ALSのリハビリ|やりすぎない運動と使える制度

ALSのリハビリで最も重要なのは、「鍛えすぎないこと」です。ほかの多くの疾患では筋力トレーニングが推奨されますが、ALSでは強い負荷の運動が筋力低下を進めてしまう可能性(過用性筋力低下)が指摘されています。
「頑張ればなんとかなる」という発想が、この病気では裏目に出ることがあります。目指すのは機能の回復ではなく、残っている機能を消耗させずに、生活を組み立て直すこと。この記事では、運動の考え方と、使える制度を整理しました。
この記事でわかること
- ALSで強い運動を避けるべき理由
- リハビリの3つの目的
- 関節拘縮を防ぐことの重要性
- 呼吸・嚥下・コミュニケーションへの関わり
- 難病患者リハビリテーション料という制度
- 40〜64歳でも介護保険を使える理由
- 指定難病の医療費助成と障害福祉サービス
- 意思伝達装置の給付
ALSのリハビリで最も注意すべきこと
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、運動神経が徐々に障害され、全身の筋力が低下していく進行性の疾患です。指定難病であり、介護保険の特定疾病にも含まれます。
過用性筋力低下(オーバーユース)
ALSでは、強い負荷をかけた運動が筋力低下を進める可能性があるとされています。神経が障害されて働ける運動単位が減っている状態で、残った筋線維を酷使することになるためです。
つまり「筋トレで筋力を維持する」という一般的な考え方は、この病気には当てはまりません。運動の強度と量は、必ず主治医および担当の理学療法士と相談して決めてください(確度:中=神経内科・リハビリテーション領域で広く共有されている考え方であり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません)。
リハビリの3つの目的
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 二次的な障害を防ぐ | 関節拘縮、痛み、褥瘡、廃用。これらは防げる |
| 今の機能で生活を成立させる | 用具・環境・介助方法で、できることを維持する |
| 呼吸・嚥下・意思疎通を支える | 生命と生活の質に直結する部分 |
ここで押さえるべきは、病気の進行は止められなくても、二次的な障害は防げるということです。拘縮した関節や、寝たきりによる廃用は、病気そのものとは別の問題です。
ちびウルフでは、動かないほうがいいのですか?
リハウルフそれも違います。動かなければ関節が固まり、廃用も進みます。「強い負荷をかけない」ことと「動かさない」ことは別です。関節を動かす、日常生活を続ける、疲れを残さない範囲で体を使う。この線引きが難しいからこそ、専門職の評価が要ります。
関節拘縮を防ぐ
リハビリの中で、最も明確に効果が期待できる部分です。
- 毎日、関節を動かす:肩・肘・手指・股関節・膝・足首
- 自分で動かせる部分は自分で:可能な範囲で
- 動かせない部分は他者が動かす(他動運動):ゆっくり、痛みのない範囲で
- 関節の近くを支える:手足の先を持って引っ張らない
- 特に肩と足首:肩は痛みが出やすく、足首は固まると立位が困難になります
肩の痛みは予防が全て
筋力が落ちた肩は関節が緩み、亜脱臼や痛みを起こしやすくなります。一度痛みが出ると、更衣・入浴・移乗のすべてが苦痛になります。
腕を引っ張って起こす・立たせるのは避けてください。介助では体幹(腰・脇)を支えます。方法は移乗介助のやり方、更衣介助のやり方で解説しています。
呼吸への関わり
ALSでは呼吸筋も障害されるため、呼吸機能の管理が重要になります。
- 定期的な呼吸機能の評価:主治医の管理のもとで
- 排痰の援助:咳の力が落ちると痰を出せなくなります。吸引や排痰補助の機器を使う場合があります
- 非侵襲的陽圧換気(NPPV):マスク型の人工呼吸器。導入時期は医師が判断します
- 姿勢の調整:座位のほうが呼吸は楽になります
- 感染予防:肺炎は最も避けたい合併症です
口腔ケアも呼吸器感染の予防につながります。誤嚥性肺炎のリハビリと予防もあわせてご覧ください。
呼吸の変化は早めに相談する
- 横になると息苦しい
- 朝起きたときに頭痛がする、だるい
- 日中の眠気が強い
- 声が小さくなった、痰が出しにくい
これらは呼吸機能の低下を示すことがあります。本人が自覚しにくいため、家族が気づいて主治医に伝えることが重要です。
嚥下とコミュニケーション
飲み込み
むせる、飲み込みにくい、食事に時間がかかるといった変化が出てきたら、言語聴覚士(ST)による評価を受けてください。食事の形態やとろみの調整、姿勢の工夫で安全性が変わります。
ただし、とろみは濃ければよいわけではありません。濃すぎると口やのどに残り、それがまた誤嚥の原因になります。適切な設定は評価にもとづいて決めます。
コミュニケーション
話しにくさが出てきた場合、早い段階から手段を用意しておくことが重要です。
- 文字盤:透明文字盤、指差し文字盤
- 筆談
- 意思伝達装置:わずかな動きやスイッチで操作する機器
- 視線入力装置
意思伝達装置は給付の対象になる
重度の障害により意思の伝達が困難な方に対して、障害者総合支援法の補装具費支給制度により「重度障害者用意思伝達装置」が支給される場合があります。
また市町村の日常生活用具給付等事業により、関連する用具が給付されることもあります。対象範囲や手続きは市町村によって異なるため、市町村の障害福祉担当窓口にご確認ください。
導入には練習の時間が必要です。話せなくなってからでは遅いため、早めに相談してください。
使える制度①|医療保険のリハビリ
診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)には、難病を対象とした区分があります。
難病患者リハビリテーション料(告示より)
1日につき640点。
「別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、入院中の患者以外の患者であって厚生労働大臣が定める疾患を主病とするもの(定める状態にあるものに限る)に対して、社会生活機能の回復を目的としてリハビリテーションを行った場合に算定する」
さらに、医療機関を退院した患者に集中的にリハビリを行った場合、短期集中リハビリテーション実施加算として、退院日から1月以内は1日280点、1月を超え3月以内は1日140点が加算されます(退院日から3月を限度)。
また、神経疾患は脳血管疾患等リハビリテーション料の対象にもなります((Ⅰ)245点・(Ⅱ)200点・(Ⅲ)100点、1単位=20分)。告示上は発症・急性増悪または最初に診断された日から180日が限度ですが、「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合その他の別に厚生労働大臣が定める場合」には180日を超えて算定できるという除外規定があります。
実施している医療機関は限られるため、対象になるかは主治医にご確認ください。
使える制度②|介護保険(40歳から使える)
筋萎縮性側索硬化症は、介護保険の特定疾病に含まれます。
そのため、40歳以上65歳未満の第2号被保険者でも要介護認定を申請できます。「介護保険は65歳から」と思い込んで申請していない方がいます。
| サービス | 内容 |
|---|---|
| 訪問リハビリテーション | PT・OT・STが自宅に来る。日数制限なし |
| 訪問看護 | 全身状態の管理、呼吸・排痰の援助、家族への指導 |
| 訪問介護 | 身体介護、生活援助 |
| 福祉用具貸与 | 介護ベッド、車椅子、移動用リフトなど |
| 住宅改修 | 手すり、段差解消など |
| 短期入所(ショートステイ) | 家族の休息(レスパイト)にも |
特定疾病の一覧は介護保険の特定疾病一覧16種類をご覧ください。窓口は市町村(65歳未満でも同じ)または地域包括支援センターです。
使える制度③|指定難病と障害福祉
- 指定難病の医療費助成:一定の重症度基準を満たすと医療費の自己負担が軽減されます。申請先は都道府県・指定都市
- 身体障害者手帳:等級に応じて各種サービスや割引が利用できます
- 重度訪問介護:重度の障害がある方に対する長時間の見守りを含む支援。介護保険と併用される場合があります
- 補装具・日常生活用具:意思伝達装置、吸引器など
- 障害年金:要件を満たす場合
制度は別々。窓口も違う
指定難病(都道府県)、介護保険(市町村の介護保険担当)、障害福祉(市町村の障害福祉担当)。それぞれ別の制度で、申請先も異なります。
どれか1つを使っているから他は不要、ということはありません。使えていない制度がないか、医療ソーシャルワーカー・保健所の難病担当・ケアマネジャーに確認してください。
詳しくは難病医療費助成制度(54)とは、難病受給者証で受けられるサービス一覧をご覧ください。
家族と介護する人へ
進行性の疾患では、介護する側の負担が長期にわたります。
- 介助方法を専門職から教わる:自己流は腰を痛めます
- 福祉用具を早めに導入する:リフトは「大げさ」ではありません
- レスパイト(休息)を組み込む:ショートステイ、訪問看護の活用
- 相談先を複数持つ:保健所の難病相談、患者会、医療ソーシャルワーカー
- 先の見通しを聞いておく:必要な準備が前倒しできます
厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日 基発0618第1号)は、全介助が必要な対象者には「リフト等を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」としています。介護者が腰を壊した時点で、在宅生活は続けられなくなります。
よくある質問
ALSで筋トレをしてもいいですか?
強い負荷の運動は避けるべきとされています。働ける運動単位が減った状態で残った筋線維を酷使すると、かえって筋力低下が進む可能性(過用性筋力低下)が指摘されているためです。運動の強度と量は必ず主治医・理学療法士と相談してください。
では動かないほうがいいのですか?
違います。動かなければ関節が固まり、廃用も進みます。「強い負荷をかけない」ことと「動かさない」ことは別です。関節を動かす、日常生活を続ける、疲れを残さない範囲で体を使うのが基本です。
リハビリで何が期待できますか?
病気の進行は止められませんが、関節拘縮・痛み・褥瘡・廃用といった二次的な障害は防げます。また、用具や環境の工夫で今の機能を生活に活かすことができます。
呼吸の変化はどう気づけばいいですか?
横になると息苦しい、朝の頭痛やだるさ、日中の強い眠気、声が小さくなる、痰が出しにくいといった変化です。本人が自覚しにくいため、家族が気づいて主治医に伝えてください。
話しにくくなってきました。
早い段階からコミュニケーション手段を用意してください。文字盤、筆談、意思伝達装置などがあります。導入には練習の時間が必要なため、話せなくなってからでは遅くなります。
意思伝達装置は給付されますか?
障害者総合支援法の補装具費支給制度により「重度障害者用意思伝達装置」が支給される場合があります。対象範囲や手続きは市町村によって異なるため、障害福祉担当窓口にご確認ください。
65歳未満でも介護保険は使えますか?
使えます。筋萎縮性側索硬化症は介護保険の特定疾病に含まれるため、40歳以上65歳未満の第2号被保険者でも要介護認定を申請できます。
難病患者リハビリテーション料とは何ですか?
診療報酬の区分の一つで、1日につき640点です。入院中以外の患者に対し、社会生活機能の回復を目的としてリハビリを行った場合に算定されます。実施施設は限られるため主治医にご確認ください。
医療保険のリハビリは180日で終わりますか?
脳血管疾患等リハビリテーション料には180日の算定限度がありますが、「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合」等の除外規定があります。また介護保険のリハビリには日数制限がありません。
介護する家族が限界です。
レスパイト(休息)の仕組みを組み込んでください。ショートステイ、訪問看護・訪問介護の活用、重度訪問介護など選択肢があります。保健所の難病相談、医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーにご相談ください。
まとめ
- ALSでは強い負荷の運動が筋力低下を進める可能性がある(過用性筋力低下)
- 「鍛えて維持する」という一般的な考え方は当てはまらない
- ただし「負荷をかけない」ことと「動かさない」ことは別
- リハビリの目的は二次的障害の予防・生活の成立・呼吸嚥下意思疎通の支援
- 病気の進行は止められなくても、拘縮や廃用は防げる
- 毎日関節を動かす。特に肩と足首
- 腕を引っ張って起こす・立たせるのは避ける
- 呼吸の変化は本人が自覚しにくい。家族が気づいて伝える
- コミュニケーション手段は話せなくなる前に用意する
- 意思伝達装置は補装具費支給制度の対象になる場合がある
- 難病患者リハビリテーション料は1日640点、退院後3か月は加算あり
- 脳血管疾患等リハ料の180日には医学的な除外規定がある
- 筋萎縮性側索硬化症は特定疾病。40〜64歳でも介護保険を申請できる
- 指定難病・介護保険・障害福祉は別制度で申請先も違う
- 介護者が倒れれば在宅生活は終わる。リフトの導入は特別なことではない
参考にした情報
- 診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)第7部 リハビリテーション
- 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針及び解説」
- 厚生労働省「福祉用具(補装具・日常生活用具)」
- 厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」(令和4年3月)
※本記事の点数・算定要件は、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)にもとづいて整理したものです。難病患者リハビリテーション料および脳血管疾患等リハビリテーション料の対象となるかは、施設基準の届出状況および患者の状態によります。実際の算定可否は医療機関にご確認ください。過用性筋力低下をはじめとする運動の考え方は、神経内科・リハビリテーション領域で広く共有されている整理および筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづくものであり、厚生労働省の告示・通知として定められたものではありません(確度:中)。運動の可否・強度・量は個人の状態と進行度によって大きく異なるため、必ず主治医および担当の理学療法士の指示に従ってください。指定難病の医療費助成、補装具費支給、日常生活用具給付等事業、重度訪問介護の要件・手続きは、都道府県・市町村によって運用が異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。





