介護施設の急変時対応マニュアル|緊急時に介護士が取るべき行動と対応手順

介護施設の急変時対応で介護士がまず行うのは、救命と安全確保、意識と呼吸の確認、そして看護職員への連絡です。判断を現場で迷わないためには、事業所として手順と判断基準を先に決めておく必要があります。
この記事では、厚生労働省老健局「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」(令和7年11月)、介護老人保健施設の基準省令、事故報告様式の通知(介護保険最新情報Vol.943)の原文を確認して整理しました。令和6年度改定で介護保険施設に義務づけられた協力医療機関の3要件まで含めてまとめます。
- 急変を発見したときに介護士が取る行動の順番
- 厚労省ガイドラインが示す誤嚥時の初動(意識あり/なし/発見が遅れたとき)
- 転倒で頭を打っている場合の扱い
- 看護職員に伝えるべき確認項目
- 協力医療機関に義務づけられた3つの体制(常時確保)
- 年1回以上の対応確認と都道府県への届出義務
- 市町村への事故報告の対象と5日以内という目安
- 急変時対応マニュアルに書いておくべき項目
ちびウルフ急変を見つけたとき、看護師さんを呼ぶのと救急車を呼ぶの、どっちが先ですか?
リハウルフ意識と呼吸があるかどうかで変わります。厚労省のガイドラインは、誤嚥で意識がなければ「即吸引、救急車要請」としています。意識がないケースで看護職員の到着を待つ判断は取りません。逆に意識も呼吸もある場合は、看護職員に状態を伝えて指示を仰ぐのが順序です。
介護施設の急変時対応とは?
介護施設の急変時対応とは、入所者の病状が急に変化したときに、救命と安全確保を行い、医療につなぐまでの一連の行動を指します。転倒・誤嚥といった事故を発端とするものと、心疾患・脳血管疾患の発作のように事故を伴わないものの両方が含まれます。
介護保険施設には、この場面に備える体制が運営基準で義務づけられています。介護老人保健施設の基準省令 第30条は、冒頭で次のように定めています。
「介護老人保健施設は、入所者の病状の急変等に備えるため、あらかじめ、次の各号に掲げる要件を満たす協力医療機関(第三号の要件を満たす協力医療機関にあっては、病院に限る。)を定めておかなければならない」
つまり急変時対応は、現場職員の力量の問題ではなく、施設が事前に整えておく体制の問題として位置づけられています。手順が決まっていない状態で職員が判断に迷ったなら、それは職員個人の責任ではありません。
急変を発見したときに最初にすること
厚生労働省のガイドラインは、初動対応の原則を「まずは利用者の救命や安全確保を第一に行動します」としています。そのうえで、次の流れを示しています。
- 利用者の救命・安全確保を行う
- 意識・呼吸の有無を確認する
- その場を離れずに応援を呼ぶ(口頭でよいので現場のリーダーや上司に迅速に報告する)
- 看護職員を呼ぶ。不在の場合は電話連絡等で指示を仰ぐ
- 他の利用者にも起こりうる危険な環境があれば速やかに対処する
- 状態と時刻を記録に残す
- 家族にできる限り早く連絡する
看護職員に伝える確認項目
ガイドラインは「正確な状態把握には医学的知見が不可欠なため、看護職員がいる事業所の場合は看護職員を呼び、不在の場合は電話連絡等で指示を仰ぎましょう」としたうえで、確認すべき項目を挙げています。
- 意識の有無
- 呼吸の有無
- 血圧
- 脈拍
- 体温
- 酸素飽和度(SpO2)
ガイドラインは「この際、確認すべき項目や基準を定めておくと看護職員の状態把握がスムーズになります」としています。電話で報告する順番まで決めておくと、伝え漏れが減ります。
ガイドラインは、「『事故かもしれない』という、判断がつきにくい場合の事実確認もルール化しておくと判断に迷いがなくなります」としています。
例として挙げられているのは、「ベッド脇に利用者がうずくまっていた」→転落が発生したか確認、「食事中に動きが止まっている」→誤嚥が発生したか確認という場面です。
場面別の初動
誤嚥・窒息
ガイドラインは、誤嚥について発見のタイミングを2つに分けて対応を示しています。
| 発見のタイミング | 対応 |
|---|---|
| 比較的早期 | 声掛け、肩を揺らし意識確認/意識があればタッピングをする/意識がなければ即吸引、救急車要請 |
| 発見が遅れたとき | 唇の色を確認(紫色であれば発見の遅れ)/吸引、心肺蘇生を行い救急車要請 |
この記載で重要なのは、意識がない場合に「即吸引、救急車要請」と書かれている点です。
看護職員に連絡して指示を待つのは、意識と呼吸がある場合の手順です。意識がないなら、救急要請と並行して対応します。ここを取り違えると初動が数分遅れます。
唇の色(チアノーゼ)を発見の遅れの指標として挙げている点も、現場で使える判断材料です。
転倒・転落
| 確認 | 内容 |
|---|---|
| 本人 | 本人に状況を聞く |
| 目撃者 | 目撃者がいた場合は状況を聞く |
| 頭部 | 頭を打っている場合は即受診 |
「頭を打っている場合は即受診」がルールとして示されています。本人が「大丈夫」と言っても、慢性硬膜下血腫のように後日症状が出るものがあります。抗凝固薬を服用している方であればなおさらです。
担当したケースでも、転倒直後は歩けていた方が、2週間後に傾眠と歩行障害で受診し、慢性硬膜下血腫と診断された例がありました。受診の判断を現場に委ねず、ルールとして固定しておくべき場面です。(この事例に関する記述は筆者の実務経験にもとづく整理です)
意識障害・心肺停止
意識も呼吸もない場合は、応援要請、救急要請、心肺蘇生とAEDの準備を同時に進めます。ガイドラインも誤嚥で発見が遅れた場合に「心肺蘇生を行い救急車要請」としています。
- その場を離れず、大声で応援を呼ぶ
- 119番通報とAEDの手配を、別の職員に明確に指名して依頼する
- 胸骨圧迫を開始する
- 看護職員・配置医師・協力医療機関へ連絡する
- 発見時刻、心肺蘇生の開始時刻を記録する
「誰か救急車を呼んで」ではなく、名指しで依頼してください。全員が「誰かがやるだろう」と考えて誰も動かない状況は、実際に起こります。
協力医療機関との連携体制
令和6年度改定で、介護保険施設には要件を満たす協力医療機関を定めることが義務づけられました。介護老人保健施設の基準省令 第30条第1項が定める3要件です。
| 号 | 要件 |
|---|---|
| 第1号 | 入所者の病状が急変した場合等において医師又は看護職員が相談対応を行う体制を、常時確保していること |
| 第2号 | 当該施設からの診療の求めがあった場合において診療を行う体制を、常時確保していること |
| 第3号 | 入所者の病状が急変した場合等において、医師が診療を行い、入院を要すると認められた入所者の入院を原則として受け入れる体制を確保していること |
第3号の要件を満たす協力医療機関は「病院に限る」と条文が明記しています。診療所では第3号を満たせません。
1つの医療機関で3要件すべてを満たす必要はありません。条文は「複数の医療機関を協力医療機関として定めることにより当該各号の要件を満たすこととしても差し支えない」としています。
第1号・第2号のキーワードは「常時」です。日中だけ相談できる体制では要件を満たしません。
年1回以上の確認と届出
体制を定めて終わりではありません。同条第2項は次のとおりです。
「介護老人保健施設は、一年に一回以上、協力医療機関との間で、入所者の病状が急変した場合等の対応を確認するとともに、協力医療機関の名称等を、当該介護老人保健施設に係る許可を行った都道府県知事に届け出なければならない」
年1回以上の対応確認と、都道府県知事への届出が義務です。協力医療機関を変更したときだけでなく、変更がなくても年1回の確認が必要になります。
新興感染症と再入所
同条は、あわせて次のことも定めています。
- 第二種協定指定医療機関との間で、新興感染症の発生時等の対応を取り決めるよう努めること(第3項)
- 協力医療機関が第二種協定指定医療機関である場合は、新興感染症の発生時等の対応について協議を行わなければならないこと(第4項)
- 入院した入所者の病状が軽快し退院が可能となった場合、速やかに再入所させることができるよう努めること(第5項)
第3項は努力義務、第4項は義務です。協力医療機関が第二種協定指定医療機関に該当するかどうかで、義務の重さが変わります。自施設の協力医療機関がどちらかを確認してください。
家族・市町村への連絡と記録
ガイドラインは、家族への連絡について「事故の発生を家族に対してできる限り早く連絡する」「利用者家族に対しては、できるだけ早い段階で報告を行いましょう」としています。
市町村への事故報告については、厚生労働省老健局の通知が対象を明示しています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 報告対象① | 死亡に至った事故 |
| 報告対象② | 医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故 |
| その他 | 各自治体の取扱いによる |
| 第1報の期限 | 事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安 |
| 原因分析・再発防止策 | 作成次第報告する |
急変で救急搬送し、医師の診断を受けて治療が必要になれば、②に該当します。原因分析が終わっていなくても第1報は先に出します。
ガイドラインは「事故報告の目的は、職員の責任追及ではなく、原因分析や再発防止策の検討を通じて利用者のケアの向上につなげること」と明記しています。
そのうえで「事故を報告することで叱責されるのではないか、という意識が働き報告を避けるようなことになってはいけません」としています。報告しやすい空気をつくることも、管理者の仕事です。
記録は「事実と推論を分ける」
ガイドラインは、事故発生時の対応として「事実と推論を明確に分け、多職種で多面的に原因分析・再発防止策を検討」することを挙げています。
また、家族への説明について「事故情報は職員に対しても開示し、職員が個人的な判断や推測のもとに回答することがないよう徹底する」としています。職員が個別に憶測で答えることが、後のトラブルの原因になります。
急変時対応マニュアルに書いておくこと
ガイドラインは「事故発生時に職員が適切な行動がとれるよう、基本的な対応手順はあらかじめマニュアル等で示しておくことが重要です」とし、「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」「何を」するべきか、その際の判断基準や確認ポイントは何かを具体的に示すよう求めています。
- 意識・呼吸がない場合に救急要請を行う判断者と、その場で即時要請してよい条件
- 看護職員への連絡方法(日中・夜間・不在時の連絡先)
- 看護職員に伝える項目と順番(意識・呼吸・血圧・脈拍・体温・SpO2)
- 配置医師・協力医療機関の連絡先と、時間帯ごとの窓口
- 頭部打撲時は即受診というルール
- 家族への連絡担当者と、連絡する内容の範囲
- 市町村への報告の要否を判断する人
- 記録に残す時刻(発見時刻・連絡時刻・救急要請時刻・搬送時刻)
- 他の利用者の安全確保を誰が担うか
ちびウルフマニュアルは作ってあるんですが、いざとなると誰も見返さないです…
リハウルフ急変時に文章を読む余裕はありません。ガイドラインも「わかりやすいマニュアルやフロー図で作成し、平時から職員に周知し、訓練しておくことが大切」としています。フロー図を1枚にして詰所とフロアに貼り、連絡先を書き込んでおくのが実用的です。訓練までやって初めて使える状態になります。
よくある質問
急変時、看護職員を待つべきですか?救急車を先に呼ぶべきですか?
意識と呼吸の有無で分かれます。厚労省のガイドラインは、誤嚥で意識がない場合を「即吸引、救急車要請」としています。意識・呼吸があるなら看護職員に状態を伝えて指示を仰ぎます。
転倒して頭を打ったが、本人は元気そうです。受診は必要ですか?
ガイドラインは確認方法のルールの例として「頭を打っている場合は即受診」を挙げています。本人の訴えではなく、ルールで判断してください。
看護職員に電話で報告するとき、何を伝えればいいですか?
意識の有無、呼吸の有無、血圧、脈拍、体温、酸素飽和度がガイドラインに挙げられています。伝える項目と順番をあらかじめ決めておくとスムーズです。
協力医療機関は1つで足りますか?
条文は「複数の医療機関を協力医療機関として定めることにより当該各号の要件を満たすこととしても差し支えない」としています。1つで3要件を満たす必要はありません。
協力医療機関は診療所でもよいですか?
第1号・第2号は診療所でも満たせますが、入院受入れを求める第3号の要件を満たす協力医療機関は「病院に限る」と条文が明記しています。
協力医療機関について毎年しなければならないことはありますか?
あります。年1回以上、協力医療機関との間で病状が急変した場合等の対応を確認し、協力医療機関の名称等を都道府県知事に届け出る必要があります。
急変で救急搬送した場合、市町村への報告は必要ですか?
医師の診断を受けて投薬や処置など何らかの治療が必要となった場合は、原則として報告対象です。第1報は遅くとも5日以内が目安とされています。
原因がわからないうちに事故報告を出してよいのですか?
出してください。通知は第1報を先に提出し、原因分析や再発防止策は作成次第報告するとしています。
家族への説明は誰が行いますか?
ガイドラインは「利用者本人や家族に対し、管理者等が正確に説明する」としています。あわせて、職員が個人的な判断や推測で回答しないよう徹底することを求めています。
急変時対応の訓練はどのように行えばいいですか?
ガイドラインは、マニュアルやフロー図を作成して平時から職員に周知し、訓練しておくことを求めています。BCPの研修・訓練や感染症の訓練と時期を合わせて計画に組み込む方法もあります。
- 急変時はまず救命と安全確保、次に意識・呼吸の確認
- その場を離れず応援を呼び、口頭でよいのでリーダー・上司に迅速に報告する
- 看護職員に伝える項目は意識・呼吸・血圧・脈拍・体温・酸素飽和度
- 誤嚥で意識がなければ即吸引と救急車要請(看護職員を待たない)
- 唇が紫色なら発見が遅れているサイン
- 頭を打っている場合は即受診をルールにする
- 「事故かもしれない」段階の事実確認もルール化する
- 協力医療機関の3要件は相談対応・診療・入院受入れ
- 相談対応と診療の体制は「常時」確保が必要
- 入院受入れの要件を満たす協力医療機関は病院に限る
- 複数の医療機関を組み合わせて3要件を満たしてもよい
- 年1回以上の対応確認と都道府県知事への届出が義務
- 死亡した事故、医師の診断を受け治療が必要となった事故は原則すべて報告
- 事故報告の第1報は遅くとも5日以内が目安
- マニュアルはフロー図にして、訓練までやって初めて使える
- 介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン(令和7年11月 厚生労働省老健局)
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第16条、第30条
- 介護保険施設等における事故の報告様式等について(介護保険最新情報Vol.943 令和3年3月19日)
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準について(老企第44号)
※本記事の初動対応は、厚生労働省老健局のガイドラインに示された考え方および記載例を整理したものです。ガイドラインは介護保険施設サービスを主な対象としており、記載された対応例がすべての場面にあてはまるとは限りません。協力医療機関の要件は介護老人保健施設の基準省令を根拠としています。特別養護老人ホーム、介護医療院、認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護では、義務か努力義務かを含めて取扱いが異なる場合があるため、自施設に適用される基準の原文をご確認ください。事故報告の対象・期限は厚生労働省老健局の通知にもとづきますが、「その他の事故」の取扱いは市町村によって異なります。医学的な判断、救命処置の具体的手技については、必ず医師・看護職員の指示および所定の救命講習の内容に従ってください。転倒後の経過に関する事例は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、医学的な一般化を意図したものではありません。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。




