→固まる時期→動きが戻る時期」と移りますが、腱板断裂は力が入らない状態が続きます。「痛みは減ったのに、いまだに腕が上がらない」なら、再度の相談をおすすめします。

すぐ受診すべき肩の痛み

次の場合は、様子を見ないでください。

  • 転倒や打撲のあとに痛みが出た(骨折・脱臼の可能性)
  • 腕が全く上がらない、力が入らない
  • 手や指にしびれ、力の入りにくさがある
  • 発熱をともなう、肩が赤く腫れて熱をもっている
  • 夜間の痛みで眠れない日が続く
  • 胸の圧迫感や息苦しさと一緒に、左肩や腕が痛む
  • じっとしていても痛む、体重が減ってきている

6つめは見逃してはいけません。心臓の病気で、肩や腕に痛みが出ることがあります。冷や汗、吐き気、息苦しさをともなうなら、整形外科ではなく救急です。

転倒後の肩の痛みも要注意です。高齢の方では、上腕骨の付け根が折れていることがあります。高齢者の転倒予防|原因と自宅でできる対策もあわせてご覧ください。

肩こりと肩の痛みは別物

厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」の有訴者率(人口千対)です。

症状全年齢65歳以上
肩こり80.3101.9(男75.2/女123.9)
手足の関節が痛む55.8106.6(男80.8/女127.8)
腰痛102.1174.7

肩こりは男女とも有訴者率の第2位です。ただし肩こりと、腕が上がらない肩の痛みは別の問題です。

切り分けの目安はこうなります。

  • 肩こり…首から肩にかけての重さ・だるさ。腕は上がる
  • 肩関節の痛み…腕を動かすと痛む。上げられない範囲がある。夜間に痛むことがある

マッサージで楽になるのは前者です。腕が上がらないタイプをもんでも改善しません。むしろ受診が遅れます。

肩のリハビリは保険でどこまで受けられるか

整形外科で行うリハビリは、診療報酬上「運動器リハビリテーション料」として算定されます。告示の条文はこうなっています。

診療報酬の算定方法(H002 運動器リハビリテーション料)

「別に厚生労働大臣が定める患者に対して個別療法であるリハビリテーションを行った場合に、当該基準に係る区分に従って、それぞれ発症、手術若しくは急性増悪又は最初に診断された日から150日を限度として所定点数を算定する」

ここが重要です。起算日は発症日や手術日だけでなく、「最初に診断された日」でもよいとされています。いつから痛いのかはっきりしない肩の痛みでも、診断された日から150日という枠で考えられます。

点数は区分によって異なり、運動器リハビリテーション料(Ⅰ)が185点、(Ⅱ)が170点、(Ⅲ)が85点(いずれも1単位=20分)です。自己負担はこの1〜3割です。

150日を過ぎたら終わりではない

条文には続きがあります。「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合その他の別に厚生労働大臣が定める場合には、150日を超えて所定点数を算定することができる」

改善が期待できると医師が判断すれば、150日を超えて継続できる場合があります。「期限だから終わり」と言われて納得できないときは、医師に確認してください。

また、同じ日に消炎鎮痛等処置などを行った場合、それらはリハビリテーション料に含まれることが条文に定められています。「電気をあてるだけ」と「リハビリ」は、会計上まとめて扱われることがあります。

ちびウルフちびウルフ

痛いときは動かさないほうがいいの?それとも動かすの?

リハウルフリハウルフ

時期で変わります。ズキズキして夜も痛む時期は無理をしません。痛みが落ち着いたら、固まる前に動かします。逆をやると長引くので、いま自分がどの時期かを医師に確認してください。

時期によって対処が変わる

肩関節周囲炎の場合、大きく3つの時期に分けて考えます。

時期状態やること
痛みが強い時期安静にしていても痛む。夜間痛がある無理に動かさない。痛みの出ない範囲で腕を下げて揺らす程度。寝るときは腕の下にクッションを入れて楽な位置にする
固まってくる時期痛みは減ったが動かせる範囲が狭い痛みの手前まで動かす。毎日少しずつ。温めてから行うと動かしやすい
回復していく時期動きが戻ってくる動かす範囲を広げる。日常動作で使う。筋力を戻す

いちばん大事なのは痛みが強い時期に無理をしないことと、痛みが引いた後に動かさずに放置しないことです。この2つを逆にすると長引きます。

夜間の痛みには姿勢が効きます。仰向けで腕が後ろに落ちると痛むので、脇の下から腕の下にかけてクッションやタオルを入れて支えてください。これだけで眠れるようになる方がいます。

やってはいけないこと

  • 痛みを我慢して無理に上げる…炎症が強くなり、かえって長引く
  • 三角巾や包帯で固定したまま何週間も過ごす…固まる。医師の指示がある場合を除く
  • 強くもむ・押す…腱板断裂や石灰沈着では悪化することがある
  • 痛いほうの腕をかばって全く使わない…日常生活の範囲では使う
  • 自己判断で痛み止めを増やす…高齢者ではNSAIDsの使用に注意が必要

最後の点について、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」は、NSAIDsについて「上部消化管出血や腎機能障害、心血管障害などの薬物有害事象のリスクを有しており、高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬剤の一つ」とし、短期間・低用量での使用を考慮するとしています。

貼り薬と飲み薬の併用、市販薬との重複にも注意が書かれています。詳しくは高齢者が飲んではいけない薬はある?指針の中身をご覧ください。

よくある質問

肩の痛みは五十肩ですか?

限りません。高齢の方では腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、頚椎から来る痛み、変形性肩関節症などもあります。腱板断裂は五十肩と間違われやすい代表です。

五十肩と腱板断裂はどう見分けますか?

支えてもらえば腕が上がるなら腱板断裂の可能性、支えても硬くて上がらないなら関節が固まっている状態が疑われます。目安であり、確定は医師の診察と画像検査です。

すぐ受診すべき肩の痛みはどれですか?

転倒後、腕が全く上がらない、しびれや脱力、発熱や腫れ、夜間痛で眠れない場合です。胸の圧迫感や息苦しさをともなう肩・腕の痛みは救急です。

肩こりと肩の痛みは違うのですか?

違います。肩こりは首から肩の重さ・だるさで腕は上がります。腕が上がらない、動かすと痛むタイプは肩関節の問題で、もんでも改善しません。

リハビリは何日まで受けられますか?

運動器リハビリテーション料は、発症・手術・急性増悪または最初に診断された日から150日が限度とされています。ただし改善が期待できると医学的に判断される場合は150日を超えて算定できるとされています。

いつから痛いか分からないのですが起算日はどうなりますか?

条文上、起算日は「最初に診断された日」でもよいとされています。発症日がはっきりしない場合も、診断日から150日という枠で考えられます。

痛いときは動かすべきですか?

時期によります。安静時や夜間に強く痛む時期は無理をしません。痛みが落ち着いたら、固まる前に痛みの手前まで動かします。

夜、痛くて眠れません。

仰向けで腕が後ろに落ちると痛むため、脇の下から腕の下にクッションやタオルを入れて支えてください。それでも眠れない日が続く場合は受診してください。

三角巾で吊っておいたほうがいいですか?

医師の指示がある場合を除き、長期間の固定は肩が固まる原因になります。指示された期間を確認してください。

痛み止めを多めに飲んでもいいですか?

自己判断で増やさないでください。指針は高齢者へのNSAIDsについて、短期間・低用量での使用を考慮するとしています。湿布と内服の重複にも注意が必要です。

まとめ

  • 高齢者の肩の痛みは五十肩だけではない
  • 腱板断裂は五十肩と間違われやすい
  • 支えれば上がるなら力の問題、支えても上がらないなら固まっている
  • 石灰沈着性腱板炎は突然の激痛で始まる
  • しびれや腕の脱力があれば頚椎の可能性もある
  • 転倒後の肩の痛みは骨折を疑う
  • 胸の症状をともなう肩・腕の痛みは救急
  • 肩こりの有訴者率は65歳以上で101.9、男女とも第2位
  • 肩こりと肩関節の痛みは分けて考える
  • 運動器リハビリテーション料の限度は150日
  • 起算日は「最初に診断された日」でもよい
  • 改善が期待できると判断されれば150日を超えられる
  • 痛みが強い時期は無理に動かさない
  • 痛みが引いたら固まる前に動かす
  • 夜間痛は腕の下を支えると楽になることがある

参考にした情報

※有訴者率は厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」の数値(人口千対)です。点数・算定日数の上限は診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)にもとづいて整理したもので、実際の算定は医療機関の届出区分や患者の状態によって異なります。150日を超える算定の可否は医師の医学的判断によります。原因の見分け方に関する記述は一般的な臨床上の特徴をまとめた目安であり、診断は医師が画像検査等を含めて行います。家庭での確認は無理に行わず、痛みが出たら中止してください。運動の可否・強度は個々の状態により異なるため、開始前に主治医または担当の理学療法士・作業療法士にご確認ください。薬剤に関する記述は「高齢者の医薬品適正使用の指針」にもとづく整理であり、本記事は特定の薬剤の中止・減量を勧めるものではありません。記述は2026年9月時点の内容として整理しています。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味