住宅改修費の支給制度とは?対象工事と申請の流れを解説

介護保険の住宅改修費は、支給限度基準額20万円まで。1割負担の人なら20万円の工事で18万円が支給されます。ただし工事を始める前に申請しないと、原則として1円も出ません。ここを知らずに先に工事をしてしまう人が、毎年一定数います。
この記事では、介護支援専門員として在宅の現場に関わってきた立場から、介護保険の住宅改修費支給の対象工事・申請の流れ・20万円がリセットされる条件を、厚生労働省の通知(老企第42号)にそって整理します。
- 支給対象となる6種類の工事
- 20万円の使い方(分割して使えること)
- 20万円がもう一度使える2つの条件
- 事前申請で必要な4つの書類
- 理由書はケアマネジャーが作成し、費用は取れないこと
- 工事完了後に必要な書類
- 新築・増築・DIYの取り扱い
- 同居する家族も要介護なら、それぞれ20万円使えること
介護保険の住宅改修費支給とは
要介護・要支援の認定を受けた人が、自宅に手すりを付けたり段差を解消したりしたとき、その費用の一部が介護保険から支給される制度です。正式には「居宅介護住宅改修費」「介護予防住宅改修費」といいます。
厚生労働省の通知は、対象を小規模な工事に限っている理由をこう説明しています。
「資産形成につながらないように」という考え方が、対象の線引きの根拠です。だから新築や増築は対象になりません。
支給対象となる6種類の工事
| ①手すりの取付け | 廊下、便所、浴室、玄関、玄関から道路までの通路など。取り付けに工事を伴うもの |
|---|---|
| ②段差の解消 | 敷居を低くする、スロープを設置する、床のかさ上げなど |
| ③床または通路面の材料の変更 | 滑りの防止、移動の円滑化のため。畳からフローリング、浴室の床を滑りにくいものへ、など |
| ④引き戸等への扉の取替え | 開き戸を引き戸・折戸・アコーディオンカーテンへ。扉の撤去、ドアノブの変更、戸車の設置も含む |
| ⑤洋式便器等への便器の取替え | 和式便器を洋式便器へ。便器の位置・向きの変更も含む |
| ⑥①〜⑤に付帯して必要となる住宅改修 | 手すり取付けのための壁の下地補強、床材変更のための下地の補修、便器交換に伴う給排水設備工事など |
20万円の使い方
支給限度基準額は要介護度にかかわらず一律20万円です。要介護5でも要支援1でも同じです。
この20万円は1回で使い切る必要はありません。複数回に分けて使えます。例えば最初に手すりで8万円使ったら、残りの12万円を後から段差解消などに使えます。
また、要介護度が変わっても限度額は変わりません。通知にも「要介護状態区分が変更された場合、要介護者が要支援者になった場合又は要支援者が要介護者になった場合であっても、それをもって支給限度額に変更があるわけではない」と明記されています。
20万円がもう一度使える2つの条件
①「介護の必要の程度」の段階が3段階以上上がったとき
最初に住宅改修費の支給を受けた工事の着工時点と比べて、次の段階が3段階以上上がった場合、改めて20万円まで支給を受けられます。ただし、この取り扱いは1回に限られます。
| 第六段階 | 要介護5 |
|---|---|
| 第五段階 | 要介護4 |
| 第四段階 | 要介護3 |
| 第三段階 | 要介護2 |
| 第二段階 | 要支援2 または 要介護1 |
| 第一段階 | 要支援1 |
注意したいのは要支援2と要介護1が同じ第二段階である点です。要支援2のときに改修した人が要介護4になれば、第二段階→第五段階で3段階上がるため対象になります。
②転居したとき
支給限度額の管理は現に居住している住宅について行われます。したがって転居した場合は、改めて20万円まで支給を受けられます。前の家で20万円を使い切っていても関係ありません。
申請の流れ【事前申請が必須】
- ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談する/困っている動作を具体的に伝える
- 施工事業者に見積もりを依頼する/材料費・施工費・諸経費を区分した内訳が必要
- 事前申請の書類を市町村に提出する/申請書、理由書、見積書、改修予定の状態がわかるもの
- 市町村の確認結果を受ける/保険給付として適当かどうかを事前に教示してもらう
- 着工・完成/確認結果を受けてから工事を始める
- 事後申請の書類を提出する/領収証、工事費内訳書、完成後の写真など
- 支給決定・振込/市町村が確認のうえ支給を決定する
事前申請に必要な書類
| ①支給申請書 | 改修の内容・箇所・規模を、工事種別ごとに記載する |
|---|---|
| ②住宅改修が必要な理由書 | 心身の状況、日常生活上の動線、住宅の状況、福祉用具の導入状況を勘案して作成される |
| ③工事費見積書 | 材料費・施工費・諸経費を適切に区分したもの |
| ④改修前後の予定の状態がわかるもの | 箇所ごとの改修前と改修後の予定を、写真や簡単な図で示したもの |
通知には「介護支援専門員等が当該書類を作成する業務は居宅介護支援事業又は介護予防支援事業の一環であるため、被保険者から別途費用を徴収することはできない」と明記されています。理由書の作成料を請求されたら、それは誤りです。
工事完了後に必要な書類
- 領収証(工事費内訳書を添付。工事箇所・内容・規模を明記し、材料費・施工費・諸経費を区分)
- 完成後の状態を確認できる書類(箇所ごとの改修前・改修後それぞれの写真。原則として撮影日がわかるもの)
- 住宅の所有者の承諾書(改修する人と住宅の所有者が異なる場合)
賃貸住宅や、子ども名義の家に住んでいる場合は所有者の承諾書が必須です。大家さんとの交渉に時間がかかることがあるため、早めに動いてください。
ちびウルフ20万円って、いったん全額払わないといけないの?
リハウルフ原則は償還払いなので、いったん全額を事業者に支払い、あとから9割分が振り込まれます。ただ、多くの市町村が「受領委任払い」を用意していて、この場合は自己負担分(1〜3割)だけを事業者に払えば済みます。あらかじめ市町村に登録した事業者に限られることが多いので、見積もりを取る前に「受領委任払いに対応していますか」と聞いてください。一時的な20万円の用意が難しい家庭には、これが決定的な違いになります。
対象になる・ならないの境目
新築・増築
住宅の新築は対象外です。増築も、新たに居室を設ける場合などは対象になりません。
ただし通知は、廊下の拡幅にあわせて手すりを取り付ける場合、便所の拡張に伴い和式便器から洋式便器に取り換える場合などは、「手すりの取付け」「洋式便器等への便器の取替え」に係る費用についてのみ支給対象になり得るとしています。工事全体ではなく、対象部分だけを抽出して申請する形です。
対象外の工事を同時に行う場合
支給対象外の工事も併せて行う場合は、対象部分の抽出や按分など適切な方法で、支給対象となる費用を算出します。リフォームのついでに手すりを付ける、というケースがこれにあたります。見積書の段階で切り分けておいてもらってください。
自分で工事した場合
意外と知られていませんが、本人や家族が自分で材料を買って施工した場合、材料の購入費が支給対象になります。
この場合、領収証は材料を販売した店が発行したものとし、これに添付する工事費内訳書として、使用した材料の内訳を記載した書類を本人または家族が作成します。必要な書類の種類自体は、業者に頼む場合と変わりません。
設計・積算の費用
住宅改修の前提として行われた設計・積算の費用は、住宅改修の費用として扱われます。ただし改修を伴わない設計・積算のみの費用は対象外です。
同じ家に要介護者が2人いる場合
支給限度額の管理は被保険者ごとに行われるため、夫婦それぞれが認定を受けていれば、それぞれが20万円ずつ使えます。
ただし条件があります。同時に複数の被保険者に係る改修を行う場合は、各被保険者に有意な範囲を特定し、その範囲が重複しないように申請する必要があります。
通知の例では、2人の被保険者が各自の専用の居室の床材変更を同時に行った場合はそれぞれ申請できますが、共用の居室の床材変更については、いずれか一方のみが申請することになるとされています。
介護保険の住宅改修費はいくらまで支給されますか?
どんな工事が対象になりますか?
工事を先にしてしまった場合はどうなりますか?
20万円は分けて使えますか?
もう一度20万円使えることはありますか?
理由書の作成にお金はかかりますか?
賃貸住宅でも使えますか?
自分でDIYした場合も対象になりますか?
夫婦とも要介護の場合、それぞれ20万円使えますか?
いったん全額を立て替える必要がありますか?
- 介護保険の住宅改修費は、支給限度基準額20万円。要介護度にかかわらず一律。
- 20万円の工事なら、1割負担の人は通常18万円が支給される。
- 対象は、手すりの取付け、段差の解消、床・通路面の材料の変更、引き戸等への扉の取替え、洋式便器等への便器の取替え、これらに付帯して必要となる工事の6種類。
- 壁の下地補強や給排水設備工事などの「付帯工事」も対象になり得る。
- 20万円は複数回に分けて使える。要介護度が変わっても限度額は変わらない。
- 「介護の必要の程度」の段階が3段階以上上がった場合、改めて20万円使える(1回限り)。
- 転居した場合も、改めて20万円まで支給を受けられる。
- 事前申請が原則。工事を先に始めると原則として支給されない。
- 事前申請の書類は、申請書・理由書・見積書・改修前後の予定がわかるもの。
- 理由書はケアマネジャー等が作成し、利用者から別途費用を徴収することはできない。
- 完了後は、領収証(工事費内訳書つき)、改修前後の写真(原則撮影日入り)、所有者が異なる場合は承諾書が必要。
- 新築は対象外。増築も原則対象外だが、手すり・便器取替え部分のみ対象になる場合がある。
- 本人・家族が自分で施工した場合は、材料の購入費が支給対象になる。
- 同じ住宅に複数の被保険者がいる場合、範囲が重複しなければそれぞれ20万円使える。
- 厚生省老人保健福祉局企画課長通知「居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について」(平成12年3月8日老企第42号)
- 「介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて」(平成12年1月31日老企第34号)
- 介護保険法(平成9年法律第123号)第45条(居宅介護住宅改修費の支給)、第57条(介護予防住宅改修費の支給)、介護保険法施行規則第75条・第76条・第94条・第95条
※本記事の対象工事・申請手続きは、厚生労働省の通知にもとづいて整理したものです。個別の工事が支給対象になるかどうかの判断、申請様式、提出書類、受領委任払いの有無や登録事業者の要件、事前相談の方法は市町村によって異なります。着工前に必ずお住まいの市町村の介護保険担当窓口とケアマネジャーにご確認ください。支給額は自己負担割合(1〜3割)により異なります。市町村によっては、介護保険とは別に独自の住宅改修助成制度を設けている場合があります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の制度改正により取扱いが変わる可能性があります。工事の選び方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。




