特定福祉用具販売とは?福祉用具購入費の対象9品目と年10万円

介護保険で福祉用具を「買う」ときに使うのが特定福祉用具販売です。対象は告示で決められた9種目だけで、1年度10万円まで、同じ種目は原則1回という2つの枠があります。指定を受けていないお店で買うと、1円も戻りません。
令和6年度からは、杖・歩行器・スロープの一部を「レンタルか購入か」選べるようになりました。この記事では、介護保険法施行規則と告示、厚生労働省の改定資料の原文を確認して、対象品目・支給額・申請の流れ・選択制の考え方を整理しました。
この記事でわかること
- 特定福祉用具販売のしくみと、レンタル(福祉用具貸与)との違い
- 購入費の対象になる9種目
- 年度10万円の限度額と、同じ種目を買い直せる例外
- 申請に必要な書類と、払い戻しの流れ
- 令和6年度に始まった「貸与と販売の選択制」の判断のしかた
特定福祉用具販売とは?
特定福祉用具販売は、入浴や排せつに使う用具など、レンタルになじまない福祉用具を介護保険で購入できるサービスです。介護保険法では、福祉用具のうち「入浴又は排せつの用に供するものその他の厚生労働大臣が定めるもの」を特定福祉用具と呼んでいます。
肌に直接ふれる腰掛便座や入浴用の椅子は、ほかの人が使ったものを再利用しにくい用具です。そのため車いすや介護ベッドのような「貸与」ではなく、「販売」として給付する形になっています。
介護保険法 第44条(原文)
「市町村は、居宅要介護被保険者が、特定福祉用具販売に係る指定居宅サービス事業者から当該指定に係る居宅サービス事業を行う事業所において販売される特定福祉用具を購入したときは、当該居宅要介護被保険者に対し、居宅介護福祉用具購入費を支給する。」
ポイントは「指定を受けた事業所から買ったとき」に限るという点です。ホームセンターや通販で同じ商品を買っても、購入費は支給されません。要支援1・2の方も、介護予防福祉用具購入費として同じしくみが使えます。
福祉用具貸与(レンタル)との違い
| 項目 | 特定福祉用具販売 | 福祉用具貸与 |
|---|---|---|
| お金の流れ | 購入費の一部が戻る | レンタル料の一部を負担 |
| 限度額 | 1年度10万円(要介護度に関係なく同じ) | 区分支給限度額の中で使う |
| 主な対象 | 腰掛便座・入浴補助用具など | 車いす・特殊寝台・手すりなど |
| 要介護度の制限 | なし | 品目により要介護2以上など |
購入費は区分支給限度額(ケアプランの枠)とは別枠です。デイサービスやヘルパーを限度額いっぱいまで使っていても、購入費の10万円は別に使えます。レンタルのしくみは福祉用具貸与(レンタル)とは?で解説しています。
購入費の対象になる9種目
対象は「厚生労働大臣が定める特定福祉用具販売に係る特定福祉用具の種目」(平成11年厚生省告示第94号)で決まっています。現在は次の9種目です。
| 種目 | 告示の定め(要約) |
|---|---|
| ①腰掛便座 | 和式便器の上に置いて腰掛式にするもの、洋式便器の上に置いて高さを補うもの、電動式・スプリング式で立ち上がりを補助するもの、居室で使えるポータブルトイレ |
| ②自動排泄処理装置の交換可能部品 | 本体はレンタル。尿や便の経路となる交換部品が購入の対象 |
| ③排泄予測支援機器 | 膀胱内の状態を感知して尿量を推定し、排尿の機会を本人や介護者に知らせるもの |
| ④入浴補助用具 | 入浴用椅子、浴槽用手すり、浴槽内椅子、入浴台、浴室内すのこ、浴槽内すのこ、入浴用介助ベルト |
| ⑤簡易浴槽 | 空気式・折りたたみ式などで、取水・排水に工事を伴わないもの |
| ⑥移動用リフトのつり具の部分 | リフト本体はレンタル。体をつり上げるシート部分が購入の対象 |
| ⑦スロープ | 段差解消のためのもので、取付けに工事を伴わないもの |
| ⑧歩行器 | 四脚を有し、上肢で保持して移動させることができるもの |
| ⑨歩行補助つえ | カナディアン・クラッチ、ロフストランド・クラッチ、プラットホームクラッチ、多点杖 |
⑦〜⑨は令和6年4月に加わった種目です。どれでも買えるわけではなく、通知で範囲がしぼられています。
⑦〜⑨の範囲(老企第34号の改正通知・原文)
スロープ:「主に敷居等の小さい段差の解消に使用し、頻繁な持ち運びを要しないものをいい、便宜上設置や撤去、持ち運びができる可搬型のものは除く。」
歩行器:「脚部が全て杖先ゴム等の形状となる固定式又は交互式歩行器をいい、車輪・キャスターが付いている歩行車は除く。」
つまり、玄関の上がり框に置きっぱなしにする固定用スロープや、車輪のない歩行器が対象です。車輪つきの歩行車や持ち運ぶスロープは、これまでどおりレンタルだけです。介護保険の対象外になる用具は福祉用具の介護保険対象外品目一覧にまとめています。
購入費の限度額は年度10万円
購入費の上限は、要介護度に関係なく1年度10万円です(平成12年厚生省告示第34号)。この10万円は購入金額の上限で、戻ってくるのはそのうちの9割(2割負担の方は8割、3割負担の方は7割)です。
介護保険法施行規則 第72条(原文)
「法第四十四条第四項の厚生労働省令で定める期間は、毎年四月一日からの十二月間(次条において『居宅介護福祉用具購入費支給限度額管理期間』という。)とする。」
年度は4月にリセットされます。3月に入浴用椅子を買い、4月にポータブルトイレを買えば、それぞれ別の年度の10万円から支給されます。
| 購入金額 | 1割負担の場合の自己負担 | 戻る額 |
|---|---|---|
| 3万円 | 3,000円 | 27,000円 |
| 10万円 | 1万円 | 9万円 |
| 12万円 | 3万円(1万円+超過分2万円) | 9万円 |
10万円を超えた分は全額自己負担です。また、購入費は高額介護サービス費の対象になりません。高価な入浴用リフトのつり具や簡易浴槽を買うときは、年度をまたぐかどうかも含めてケアマネジャーと相談してください。
同じ種目は原則1回まで
限度額が残っていても、同じ年度に同じ種目を2回買うことは原則できません。
介護保険法施行規則 第70条第2項(原文の要点)
同じ管理期間に「同一の種目の特定福祉用具(当該購入した特定福祉用具と用途及び機能が著しく異なるものを除く。)を既に購入」していれば支給しない。
「ただし、当該既に購入した特定福祉用具又は特定介護予防福祉用具が破損した場合、当該居宅要介護被保険者の介護の必要の程度が著しく高くなった場合その他特別の事情がある場合であって、市町村が当該申請に係る居宅介護福祉用具購入費の支給が必要と認めるときは、この限りでない。」
例外は3つです。同じ「入浴補助用具」でも、入浴用椅子と浴槽用手すりは用途も機能も違うので、同じ年度に両方買えます。逆に、入浴用椅子を2脚目として買うのは原則として認められません。
退院直後に買った椅子が、数か月で状態が落ちて合わなくなる。担当したケースでは、こうした「介護の必要の程度が著しく高くなった場合」にあたる相談が少なくありません。再購入は市町村の判断になるので、買う前にケアマネジャーから保険者に確認してもらうのが確実です。
ちびウルフ10万円もあるなら、とりあえず高い物を選んでおけば安心じゃない?
リハウルフ高い椅子ほど合うとは限りません。現場で多い失敗は、背もたれやひじ掛けが大きすぎて浴室で回れない、座面が高すぎて足が床につかない、の2つです。買い直しは原則できないので、実際の浴室で試してから決めてください。
特定福祉用具販売の申請と払い戻しの流れ
支払い方法は、いったん全額を払って後から戻る「償還払い」が基本です。市町村によっては、最初から自己負担分だけを払えばよい「受領委任払い」を選べます。大まかな流れは次のとおりです。
- ケアマネジャー(要支援の方は地域包括支援センター)に、何を買いたいか相談する
- 指定を受けた特定福祉用具販売事業所の福祉用具専門相談員が、身体状況と住環境を確認して商品を提案する
- 事業所が特定福祉用具販売計画を作成し、内容の説明を受けて同意する
- 商品を購入し、代金を支払う(償還払いなら全額、受領委任払いなら自己負担分)
- 市町村に支給申請書と領収証などを提出する
- 審査のあと、購入費が指定口座に振り込まれる
申請書に書く内容と添付書類は、施行規則第71条で決まっています。
- 特定福祉用具の種目、商品名、製造事業者名、販売事業者名
- 購入に要した費用と購入年月日
- その用具が必要な理由
- 領収証と、商品のパンフレットなど概要がわかる書面
「必要な理由」は、ケアプランか特定福祉用具販売計画を添付して、その記載で必要性がわかれば省略できます(施行規則第71条第3項)。領収証は本人名義の原本を求める市町村もあるので、宛名を家族名にしないよう注意してください。
貸与と販売の選択制とは
令和6年度改定で、一部の用具は「レンタル」と「購入」のどちらでも選べるようになりました。厚生労働省の改定資料は対象を次のように示しています。
令和6年度介護報酬改定の資料(原文)
「要介護度に関係なく給付が可能な福祉用具のうち、比較的廉価で、購入した方が利用者の負担が抑えられる者の割合が相対的に高い、固定用スロープ、歩行器(歩行車を除く)、単点杖(松葉づえを除く)及び多点杖を対象とする。」
選ぶにあたっては、福祉用具専門相談員またはケアマネジャーが、レンタルと購入それぞれのメリット・デメリットを説明し、医師や専門職の意見、本人の身体状況をふまえて提案することが義務になりました。
| 比べる点 | レンタル | 購入 |
|---|---|---|
| 状態が変わったとき | 別の機種に交換しやすい | 原則買い直しになる |
| 長く使うとき | 月々の負担が続く | 一度払えば終わり |
| 使用後の確認 | 開始後6か月以内に少なくとも1回モニタリング | 販売計画の目標の達成状況を確認 |
| メンテナンス | 事業所が行う | 要請に応じて使用状況の確認・修理に努める |
判断の目安はシンプルで、この先の体の変化が読めるかどうかです。理学療法士として現場で考えている基準を並べると、次のようになります。
- 退院直後やリハビリ中で、歩き方がこれから変わりそうならレンタル
- パーキンソン病など、進行にあわせて歩行器の種類を変える可能性があるならレンタル
- 何年も同じ杖で安定して歩けていて、今後も使い続ける見込みならレンタルから購入へ切り替え
- 玄関の小さな段差に置きっぱなしにする固定用スロープは、購入が向くことが多い
ちびウルフ杖なら、最初から買っちゃったほうが安くない?
リハウルフ長く使うなら購入が安くなります。ただ退院してすぐは、1本杖でいけるのか、多点杖や歩行器が要るのかが決まっていないことがよくあります。最初の数か月はレンタルにして、歩き方が落ち着いてから買うほうが失敗しません。
杖や歩行器そのものの選び方は高齢者の杖の選び方と歩行器の選び方で解説しています。
購入前に確認したい注意点
購入費の申請で差し戻しや不支給になりやすいのは、次のようなケースです。
- 指定を受けていない店舗や通販で買った(介護保険の対象外)
- 要介護認定を申請する前に買った(認定の効力は申請日にさかのぼるため、申請日以降の購入なら対象になる場合がある。市町村に要確認)
- 入院中・施設入所中に買った(在宅の方が対象のサービス)
- 同じ年度に同じ種目を買い直した
- 手すりを壁に固定するなど、工事が必要な物を選んだ(住宅改修の対象)
最後の点は混同しやすいところです。浴槽のふちに挟んで固定する浴槽用手すりは購入費の対象ですが、壁にねじで取り付ける手すりは住宅改修になります。工事が必要なものは住宅改修費の支給制度で別の20万円枠を使います。
退院前に買いそろえたいときは、入院中の購入にならないよう、購入日を退院日以降にするのが無難です。急ぐ場合は、ケアマネジャーから市町村に扱いを確認してもらってください。
よくある質問
特定福祉用具販売の限度額はいくらですか?
要介護度に関係なく、1年度(4月1日からの12か月)10万円です。戻る額はそのうちの9割(2割負担は8割、3割負担は7割)です。
要支援でも福祉用具を購入できますか?
できます。要支援1・2の方は介護予防福祉用具購入費として、同じ種目・同じ10万円の枠で利用できます。
ホームセンターで買ったシャワーチェアは対象になりますか?
なりません。介護保険法第44条で、特定福祉用具販売の指定を受けた事業所から購入した場合に限ると定められています。
同じ年度に2つ目の入浴用椅子を買えますか?
原則できません。ただし破損した場合や、介護の必要の程度が著しく高くなった場合などで市町村が必要と認めれば支給されます。
入浴用椅子と浴槽用手すりは同じ年度に両方買えますか?
買えます。同じ入浴補助用具でも、用途と機能が著しく異なるものは同一種目の制限にかかりません。
ケアプランの限度額を使い切っていても購入できますか?
できます。購入費の10万円は区分支給限度額とは別枠です。
選択制の対象になる用具は何ですか?
固定用スロープ、歩行器(車輪のある歩行車を除く)、単点杖(松葉づえを除く)、多点杖です。レンタルか購入かを本人が選べます。
レンタル中の杖を購入に切り替えられますか?
選択制の対象であれば切り替えられます。購入に切り替えると、その後に状態が変わっても原則として買い直しになるため、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員と相談して決めてください。
購入費は高額介護サービス費の対象になりますか?
なりません。10万円を超えて自己負担になった分も含め、高額介護サービス費の計算には入りません。
まとめ
- 特定福祉用具販売は、告示で決められた9種目を指定事業所から買ったときに購入費が戻るしくみ
- 限度額は要介護度に関係なく1年度10万円で、区分支給限度額とは別枠
- 同じ年度の同じ種目は原則1回。破損・重度化・用途の違いは例外になりうる
- 令和6年度から固定用スロープ・歩行器・単点杖・多点杖はレンタルか購入かを選べる
- 体の変化が読めないうちはレンタル、安定して長く使うなら購入が目安
参考にした情報
- 介護保険法(e-Gov法令検索)
- 介護保険法施行規則(e-Gov法令検索)
- 厚生労働大臣が定める特定福祉用具販売に係る特定福祉用具の種目(平成11年厚生省告示第94号)
- 居宅介護福祉用具購入費支給限度基準額(平成12年厚生省告示第34号)
- 介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて(老企第34号)の改正
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
※本記事の対象種目・限度額・支給要件・選択制の内容は、介護保険法、介護保険法施行規則、厚生労働省告示および令和6年度介護報酬改定の資料にもとづいて整理したものです。実際の購入にあたっては原文および保険者の解釈をご確認ください。償還払い・受領委任払いの選択、申請書の様式、領収証の取扱い、再購入の可否の判断は市町村によって異なります。制度に関する記述は2026年11月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。用具の選び方やレンタル・購入の判断の目安に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。






