認知症の初期症状|家族が気づくべき10のサイン

「最近、母が同じことを何度も聞いてくる」「父が急に怒りっぽくなった」——そんな小さな違和感は、ご家族だからこそ気づけるものです。認知症は、早く気づいて早く相談するほど、その後の暮らしの選択肢が大きく変わります。逆に、気づいていたのに「歳のせいだろう」と様子を見続けた結果、限界の状態で相談に来られるご家族を、現場で何度も見てきました。
この記事では、理学療法士・介護支援専門員として在宅の現場に立ってきた立場から、ご家族が気づくべき10のサインを、実際の場面とあわせて整理します。あわせて、「気づいたあとに何をすればいいのか」「受診をいやがる人にどう声をかけるか」という、いちばん困る部分まで具体的に解説します。
- 加齢によるもの忘れと、認知症のもの忘れの決定的な違い
- 家族が気づくべき初期症状10のサインと、その具体的な場面
- いくつ当てはまったら相談すべきかの目安
- 「認知症かも」と思ったときにやってはいけない対応
- 受診をいやがる人を医療につなげる声かけと、相談先の順番
認知症は「早く気づくほど」その後が変わる
まず前提として、認知症は特別な人だけの病気ではありません。厚生労働省が公表している推計では、2022年時点で65歳以上の高齢者のうち認知症が12.3%、軽度認知障害(MCI)が15.5%で、合わせるとおよそ28%にあたります。高齢者のおよそ4人に1人以上が、認知症またはその手前の段階にあるという計算です。
早期発見の価値は「治すため」だけではありません。むしろ現場で大きいのは、本人がまだ自分で判断できるうちに、お金・住まい・医療のことを本人の希望で決められるという点です。判断が難しくなってから家族だけで決めると、後々「本人はこうしたかったんじゃないか」という迷いが残ります。
リハウルフ「早く気づいても治らないなら意味がない」と言われることがあるけれど、そんなことはないんだ。本人が自分の言葉で希望を言えるうちに動けるかどうかで、その後の数年がまったく違ってくるよ。
加齢のもの忘れと、認知症のもの忘れの違い
「歳をとれば誰でも忘れる」——これは事実です。問題は、その忘れ方です。ここを取り違えると、判断を何年も遅らせてしまいます。
| 加齢によるもの忘れ | 認知症のもの忘れ | |
|---|---|---|
| 忘れ方 | 体験の一部を忘れる(何を食べたか思い出せない) | 体験そのものを忘れる(食べたこと自体がない) |
| ヒント | きっかけがあれば思い出せる | ヒントを出しても思い出せない |
| 自覚 | 忘れっぽいことを自覚している | 自覚が乏しい/指摘されると怒る |
| 進み方 | 大きくは進まない | 月単位・年単位で進んでいく |
| 生活 | 日常生活に支障はない | 家事・金銭管理などに支障が出てくる |
いちばん分かりやすい見分け方は、「忘れたこと自体を覚えているか」です。「あれ、何だったかな」と本人が困っているうちは加齢の範囲であることが多く、「そんな話は聞いていない」と本人がまったく心当たりのない顔をするようになったら、注意して見るべきタイミングです。
家族が気づくべき10のサイン
ここからが本題です。公益社団法人 認知症の人と家族の会がまとめた「家族がつくった認知症早期発見のめやす」をもとに、現場でご家族から実際によく聞く場面を加えて、10のサインとして整理しました。
サイン1:同じことを何度も言う・何度も聞く
もっとも多くのご家族が最初に挙げる変化です。「今日の予定は何時だっけ?」を5分おきに聞く、電話を切った直後に相手の名前を忘れる、といった場面です。ポイントは本人に「さっきも聞いたよ」という自覚がないこと。指摘すると「聞いていない」と返ってくる場合は、記憶そのものが残っていない可能性があります。
サイン2:しまい忘れ・置き忘れが増え、いつも探し物をしている
財布、鍵、通帳、リモコン。探し物をしている時間が明らかに増えます。加齢によるものとの違いは、「自分がしまった」という行為ごと抜け落ちている点です。冷蔵庫に財布、押し入れに醤油、といった本来ありえない場所から出てくるようになったら、より注意が必要です。
サイン3:「盗られた」と人を疑うようになった
いわゆる物盗られ妄想です。しまった場所を思い出せないところに、「なくなるはずがない」という思いが重なって、いちばん身近で世話をしている人が疑われます。主介護者である同居の娘さん・お嫁さんが疑われやすいのが典型で、ご家族にとって最もつらいサインでもあります。これは本人の性格が変わったのではなく、症状です。
サイン4:日付・場所があやしくなる/慣れた道で迷う
デイサービスの曜日を間違える、通院日を勘違いする、といったところから始まります。さらに、何十年も通った道で迷う、近所のスーパーから帰れなくなる、という段階になると、明確な受診のサインです。「一度だけだから」と流さないでください。
サイン5:料理の味や段取りが変わった
ずっと同じ味だった煮物が、急に濃くなる・薄くなる。品数が減る。同じおかずばかりが並ぶ。鍋を焦がすことが増える。料理は「複数の作業を同時に段取りする」という高度な脳の働きを使うため、変化が早く表れます。台所の様子は、本人が何も言わなくても分かる貴重な情報源です。
サイン6:お金の管理があやしくなった
同じ食材を何日も続けて買ってくる、支払いのときに小銭を数えられず札ばかり出すので財布が小銭であふれる、公共料金の払い忘れが続く、といった変化です。通帳や請求書は、離れて暮らしていても確認しやすいポイントです。ここは詐欺被害に直結するため、優先的に見てください。
サイン7:会話のつじつまが合わない・話が具体的でなくなる
「あれ」「それ」が増えて固有名詞が出てこない、話題が急に飛ぶ、こちらの質問と噛み合わない返事が返ってくる。テレビドラマの筋書きを追えなくなり、ニュースを見ても内容が入らない、というのも同じ流れの変化です。
サイン8:怒りっぽくなった・頑固になった
「もともと気が短い人だった」で片づけられがちですが、変化の速さを見てください。この1年で明らかに沸点が下がった、失敗を人のせいにするようになった、という場合は人柄の変化として捉えます。うまくできないことが増えた不安の裏返しとして怒りが出ている、という理解が現場では役に立ちます。
サイン9:身だしなみに関心がなくなった
きれい好きだった人が同じ服を何日も着る、入浴の回数が減る、髭を剃らなくなる、部屋やトイレが片づかなくなる。久しぶりに実家に帰ったときに「家のにおいが変わった」と感じたら、それは相当に重要なサインです。
サイン10:趣味・外出・人づきあいをやめてしまった
長年続けた囲碁や畑仕事をやめる、地域の集まりに行かなくなる、誘っても「面倒だ」と断る。うつ状態と見分けがつきにくい部分ですが、意欲の低下は初期症状として非常に多いものです。「ただの出不精」と決めつけないでください。
ちびウルフもの忘れよりも、怒りっぽさとか出不精のほうが先に出ることもあるの?
リハウルフあるんだ。むしろ現場では「性格が変わった」「やる気がなくなった」が入口だったというご家族が本当に多い。もの忘れだけを見ていると、気づくのが遅れるよ。
いくつ当てはまったら相談すべきか
明確な線引きはありませんが、目安としてお伝えしているのは次の考え方です。
- 10のうち2つ以上が、この半年〜1年ではっきり増えている
- 1つでも、日付・道順・お金の管理に関わるものが含まれている
- 本人ではなく、近所の人や親戚から「様子がおかしい」と言われた
とくに3つ目は見落とされがちですが、非常に重い情報です。毎日会っている家族は変化に慣れてしまい、たまに会う人のほうが正確に気づくことがよくあります。「大げさな」と受け流さないでください。
現場でご家族が最初に気づくのは、実は「もの忘れ」ではない
ここは他ではあまり書かれない部分なので、あえて書きます。訪問の現場でご家族に「最初におかしいと思ったのはいつですか」と尋ねると、返ってくる答えでいちばん多いのは、もの忘れそのものではありません。
会話は取りつくろえます。短い電話や年に数回の帰省では、本人はきちんと受け答えできてしまうことがほとんどです。「電話では普通だったのに」というのは、まったく当てにならない根拠だと思ってください。離れて暮らしているなら、冷蔵庫の中、郵便物、薬の残り、台所のガス周り。この4か所を見るだけで、ずいぶん見えてきます。
「認知症かも」と思ったときに、やってはいけない3つの対応
1. 記憶をテストする
「今日は何日?」「私の名前は?」と確かめたくなりますが、これは逆効果です。本人にとっては自分の衰えを突きつけられる時間でしかなく、不安と怒りを強めます。確認は医療機関の役割です。家族がやることではありません。
2. 間違いを正面から訂正する・問い詰める
「さっきも言ったでしょう」「そんなことしてない」と正すほど、本人は否定された記憶だけを感情として残します。出来事は忘れても、嫌な思いをした感情は残る——これは現場で本当によく実感します。
3. 「歳のせい」で1年様子を見る
いちばん多く、いちばん取り返しがつきにくいのがこれです。認知症以外の原因(薬の影響、甲状腺の病気、慢性硬膜下血腫、うつ、脱水など)で似た症状が出ていることもあり、その場合は治療で改善する可能性があります。「認知症でないことを確かめる」ためにこそ、早く受診する意味があります。
受診をいやがる人を、どう医療につなげるか
「病院に行こう」が通じないのは、ごく普通のことです。本人にも不安があり、それを認めたくないからです。現場でうまくいきやすいのは、次のような形です。
- 認知症を主語にしない。「もの忘れの検査」ではなく、「血圧の薬をもらうついで」「市の健康診断」として、まずはかかりつけ医のところへ行く。
- 家族の側を主語にする。「私が心配で眠れないから、付き合ってほしい」と頼む。本人を主語にすると防御されますが、家族のためなら動いてくれる方は多いです。
- 先に医師へ情報を渡しておく。受診前に、気になる場面をメモにして医療機関に伝えておく。本人の前で家族が症状を並べ立てると信頼関係が壊れるので、これは必ず事前に。
- それでも動かないときは、家族だけで先に相談する。本人不在でも相談は受け付けてもらえます。ここは次章のとおりです。
リハウルフ受診前のメモは本当に効くよ。「いつから・どんな場面で・どのくらいの頻度で」の3つを書くだけでいい。診察室の10分では絶対に伝えきれないからね。
気づいたあと、どこに相談すればいいか
相談先には順番があります。迷ったら、まずは地域包括支援センターです。
1. 地域包括支援センター
すべての市町村に設置されている、高齢者の総合相談窓口です。本人が行かなくても、家族だけで相談できます。無料です。保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーがいて、医療機関の紹介から介護保険の申請まで、まとめて道筋をつけてくれます。お住まいの市区町村名と「地域包括支援センター」で検索すれば、担当のセンターが分かります。
2. かかりつけ医
長く診てもらっている医師は、本人の以前の様子を知っている強みがあります。まずここで相談し、必要に応じて専門医療機関へつないでもらう流れが自然です。
3. 認知症疾患医療センター/認知症初期集中支援チーム
専門的な診断が必要な場合は、都道府県などが指定する認知症疾患医療センターへ。また、受診につながらない方のために、医療・介護の専門職が自宅を訪問して支援する認知症初期集中支援チームが、地域包括支援センター等に配置されています。「本人がどうしても病院に行かない」というときの選択肢です。
4. 電話相談
公益社団法人 認知症の人と家族の会が全国共通の電話相談(0120-294-456、平日10時〜15時/祝日除く)を行っています。同じ経験をした家族が相手なので、「こんなことを聞いていいのか」という内容でも話せます。
早く気づくと、その後の暮らしはこう変わる
最後に、早期に相談できたご家族と、限界まで抱えたご家族で、その後に何が違うのかをまとめます。
| 早い段階で相談できた場合 | 限界まで抱えた場合 | |
|---|---|---|
| 本人の意思 | 住まい・お金・医療の希望を本人が話せる | 家族が代わりに決めるしかない |
| お金 | 口座や不動産の手続きを本人と進められる | 判断能力の低下で資産が動かせなくなる |
| サービス | デイサービス等に「元気なうち」から慣れられる | 強い拒否が出て導入に難航する |
| 家族 | 役割を分担でき、共倒れを避けやすい | 主介護者1人に集中し、離職や体調不良に至る |
とくに大きいのが3つ目です。デイサービスやヘルパーは、状態が進んでから入れようとするほど拒否が強くなります。「まだ必要ない」と思える時期に、見学だけでもしておく。これが、後々のご家族をいちばん助けます。
ちびウルフまだ元気なのに介護サービスの話をするのは、失礼にならない?
リハウルフ「介護」じゃなくて「運動教室」「集まりの場」として話すといいよ。実際、通所リハビリなんかは目的がリハビリだからね。元気なうちに顔なじみを作っておくのが、いちばん効く準備なんだ。
よくある質問
本人が「自分は認知症じゃない」と言い張ります。どうすればいいですか?
10のサインに1つも当てはまりませんが、なんとなく違和感があります。
初期症状に気づいたら、すぐ介護保険を申請すべきですか?
もの忘れ以外の病気が原因ということはありますか?
離れて暮らしていて、様子がよく分かりません。
- 2022年時点で高齢者の約28%が認知症またはMCI。誰にでも起こりうる。
- 加齢との違いは「体験の一部を忘れる」か「体験そのものを忘れる」か。
- 10のサインのうち2つ以上が半年〜1年で増えていれば、相談のタイミング。
- もの忘れより先に「怒りっぽさ」「意欲低下」「家の状態」に出ることが多い。
- 記憶をテストしない・問い詰めない・様子を見すぎない。
- 迷ったら、まず地域包括支援センターへ。本人が行かなくても家族だけで相談できる。
- 厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」(令和5年度老人保健事業推進費等補助金「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」/九州大学 二宮利治教授 研究班をもとに厚生労働省作成)
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」
- 厚生労働省「認知症初期集中支援チーム」
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会「家族がつくった認知症早期発見のめやす」
※本記事の制度に関する内容は、2026年8月時点の情報にもとづいています。本記事は医学的な診断を行うものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関にご相談ください。




