認知症の成年後見制度とは?申立ての流れを解説

「親の預金が下ろせない」「実家を売りたいのに手続きが進まない」——認知症が進んだご家族から、必ずと言っていいほど出てくる相談です。その解決策として案内されるのが成年後見制度ですが、一度始めると、原則として途中でやめられません。ここを知らずに申し立てて、後悔する家族を何度も見てきました。
この記事では、理学療法士・介護支援専門員として在宅の高齢者に関わってきた立場から、成年後見制度の仕組みと申立ての流れを、法務省と裁判所が公表している内容にしぼって整理します。メリットだけでなく、申し立てる前に必ず知っておくべき注意点も同じ分量で書きます。
- 成年後見制度とは何か、何ができて何ができないのか
- 後見・保佐・補助の3類型と、任意後見との違い
- 申立てできる人、申立先、必要な書類と費用
- 申立てから開始までの流れと期間
- 申し立てる前に必ず知っておくべき5つの注意点
- 身寄りがない場合の市町村長申立て
成年後見制度とは何か
法務省の説明はこうです。認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な人は、財産の管理、介護サービスや施設入所の契約、遺産分割の協議などを自分で行うことが難しい場合がある。また、自分に不利益な契約でも判断できずに結んでしまい、悪徳商法の被害に遭うおそれもある。こうした人を保護し、支援するのが成年後見制度です。
裁判所の表現ではもっと端的で、「本人の権利を守る人(後見人等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度」とされています。
リハウルフ大事なのは「本人を守る制度」であって、「家族が困らないための制度」ではないという点です。この視点のズレが、後のトラブルの原因になります。
成年後見制度の3類型(後見・保佐・補助)
法定後見制度は、本人の判断能力の程度によって3つに分かれます。どれになるかは、家庭裁判所が判断します。
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の方|成年後見人が財産に関するすべての法律行為を代理。本人がした法律行為は、日常生活に関するものを除いて取り消せる |
|---|---|
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な方|借金・保証・不動産売買など法律で定められた一定の行為に保佐人の同意が必要。同意なしの行為は取り消せる |
| 補助 | 判断能力が不十分な方|家庭裁判所の審判により、特定の法律行為について補助人に同意権・取消権や代理権を与える |
いずれも、日用品の購入など「日常生活に関する行為」は取消しの対象外です。自己決定の尊重という考え方があるためで、スーパーで買った食料品を後から取り消せるわけではありません。
任意後見とはどう違うのか
ここまでは「判断能力が落ちてから」使う法定後見です。もうひとつ、任意後見があります。
- 本人の判断能力が十分なうちに、誰に何を頼むかを自分で決めて契約しておく制度
- 原則として公証役場に出向き、公正証書で任意後見契約を結ぶ
- 判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから契約の効力が生じる
- 公正証書作成の基本手数料は13,000円、登記嘱託手数料1,600円、登記所に納付する印紙代2,600円(ほかに正本等の証書代、切手代)
ちびウルフ元気なうちに決めておけるなら、そっちのほうが安心だね
リハウルフそうなんです。ただ、この記事を読んでいる方の多くは、すでに認知症が進んでからの相談だと思います。その場合は法定後見しか選べません。だからこそ、元気な親を持つ人にこそ任意後見を知ってほしい。
誰が申立てできるのか
後見開始の審判を申し立てられる人は、裁判所が明示しています。
- 本人(後見開始の審判を受ける者)
- 配偶者
- 四親等内の親族(子、孫、兄弟姉妹、おい・めい、いとこなどが含まれます)
- 未成年後見人、未成年後見監督人
- 保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人
- 検察官
- 任意後見契約が登記されているときは、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人
身寄りがない場合は市町村長が申し立てられる
「申立てをする親族がいない」というケースは、現場では珍しくありません。この場合、市町村長等に法定後見(後見・保佐・補助)の開始の審判の申立権が与えられています。実際に、身寄りのない特別養護老人ホーム入所者について町長が申し立て、司法書士が成年後見人に選任された事例が法務省の資料に掲載されています。まずは地域包括支援センターに相談してください。
申立ての流れ
後見開始を例に、順を追います。
申立先は本人の住所地の家庭裁判所です。必要書類や郵便料は裁判所ごとに違うため、最初に問い合わせます。34の家庭裁判所は個別の案内事項を設けています。
本人の診断書(発行から3か月以内)が必要です。あわせて「本人情報シート」を用意します。これは本人の生活状況を福祉関係者が記載するもので、ケアマネジャーや相談員が作成に関わります。
戸籍謄本、住民票(いずれも3か月以内)、登記されていないことの証明書、預貯金通帳の写し、不動産登記事項証明書、年金額決定通知書、施設利用料の資料などをそろえます。マイナンバーが記載された書類は提出しません。
申立手数料は収入印紙800円、登記手数料は収入印紙2,600円。ほかに連絡用の郵便切手(郵便料は裁判所ごとに異なる)が必要です。
家庭裁判所が本人の陳述を聴いたり、後見人候補者の適格性を調査したりします。親族に対して候補者を伝えたうえで意向照会が行われる場合があります。
家庭裁判所が必要と判断した場合、医師による鑑定を行います。鑑定費用は申立人が納めます。
後見等が開始され、成年後見人等が選任されます。内容は成年後見登記制度により登記され、登記事項証明書で権限を証明できるようになります。
申立てにかかる費用の目安
| 申立手数料 | 収入印紙800円(後見・保佐・補助とも) |
|---|---|
| 登記手数料 | 収入印紙2,600円 |
| 郵便切手 | 裁判所ごとに異なる。申立先に確認 |
| 鑑定料 | 必要な場合のみ。事案により異なるが、ほとんどの場合10万円以下 |
| 書類の取得費 | 戸籍謄本、登記事項証明書、診断書などの実費が別途 |
| 後見人等への報酬 | 開始後、請求があれば家庭裁判所が金額を決定し、本人の財産から支払われる |
どれくらい期間がかかるか
公表されている数字は2つあり、表現が異なります。
- 裁判所:申立てから審判までおおむね1か月から2か月程度(鑑定を行う場合はさらに期間が必要)
- 法務省:多くの場合、申立てから法定後見の開始まで4か月以内
事案によって幅があるということです。「来月までに実家を売りたい」といった急ぎの事情には間に合わないと考えておいたほうが安全です。
ちびウルフ思い立ってすぐ使える制度じゃないんだね
申し立てる前に必ず知っておくべき5つのこと
裁判所が「申立時の留意事項」として明記している内容です。ここを読まずに申し立てる人が多い。
親族が後見人になった場合も、事務について家庭裁判所に報告し、監督を受けます。不適切な事務処理をすれば解任されるほか、損害賠償請求や、業務上横領などの刑事責任を問われることもあります。「親の財産を家族が自由に使える制度」ではまったくありません。
ちびウルフじゃあ、何のために申し立てるのかをはっきりさせてから動くのが大事なんだね
後見人ができること・できないこと
ここも誤解が多いところです。
| できること | 不動産や預貯金などの財産管理/本人の希望や体の状態、生活の様子を考慮して、必要な福祉サービスや医療が受けられるようにする(介護契約の締結、医療費の支払など) |
|---|---|
| 職務ではないこと | 食事の世話や実際の介護。一般に成年後見人等の職務ではありません |
リハウルフ「後見人がついたから介護はやってもらえる」と思っている家族が本当に多い。契約と支払いを担う人であって、身の回りの世話をする人ではありません。ここは最初に確認してください。
費用が心配なときの相談先
- 地域包括支援センター|法務省も相談先として案内しています。市町村長申立てや助成制度の入り口になります
- 市町村の窓口|法定後見の利用に必要な経費を助成している市町村があります
- 法テラス(日本司法支援センター)|資力が乏しい方は、民事法律扶助により弁護士費用等の立替えなどの援助を受けられる場合があります。サポートダイヤル 0570-078374
- 家庭裁判所|申立ての手続、必要書類、費用の具体的な確認先です
- 担当ケアマネジャー・相談員|本人情報シートの作成で関わります。生活状況を一番よく知っている立場です
親の預金が凍結されました。後見制度しか方法はありませんか?
家族が後見人になれますか?
途中でやめることはできますか?
鑑定は必ず行われますか?
診断書は誰に書いてもらえばいいですか?
- 成年後見制度は、判断能力が不十分な本人を保護・支援する制度。家族のための制度ではない。
- 法定後見は後見・保佐・補助の3類型。判断能力の程度で家庭裁判所が判断する。
- 元気なうちに自分で決めておくのが任意後見。効力は任意後見監督人の選任時から生じる。
- 申立人は本人・配偶者・四親等内の親族など。身寄りがなければ市町村長も申し立てられる。
- 申立先は本人の住所地の家庭裁判所。申立手数料800円+登記手数料2,600円+郵便切手。
- 鑑定が必要な場合の鑑定料は、ほとんどの場合10万円以下。
- 期間は、裁判所が審判までおおむね1〜2か月、法務省が開始まで4か月以内と説明している。
- 提出後は家庭裁判所の許可なく取り下げられない。
- 希望した人が後見人に選ばれるとは限らず、それを理由に不服申立てはできない。
- 目的が果たされても、本人が亡くなるまで手続は続く。報酬は本人の財産から支払われる。
- 食事の世話や実際の介護は、後見人の職務ではない。
- 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」(制度の目的、成年後見登記制度の概要)
- 法務省「成年後見制度Q&A(法定後見制度について)」(後見・保佐・補助の定義、後見人等の役割、市町村長申立て、利用事例)
- 法務省「成年後見制度Q&A(制度の利用について)」(申立費用、鑑定料、任意後見契約の費用、審理期間、途中でやめられないこと)
- 裁判所「後見開始」(申立人、申立先、費用、必要書類の一覧)
- 裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」(3類型の区分、申立時の留意事項、審判までの期間)
※本記事の内容は2026年8月時点で公表されている情報にもとづいています。必要書類・郵便料・運用は家庭裁判所ごとに異なり、助成制度は市町村によって異なります。個別の手続や判断については、本人の住所地の家庭裁判所、地域包括支援センター、弁護士・司法書士等の専門職に必ずご相談ください。




