高額介護サービス費は、1か月に支払った介護サービスの自己負担額が上限を超えたとき、超えた分が払い戻される制度です。多くの世帯の上限は月44,400円。市町村民税非課税世帯なら24,600円、条件によっては15,000円まで下がります。

ただし、申請しなければ1円も戻りません。この記事では、介護支援専門員として在宅の現場に関わってきた立場から、高額介護サービス費の上限額・対象になる費用・申請方法を、厚生労働省の通知にそって整理します。

この記事でわかること
  • 所得区分ごとの上限額(5段階+非課税世帯の細分)
  • 「世帯」の上限と「個人」の上限の違い
  • 対象にならない費用(ここを誤解している人が多い)
  • 申請方法と、2回目以降は申請が不要になる仕組み
  • 申請できる期限(2年)
  • 払い戻しまでにかかる期間の目安
  • 区分支給限度基準額との違い
  • 高額医療・高額介護合算制度との関係

高額介護サービス費とは

介護保険のサービスを使うと、費用の1〜3割を自己負担します。この自己負担額が1か月(暦月)の上限を超えた場合、超えた分が申請により払い戻されるのが高額介護サービス費です。

ポイントは3つあります。

  • 判定は世帯単位(同じ世帯に複数の利用者がいれば合算する)
  • 上限は所得によって5段階に分かれる
  • 自動では戻らない(初回は申請が必要)
区分支給限度基準額とは別の制度よく混同されますが、区分支給限度基準額(要介護度ごとの1か月のサービス利用上限)とは別物です。区分支給限度基準額は「使えるサービスの量の上限」、高額介護サービス費は「支払う金額の上限」。限度額を超えて使った分は全額自己負担になり、その全額自己負担分は高額介護サービス費の対象にもなりません。

高額介護サービス費の上限額【所得区分別】

令和3年8月から適用されている区分です。上限額は1か月あたりの金額です。

課税所得690万円以上(年収約1,160万円以上)140,100円(世帯)
課税所得380万円以上690万円未満(年収約770万円以上約1,160万円未満)93,000円(世帯)
市町村民税課税〜課税所得380万円未満44,400円(世帯)
世帯全員が市町村民税非課税24,600円(世帯)
 うち 前年の公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の人、または老齢福祉年金受給者24,600円(世帯)/15,000円(個人)
生活保護の被保護者等15,000円(個人)

上位3区分は世帯に65歳以上(第1号被保険者)が複数いる場合、そのうち最も所得が高い人の課税所得で判定されます。夫婦のどちらか一方の所得が高ければ、世帯の上限額はその高いほうに引っ張られる、ということです。

「世帯」と「個人」の上限の違い

非課税世帯の区分には、世帯24,600円と個人15,000円が並んでいます。これは世帯全体では24,600円、そのうち1人あたりでは15,000円を超えないという二重の上限です。

夫婦2人とも介護サービスを使っている非課税世帯で、それぞれ2万円ずつ負担した場合を考えます。世帯合計4万円のうち、まず個人ごとに15,000円を超えた分(各5,000円)が戻り、さらに世帯合計が24,600円を超えないよう調整されます。計算は市町村が行うので、こちらで算出する必要はありません。

世帯分離で上限が下がることがある判定が世帯単位である以上、課税されている家族と同じ世帯にいると、上限額が高いほうで判定されます。住民票の世帯を分ければ判定が変わる場合がありますが、健康保険の扶養、税の扶養控除、他の減免制度に影響が及びます。金額だけを見て安易に判断せず、市町村の窓口とケアマネジャーに相談してください。

対象になる費用・ならない費用

ここを誤解していると、「思ったより戻らない」ことになります。

対象になる訪問介護・訪問看護・通所介護・通所リハビリ・短期入所・施設サービスなど、介護保険サービスの自己負担額(1〜3割)
対象にならない福祉用具購入費の自己負担/住宅改修費の自己負担/施設の食費・居住費(滞在費)/おむつ代などの日常生活費/区分支給限度基準額を超えて全額自己負担した分/介護保険外の自費サービス

特に注意したいのが施設の食費と居住費です。特別養護老人ホームなどに入所している場合、月々の支払いの多くをこの2つが占めますが、高額介護サービス費では1円も戻りません。こちらは「特定入所者介護サービス費(補足給付)」という別の制度で軽減します。

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じゃあ在宅で月3万円くらいの負担なら、そもそも関係ない?

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1割負担・44,400円区分の在宅利用なら、超えないことのほうが多いです。要介護5でも区分支給限度基準額の上限まで使って1割で約3万6千円ですから。この制度が効いてくるのは、①2割・3割負担の人、②非課税世帯(上限24,600円)で在宅サービスを多く使っている人、③施設に入所している人です。特に②は月2万円台の負担で該当するので、見落とされがちです。心当たりがあれば市町村に確認してください。

申請方法

  • 市町村から「支給申請書」が届く/該当した月のおおむね2〜3か月後。多くの市町村は該当者に通知を送っている
  • 申請書に必要事項を記入する/振込先口座(被保険者名義が原則)、被保険者番号など
  • 市町村の介護保険担当窓口へ提出する/郵送で受け付ける市町村が多い
  • 指定した口座に払い戻される/申請から1〜2か月程度が目安
  • 2回目以降は原則として申請不要/同じ口座に自動的に振り込まれる市町村がほとんど

一度申請すれば以降は自動という運用が一般的なので、最初の1回さえ済ませてしまえば、あとは放っておいても戻ってきます。逆に言えば、その1回をやらずに放置している人が実際にいます。

申請できるのは2年以内

時効は2年介護保険の給付を受ける権利の時効は2年です。高額介護サービス費も、サービスを利用した月の翌月1日から2年を過ぎると請求できなくなります。「通知は来ていたが忘れていた」という場合でも、2年以内なら遡って申請できる可能性があります。心当たりがあれば、まず市町村に問い合わせてください。

払い戻しの計算例

1単位10円・1割負担として、市町村民税非課税世帯(上限24,600円)の人が1か月に35,000円を自己負担したケースです。

1か月の自己負担額35,000円
負担の上限額24,600円
払い戻される額35,000円 − 24,600円 = 10,400円

同じ35,000円を負担していても、課税世帯(上限44,400円)であれば上限に達していないため、払い戻しはありません。同じ金額を払っていても、所得区分で結果が変わります。

高額医療・高額介護合算制度との関係

高額介護サービス費が「1か月・介護だけ」の制度なのに対し、高額医療・高額介護合算制度は「1年間・医療と介護を合算」する制度です。

高額介護サービス費1か月単位/介護保険の自己負担のみ
高額療養費1か月単位/医療保険の自己負担のみ
高額医療・高額介護合算制度1年単位(毎年8月1日〜翌年7月31日)/医療と介護の自己負担を合算

順番としては、まず月ごとに高額介護サービス費と高額療養費で戻し、それでもなお年間の合計が重い場合に合算制度で戻すという二段構えです。医療と介護の両方を使っている世帯ほど、合算制度の対象になりやすくなります。こちらも申請が必要です。

よくある質問
高額介護サービス費の上限額はいくらですか?
所得によって5段階です。課税所得690万円以上は世帯140,100円、課税所得380万円以上690万円未満は世帯93,000円、それ以外の課税世帯は世帯44,400円、市町村民税非課税世帯は世帯24,600円(一定の条件を満たす場合は個人15,000円)、生活保護の被保護者等は個人15,000円です。いずれも1か月あたりの金額です。
申請しないと戻ってきませんか?
初回は申請が必要です。多くの市町村では該当者に支給申請書が送られてきます。一度申請して口座を登録すれば、2回目以降は原則として申請不要で自動的に振り込まれる運用が一般的です。
いつ頃振り込まれますか?
市町村が国保連合会の給付実績で判定するため、サービス利用月から通知までにおおむね2〜3か月、申請から振込までにさらに1〜2か月程度かかるのが一般的です。正確な時期は市町村によって異なります。
何年前まで遡って申請できますか?
介護保険の給付を受ける権利の時効は2年です。サービスを利用した月の翌月1日から2年以内であれば申請できます。過ぎた分は請求できなくなるため、心当たりがあれば早めに市町村へ問い合わせてください。
福祉用具の購入費や住宅改修費も対象になりますか?
なりません。福祉用具購入費と住宅改修費の自己負担は、高額介護サービス費の対象外です。これらは別に「居宅介護福祉用具購入費」「居宅介護住宅改修費」として、それぞれ年間・生涯の上限が定められた仕組みで給付されます。
特養の食費や部屋代は戻りますか?
高額介護サービス費では戻りません。施設の食費・居住費(滞在費)は対象外です。所得や資産の要件を満たす場合は、「特定入所者介護サービス費(補足給付)」という別の制度で負担限度額まで軽減されます。市町村への申請と負担限度額認定証が必要です。
限度額を超えて自費で使ったサービスは対象ですか?
対象外です。区分支給限度基準額を超えて全額自己負担となった分と、介護保険外の自費サービスは、高額介護サービス費の対象になりません。
世帯を分ければ上限額を下げられますか?
判定は世帯単位で行われるため、世帯構成が変われば上限額の区分が変わることがあります。ただし世帯分離は、健康保険の扶養、税の扶養控除、他の減免制度など広い範囲に影響します。介護費用だけで判断せず、市町村の窓口とケアマネジャーに相談してください。
まとめ
  • 高額介護サービス費は、1か月の介護サービスの自己負担額が上限を超えたとき、超えた分が払い戻される制度。
  • 判定は世帯単位。同じ世帯に複数の利用者がいれば合算する。
  • 上限額は、課税所得690万円以上で世帯140,100円、380万円以上690万円未満で世帯93,000円、その他の課税世帯で世帯44,400円。
  • 市町村民税非課税世帯は世帯24,600円。年金収入等が80万円以下の人や老齢福祉年金受給者は個人15,000円。
  • 生活保護の被保護者等は個人15,000円。
  • 世帯に65歳以上が複数いる場合、最も課税所得が高い人を基準に判定される。
  • 福祉用具購入費・住宅改修費・施設の食費・居住費・日常生活費・限度額超過分・自費サービスは対象外。
  • 施設の食費と居住費の軽減は、特定入所者介護サービス費(補足給付)という別制度。
  • 初回は申請が必要。多くの市町村では該当者に申請書が届く。
  • 一度申請すれば、2回目以降は自動で振り込まれる運用が一般的。
  • 申請の時効は2年。過ぎると請求できない。
  • 医療と介護の両方の負担が重い世帯は、1年単位の高額医療・高額介護合算制度も確認する。
参考にした情報
  • 厚生労働省老健局介護保険計画課「介護保険制度における利用者負担等の事務処理の取扱いについて」(令和3年7月5日老介発0705第1号/介護保険最新情報Vol.997)別添2「高額介護(予防)サービス費の支給事務」
  • 介護保険法(平成9年法律第123号)第51条(高額介護サービス費)、第51条の3(特定入所者介護サービス費)、第200条(時効)

※本記事の上限額および区分は、令和3年8月サービス分から適用されている内容を、厚生労働省の通知にもとづいて整理したものです。年収の目安は課税所得に対応するおおよその金額であり、実際の判定は課税所得等で行われます。判定にあたっては年少扶養控除の見直しに対応した調整措置など細かな取扱いがあり、個別の判定結果は世帯の状況によって異なります。申請書の送付の有無、審査・振込にかかる期間、2回目以降の取扱いは市町村によって異なります。正確な金額と手続きは、お住まいの市町村の介護保険担当窓口にご確認ください。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の制度改正により取扱いが変わる可能性があります。世帯分離に関する記述は判断材料の整理であり、特定の手続きを推奨するものではありません。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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