老健の所定疾患施設療養費とは?

老健の所定疾患施設療養費は(Ⅰ)239単位・(Ⅱ)480単位、いずれも1日につき。算定できる日数も(Ⅰ)は連続7日、(Ⅱ)は連続10日と差があり、1回あたりの上限は(Ⅰ)1,673単位に対して(Ⅱ)4,800単位。3倍近い開きがあります。
令和6年度改定では対象疾患に慢性心不全の増悪が追加されました。ただし条件付きで、常用する内服薬を調整するだけでは算定できません。
そして肺炎と尿路感染症には、以前から「検査を実施した場合のみ」という制限があります。診断だけでは算定できない、という点は必ず押さえてください。
この記事では、指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(厚生省告示第21号)、老企第40号、令和6年度介護報酬改定における改定事項についてを突き合わせて整理しました。筆者は理学療法士16年目・介護支援専門員です。
- (Ⅰ)239単位・7日と(Ⅱ)480単位・10日という差
- 対象となる5つの疾患
- 令和6年度改定で慢性心不全の増悪が追加されたこと
- 肺炎・尿路感染症は検査の実施が必須であること
- 慢性心不全は注射・酸素投与等の処置が原則必要なこと
- 「連続する日」でなければならないこと
- 緊急時施設療養費との関係
- (Ⅱ)だけに求められる医師の研修受講
- (Ⅰ)と(Ⅱ)で記録すべき内容が違うこと
- 治療の実施状況の公表義務
(Ⅰ)と(Ⅱ)の比較
| 項目 | 所定疾患施設療養費(Ⅰ) | 所定疾患施設療養費(Ⅱ) |
|---|---|---|
| 単位数 | 239単位/日 | 480単位/日 |
| 日数 | 連続する7日を限度 | 連続する10日を限度 |
| 回数 | 同一の入所者について1月に1回 | |
| 1回あたり上限 | 1,673単位 | 4,800単位 |
| 医師の研修受講 | — | 必要 |
| 記録 | 診断名・診断日・治療内容 | 左記+診断に至った根拠 |
1 別に厚生労働大臣が定める基準に適合する介護老人保健施設において、別に厚生労働大臣が定める入所者に対し、投薬、検査、注射、処置等を行った場合(肺炎の者又は尿路感染症の者に対しては診療に当たり検査を行った場合に限る。)は、当該基準に掲げる区分に従い、次に掲げる所定単位数を算定する。ただし、次に掲げるいずれかの施設療養費を算定している場合においては、次に掲げるその他の施設療養費は算定しない。
2 所定疾患施設療養費(Ⅰ)は同一の入所者について1月に1回、連続する7日を限度として算定し、所定疾患施設療養費(Ⅱ)は同一の入所者について1月に1回、連続する10日を限度として算定する。
3 緊急時施設療養費を算定した日は、算定しない。
(Ⅱ)を10日フルで算定すれば4,800単位。1単位10円換算で約4万8,000円です。老健の加算のなかでは金額が大きい部類に入ります。
(Ⅰ)との差は3,127単位。(Ⅱ)の追加要件は医師の研修受講と、診断根拠まで含めた記録です。要件の重さに比べて、差は小さくありません。
対象となる5つの疾患
所定疾患施設療養費の対象となる入所者の状態は次のとおりであること。
イ 肺炎
ロ 尿路感染症
ハ 帯状疱疹
ニ 蜂窩織炎
ホ 慢性心不全の増悪
| 疾患 | 追加の条件 |
|---|---|
| 肺炎 | 検査を実施した場合のみ |
| 尿路感染症 | 検査を実施した場合のみ |
| 帯状疱疹 | — |
| 蜂窩織炎 | — |
| 慢性心不全の増悪 | 原則として注射または酸素投与等の処置を実施した場合のみ |
令和6年度改定で慢性心不全の増悪が追加された
1.(3)⑱ 所定疾患施設療養費の見直し
○ 介護老人保健施設の入所者に適切な医療を提供する観点から、介護老人保健施設における疾患の発症・治療状況を踏まえ、対象に慢性心不全が増悪した場合を追加する。
慢性心不全の増悪には、他の疾患にはない条件が付いています。
「原則として注射又は酸素投与等の処置を実施した場合のみ算定できるものとし、常用する内服薬を調整するのみの場合では算定できない」。
利尿薬の量を増やした、というだけでは対象になりません。注射または酸素投与等の処置を行ったことが算定の前提です。処置の内容を診療録に記載してください。
ちびウルフ肺炎なのに検査をしていないと算定できないんですか?
リハウルフそう。告示の本文に「肺炎の者又は尿路感染症の者に対しては診療に当たり検査を行った場合に限る」とはっきり書いてある。
老健は施設内に検査設備が十分でないことも多い。だから通知はこうも書いている。「近隣の医療機関と連携した場合であっても、同様に、医療機関で行われた検査、処置等の実施内容について情報提供を受け、当該内容を診療録に記載しておくこと」。
自施設で検査できなくても、連携先の医療機関で実施してもらい、その結果の情報提供を受けて記録すればよいということ。協力医療機関との連携体制が、そのまま算定機会につながる構造になっている。
「連続する日」でなければならない
所定疾患施設療養費(Ⅰ)は、(中略)1回に連続する7日を限度とし、月1回に限り算定するものであるので、1月に連続しない1日を7回算定することは認められないものであること。
- 算定は1回に連続する日数で数える
- 治療した日を月内で拾い集めて7日(10日)にすることはできない
- 1月に1回だけ
治療が断続的だった場合、連続している期間だけが算定対象になります。3日治療して2日空け、また3日治療した——という場合、算定できるのは最初の3日分か後の3日分のいずれかです。
緊急時施設療養費とは同時に算定できない
| 報酬 | 単位数 | 内容 |
|---|---|---|
| 所定疾患施設療養費 | 239単位/480単位 | 肺炎等5疾患の治療管理 |
| 緊急時施設療養費(緊急時治療管理) | 500単位/日 | 病状が重篤になり救命救急医療が必要な入所者への応急的な治療管理 |
告示は「緊急時施設療養費を算定した日は、算定しない」としています。同じ日に両方を算定することはできません。
緊急時治療管理は1回に連続する3日を限度、月1回で、対象は意識障害・昏睡、急性呼吸不全等、急性心不全、ショック、重篤な代謝障害、薬物中毒等で重篤なものです。状態の重さで使い分けることになります。
緊急時施設療養費との使い分け
老健には、施設内で医療的な対応を行った場合の報酬がもうひとつあります。緊急時施設療養費です。
入所者の病状が著しく変化し、入院による治療が必要とされる場合には、速やかに協力病院等の病院へ入院させることが必要であるが、こうした場合であっても、介護老人保健施設において緊急その他やむを得ない事情により施設療養を行うときがあるので、緊急時施設療養費は、このような場合に行われる施設療養を評価するために設けられていること。
緊急時治療管理の対象
緊急時治療管理は、入所者の病状が重篤になり、救命救急医療が必要となる入所者に対し、応急的な治療管理として投薬、注射、検査、処置等が行われた場合に、1日につき500単位を算定すること。
緊急時治療管理は、1回に連続する3日を限度とし、月1回に限り算定するものである。
緊急時治療管理の対象となる入所者は、次のとおりであること。
a 意識障害又は昏睡 b 急性呼吸不全又は慢性呼吸不全の急性増悪 c 急性心不全(心筋梗塞を含む。) d ショック e 重篤な代謝障害 f その他薬物中毒等で重篤なもの
| 項目 | 所定疾患施設療養費 | 緊急時治療管理 |
|---|---|---|
| 単位数 | 239単位/480単位 | 500単位 |
| 日数 | 連続7日/連続10日 | 連続3日 |
| 回数 | 月1回 | |
| 対象 | 肺炎等5疾患 | 救命救急医療が必要な重篤な状態 |
所定疾患施設療養費が「肺炎等の治療」を評価するのに対し、緊急時治療管理は「救命救急医療が必要な重篤な状態への応急的対応」を評価します。
単価は緊急時治療管理のほうが高い(500単位)ものの、日数は3日と短い。1回あたりの上限は1,500単位で、所定疾患施設療養費(Ⅱ)の4,800単位を下回ります。
同じ日に両方は算定できません。肺炎の治療が続くなかで一時的に重篤化した場合など、どちらで算定するかは日単位で判断することになります。
(Ⅱ)だけに求められる要件
医師の研修受講
当該介護保健施設サービスを行う介護老人保健施設の医師が感染症対策に関する内容(肺炎、尿路感染症、帯状疱疹及び蜂窩織炎に関する標準的な検査・診断・治療等及び抗菌薬等の適正使用、薬剤耐性菌)を含む研修を受講していること。ただし、感染症対策に関する十分な経験を有する医師については、感染症対策に関する研修を受講した者とみなす。
- 研修内容は5疾患のうち4つ(肺炎・尿路感染症・帯状疱疹・蜂窩織炎)の標準的な検査・診断・治療
- あわせて抗菌薬等の適正使用と薬剤耐性菌
- 十分な経験があれば受講したものとみなす
記録に「診断に至った根拠」が加わる
| 記録項目 | (Ⅰ) | (Ⅱ) |
|---|---|---|
| 診断名 | 必要 | 必要 |
| 診断に至った根拠 | — | 必要 |
| 診断を行った日 | 必要 | 必要 |
| 実施した投薬・検査・注射・処置の内容等 | 必要 | 必要 |
また、抗菌薬の使用に当たっては、薬剤耐性菌にも配慮するとともに、肺炎、尿路感染症及び帯状疱疹の検査・診断・治療に関するガイドライン等を参考にすること。
(Ⅱ)は単位数が高いぶん、診断の根拠を示すことと抗菌薬の適正使用が求められています。
治療の実施状況の公表
当該加算の算定開始後は、治療の実施状況について公表することとする。公表に当たっては、介護サービス情報の公表制度を活用する等により、前年度の当該加算の算定状況を報告すること。
(Ⅰ)(Ⅱ)とも、算定を開始したら治療の実施状況を公表する義務があります。
方法は「介護サービス情報の公表制度を活用する等により、前年度の算定状況を報告する」。年度が変わったら忘れずに対応してください。算定はしているが公表していない、という状態は要件を満たしていないことになります。
算定にあたっての実務ステップ
- 医師が感染症対策に関する研修を受講しているかを確認する((Ⅱ)を算定する場合)
- 入所者に肺炎・尿路感染症・帯状疱疹・蜂窩織炎・慢性心不全の増悪のいずれかが疑われたら、医師が診断する
- 肺炎・尿路感染症の場合は必ず検査を実施する(自施設で難しければ連携医療機関へ依頼する)
- 連携先で検査・処置を行った場合は、実施内容の情報提供を受ける
- 慢性心不全の増悪の場合は、注射または酸素投与等の処置を実施する
- 投薬・検査・注射・処置等の治療管理を連続した日数で行う
- 診断名・診断日・治療内容を診療録に記載する((Ⅱ)は診断に至った根拠も)
- 同じ日に緊急時施設療養費を算定していないか確認する
- (Ⅰ)は連続7日、(Ⅱ)は連続10日を限度として、月1回算定する
- 年度ごとに、前年度の算定状況を公表する
3つ目が算定可否を分けます。肺炎・尿路感染症で検査を行っていなければ、どれだけ治療しても算定できません。
よくある質問
(Ⅰ)と(Ⅱ)の単位数と日数は?
(Ⅰ)は239単位/日で連続する7日を限度、(Ⅱ)は480単位/日で連続する10日を限度です。いずれも同一の入所者について1月に1回です。
(Ⅰ)と(Ⅱ)は両方算定できますか?
できません。いずれかを算定している場合は、その他の施設療養費は算定しないとされています。
対象となる疾患は何ですか?
肺炎、尿路感染症、帯状疱疹、蜂窩織炎、慢性心不全の増悪の5つです。
慢性心不全はいつ追加されましたか?
令和6年度介護報酬改定です。「対象に慢性心不全が増悪した場合を追加する」とされました。
慢性心不全で内服薬を調整した場合は算定できますか?
できません。原則として注射または酸素投与等の処置を実施した場合のみとされ、常用する内服薬を調整するのみでは算定できません。
肺炎で検査をしていない場合は?
算定できません。肺炎および尿路感染症については、検査を実施した場合のみ算定できるとされています。
自施設で検査ができない場合はどうしますか?
近隣の医療機関と連携した場合も、医療機関で行われた検査・処置等の実施内容について情報提供を受け、その内容を診療録に記載しておくこととされています。
治療した日を月内で合計して7日にできますか?
できません。1回に連続する日数で数えるため、1月に連続しない1日を7回算定することは認められていません。
緊急時施設療養費と併算定できますか?
できません。緊急時施設療養費を算定した日は算定しないとされています。
(Ⅱ)に必要な医師の研修とは?
肺炎・尿路感染症・帯状疱疹・蜂窩織炎に関する標準的な検査・診断・治療等および抗菌薬等の適正使用、薬剤耐性菌を含む研修です。十分な経験を有する医師は受講したものとみなされます。
(Ⅰ)と(Ⅱ)で記録の内容は違いますか?
違います。(Ⅱ)では診断名に加えて「診断に至った根拠」の記載が求められます。
算定状況の公表は必要ですか?
必要です。算定開始後は治療の実施状況を公表することとされ、介護サービス情報の公表制度を活用する等により前年度の算定状況を報告します。
- 老健の所定疾患施設療養費は(Ⅰ)239単位・(Ⅱ)480単位(1日につき)
- (Ⅰ)は連続7日、(Ⅱ)は連続10日を限度
- いずれも同一の入所者について1月に1回
- 1回あたりの上限は(Ⅰ)1,673単位、(Ⅱ)4,800単位
- (Ⅰ)と(Ⅱ)は併算定できない
- 対象は肺炎・尿路感染症・帯状疱疹・蜂窩織炎・慢性心不全の増悪
- 慢性心不全の増悪は令和6年度改定で追加された
- 慢性心不全は注射または酸素投与等の処置が原則必要
- 常用する内服薬の調整のみでは算定できない
- 肺炎・尿路感染症は検査を実施した場合のみ算定できる
- 自施設で検査できない場合は連携医療機関の実施内容の情報提供を受けて記録する
- 算定は連続する日数で数える
- 月内で治療日を拾い集めることはできない
- 緊急時施設療養費を算定した日は算定できない
- (Ⅱ)は医師の感染症対策に関する研修受講が必要
- 十分な経験を有する医師は受講したものとみなされる
- (Ⅱ)は記録に「診断に至った根拠」が加わる
- (Ⅱ)は抗菌薬の使用にあたり薬剤耐性菌への配慮が求められる
- 算定開始後は治療の実施状況を公表する
- 公表は介護サービス情報の公表制度等を活用し前年度の算定状況を報告する
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号) 介護保健施設サービス レ 所定疾患施設療養費、タ 緊急時施設療養費(全国老人保健施設協会 法令Q&A検索システム)
- 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(短期入所サービス及び特定施設入居者生活介護に係る部分)及び指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について(老企第40号) 介護保健施設サービス(37)緊急時施設療養費に関する事項、(38)所定疾患施設療養費(Ⅰ)について、(39)所定疾患施設療養費(Ⅱ)について
- 令和6年度介護報酬改定における改定事項について(PDF) 1.(3)⑱ 所定疾患施設療養費の見直し(厚生労働省)
※本記事の単位数・算定要件は、厚生労働省の告示、老企第40号の留意事項通知および令和6年度介護報酬改定の資料にもとづいて整理したものです。実際の算定にあたっては原文および指定権者(都道府県・市町村)の解釈をご確認ください。本記事は介護報酬の算定要件を整理したものであり、個々の入所者に対する診断・検査・治療の要否について述べるものではありません。診断および治療の方針は医師が入所者の状態を踏まえて判断するものです。「感染症対策に関する十分な経験を有する」ことによるみなしの判断、検査・処置の範囲、公表の具体的な方法については、指定権者によって取扱いが異なる場合があります。単位数は1単位あたりの単価(地域区分)により実際の報酬額が変わります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。記録や連携に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。


