認知症のBPSD周辺症状とは?種類と対応方法解説

「もの忘れはまだいい。怒鳴られるのがつらい」「夕方になると家に帰ると言い出して、毎日それが続く」——ご家族を本当に追い詰めるのは、もの忘れそのものではなく、こちらのBPSD(周辺症状)のほうです。
この記事では、理学療法士・介護支援専門員として在宅の認知症の方に関わってきた立場から、BPSDとは何か、なぜ起こるのか、症状別にどう対応すればいいのかを整理します。BPSDは「病気だから仕方ない」ものではなく、多くの場合きっかけがあります。そこを見つけられるかどうかで、介護の負担は大きく変わります。
- BPSD(周辺症状)と中核症状の違い
- BPSDにはどんな種類があるのか
- BPSDを引き起こす4つの引き金
- 症状別の具体的な対応方法
- やってはいけない対応と、その理由
- きっかけを見つけるための記録のとり方
BPSD(周辺症状)とは何か
BPSDは「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の略で、日本語では認知症の行動・心理症状と訳されます。従来は「周辺症状」「問題行動」と呼ばれてきたものです。
厚生労働省の政策レポートは、周辺症状をこう説明しています。本人がもともと持っている性格、環境、人間関係などさまざまな要因が絡み合って、うつ状態や妄想のような精神症状、日常生活への適応を困難にする行動上の問題が起こってくる——これらを周辺症状と呼ぶことがある、と。
リハウルフこの定義、よく読んでほしいんです。「性格・環境・人間関係が絡み合って」起こると書いてある。つまり関わり方や環境を変えれば、変わりうるということです。ここが中核症状との決定的な違いです。
BPSDと中核症状の違い
認知症の症状は、大きく2つに分けて考えます。
| 中核症状 | 脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状。記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下など。認知症の人には必ず現れる |
|---|---|
| BPSD(周辺症状) | 中核症状を土台に、本人の性格・環境・人間関係・体調などが絡んで起こる症状。出る人と出ない人がいる。同じ人でも時期によって変わる |
厚労省のレポートは、中核症状があるために「周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなる」と説明しています。その混乱した世界の中で、不安や恐怖に対して本人なりに反応した結果がBPSDだ、と考えると理解しやすくなります。
ちびウルフじゃあ、怒鳴るのも意味があってのことなんだ?
リハウルフ本人にとってはそうです。厚労省の資料にも、認知症の人は「周囲からの刺激や情報に対して正しい解釈ができなくなっている」ため、思いがけない感情の反応を示すと書かれています。本人にとっては不自然な反応ではない、と。
BPSDの主な種類
大きく「行動症状」と「心理症状」に分けられます。実際には重なり合って現れます。
| 行動症状 | 暴言・暴力/興奮・易怒性/徘徊・ひとり歩き/帰宅願望/介護への抵抗(拒否)/不潔行為・弄便/食行動の異常/繰り返しの訴え・つきまとい |
|---|---|
| 心理症状 | 物盗られ妄想などの妄想/幻覚(レビー小体型では幻視が特徴的)/抑うつ/不安・焦燥/アパシー(無気力・意欲低下)/睡眠障害・昼夜逆転 |
BPSDを引き起こす4つの引き金
「認知症だからこうなる」で止めてしまうと、対応のしようがなくなります。私が現場でまず確認するのは、次の4つです。
対応の大原則
症状別の話に入る前に、すべてに共通する原則を先に押さえます。ここができていないと、個別のテクニックは効きません。
- 否定しない・訂正しない|事実で言い負かしても、本人には「責められた」という感情だけが残ります。記憶は消えても、感情は残ります
- 本人の世界の中で応じる|「盗られた」と言われたら、盗まれた事実ではなく「困っている」という感情に応じる
- ひとりで、短い言葉で話す|複数人で囲まない。一度に複数の指示を出さない
- 先回りしすぎない|厚労省の資料も、本人は「なにもできない」わけではなく、支えがあれば一つひとつの作業はできる、と述べています。奪うと能力はさらに落ちます
- その場を離れる勇気を持つ|こちらが限界なら、安全を確認したうえで一度離れる。感情のぶつけ合いになるより、はるかにましです
BPSD症状別の対応方法
物盗られ妄想
財布や通帳が「盗られた」と訴える。最も多く、最も介護者が傷つく症状です。いちばん世話をしている人が犯人にされるという残酷な特徴があります。
- 「盗ってない」と否定しない。まず「それは困ったね、一緒に探そう」と味方の側に立つ
- 見つけても介護者が見つけない。本人が自分で見つけられるよう、近くまで誘導する
- 「ここにあったよ、よかったね」で終わらせる。「ほら、あったでしょ」は責めになります
- 置き場所を一か所に決め、貼り紙などで見える化する
暴言・暴力・興奮
- まず身体の不調と薬を疑う。痛みや便秘が原因のことが本当に多い
- 正面から近づかない。視野が狭くなっているため、突然視界に入ると驚きが怒りに変わります
- 介護中に起きるなら、何をされるか分かっていない可能性が高い。声をかけてから、一動作ずつ
- その場で説得しようとしない。距離をとり、時間をおく。数分後には本人も落ち着いていることが多い
帰宅願望・ひとり歩き(徘徊)
「家に帰る」と言い出すのは、今いる場所が安心できていないというサインです。自宅にいるのに「帰る」と言うのも同じです。
- 「ここが家でしょう」と説明しない。効果がないうえ、混乱を強めます
- 「もう暗いから、お茶を飲んでから送っていくね」と、否定せず時間をずらす
- 役割のある作業(洗濯物たたみ、豆の選別など)に自然に誘う
- 出て行くこと自体は止めきれない前提で、安全策を用意する(靴に連絡先、GPS機器、近所への事前のあいさつ、地域の見守りネットワークへの登録)
夕方に落ち着かなくなる(夕暮れ時の不穏)
- 日中の活動量と日光を確保する。生活リズムの乱れが背景にあることが多い
- 夕方は室内を早めに明るくする。薄暗さは不安と見間違いを増やします
- その時間帯に用事を詰め込まない。介護者側も忙しい時間帯なので、こちらの余裕のなさが伝わります
幻視(見えないものが見える)
レビー小体型認知症で特徴的な症状です。「子どもが座っている」「虫がいる」など、具体的で生々しいのが特徴です。
- 「いないよ」と否定しない。本人には本当に見えています
- 「そこにいるのね。あっちに行ってもらおうか」と、いる前提で対応して安心させる
- 照明を明るくする、模様のあるカーテンや掛け布を変えるなど、見間違いのもとを減らす
- 幻視が新たに出てきた場合は、必ず医師に伝える。薬の影響や、種類の見直しにつながることがあります
介護への抵抗(入浴・着替え・服薬の拒否)
- 「なぜ嫌なのか」を一度だけ考える。寒い、裸を見られたくない、痛い、面倒——理由があるはずです
- 「お風呂に入りましょう」ではなく「足だけ温めましょうか」と、ハードルを下げる
- 断られたら、いったん引く。30分後に別の人が誘うと通ることが珍しくありません
- 入浴は毎日でなくてよい。清拭や部分浴で代替する日を作る
ちびウルフ「いったん引く」って、諦めるみたいで抵抗あるなあ
リハウルフ戦略的撤退です。押し切って入れた入浴は、次から「嫌な記憶」として残ります。今日一日を取りにいくか、これから半年を取りにいくか。私は後者を選びます。
やってはいけない対応
きっかけを見つけるための記録のとり方
対応を変えるには、まず引き金を特定する必要があります。難しいことは要りません。症状が出たときだけ、次の4つをメモしてください。
| いつ | 日付と時刻。「毎日16時ごろ」といった規則性が見えてきます |
|---|---|
| 直前に何があったか | 誰が来た、何を言った、どこへ行った、何を食べた |
| どんな症状か | 「興奮した」ではなく「大声で30分怒った」と具体的に |
| どう対応し、どうなったか | うまくいった対応を残すことが目的です |
この記録は、受診のときにも、ケアマネジャーへの相談のときにも、そのまま使えます。「大変なんです」と言うより、記録を見せたほうが話が早く進みます。
ちびウルフ毎日つけなくていいんだ。それなら続けられそう
薬について知っておくこと
BPSDに対して薬が使われることがありますが、私の立場で言えるのは次の点までです。
- まず、体調・薬・環境・関わり方の見直しが先。ここを飛ばして薬に頼ると、原因が残ったままになります
- ふらつき、傾眠、飲み込みにくさなどが出た場合は、すぐに処方元に相談する
- レビー小体型認知症は薬に対する過敏性があるとされ、種類の見きわめが特に重要です
- 自己判断で中止・減量しない。必ず処方した医師に相談してください
家族が限界になる前の相談先
- 地域包括支援センター|介護保険の申請、サービス調整、家族支援の入り口。無料です
- 担当ケアマネジャー|すでに介護保険を使っているなら、まずここ。ショートステイやデイの利用調整ができます
- 認知症疾患医療センター、もの忘れ外来|症状が急に変わったとき、薬の見直しが必要なとき
- 認知症の人と家族の会などの家族介護者の集まり|同じ経験をした人と話すことが、実際にいちばん効く場面があります
BPSDは必ず出るものですか?
急に暴言がひどくなりました。認知症が進んだのでしょうか?
なぜ、いちばん介護している人が「盗んだ」と言われるのですか?
デイサービスでは穏やかなのに、家では荒れます。なぜですか?
本人に病気のことを伝えるべきですか?
- BPSD(周辺症状)は、中核症状を土台に、性格・環境・人間関係などが絡んで起こる行動・心理症状。
- 中核症状は必ず現れるが、BPSDは出方に個人差があり、関わり方や環境で変わりうる。
- 行動症状(暴言・徘徊・拒否など)と心理症状(妄想・幻覚・抑うつ・アパシーなど)に分けられる。
- 引き金は、身体の不調・薬・環境の変化・関わり方の4つ。急な悪化はまず体調と薬を疑う。
- 否定しない、訂正しない、ひとりで短く話す、先回りしすぎない、限界なら一度離れる。
- 物盗られ妄想は「一緒に探す」。本人が自分で見つけられるように誘導する。
- 帰宅願望は否定せず時間をずらす。閉じ込めは焦燥を強め逆効果になりやすい。
- 幻視は否定しない。いる前提で応じ、照明や見間違いのもとを減らす。
- 拒否されたら戦略的に引く。時間と人を変えると通ることがある。
- 「いつ・直前に何が・どんな症状・どう対応したか」だけ記録する。受診と相談でそのまま使える。
- 家族だけで抱え込まない。地域包括支援センターとケアマネジャーが最初の窓口。
- 厚生労働省「政策レポート(認知症を理解する)」(中核症状と周辺症状の定義、記憶障害・見当識障害・理解判断力の障害・実行機能障害・感情表現の変化、認知症の人と接するときの心がまえ)
- 厚生労働省「認知症施策」(認知症施策の全体像、相談・支援体制)
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」(相談窓口)
※本記事のうち、中核症状と周辺症状の定義および関わり方の考え方は厚生労働省の公表資料にもとづき、症状別の具体的な対応は筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく内容です。効果には個人差があり、すべての方に当てはまるものではありません。症状の変化や薬に関する判断は、必ず主治医にご相談ください。内容は2026年8月時点の情報です。




