デイサービスの入浴介助は、事故が起きたときの結果がもっとも重くなる場面です。厚生労働省の人口動態統計では、令和6年の「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」による死亡者数は7,776人、うち65歳以上が7,363人で約95%を占めます。65歳以上の交通事故死(2,103人)の3倍以上です。

この記事では、入浴介助の手順と注意点を、消費者庁の注意喚起、厚生労働省老健局「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」(令和7年11月)、事故報告様式の通知(介護保険最新情報Vol.943)の原文を確認して整理しました。どこからが市町村への報告義務になるのかまで示します。

この記事でわかること
  • 入浴介助の前・中・後で確認する項目
  • 入浴介助の具体的な手順と、各段階で起きる事故
  • 湯温や中止基準に法令上の定めがないこと(事業所が決める)
  • 浴槽での溺水死が交通事故死の3倍以上であること
  • どこからが市町村への事故報告の対象になるか
  • 事故報告の第1報は5日以内が目安であること
  • 厚労省ガイドラインの「対策を取り得る事故」の考え方
  • 入浴介助加算(Ⅰ)(Ⅱ)との関係
ちびウルフちびウルフ

入浴の中止基準って、37.5度以上ならダメって決まりがあるんですよね?

リハウルフリハウルフ

それは法令ではなく、事業所が決めたルールです。運営基準にも解釈通知にも、湯温や中止する体温の数値は書かれていません。だからこそ、事業所ごとに基準をマニュアル化して、全職員が同じ判断をできる状態にしておく必要があります。

デイサービスの入浴介助とは?

デイサービス(通所介護)の入浴介助は、通所介護計画にもとづいて行う日常生活上の世話のひとつです。自宅の浴槽では危険が大きい方に、人手と設備が整った環境で入浴の機会を確保することが役割になります。

介護報酬上は入浴介助加算(Ⅰ)(Ⅱ)が設けられていますが、加算を算定していなくても入浴介助自体は提供できます。加算の要件と介助の安全は別の話として整理してください。

湯温・時間・中止基準に法令の定めはない

指定居宅サービス等基準(省令37号)にも、その解釈通知にも、湯温の数値、入浴時間の上限、体温何度で中止するかといった基準は定められていません。

つまりこれらは事業所が自ら決めて、マニュアルに落とす事項です。「決まりがないから決めなくてよい」ではなく、「決まりがないから事業所が決めなければならない」と考えてください。

担当したケースでも、同じ法人の2事業所で「収縮期血圧180以上は中止」「160以上は看護師判断」と基準が違い、利用者家族から説明を求められたことがあります。基準そのものより、基準が文書化されていて、全職員が同じ判断をしているかが問われます。(この運用に関する記述は筆者の実務経験にもとづく整理です)

入浴介助の前に確認すること

事故の多くは、浴室に入る前の段階で予防できます。消費者庁は、冬場に溺れる事故が起こる原因として「暖かい室内と寒い脱衣所や浴室との温度差などによる急激な血圧の変動」「熱いお湯をはった浴槽内に長くつかることによる体温上昇での意識障害」を挙げています。

  • バイタル測定(体温・血圧・脈拍)と前回との比較
  • 皮膚の状態(発赤・表皮剥離・内出血)を入浴前に確認し記録する
  • 食後すぐ・服薬直後でないか
  • 朝からの水分摂取量、脱水の兆候
  • 本人の訴え(気分不良・めまい・ふらつき)
  • 脱衣所と浴室が暖まっているか(室温の差を小さくする)
  • 浴槽の湯温を温度計で実測したか(手の感覚で判断しない)
  • その日の入浴順と担当職員の配置
入浴前の皮膚チェックは事業所を守る

入浴時は全身の皮膚を見る唯一の機会です。入浴前に確認していない傷は、入浴介助中に付けたのか、来所前からあったのかを説明できません。

脱衣時に見つけた傷は、その場で記録に残してください。家族への連絡が必要かどうかの判断も、この記録があるかどうかで変わります。

消費者庁が挙げる入浴前のポイント

家庭向けの注意喚起ですが、デイの浴室でもそのまま通用します。

場面ポイント
入浴前前もって脱衣所や浴室を暖めておく
入浴前温度計を活用し、部屋間の温度差を見える化する
入浴前脱水症状などを防ぐため水分補給する
入浴前食後すぐの入浴、医薬品服用後の入浴は避ける
入浴時熱いお湯・長時間の入浴を避け、湯温と時間を温度計やタイマーで見える化する
入浴時浴槽から急に立ち上がらない
入浴時浴槽内で意識がもうろうとしたら、気を失う前に湯を抜く

「気を失う前に湯を抜く」は、職員側の初動としても重要です。浴槽内で異変が起きたとき、体を引き上げるより先に排水栓を抜くほうが確実に気道を確保できます。

デイサービスの入浴介助の手順

一般浴(個浴・大浴槽)を想定した流れです。機械浴では移乗と固定の手順が加わります。

  • 入浴前のバイタル測定と体調確認を行い、入浴の可否を判断する
  • 脱衣所・浴室を暖め、湯温を温度計で実測し、必要な物品を準備する
  • トイレ誘導・排泄を済ませる
  • 脱衣を介助し、全身の皮膚状態を確認する
  • 浴室へ移動し、椅子に座った状態で足元から順に湯をかけて体を慣らす
  • 洗身・洗髪を行う(自分でできる部分は本人に行ってもらう)
  • 浴槽へ移乗し、時間を決めて入浴する(見守りを絶やさない)
  • 浴槽から出て、水分を拭き取り、脱衣所で着衣を介助する
  • 水分補給を行い、しばらく座位で休息して状態を観察する
  • 実施内容と気づいたことを記録に残す

各段階で起きやすい事故

場面起きやすい事故対策の要点
脱衣所での待機転倒、異食、無断での移動待機中も見守りを切らさない。洗剤等は施錠管理
脱衣ふらつきによる転倒座位で脱衣する。立位保持が必要な場面を減らす
浴室への移動床の水濡れによる転倒導線の水を都度拭く。滑り止めマットの位置を固定
洗身・洗髪泡による滑り、目を離した隙の立ち上がりシャワーチェアの固定。背後に回るときの声かけ
浴槽への出入り転倒、打撲、溺水手すり・移乗台の使用。介助者は必ず正面か側方に位置する
浴槽内溺水、意識消失、のぼせ時間を決める。異変時は先に湯を抜く
着衣・整容体温低下、血圧低下による失神手早く水分を拭く。急に立たせない
入浴後脱水、体調変化の見落とし水分補給と座位での休息。退所まで様子を見る
脱衣所の待機中も事故は起きる

厚生労働省のガイドラインには、脱衣所で入浴の準備を待っていた利用者が、キャビネットにあった詰め替え用の浴槽洗剤をすべて飲んでしまい、胃洗浄のうえ入院となった事例が掲載されています。

再発防止策として、詰め替え容器の保管場所にも施錠し、セーフティキャップ付きのボトルに詰め替えることが挙げられています。「危険な洗剤は施錠している」だけでは足りず、日常的に使う詰め替え用が盲点になります。

入浴介助の時間帯はフロアが手薄になる

同じガイドラインは、廊下での転倒事故の原因分析の例として、「入浴介助を行う時間帯はフロア職員が少ないから」という要因を挙げています。

入浴介助の事故対策は、浴室の中だけの問題ではありません。職員を浴室に集めた結果、フロアの見守りが薄くなり、そちらで転倒が起きます。入浴の時間割を組むときは、フロア側の人員も同時に見てください。

入浴介助中の事故はどこから報告義務か

ここが実務でもっとも判断に迷う点です。厚生労働省老健局の通知(介護保険最新情報Vol.943)は、報告対象を次のとおり示しています。

通知の原文(報告対象)

「下記の事故については、原則として全て報告すること。

死亡に至った事故

医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故

○その他の事故の報告については、各自治体の取扱いによるものとすること。」

つまり、入浴介助中の表皮剥離でも、受診して処置を受ければ②に該当し、報告対象になります。「軽いから報告しなくていい」という判断はできません。逆に、受診せず事業所内の対応で済んだものは、自治体の取扱い次第です。

第1報は5日以内が目安

同じ通知は、報告期限について「第1報は、少なくとも別紙様式内の1から6の項目までについて可能な限り記載し、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出すること」としています。

原因分析が終わっていなくても、第1報は先に出します。原因分析や再発防止策は「作成次第報告する」とされており、後追いで構いません。

通所介護の運営基準も、事故が発生した場合には市町村・家族・居宅介護支援事業者等へ連絡し、必要な措置を講じること、事故の状況と採った処置を記録することを定めています。記録は完結の日から2年間の保存対象です。

事故を防ぐために事業所として整えるもの

厚生労働省のガイドライン(令和7年11月)は、リスクマネジメントの基本として「対策を取り得る事故と防ぐことが難しい事故を仕分けし、『対策を取り得る事故』を徹底的に防ぐ」という考え方を示しています。

入浴介助にあてはめると、次のように分かれます。

区分入浴介助での例
対策を取り得る事故湯温の確認漏れによる熱傷、床の水濡れによる転倒、待機中の異食、見守りを外したことによる溺水、移乗方法の不統一による転倒
防ぐことが難しい事故予兆のない心疾患・脳血管疾患の発作、本人の突発的な行動

仕分けの意味は、限られた人手を前者に集中させることにあります。すべてを等しく警戒しようとすると、結局どこも薄くなります。

  • 入浴介助の業務手順書を作成し、湯温・入浴時間・中止基準を数値で明記する
  • 中止基準に該当したときの判断者(看護職員か管理者か)を決めておく
  • ヒヤリ・ハットを浴室の場面別に集計する
  • 浴室の設備(手すり・マット・シャワーチェア)の点検を定例化する
  • 洗剤・薬品は詰め替え容器を含めて施錠管理する
  • 入浴時間帯のフロア側の人員配置も同時に確認する
  • 事故発生時の連絡順(家族・市町村・居宅介護支援事業者)を掲示する
ちびウルフちびウルフ

職員によって入浴の中止判断が違うことがあるんですが、それって問題ですか?

リハウルフリハウルフ

問題です。事故が起きたときに「なぜその日は入浴させたのか」を説明できなくなります。ガイドラインは、事業者には利用者の生命・身体の安全に配慮する安全配慮義務があり、リスクの説明責任と事故発生時の説明責任が求められるとしています。基準を文書にして、判断者を決めておくことが最大の防御です。

入浴介助加算との関係

入浴介助加算は(Ⅰ)と(Ⅱ)があり、(Ⅱ)は利用者の自宅の浴室環境を踏まえた個別の入浴計画にもとづく介助を評価するものです。

加算の要件を満たすことと、事故を防ぐことは目的が違います。ただし(Ⅱ)で求められる「自宅の環境を踏まえた計画」は、その人にどの介助方法が必要かを個別に検討する作業なので、結果として事故防止にもつながります。

単位数や算定要件の詳細は、別記事にまとめています。

よくある質問

入浴を中止する体温の基準は法律で決まっていますか?

決まっていません。運営基準にも解釈通知にも、体温・血圧・湯温の数値基準はありません。事業所が自らマニュアルで定める事項です。

入浴介助中に表皮剥離が起きたら市町村に報告が必要ですか?

受診して投薬や処置など何らかの治療が必要になった場合は、原則として報告対象です。受診しなかった場合の取扱いは自治体によります。

事故報告はいつまでに出せばいいですか?

第1報は事故発生後速やかに、遅くとも5日以内が目安とされています。原因分析や再発防止策は作成次第の報告で構いません。

浴槽内で利用者の意識がもうろうとしたらどうしますか?

消費者庁は「気を失う前に湯を抜く」ことを挙げています。体を引き上げるより先に排水するほうが、気道の確保としては確実です。あわせて応援を呼び、看護職員に連絡してください。

入浴前の皮膚チェックは記録に残すべきですか?

残してください。入浴前に確認していない傷は、介助中に生じたものかどうかを説明できなくなります。

デイサービスの浴室で溺れる事故は実際に多いのですか?

令和6年の人口動態統計では、浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水の死亡者数は7,776人で、うち65歳以上が7,363人です。これは在宅を含む全体の数字ですが、高齢者の入浴が高リスクであることを示しています。

入浴介助加算を算定していないと入浴させてはいけませんか?

そのようなことはありません。加算は評価の仕組みであり、入浴介助の提供可否とは別です。

入浴の時間帯にフロアの職員が減るのは仕方ないですか?

厚生労働省のガイドラインは、廊下での転倒の要因分析例として「入浴介助を行う時間帯はフロア職員が少ないから」を挙げています。入浴の時間割はフロア側の配置と合わせて設計してください。

脱衣所で使う洗剤の管理はどこまで必要ですか?

ガイドラインの事例では、施錠していた塩素系洗剤ではなく、使用頻度が高く施錠していなかった詰め替え用の浴槽洗剤が異食されています。詰め替え容器も施錠管理の対象にしてください。

入浴介助の手順書は作らなければいけませんか?

手順書そのものを義務づける規定はありませんが、厚生労働省のガイドラインは指針・業務手順書の整備を事故予防の体制整備の柱として挙げています。中止基準や判断者を明記する場所としても必要です。

まとめ
  • 令和6年の浴槽内での溺死及び溺水は7,776人、うち65歳以上が7,363人で約95%
  • 65歳以上の交通事故死2,103人の3倍以上にあたる
  • 湯温・入浴時間・中止基準に法令上の定めはなく、事業所が決める
  • 入浴前の皮膚チェックを記録に残すことが事業所を守る
  • 消費者庁は脱衣所と浴室を前もって暖めること、温度の見える化を挙げている
  • 浴槽内で異変が起きたら、引き上げる前に湯を抜く
  • 脱衣所での待機中にも事故は起きる(洗剤の異食事例)
  • 詰め替え容器も施錠管理の対象にする
  • 入浴介助の時間帯はフロアが手薄になり、そちらで転倒が起きる
  • 死亡した事故と、医師の診断を受け治療が必要となった事故は原則すべて報告
  • 事故報告の第1報は遅くとも5日以内が目安
  • 原因分析・再発防止策は作成次第の報告でよい
  • 「対策を取り得る事故」を仕分けて、そこに人手を集中させる
  • 事業者には安全配慮義務があり、リスクと事故発生時の説明責任が求められる
参考にした情報

※本記事の事故統計は、消費者庁が厚生労働省「人口動態統計(令和6年)」をもとに公表した数値です。溺死及び溺水の数値は在宅を含む全体のものであり、通所介護事業所内での発生件数ではありません。事故報告の対象・期限は厚生労働省老健局の通知にもとづきますが、「その他の事故」の取扱いは市町村によって異なるため、所在自治体の基準をご確認ください。湯温や中止基準に関する記述は、指定居宅サービス等基準および解釈通知に該当する定めが確認できなかったことにもとづく整理です。入浴の手順、皮膚チェックの運用、判断者の決め方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。医学的な判断や個別の対応については、必ず主治医・看護職員にご確認ください。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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