老健の新興感染症等施設療養費とは?

老健の新興感染症等施設療養費は、1日につき240単位、1月に1回・連続する5日を限度です。令和6年度改定で新設されました。ただし令和6年4月時点で対象となる感染症は1つも指定されていません。今は「発動していない仕組み」であり、パンデミックが起きたときのために置かれた備えです。
この記事では、指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)と老企第40号の原文を確認して、単位数・算定要件・「対象感染症がない」ことの意味・今のうちに準備しておくことを整理しました。
この記事でわかること
- 老健の新興感染症等施設療養費は1日240単位・連続5日限度という単位数
- 令和6年4月時点で対象となる感染症が指定されていないこと
- 新型コロナウイルス感染症は対象にならないこと
- 相談対応・診療・入院調整を行う医療機関の確保が要件だということ
- 「適切な感染対策」の具体的な中身
- 届出が不要だということ
- 高齢者施設等感染対策向上加算との違い
- 今のうちに準備しておくべきこと
老健の新興感染症等施設療養費とは?
新興感染症等施設療養費は、新興感染症のパンデミックが起きたときに、施設内で感染した入所者を施設の中で療養させることを評価する費用です。老企第40号 4の(22)①は、その趣旨を次のように説明しています。
新興感染症等施設療養費は、新興感染症のパンデミック発生時等において、施設内で感染した高齢者に対して必要な医療やケアを提供する観点や、感染拡大に伴う病床ひっ迫を避ける観点から、必要な感染対策や医療機関との連携体制を確保した上で感染した高齢者の療養を施設内で行うことを評価するものである。
目的が2つ書かれています。感染した高齢者に必要な医療とケアを届けることと、病床のひっ迫を避けること。新型コロナウイルス感染症の流行期に、施設で感染者を抱えながら入院先が見つからないという事態が各地で起きました。その経験を踏まえて、令和6年度改定で新設されています。
ちびウルフコロナの入所者が出たら、これを算定できるということですか。
リハウルフできません。対象になる感染症は厚生労働大臣が指定する仕組みで、令和6年4月時点で指定されているものは1つもない、と通知がはっきり書いています。新型コロナは5類移行後で、指定の対象になっていません。
新興感染症等施設療養費の単位数
告示第21号の介護保健施設サービスのクに定められています。
ク 新興感染症等施設療養費(1日につき) 240単位
注 介護老人保健施設が、入所者が別に厚生労働大臣が定める感染症に感染した場合に相談対応、診療、入院調整等を行う医療機関を確保し、かつ、当該感染症に感染した入所者に対し、適切な感染対策を行った上で、介護保健施設サービスを行った場合に、1月に1回、連続する5日を限度として算定する。
| 区分 | 単位数 | 限度 | 最大 |
|---|---|---|---|
| 新興感染症等施設療養費 | 240単位 | 1月に1回、連続する5日 | 1,200単位 |
緊急時治療管理と同じく「1月に1回、連続する」という書き方です。日を分けて算定することはできません。
新興感染症等施設療養費の算定要件
告示の注から要件を取り出すと、3つです。
- 入所者が厚生労働大臣が定める感染症に感染した場合に、相談対応・診療・入院調整等を行う医療機関を確保していること
- 当該感染症に感染した入所者に対し、適切な感染対策を行っていること
- その上で介護保健施設サービスを行ったこと
対象となる感染症は「まだない」
老企第40号 4の(22)②は、この仕組みの核心を短く書いています。
対象の感染症については、今後のパンデミック発生時等に必要に応じて厚生労働大臣が指定する。令和6年4月時点においては、指定している感染症はない。
現時点では算定できる場面がない
指定されている感染症がない以上、現時点でこの費用を算定できる場面は存在しません。インフルエンザ、ノロウイルス、新型コロナウイルス感染症、いずれも対象外です。ハブ記事や一覧表に載っていても、今は算定できません。将来パンデミックが起きたときに厚生労働大臣が感染症を指定して初めて動き出す、休眠状態の仕組みだと理解してください。
適切な感染対策とは
老企第40号 4の(22)③は、「適切な感染対策」の中身を具体的に挙げています。
- 手洗いや個人防護具の着用等の標準予防策(スタンダード・プリコーション)の徹底
- ゾーニング
- コホーティング
- 感染者以外の入所者も含めた健康観察
具体的な方法については「介護現場における感染対策の手引き(第3版)」を参考とすることとされています。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 標準予防策 | すべての人の血液・体液・分泌物等を感染の可能性があるものとして扱う基本的な予防策 |
| ゾーニング | 感染区域と非感染区域を物理的に区分すること |
| コホーティング | 同じ感染症の患者を同一区域にまとめて管理すること |
医療機関の確保
「相談対応、診療、入院調整等を行う医療機関を確保し」が要件です。感染したときに相談でき、必要なら診てもらえ、入院が要るときは調整してもらえる。この3つが揃った関係を、感染が起きる前に作っておく必要があります。
高齢者施設等感染対策向上加算との違い
老健には感染症に関する報酬がもう1つあります。高齢者施設等感染対策向上加算です。混同しやすいので整理します。
| 比較の観点 | 新興感染症等施設療養費 | 高齢者施設等感染対策向上加算 |
|---|---|---|
| 性格 | 感染者を施設内で療養させたことへの費用 | 感染対策の体制を整えていることへの加算 |
| 算定のタイミング | 実際に感染者が出たとき | 体制があれば毎月 |
| 対象の感染症 | 厚生労働大臣が指定するもの(現時点でなし) | 感染症全般(新興感染症を含む体制) |
| 届出 | 不要 | 必要 |
体制の加算は今すぐ取れる
新興感染症等施設療養費は算定できる場面がありませんが、高齢者施設等感染対策向上加算は今すぐ算定できます。感染症対策で報酬を取りにいくなら、まずこちらです。第二種協定指定医療機関との連携体制、協力医療機関との取り決め、院内感染対策の研修・訓練への参加といった要件が定められています。
ちびウルフ算定できないなら、今は何もしなくていいということですか。
リハウルフ逆です。指定されてから医療機関を探すのでは間に合いません。要件になっている「相談対応・診療・入院調整を行う医療機関の確保」は、平時にやっておくことです。ゾーニングの手順も、流行が始まってから考えるものではありません。
新興感染症等施設療養費の注意点
届出は不要
告示のクの注には、届出に関する文言がありません。感染症が指定され、要件を満たした対応を行えば算定できる構造です。
今のうちに準備しておくこと
算定できる場面が来ないほうがよい仕組みではありますが、来たときに動けるかどうかは平時の準備で決まります。
- 相談対応・診療・入院調整を行ってもらえる医療機関との関係を作り、文書で残す
- 「介護現場における感染対策の手引き(第3版)」に沿ってゾーニングの手順を作っておく
- コホーティングが可能な部屋の配置をあらかじめ検討する
- 個人防護具の在庫と、着脱の訓練の記録を残す
- 感染者以外の入所者を含めた健康観察の様式を用意する
これらは高齢者施設等感染対策向上加算の要件とも重なります。加算のために整えた体制が、そのまま新興感染症等施設療養費の要件を満たす形になります。
転換老健でも算定できる
告示のクには「イ(1)、ロ(1)について」のような限定がありません。介護保健施設サービス費(Ⅱ)〜(Ⅳ)を算定する転換老健でも算定できます。
新興感染症等施設療養費のQ&A
新型コロナウイルス感染症は対象ですか?
対象ではありません。老企第40号は令和6年4月時点で指定している感染症はないとしています。対象は今後のパンデミック発生時等に厚生労働大臣が指定します。
インフルエンザやノロウイルスは対象ですか?
対象ではありません。指定されている感染症がない以上、現時点で算定できる場面はありません。
届出は必要ですか?
不要です。告示の注に届出に関する文言がありません。
連続する5日とはどう数えますか?
1月に1回、連続する5日が限度です。緊急時治療管理と同様、日を分けて複数回算定することはできない構造です。
高齢者施設等感染対策向上加算と一緒に算定できますか?
告示のクの注に、同加算を排除する規定はありません。ただし対象感染症が指定されていない現時点では、この費用自体が算定できません。
医療機関の確保はどのような形で行いますか?
告示は「相談対応、診療、入院調整等を行う医療機関を確保し」とするのみで、契約の形式を定めていません。協力医療機関との取り決めの中に位置づけるのが実務的です。
ゾーニングができない構造の施設はどうすればよいですか?
「介護現場における感染対策の手引き(第3版)」を参考に、可能な範囲での区分と動線の整理を検討することになります。具体的な判断は指定権者や協力医療機関に相談してください。
感染していない入所者にも算定できますか?
できません。告示は「当該感染症に感染した入所者に対し」としています。
指定されたらすぐ算定できますか?
要件である医療機関の確保と適切な感染対策を満たしていることが前提です。指定されてから体制を作るのでは間に合わないため、平時からの準備が要になります。
まとめ
- 老健の新興感染症等施設療養費は1日240単位、1月に1回・連続する5日が限度(最大1,200単位)
- 令和6年度改定で新設された
- 令和6年4月時点で、対象となる感染症は1つも指定されていない
- 新型コロナウイルス感染症・インフルエンザ・ノロウイルスは対象外
- 今後のパンデミック発生時等に厚生労働大臣が感染症を指定して発動する仕組み
- 要件は「相談対応・診療・入院調整等を行う医療機関の確保」と「適切な感染対策」
- 適切な感染対策とは標準予防策の徹底・ゾーニング・コホーティング・感染者以外も含めた健康観察
- 具体的な方法は「介護現場における感染対策の手引き(第3版)」を参考にする
- 届出は不要
- 感染した入所者に対して算定するもので、感染していない入所者には算定できない
- 高齢者施設等感染対策向上加算は体制への加算で、こちらは今すぐ算定できる
- 加算のために整えた体制が、そのままこの費用の要件を満たす
- 医療機関の確保とゾーニングの手順は、指定を待たず平時に準備しておく
- 転換老健(介護保健施設サービス費(Ⅱ)〜(Ⅳ))でも算定できる
参考にした情報
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)介護保健施設サービス ク
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準等に関する留意事項について(老企第40号)4の(22)、5の(48)、8の(51)
※本記事の単位数・算定要件は、厚生労働省の告示および通知にもとづいて整理したものです。対象となる感染症の指定状況は「令和6年4月時点においては、指定している感染症はない」という老企第40号の記載にもとづいています。その後に指定が行われている可能性があるため、実際の算定にあたっては最新の告示および指定権者の解釈をご確認ください。取扱いは都道府県・市町村(指定権者)によって異なる場合があります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。運用に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。





