大腿骨頸部骨折のリハビリ|術後の流れと再骨折予防

大腿骨頸部骨折のリハビリは、手術の翌日から始まるのが原則です。骨がくっつくのを待ってから動かすのではありません。待っている間に全身の機能が落ち、そちらのほうが致命的になるからです。
そしてもう一つ、必ず知っておくべきことがあります。大腿骨を折った人は、反対側も折りやすいという事実です。診療報酬にも「二次性骨折予防継続管理料」という項目が設けられ、手術後に骨粗鬆症の評価と治療を行うことが評価されています。この記事では、告示の原文を確認したうえで、術後の流れ・在宅復帰・再骨折の防ぎ方を整理しました。
この記事でわかること
- 大腿骨頸部骨折で手術が選ばれる理由
- 手術翌日からリハビリを始める根拠
- 術後の時期別リハビリの内容
- 回復期リハビリ病棟から自宅までの流れ
- 退院後も外来リハビリの加算が算定できる特例
- 二次性骨折予防継続管理料という制度の存在
- 反対側の骨折を防ぐためにやるべきこと
- 自宅に戻るために整えるべき環境
大腿骨頸部骨折のリハビリは手術翌日から始まる
大腿骨頸部骨折は、股関節のつけ根(大腿骨の首の部分)が折れるけがです。高齢者では、立った高さからの転倒という軽い力でも起こります。背景に骨粗鬆症があるためです。
この骨折で保存療法(手術をしない)が選ばれにくいのは、くっつくまで数か月動けないことによる害のほうが大きいからです。その間に起こるのは、筋力低下、関節拘縮、肺炎、褥瘡、認知機能の低下――つまり廃用症候群です。
そのため現在は、できるだけ早く手術をして、翌日から起こすのが標準的な流れになっています。
| 手術の種類 | 内容 | おおよその対象 |
|---|---|---|
| 骨接合術 | 金属で骨を固定する。自分の骨を残す | ずれが小さい骨折 |
| 人工骨頭置換術 | 骨頭を人工物に置き換える | ずれが大きい骨折、血流が途絶えた場合 |
どちらになるかは骨折の型で決まり、整形外科医が判断します。術後の注意点が異なるため、どちらの手術を受けたかは必ず確認しておいてください(人工骨頭では脱臼予防の姿勢制限があります)。
ちびウルフ手術した翌日に動かして、骨は大丈夫なんですか?
リハウルフ手術は「動かせるように固定する」ために行うので、大丈夫です。どこまで体重をかけていいかは医師が指示します。むしろ動かさないほうが危険で、寝たきりになるとその後の人生が変わってしまいます。
術後の時期別リハビリ
術後すぐ(数日)
- 足首の曲げ伸ばし:血栓(エコノミークラス症候群)の予防。何回でも
- 深呼吸:肺炎の予防
- ベッドを起こして座る:離床の第一歩
- 反対側の脚・両腕の運動:使える部分は落とさない
術後1週間前後
- 端座位(ベッドの端に座る):30分保てるかが一つの目安
- 立位練習:平行棒や歩行器につかまって
- 車椅子への移乗
- 術側の筋力トレーニング:医師の許可した範囲で
術後2週間〜
- 歩行器での歩行:距離を少しずつ伸ばす
- 杖歩行:安定してきたら
- 階段昇降:自宅に階段がある場合は必須の練習
- トイレ動作・更衣動作:生活に直結する練習
人工骨頭置換術の場合の脱臼予防(後方アプローチの場合)
- 脚を組まない
- 膝を胸に引き寄せるほど深く曲げない
- つま先を内側にひねらない
- 低い椅子・和式トイレ・床に座る姿勢を避ける
- 横向きで寝るときは両膝の間にクッションをはさむ
※制限の内容は手術の進入方向(アプローチ)によって異なります。必ず執刀医・担当の理学療法士の指示に従ってください。
回復期から自宅までの流れ
急性期病院で手術とリハビリを受けた後、多くは回復期リハビリテーション病棟へ転院します。
厚生労働省の通知は、回復期リハビリテーション病棟を「脳血管疾患又は大腿骨頸部骨折等の患者に対して、ADLの向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に行うための病棟」と定義しています。大腿骨頸部骨折が名指しで入っているとおり、本来の対象疾患です。
なお通知は、回復期リハ病棟の入院料について転院しても算定期間は通算されるとしています。病院を移れば期間がリセットされるわけではありません。
退院後も外来リハビリの加算が算定できる特例
診療報酬の運動器リハビリテーション料の注2・注3には、早期リハビリテーション加算・初期加算の対象として、入院中の患者に加えて「入院中の患者以外の患者(大腿骨頸部骨折の患者であって、当該保険医療機関を退院したもの又は他の保険医療機関を退院したもの(地域連携診療計画加算を算定した患者に限る))」が明記されています。
つまり、大腿骨頸部骨折は退院後の外来リハビリでも早期リハ加算等を算定できる特別扱いになっています。制度がそれだけ「切れ目なく続けること」を重視している疾患だということです。
再骨折を防ぐ|二次性骨折予防継続管理料
ここが最も重要で、最も知られていない部分です。
大腿骨を骨折した人は、反対側も骨折するリスクが高いことが知られています。骨折の原因である骨粗鬆症は、手術をしても治らないからです。骨は固定されても、骨の質は変わりません。
これに対応するため、診療報酬には「二次性骨折予防継続管理料」が設けられています。告示の原文で確認しました。
| 区分 | 点数 | 対象と算定 |
|---|---|---|
| 二次性骨折予防継続管理料1 | 1,000点 | 大腿骨近位部骨折に対する手術を行った入院患者に、骨粗鬆症の計画的な評価・治療等を行った場合。入院中1回 |
| 二次性骨折予防継続管理料2 | 750点 | 他の医療機関で1を算定した患者に、継続して評価・治療等を行った場合。入院中1回 |
| 二次性骨折予防継続管理料3 | 500点 | 外来で、1を算定した患者に継続して評価・治療等を行った場合。初回算定日の属する月から1年を限度に月1回 |
注目すべきは「3」です。急性期病院(1)→ 回復期病院(2)→ 退院後の外来(3、1年間)と、骨粗鬆症の治療を1年間つなぐ設計になっています。
ご家族に確認していただきたいのは、「退院後、骨粗鬆症の薬は続いていますか?」という点です。骨折は治って退院したのに、骨粗鬆症の治療だけ途切れているケースが実際にあります。それでは反対側を折るのを待っているのと同じです。
退院時に必ず確認すること
- 骨粗鬆症の薬は処方されているか、いつまで続けるか
- 次回の骨密度測定はいつか
- かかりつけ医と整形外科、どちらが骨粗鬆症を診るのか
- ビタミンD・カルシウムの摂取について指示はあるか
退院前に自宅を見てもらう(入院時訪問指導加算)
環境整備を効果的に進めるために、病院のスタッフに実際の自宅を見てもらうという方法があります。これは診療報酬に位置づけられた仕組みです。
入院時訪問指導加算(告示より)
「当該保険医療機関の医師、看護師、理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士が、患家等を訪問し、当該患者(回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者に限る。)の退院後の住環境等を評価した上で、当該計画を策定した場合に、入院時訪問指導加算として、入院中1回に限り、150点を所定点数に加算する」
大腿骨頸部骨折は、回復期リハビリテーション病棟の対象疾患として通知に名指しされています。つまり、この加算の対象になり得る典型的なケースです。
自宅の上がりかまちの高さ、トイレの広さ、浴槽の深さ、ベッドを置ける場所。これらを見たうえで訓練内容と福祉用具を決められれば、退院後のつまずきが大幅に減ります。「退院前に自宅を見てもらえますか」と、医療ソーシャルワーカーまたは担当の理学療法士に相談してください。
リハビリ計画は月1回見直される
この加算の土台であるリハビリテーション総合計画評価料について、告示は「医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等の多職種が共同してリハビリテーション計画を策定し、当該計画に基づき(中略)リハビリテーションを行った場合に、患者1人につき1月に1回に限り算定する」としています。
計画は多職種で立てられ、月1回は見直される建て付けです。「今どんな目標で進んでいるのか」「退院の見通しはどうか」は、説明を受けられる内容です。
骨粗鬆症の治療と栄養
再骨折予防の中心は、薬・栄養・運動の3つです。
薬物治療
骨粗鬆症の薬には、骨が壊れるのを抑えるタイプ(ビスホスホネート、デノスマブなど)と、骨をつくるのを促すタイプ(テリパラチドなど)があります。どれを使うかは骨密度・年齢・骨折の状態によって医師が判断します。
重要なのは自己判断でやめないことです。骨粗鬆症は自覚症状がないため、「痛くないから」と中断されやすい薬です。飲み忘れや飲みにくさがある場合は、勝手にやめずに主治医・薬剤師に相談してください。月1回や半年に1回の製剤に変更できる場合があります。
歯科治療の予定は必ず申告する
一部の骨粗鬆症治療薬は、抜歯などの歯科処置との関係で注意が必要とされています。歯科を受診するときは骨粗鬆症の薬を飲んでいることを伝え、整形外科には歯科治療の予定を伝えてください。どちらか一方しか知らない状態が最も危険です。
栄養
骨にはカルシウムだけでなく、たんぱく質とビタミンDが必要です。厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」は、地域で生活する高齢者について「低栄養またはそのリスクがある者が約4割いるという報告がある」とし、低栄養の高齢者は死亡率や要介護の増大、再入院のリスクが高く、その多くがフレイルやサルコペニアを合併しているとしています。
また、65歳以上では日本人の食事摂取基準(2020年版)が当面目標とするBMIの範囲を21.5〜24.9kg/m²としています。骨折後に食が細くなり体重が落ちると、筋肉も骨も同時に失われます。「骨折後に痩せた」は危険信号です。
※たんぱく質の必要量は腎機能等により異なります。必ず主治医・管理栄養士にご確認ください。
運動
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、筋トレによって「筋力、身体機能、骨密度が改善し、高齢者では転倒や骨折のリスク低下」につながると整理しています。また、筋トレの実施割合が低い高齢者や女性について「ロコモティブシンドロームやフレイル、骨粗鬆症を特に発症しやすい」として、筋トレの積極的な推奨を求めています。
薬と栄養だけでなく、運動そのものが骨に効くという点は押さえておいてください。推奨は筋力トレーニングを週2〜3日、多要素な運動を週3日以上です。
転倒そのものを防ぐ
骨を強くするのと同時に、転ばない環境をつくることが再骨折予防の両輪です。
厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」では、介護が必要となった主な原因のうち骨折・転倒は総数で13.9%(第3位)、要介護4では18.7%(第2位)を占めます。骨折は明確に、状態を一段階悪化させる要因です。
- 夜間の足元灯:寝室からトイレまでの経路に人感センサーライト
- 起き上がったら30秒座ってから立つ:立ちくらみによる転倒を防ぐ
- 床の物を撤去する:コード、カーペットの端、新聞
- 手すりの設置:玄関・トイレ・浴室・廊下
- 下肢の筋力トレーニング:立ち座り、かかと上げ、横への脚上げ
- 薬の見直し:ふらつきを起こす薬がないか主治医・薬剤師に確認
具体的な対策は高齢者の転倒予防|原因と自宅でできる対策で詳しく解説しています。運動は高齢者の筋トレメニュー9選をご覧ください。
自宅に戻るための環境整備
退院前に決めておくべきことです。理想は、退院前に自宅を見てもらうことです。
| 場所 | 整えること | 介護保険 |
|---|---|---|
| ベッド周り | 高さ調整できる介護ベッド、ベッド用手すり | 福祉用具貸与 |
| トイレ | 縦手すり、洋式化、ポータブルトイレ | 住宅改修/特定福祉用具販売 |
| 浴室 | 手すり、シャワーチェア、浴槽台、滑り止め | 住宅改修/特定福祉用具販売 |
| 玄関 | 縦手すり、踏み台、上がりかまち用手すり | 住宅改修/福祉用具貸与 |
| 移動 | 歩行器、杖、車椅子 | 福祉用具貸与 |
手続きは入院中に始めてください。要介護認定は申請から結果まで時間がかかるため、退院してから動くと空白期間ができます。医療ソーシャルワーカーに相談し、入院中に申請するのが鉄則です。
※住宅改修・福祉用具の給付範囲や例外の扱いは市町村(保険者)によって運用が異なります。ケアマネジャー・福祉用具専門相談員にご確認ください。
よくある質問
手術をしないという選択はありますか?
全身状態によっては保存療法が選ばれることもありますが、多くの場合は手術が勧められます。動けない期間が長引くことによる廃用症候群・肺炎・褥瘡のリスクのほうが大きいためです。判断は整形外科医が行います。
リハビリはいつから始まりますか?
原則として手術の翌日からです。体重をどこまでかけてよいかは医師が指示します。早期に起こすことが、その後の回復を大きく左右します。
元どおりに歩けるようになりますか?
骨折前の状態と、リハビリの内容によります。骨折前に自立して歩けていた方ほど戻りやすい傾向があります。ただし個人差が大きく、一律には言えません。担当の理学療法士に現時点の見通しを確認してください。
人工骨頭置換術の後、やってはいけないことは?
後方アプローチの場合、脚を組む、深くしゃがむ、つま先を内側にひねる動作は脱臼のリスクがあります。ただし制限の内容は手術の方法によって異なるため、必ず執刀医と担当の理学療法士の指示に従ってください。
反対側も骨折しやすいと聞きました。
そのとおりです。原因である骨粗鬆症は手術では治らないためです。診療報酬にも二次性骨折予防継続管理料が設けられ、退院後の外来でも1年間、骨粗鬆症の評価と治療を継続することが評価されています。
退院後、骨粗鬆症の薬は続けるべきですか?
主治医の指示に従ってください。骨折が治ったことと、骨粗鬆症が治ったことは別です。退院時に「誰が骨粗鬆症を診るのか」「いつまで薬を続けるのか」を必ず確認してください。
退院後も外来でリハビリを受けられますか?
受けられます。運動器リハビリテーション料は発症・手術から150日が限度です。また大腿骨頸部骨折は、退院後の外来でも早期リハビリテーション加算等の対象として告示に明記されています。
要介護認定はいつ申請しますか?
入院中です。認定には時間がかかるため、退院してから申請するとサービスが使えない空白期間が生まれます。医療ソーシャルワーカーに相談してください。
介護ベッドは必要ですか?
高さを調整できると、立ち上がりも介助も格段に楽になります。原則として要介護2以上が貸与対象ですが、状態によっては例外給付が認められる場合があります。ケアマネジャーにご確認ください。
退院前に自宅を見てもらえますか?
可能です。退院前訪問指導という仕組みがあり、病院のスタッフが自宅を確認して環境調整を助言します。また訪問リハビリでも、実際の自宅で介助方法や動線を確認できます。医療ソーシャルワーカーにご相談ください。
まとめ
- 大腿骨頸部骨折のリハビリは原則として手術の翌日から始まる
- くっつくまで待つと、廃用症候群のほうが致命的になる
- 手術は骨接合術と人工骨頭置換術があり、術後の注意点が異なる
- 人工骨頭(後方アプローチ)では脱臼予防の姿勢制限がある
- 術後すぐは足首の運動と深呼吸から。血栓と肺炎の予防
- 回復期リハ病棟は大腿骨頸部骨折が名指しで対象疾患に入っている
- 回復期の入院料は転院しても算定期間が通算される
- 大腿骨頸部骨折は退院後の外来リハでも早期リハ加算等の対象になる特例がある
- 骨折した人は反対側も折りやすい。骨粗鬆症は手術では治らない
- 二次性骨折予防継続管理料は1が1,000点、2が750点、3が500点
- 3は外来で1年間、月1回。骨粗鬆症治療を1年つなぐ設計になっている
- 退院時に「誰が骨粗鬆症を診るか」「薬はいつまでか」を必ず確認する
- 骨を強くすることと転ばない環境づくりは両輪
- 要介護認定と住宅改修の手続きは入院中に始める
- 入院時訪問指導加算(150点)で、退院前に病院スタッフに自宅を見てもらえる
- リハビリ計画は多職種で策定され、月1回見直される
参考にした情報
- 診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)第7部 リハビリテーション
- 診療報酬の算定方法(同告示)医学管理等・二次性骨折予防継続管理料
- 厚生労働省地方厚生局「A308 回復期リハビリテーション病棟入院料」(留意事項通知抜粋)
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況
※本記事の点数・算定要件は、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)および厚生労働省の留意事項通知にもとづいて整理したものです。実際の算定にあたっては原文および地方厚生局の解釈をご確認ください。手術の選択・術後の制限・体重をかけてよい時期は、骨折の型や手術方法によって異なります。必ず執刀医および担当の理学療法士の指示に従ってください。住宅改修・福祉用具の給付範囲は市町村(保険者)によって運用が異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。リハビリの進め方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。




