認知症の運転免許はいつまで?返納のタイミング解説

「親が認知症かもしれない。運転免許は、いつまで持てるんだろう」——ご家族から本当によく受ける質問です。結論から言うと、年齢で自動的に打ち切られる仕組みはありません。ただし、医師に認知症と診断された場合は、免許は取り消し(または停止)になります。これは道路交通法で決まっていることです。
この記事では、理学療法士・介護支援専門員として在宅の高齢者に関わってきた立場から、75歳以上の免許更新で何が行われるのか、認知症と判定されたらどうなるのか、そして家族がどのタイミングで返納の話を切り出すべきかを整理します。制度の部分は警察庁の公表資料で確認した内容にしぼって書いています。
- 「認知症だと免許はどうなるのか」の法律上の答え
- 75歳以上の更新で受ける認知機能検査の中身と、36点という基準
- 「認知症のおそれあり」と判定された後の流れ
- 返納を考えるタイミングの具体的な判断材料
- 自主返納の手続きと、運転経歴証明書のメリット
- 本人が納得しないときに、やってはいけない伝え方
結論:年齢の上限はない。ただし認知症の診断で取り消される
まず、よくある2つの誤解を先に外しておきます。
| 「75歳で免許は終わり」 | 誤り。75歳以上は更新時に認知機能検査を受ける必要があるが、年齢そのものによる上限はない |
|---|---|
| 「検査で悪い点だと即取消し」 | 誤り。検査は医師の診断ではない。「認知症のおそれがある」判定は、医師の診断につながる入り口 |
法律上のラインは、「医師が認知症と診断したかどうか」です。警察庁は、認知症であると診断された場合は聴聞等の手続を経たうえで免許の取消し又は効力の停止を受ける、と明記しています。逆に言えば、そこに至るまでは運転を続けられる建前になっています。
リハウルフここが制度の弱点でもあります。診断がつく前の「グレーの期間」が一番長く、事故のリスクもその時期にある。だから制度を待つのではなく、家族が早めに話し合う必要があるんです。
75歳以上の運転免許更新で何をするのか
更新期間が満了する日の年齢が75歳以上の人は、更新時に認知機能検査を受けなければなりません。普段まったく運転していない人でも、更新するなら受検が必要です。
認知機能検査の中身は2つだけ
難しいものではありません。検査項目は次の2つです。
- 手がかり再生:一定のイラストを記憶し、別の課題をはさんだあとで、まずヒントなしに、次にヒントを手がかりに思い出して答える
- 時間の見当識:検査を受けている時点の年・月・日・曜日・時間を答える
ちびウルフ思ったより短いんだね。運転の腕前を見るわけじゃないんだ
リハウルフそう。記憶力と時間の感覚を簡易に確認するだけの検査です。警察庁自身も「医師の行う認知症の診断や医療検査に代わるものではない」と注意書きを付けています。
なお、検査用紙とイラスト、採点方法は警察庁のサイトで公開されており、家族が検査員役になって自宅で体験してみることもできます。当日の緊張を減らす意味では、一度触れておく価値があります。
「36点」という判定ライン
結果は点数そのものではなく、「認知症のおそれがある/ない」の2区分で通知されます。区分けは総合点で決まります。
| 総合点の出し方 | 総合点 = 2.499×(手がかり再生の点)+ 1.336×(時間の見当識の点) |
|---|---|
| 認知症のおそれがある | 総合点が36点未満 |
| 認知症のおそれがない | 総合点が36点以上 |
「認知症のおそれがある」と判定された後の流れ
ここが一番不安を持たれるところなので、警察庁の説明どおりに順を追います。
検査結果は書面(はがき等を含む)で通知され、あわせて次の手続の案内があります。
臨時適性検査(専門医の診断)を受けるか、診断書提出命令により医師の診断書を提出します。どちらかは必須です。
認知症でないと診断されれば、更新の手続に進めます。認知症と診断された場合は次へ。
即日ではなく、本人の言い分を聞く手続を経たうえで処分が決まります。
知っておいてほしいのは、再受検ができることです。検査は何回でも受けられ(そのつど手数料がかかります)、再受検で「認知症のおそれがない」と判定されれば、臨時適性検査や診断書提出命令の対象になりません。体調不良や強い緊張で点数が振るわなかった場合は、この道があります。
ちびウルフ一発で決まっちゃうわけじゃないんだね。ちょっと安心した
更新のときだけとは限らない
75歳以上の人が信号無視などの特定の交通違反をした場合には、更新時期とは関係なく臨時認知機能検査が行われます。内容は同じで、「認知症のおそれがある」となれば同じく医師の診断につながります。
違反歴があると受ける「運転技能検査」
令和4年(2022年)に導入された仕組みです。75歳以上で一定の違反歴がある人は、この検査に合格しないと更新できません。認知症の有無とは別のルートですが、家族としては押さえておく価値があります。
- 対象期間は、免許の有効期間満了日の直前の誕生日の160日前の日からさかのぼって3年間
- 対象の違反は、信号無視/通行区分違反/速度超過/踏切不停止等/交差点安全進行義務違反等/横断歩行者等妨害等/安全運転義務違反/携帯電話使用等など
- 実際にコースで普通自動車を運転し、100点満点からの減点方式で採点
- 合格は第一種免許70点以上、第二種免許80点以上
減点の目安も公表されています。一時停止ができないと10点または20点、右左折で中央線をはみ出す・脱輪すると20点または40点、赤信号で止まれないと10点または40点、検査員が補助ブレーキを踏むと30点です。日常の運転で「ヒヤリ」が増えている人は、ここで現実を突きつけられることになります。
返納のタイミングをどう判断するか
ここからは制度の話ではなく、現場で私が見てきた判断材料です。診断や検査結果を待つ必要はありません。次のような変化が出てきたら、話し合いを始める時期だと考えています。
リハウルフおすすめは、元気なうちに「こうなったらやめる」を本人と決めておくことです。「同乗した家族が3人とも怖いと言ったら」でもいい。ルールを先に作っておくと、いざというときの説得が説得ではなくなります。
自主返納の手続き
正式には「申請による運転免許の取消し」といいます。加齢に伴う身体機能の低下などで運転に不安を感じるようになった人は、自分の申請で免許を返すことができます。手順は次のとおりです。
運転免許試験場・センター、または警察署です。申請場所・受付時間・必要書類は都道府県によって違うため、必ず事前に問い合わせてください。
申請による取消しなので、本人の意思が前提です。家族が代わりに返すことはできません。
同時に申請できます。返納後5年以内であれば後日でも申請可能です(手数料がかかります)。
バス・タクシー・鉄道の割引などが受けられる地域があります。返納の動機づけとして使えます。
運転経歴証明書は何の役に立つのか
返納をためらう理由でいちばん多いのが「身分証がなくなる」です。ここは制度で手当てされています。
- 平成24年4月1日以降に交付された運転経歴証明書は、運転免許証に代わる公的な本人確認書類として使えます(銀行等でも利用可)
- 自主返納した人だけでなく、更新を受けずに失効した人も交付を申請できます
- ただし、自主返納後または失効後5年以上が経過していると交付を受けられません
- 令和7年3月からは、マイナンバーカードと一体化した「マイナ経歴証明書」の運用も始まっています
一部だけ返す方法もある
あまり知られていませんが、免許の一部返納(一部取消し)もできます。たとえば大型免許を持っている人が大型だけ取消しを申請し、普通免許を残す形です。ただしこの場合、運転経歴証明書の交付は受けられません。
「全部やめる」以外の選択肢:サポートカー限定免許
令和4年に導入された制度で、申請により運転できる車を安全運転サポート車に限定する条件付き免許です。警察庁は、自主返納だけでなく「より安全な自動車に限って運転を継続する」という中間的な選択肢と位置づけています。
| 条件A | 衝突被害軽減ブレーキ(保安基準に適合するもの)を備えた普通自動車 |
|---|---|
| 条件B | 衝突被害軽減ブレーキ(性能認定)+ペダル踏み間違い時加速抑制装置(性能認定。マニュアル車は不要)を備えた普通自動車 |
買い物や通院に車が欠かせない地域では、いきなりゼロにするより現実的な着地点になり得ます。ただし装置は事故を減らすためのもので、運転の安全を保証するものではありません。
本人が納得しないとき、やってはいけない伝え方
ここが一番こじれるところです。訪問先でも、家族関係が壊れてしまった例を何度も見ています。
効果があったのは、第三者から言ってもらう方法です。主治医、ケアマネジャー、あるいは警察の安全運転相談。家族が言うと反発される内容でも、専門職の口からだと受け入れられることが少なくありません。
ちびウルフ言い方を変えるだけで、そんなに違うんだ
迷ったときの相談先
- 安全運転相談ダイヤル「#8080」(令和元年11月から運用)|加齢等で運転に不安がある人からの相談窓口。全国共通の短縮番号です
- 運転免許試験場・センターの安全運転相談窓口、最寄りの警察署|「親が認知症で、免許を取り消してほしい」という相談も、ここが窓口だと警察庁が案内しています
- 主治医・もの忘れ外来|運転の可否は医学的な判断が必要な部分です
- 地域包括支援センター、担当ケアマネジャー|返納後の移動手段(買い物・通院)の組み立てを一緒に考えられます
認知症と診断されたら、すぐに免許は取り消されますか?
認知機能検査を受けずに返納することはできますか?
認知機能検査が免除されることはありますか?
家族が本人の代わりに返納できますか?
返納したら本当に身分証がなくなりますか?
- 年齢による免許の上限はない。ただし医師に認知症と診断されると、聴聞等を経て取消し又は停止になる。
- 75歳以上は更新時に認知機能検査(手がかり再生・時間の見当識)を受ける。通知は満了日の6か月前までに届く。
- 総合点36点未満で「認知症のおそれがある」。これは診断ではなく、医師の診断につなぐための線引き。
- 「おそれがある」判定でも再受検は何回でも可能。再受検で「おそれなし」なら診断書提出等の対象外になる。
- 75歳以上で一定の違反歴があると運転技能検査があり、第一種は70点以上で合格。
- 返納の判断材料は、車体の傷・道に迷う・同乗すると怖い・違反や事故・薬や体調の変化。
- 自主返納は本人の申請が前提。行政処分中は返納できないため、順番に注意。
- 運転経歴証明書は返納後5年以内に申請でき、公的な本人確認書類として使える。
- 全部やめる以外に、サポートカー限定免許という中間の選択肢がある。
- 「認知症だから」と言わない。代わりの足を用意し、第三者から伝えてもらう。
- 警察庁「認知機能検査について」(75歳以上の受検義務、検査項目、判定後の流れ、臨時認知機能検査)
- 警察庁「認知機能検査の採点方法」(総合点の計算式、36点の判定基準)
- 警察庁「認知機能検査 Q&A」(免除の要件、再受検、返納の手続、家族からの相談先)
- 警察庁「運転技能検査について」(対象となる違反歴、採点方法、合格基準)
- 警察庁「運転免許証の自主返納について」(返納できない場合、運転経歴証明書の要件)
- 警察庁「高齢運転者対策の概要」(PDF。各制度の導入年、高齢者講習、サポートカー限定免許の条件、#8080)
※本記事の内容は2026年8月時点で公表されている情報にもとづいています。手数料・必要書類・受付時間・自治体の支援策は都道府県によって異なります。個別の手続については、お住まいの都道府県警察の運転免許センター等に必ずご確認ください。運転の可否に関する医学的な判断は主治医にご相談ください。




