「老健に入所中の利用者さんが、眼科や整形外科にかかりたいと言っている」「他の病院を受診したら費用はどうなるの?」——老健の他科受診は、現場でもご家族でもつまずきやすいテーマです。仕組みを知らずに受診させると、施設が思わぬ費用を負担することにもなりかねません。

この記事では、老健入所中の他科受診が認められる条件、費用負担の考え方、受診の手続き、そして令和6年6月の見直しのポイントまで、専門職にもご家族にもわかるように整理しました。

この記事でわかること
  • 老健の「他科受診」とは何か、なぜルールが複雑なのか
  • 他科受診が認められるケースと、費用負担の考え方
  • 受診時の手続き(依頼書・情報提供)の流れ
  • 令和6年6月の他科受診に関する見直しのポイント

老健の「他科受診」とは

他科受診とは、老健に入所している方が、施設の外の医療機関(病院・診療所)で診療を受けることを指します。老健には医師が配置されていますが、専門的な検査や治療(眼科・歯科・整形外科・皮膚科など)は施設内では対応しきれないことがあり、そうしたときに外部を受診します。

ここで重要なのが、老健は介護報酬(介護保険)の中に一定の医療費が含まれているという点です。そのため、外部で受けた診療の費用が「医療保険で請求できるのか」「施設が負担するのか」が、受診内容によって変わってきます。これが他科受診のルールが複雑と言われる理由です。

ちびウルフちびウルフ

外の病院にかかるだけなのに、どうしてそんなに複雑なの?

リハウルフリハウルフ

老健の介護報酬には、もともと薬や日常的な医療の分が含まれているんだ。だから「二重で医療保険からも払う」ことにならないよう、給付調整のルールがあるんだよ。

他科受診が認められるのはどんなとき

他科受診が認められる基本の考え方は、「入所者の傷病の状況からみて、老健では必要な医療を提供するのが困難なとき」です。施設内の医師・設備では対応できない専門的な診療が必要な場合に、外部の保険医療機関を受診させることになります。

具体的には、次のようなケースが該当しやすいです。

他科受診が必要になりやすい例 白内障など眼科の専門的な治療/歯科治療/整形外科での骨折・専門的処置/皮膚科の専門的治療/専門的な検査(CT・MRI等)や手術が必要な場合 など、老健内では対応困難な診療。

逆に、老健内で通常行える範囲の診療(施設の医師が対応できる一般的な診察・投薬など)は、外部で受けても医療保険から請求できず、原則として施設側の負担となります。

他科受診の費用負担はどうなるのか

費用負担は「老健内で通常行える医療かどうか」で分かれます。ポイントを整理すると次のとおりです。

受診の内容費用の扱い
老健では対応困難な専門的医療(認められる他科受診)医療保険から給付(本人は通常の窓口負担)+一部は施設との調整あり
老健内で通常行える診療を外部で受けた場合原則として老健(施設)が費用を負担
投薬(薬剤費)老健の給付範囲と重なる分は施設負担となる場合がある
注意併設の医療機関を受診した場合は、初診料・再診料・外来診療料などが算定できないなど、さらに細かい取り扱いの違いがあります。実際の請求可否は施設の事務・受診先とよく確認しましょう。
ちびウルフちびウルフ

じゃあ利用者さんの窓口負担はどうなるの?

リハウルフリハウルフ

医療保険で給付される部分は、本人はいつもの窓口負担(1〜3割)だよ。ただ「施設負担になる分」もあるから、事前に施設と受診先で調整しておくのが大事なんだ。

他科受診の手続きの流れ

他科受診は、勝手に受診するのではなく、施設と受診先の医療機関が連携して進めます。標準的な流れは次のとおりです。

  1. 施設の医師が、外部受診の必要性を判断する
  2. 老健が「依頼書(診療情報)」を作成し、受診先へ情報提供する
  3. 本人は医療保険・介護保険の被保険者証と依頼書を持って受診する
  4. 受診先の保険医は、施設からの情報をもとに診療する
  5. 受診後、施設へ結果・処方等の情報を返し、費用の取り扱いを調整する

ポイントは、施設医師と受診先の医師が「情報提供」を双方向で行うことです。老健の医師は診療状況の情報を提供し、受診先の医師はその情報を受けて適切な診療を行う——この連携が制度上も求められています。

令和6年6月の他科受診に関する見直し

令和6年(2024年)6月から、医療と介護の両方を必要とする方が施設で暮らし続けられるよう、介護保険施設の入所者について、医療保険で給付できる医療サービスの範囲が見直されました。これにより、一定の医療サービスが医療保険から算定できるようになるなど、給付調整のあり方が整理されています。

ポイントこの見直しの背景には、「高額な薬や専門的な医療が必要な人が、費用負担の問題で施設に入りにくい・受診しにくい」という長年の課題があります。医療と介護の連携を進める方向での改定です。
注意他科受診の給付調整は取り扱いが細かく、受診内容・施設類型・併設の有無で変わります。個別の請求可否は、必ず施設の事務担当・受診先の医療機関・保険者に確認してください。本記事は制度の全体像を示すものです。

診療科別に見る他科受診のイメージ

「どんな受診なら他科受診として認められやすいのか」を、診療科ごとの例で見てみましょう。いずれも老健内では対応が難しい専門的医療かどうかが判断の軸になります。

診療科他科受診の例ポイント
眼科白内障手術、緑内障の管理など専門的な検査・処置は施設内で困難
整形外科骨折の治療、専門的なギプス・処置画像診断・手術が必要なケース
歯科虫歯・歯周病治療、義歯調整老健に歯科医師は基本いないため外部連携
皮膚科専門的な皮膚疾患の治療一般的な処置は施設内対応が原則
精神科専門的な診断・薬剤調整状態により連携して受診

一方で、施設の医師が対応できる範囲の一般的な診察や投薬は、外部で受けても医療保険から請求できず施設負担となる点に注意が必要です。「専門的で施設では困難か」を軸に考えると整理しやすくなります。

よくある誤解「入所中でも本人の希望でいつでも自由に他院にかかれる」と思われがちですが、他科受診は施設医師の必要性判断と情報連携が前提です。無断で受診すると費用の取り扱いでトラブルになることがあるため、必ず施設に相談してから受診しましょう。

現場(施設職員・ケアマネ)が押さえておきたい実務ポイント

他科受診をスムーズに、かつ費用トラブルなく進めるために、現場で意識したいポイントをまとめます。

場面実務のポイント
受診の必要性判断施設内で対応できるか、施設医師と早めに相談
受診先との連携依頼書(診療情報)を必ず作成・持参させる
費用の事前確認投薬・処置が施設負担になるか事前に整理
家族への説明窓口負担と施設調整分の考え方を先に伝えておく
記録受診理由・結果・処方を記録し、施設医師へ共有

家族が知っておきたい費用と付き添いのこと

他科受診では、ご家族が付き添いや費用の確認で関わる場面があります。あらかじめ次の点を理解しておくと、当日に慌てずに済みます。

付き添いが必要になる場合がある

受診方法によっては、家族の付き添いや移動の協力を求められることがあります。特に外部の医療機関へ通院する場合は、移動手段や当日の付き添いについて、事前に施設と相談しておきましょう。認知症で環境変化が負担になる方は、なるべく負担の少ない方法を施設と一緒に検討します。

費用は「窓口負担」と「施設調整分」に分かれる

医療保険で給付される専門的な診療は、本人がいつもどおりの窓口負担(1〜3割)を支払います。一方、老健の給付範囲と重なる投薬や一般的な診療は施設が負担する(=本人・家族の追加負担にならない代わりに、施設が費用調整する)ことになります。どちらに当たるかは受診内容によって変わるため、事前に施設へ確認しておくと安心です。

ポイント「思っていた費用と違った」というトラブルは、事前確認で防げます。受診の目的・内容を施設に伝え、窓口でいくら払うのか、施設調整になる部分はどこかをあらかじめ整理しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

老健に入所中でも自由に病院を受診できますか?
自由に、というより「施設で対応困難な専門的医療が必要なとき」に、施設と連携して受診します。必要性は施設の医師が判断し、依頼書を作成したうえで受診するのが基本です。
他科受診の費用は誰が払うのですか?
医療保険で給付される専門的な診療は本人が通常の窓口負担(1〜3割)を支払います。一方、老健内で通常行える診療や重複する投薬などは、施設が負担する場合があります。受診内容で分かれます。
薬だけ外部でもらうことはできますか?
投薬は老健の給付範囲と重なることが多く、その分は施設負担になる場合があります。外部受診での処方は、事前に施設と取り扱いを確認しておくのが安全です。
令和6年の見直しで何が変わりましたか?
令和6年6月から、介護保険施設の入所者が医療保険で給付を受けられる医療サービスの範囲が見直され、一定の医療が算定しやすくなりました。医療と介護の連携を進める方向の改定です。詳細な取り扱いは施設・保険者に確認してください。
まとめ
  • 他科受診は「老健では必要な医療を提供するのが困難なとき」に、施設と連携して外部を受診する仕組み
  • 老健内で通常行える診療を外部で受けた分は、原則として施設が費用負担する
  • 受診時は依頼書(診療情報)を作成し、施設医師と受診先が双方向で情報提供する
  • 令和6年6月から、介護保険施設入所者の医療保険給付の範囲が見直された
  • 給付調整は取り扱いが細かい。個別の請求可否は施設・受診先・保険者に必ず確認を
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リハウルフ
理学療法士/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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