高齢者が歩けないとき入れる施設は?種類と選び方を解説

先に結論をお伝えします。「歩けない」こと自体は、施設に入れない理由にはなりません。実際、特別養護老人ホームの入所者の多くは自力で歩けません。施設選びで実際に効いてくるのは、歩けるかどうかではなく、要介護度・医療的ケアの有無・費用・待機期間の4つです。
この記事では、高齢者が歩けなくなったときに入れる施設について整理しました。理学療法士として在宅と施設の両方を見てきた立場から、施設側が受け入れを判断するときに実際どこを見ているのか、家族が事前に確認しておくべきことまで書いています。
- 歩けないことは施設の入所要件に影響しないこと
- 施設ごとの対象となる要介護度と費用の目安
- 受け入れ可否を最も左右するのは歩行ではなく医療的ケアであること
- 同じ「歩けない」でも、移乗が全介助か一部介助かで選択肢が変わること
- 特養に早く入るために使える特例入所という仕組み
- 認知症がある場合の選択肢の違い
- 費用が心配なときに先に申請しておくべき制度
- 急に歩けなくなった場合は、施設探しより先に受診すべきであること
高齢者が歩けないときに入れる施設は?
介護保険の施設は、介護保険法第8条で定義されており、それぞれ対象者の考え方が違います。歩行の可否ではなく、「どういう状態の人を対象にした施設か」で入り口が分かれています。
| 施設 | 対象の要介護度 | 性格 | 費用の目安 | 入りやすさ |
|---|---|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 原則 要介護3以上 | 生活の場。看取りまで対応することが多い | 安い | 待機が長い |
| 介護老人保健施設(老健) | 要介護1以上 | 在宅復帰を目指す。リハビリ職の配置が手厚い | 中 | 比較的入りやすい |
| 介護医療院 | 要介護1以上 | 長期の医療と介護を一体で提供 | 中 | 数が少ない |
| 介護付き有料老人ホーム(特定施設) | 要支援1以上 | 民間。サービスと費用の幅が大きい | 高い | 比較的すぐ入れる |
| サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) | 自立〜 | 住宅。重度対応は物件による差が大きい | 中〜高 | 比較的すぐ入れる |
| グループホーム | 要支援2以上かつ認知症 | 認知症の人が少人数で共同生活 | 中 | 地域密着型で住所要件あり |
特養は介護保険法第8条第27項で、入所対象を「厚生労働省令で定める要介護状態区分に該当する状態である者その他居宅において日常生活を営むことが困難な者」と定めています。この省令により原則として要介護3以上とされています。歩けるかどうかは条文のどこにも書かれていません。
ちびウルフ歩けないと受け入れてもらえないって聞いたことがあるけど、違うの?
リハウルフ逆です。歩けないほうが要介護度は上がるので、特養に関してはむしろ要件を満たしやすくなります。断られる理由になりやすいのは、歩行ではなく医療的ケアのほうです。喀痰吸引や経管栄養が必要になると、対応できる施設が一気に絞られます。
受け入れ可否を左右するのは歩行より「医療的ケア」
施設側が入所判定で最も慎重に見るのは、夜間も含めて対応できる医療行為かどうかです。ここで受け入れの幅が決まります。
| 医療的ケア | 特養 | 老健 | 介護医療院 | 有料・サ高住 |
|---|---|---|---|---|
| 喀痰吸引 | 施設により可否が分かれる | 対応しやすい | 対応できる | 物件による |
| 経管栄養(胃ろう) | 施設により可否が分かれる | 対応しやすい | 対応できる | 物件による |
| 在宅酸素 | 比較的対応しやすい | 対応しやすい | 対応できる | 物件による |
| 人工呼吸器 | 難しいことが多い | 施設による | 対応できる施設がある | ごく一部 |
| インスリン注射 | 看護体制による | 対応しやすい | 対応できる | 物件による |
特養で差が出るのは、夜間の看護職員の配置体制によるところが大きいためです。同じ「特養」でも、看護体制加算を算定している施設や、協力医療機関との連携体制が整っている施設は、医療的ケアの受け入れ幅が広くなります。見学のときに「夜間に看護師がいるか、オンコール対応か」を必ず聞いてください。これは施設の性格を判断するうえで、いちばん実務的な質問です。
同じ「歩けない」でも中身で選択肢が変わる
ここはリハビリ職の視点からお伝えしたい部分です。ご家族が「歩けない」と言うとき、実際の状態は大きく3つに分かれます。施設側から見ると、この違いは介護量に直結します。
1. 立てるが歩けない(移乗が一部介助)
手すりや介助者の支えで立ち上がれる状態です。トイレでの移乗が1人介助で可能なため、施設側の負担は比較的軽く、選択肢は広く残ります。有料老人ホームやサ高住でも受け入れやすい状態です。この段階を保てるかどうかが、その後の生活の質を大きく左右します。
2. 立てない(移乗が全介助・リフト使用)
座位は保てるが立位が取れない状態です。移乗にリフトや2人介助が必要になると、対応できる設備と人員がある施設に限られます。特養や老健が現実的な選択肢になります。見学時にリフトの有無を確認してください。
3. 座位も保てない(ほぼ寝たきり)
褥瘡(床ずれ)の管理や体位変換が必要になり、医療的ケアを伴うことが多くなります。特養、介護医療院が中心になります。
特養は要介護3未満でも入れる場合がある
原則は要介護3以上ですが、要介護1・2でも「居宅において日常生活を営むことが困難」と認められる場合には、特例的に入所できる仕組みがあります。これを特例入所といいます。おもに次のような事情が考慮されます。
- 認知症があり、日常生活に支障をきたす症状などが頻繁に見られる
- 知的障害・精神障害などを伴い、日常生活に支障をきたす症状などが頻繁に見られる
- 家族等による虐待が深刻で、心身の安全・安心の確保が困難である
- 単身世帯である、同居家族が高齢または病弱であるなど、家族等による支援が期待できず、地域での介護サービスの供給も不十分である
詳しくは特養に入れない…待機を短くする5つの対策|特例入所も解説にまとめています。
施設を探す前に確認しておくこと
- 要介護認定を受ける(未申請なら市町村の窓口へ。認定が出ないと施設の申し込みができません)
- 担当のケアマネジャーに、医療的ケアの内容と介助量を整理してもらう
- 介護保険負担限度額認定証を申請する(食費・居住費の負担が下がる可能性があります)
- 複数の施設に同時に申し込む(特養は待機が発生するため、1か所に絞らない)
- 見学し、夜間の看護体制・リフトの有無・看取りの方針を確認する
費用面では、介護保険負担限度額認定証と高額介護サービス費の2つを先に確認してください。どちらも申請しないと適用されません。入所してから知って、さかのぼれずに損をするケースが実際にあります。
急に歩けなくなった場合は施設探しより先に受診を
とくに、片側だけ力が入らない、言葉が出にくい、強い痛みがある、発熱を伴う、といった症状があるときは、すぐに受診してください。
入院してリハビリを受けた結果、歩行が再獲得できて在宅に戻れた方を、現場で何人も見ています。「歩けなくなった=施設」と直結させないでください。
ちびウルフ在宅で見るのがもう限界かも…って思ったときは、どうしたらいいの?
リハウルフ限界まで我慢しないでください。ショートステイを使いながら申し込みを進める形が現実的です。介護している人が倒れると、結局その日のうちに緊急で施設を探すことになり、選ぶ余裕がなくなります。余力があるうちに動くほうが、良い施設に出会えます。
よくある質問
歩けないと特養に入れませんか?
入れます。むしろ歩けない状態は要介護度が上がりやすく、特養の原則である要介護3以上の要件を満たしやすくなります。歩行の可否は入所要件ではありません。
要介護2ですが歩けません。特養に申し込めますか?
申し込めます。原則は要介護3以上ですが、居宅での生活が困難と認められる場合には特例入所の仕組みがあります。市町村と施設に相談してください。
胃ろうがあると施設に入れませんか?
施設によります。老健や介護医療院は比較的対応しやすく、特養は看護体制によって分かれます。有料老人ホームやサ高住は物件ごとの差が大きいので、個別に確認してください。
すぐに入れる施設はどこですか?
介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、空室があれば比較的早く入れます。ただし費用は特養より高くなります。老健も特養より待機は短い傾向です。
認知症で歩けない場合はどこがよいですか?
歩けない状態ではグループホームの共同生活が合わないことがあります。特養や介護医療院が現実的な選択肢になります。認知症の施設選びについては関連記事も参考にしてください。
老健は歩けなくても入れますか?
入れます。老健は在宅復帰を目指す施設で、リハビリ職の配置が手厚いため、歩行や移乗の改善を目的に入所するケースがあります。ただし長期の生活の場としては想定されていません。
費用をできるだけ抑えたい場合は?
特養が最も抑えられます。加えて介護保険負担限度額認定証を申請すると、食費と居住費の負担が下がる場合があります。申請しないと適用されないので注意してください。
入所後にリハビリは受けられますか?
施設の種類によって内容が異なります。老健はリハビリ職の配置基準があり、個別のリハビリを受けやすい環境です。特養では機能訓練指導員による機能訓練が中心になります。
見学のときに何を聞けばよいですか?
夜間の看護体制(常駐かオンコールか)、対応できる医療的ケアの範囲、リフトなど移乗機器の有無、看取りへの対応方針、退去を求められる条件の5つを確認してください。
- 歩けないこと自体は、施設の入所要件ではない
- 特養は介護保険法第8条第27項により、省令で原則要介護3以上とされている
- 歩けない状態は要介護度が上がりやすく、特養の要件は満たしやすくなる
- 受け入れ可否を最も左右するのは、歩行ではなく医療的ケアの内容
- 喀痰吸引や経管栄養の可否は、夜間の看護体制によって施設ごとに分かれる
- 老健と介護医療院は医療的ケアに対応しやすい
- 同じ「歩けない」でも、立てる・立てない・座位も保てないで選択肢が変わる
- 移乗が一部介助で済む段階なら、有料老人ホームやサ高住も選べる
- 入所相談では、できないことだけでなくできることを具体的に伝える
- 要介護1・2でも特例入所により特養に入れる場合がある
- 申し込みは1か所に絞らず、複数に同時に出す
- 負担限度額認定証と高額介護サービス費は、申請しないと適用されない
- 見学では夜間の看護体制とリフトの有無、看取りの方針を必ず確認する
- 急に歩けなくなった場合は、施設探しより先に受診する
- 治療とリハビリで歩行が再獲得できることがあり、「歩けない=施設」と直結させない
- 介護保険法(平成9年法律第123号)e-Gov法令検索(第8条、第86条〜第88条)
- 介護保険法施行令(平成10年政令第412号)e-Gov法令検索
※本記事の制度に関する記述は、介護保険法および関係法令にもとづいて整理したものです。施設ごとの受け入れ可能な医療的ケアの範囲、費用、待機期間は、施設および地域によって大きく異なります。実際の入所にあたっては、担当のケアマネジャーおよび各施設にご確認ください。特例入所の運用は市町村によって異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。身体状況や医療的ケアに関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、個別の状態の判断は主治医にご相談ください。





