令和6年度改定で、特養の感染症対策に関する報酬が3つ新設されました。高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)10単位/月・(Ⅱ)5単位/月、そして新興感染症等施設療養費240単位/日です。

ただし、新興感染症等施設療養費については重要な注記があります。対象となる感染症は厚生労働大臣が指定する仕組みで、令和6年4月時点では指定されている感染症はありません。つまり現時点では算定できない、将来のパンデミックに備えた枠組みです。

実際に取りにいくのは(Ⅰ)と(Ⅱ)。単位は小さいものの、要件はどちらも「外部の医療機関とつながること」で、体制さえ作れば継続して算定できます。

この記事では、指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(厚生省告示第21号)、老企第40号、令和6年度介護報酬改定における改定事項についてを突き合わせて整理しました。筆者は理学療法士16年目・介護支援専門員です。

この記事でわかること
  • 3つの報酬の単位数と位置づけ
  • 新興感染症等施設療養費は現時点で対象感染症がないこと
  • (Ⅰ)に必要な3つの要件
  • 第二種協定指定医療機関との連携が診療所・病院に限られること
  • 年1回以上参加すべき研修・訓練の範囲
  • (Ⅱ)は3年に1回以上の実地指導でよいこと
  • 実地指導を行うのは感染制御チームの医師・看護師等であること
  • 施設内の研修・訓練に外部の内容を含める必要があること
  • 新興感染症等施設療養費の「適切な感染対策」の中身
  • 協力医療機関連携加算との関係

3つの報酬を並べて整理する

報酬単位数算定現在の算定可否
高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)10単位1月につき
高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅱ)5単位1月につき
新興感染症等施設療養費240単位1日につき(1月1回・連続5日限度)対象感染症の指定なし
対象は施設系・居住系の7サービス

改定資料が挙げている対象サービスは次のとおりです。

特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院

訪問系・通所系サービスにはありません。「施設内で療養を続ける」ことが前提の報酬だからです。

新興感染症等施設療養費——今は算定できない

オ 新興感染症等施設療養費(1日につき) 240単位

注 指定介護老人福祉施設が、入所者が別に厚生労働大臣が定める感染症に感染した場合に相談対応、診療、入院調整等を行う医療機関を確保し、かつ、当該感染症に感染した入所者に対し、適切な感染対策を行った上で、指定介護福祉施設サービスを行った場合に、1月に1回、連続する5日を限度として算定する。

そして通知②が、決定的なことを書いています。

対象の感染症については、今後のパンデミック発生時等に必要に応じて厚生労働大臣が指定する。令和6年4月時点においては、指定している感染症はない。

ちびウルフちびウルフ

算定できない加算を、なぜ作ったんですか?

リハウルフリハウルフ

コロナ禍の反省だと理解している。

あのとき、施設で感染者が出るたびに臨時的な取扱いを次々と出して対応した。そのつど通知が出て、現場は追いかけるのが大変だった。

だから今回、あらかじめ報酬の枠組みだけ作っておいて、必要になったら厚生労働大臣が感染症を指定すれば動き出す——という仕組みにした。改定資料も「今後のパンデミック発生時に必要に応じて指定する仕組みとする」と書いている。

今は使えないが、知らないと、いざというときに算定を落とす。240単位×5日=1,200単位は小さくない。「そういう報酬がある」ことだけ頭に入れておけばいい。

「適切な感染対策」の中身

適切な感染対策とは、手洗いや個人防護具の着用等の標準予防策(スタンダード・プリコーション)の徹底、ゾーニング、コホーティング、感染者以外の入所者も含めた健康観察等を指し、具体的な感染対策の方法については、「介護現場における感染対策の手引き(第3版)」を参考とすること。

  • 標準予防策(手洗い・個人防護具の着用等)の徹底
  • ゾーニング(区域の分け方)
  • コホーティング(感染者をまとめてケアする体制)
  • 感染者以外の入所者も含めた健康観察

高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)10単位——3つの要件

改定資料が要件を整理しています。

<高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)>(新設)
○ 感染症法第6条第17項に規定する第二種協定指定医療機関との間で、新興感染症の発生時等の対応を行う体制を確保していること。
協力医療機関等との間で新興感染症以外の一般的な感染症の発生時等の対応を取り決めるとともに、感染症の発生時等に協力医療機関等と連携し適切に対応していること。
○ 診療報酬における感染対策向上加算又は外来感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関又は地域の医師会が定期的に行う院内感染対策に関する研修又は訓練に1年に1回以上参加していること。

要件相手内容
①新興感染症第二種協定指定医療機関発生時等の対応体制の確保
②一般的な感染症協力医療機関等発生時等の対応の取決めと連携
③研修・訓練感染対策向上加算等の届出医療機関/地域の医師会年1回以上参加

第二種協定指定医療機関は診療所・病院に限る

加算の算定に当たっては、第二種協定指定医療機関との間で、新興感染症の発生時等の対応を行う体制を確保していること。新興感染症発生時等の対応としては、感染発生時等における相談、感染者の診療、入院の要否の判断等が求められることから、本加算における連携の対象となる第二種協定指定医療機関は診療所、病院に限る。なお、第二種協定指定医療機関である薬局や訪問看護ステーションとの連携を行うことを妨げるものではない。

薬局・訪問看護ステーションでは要件を満たさない

第二種協定指定医療機関には、薬局や訪問看護ステーションも含まれます。しかしこの加算の連携相手としては、診療所または病院に限られます。

理由は明快で、求められる対応が「相談」「診療」「入院の要否の判断」だから。薬局や訪問看護ステーションでは、診療も入院判断もできません。

ただし、薬局・訪問看護ステーションとの連携自体を否定するものではない、とも書かれています。加算の要件を満たす相手は診療所・病院、そのうえで他の連携も進めればよいという整理です。

年1回以上参加する研修・訓練の範囲

高齢者施設等において感染対策を担当する者が、医療機関等が行う院内感染対策に関する研修又は訓練に少なくとも1年に1回以上参加し、指導及び助言を受けること。(中略)感染対策向上加算又は外来感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関が実施する院内感染対策に関するカンファレンス又は訓練や職員向けに実施する院内感染対策に関する研修地域の医師会が定期的に主催する院内感染対策に関するカンファレンス又は訓練を対象とする。

  • 参加するのは感染対策を担当する者
  • 頻度は年1回以上
  • 指導及び助言を受けること(参加するだけでは足りない)
  • 対象は診療報酬の感染対策向上加算・外来感染対策向上加算の届出医療機関、または地域の医師会が主催するもの

地域の医師会が定期的に主催するカンファレンス・訓練も対象です。連携先の病院で研修の機会がない場合、医師会経由という選択肢があります。

施設内の研修・訓練に内容を反映させる

(運営基準に)基づき、介護職員その他の従業員に対して実施する感染症の予防及びまん延の防止のための研修及び訓練の内容について、上記の医療機関等における研修又は訓練の内容を含めたものとすること。

外部の研修に出て終わり、ではありません。持ち帰った内容を施設内の研修・訓練に反映させるところまでが要件です。研修記録に、外部研修の内容をどう盛り込んだかを残してください。

高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅱ)5単位——3年に1回の実地指導

高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅱ)は、感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関から、少なくとも3年に1回以上、施設内で感染者が発生した場合の感染制御等に係る実地指導を受けている場合に、月1回算定するもの。

実地指導については、感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関において設置された感染制御チームの専任の医師又は看護師等が行うことが想定される。

項目(Ⅰ)(Ⅱ)
単位数10単位/月5単位/月
外部との接点研修・訓練への参加実地指導を受ける
頻度年1回以上3年に1回以上
相手の医療機関感染対策向上加算または外来感染対策向上加算の届出感染対策向上加算の届出
(Ⅱ)は3年に1回でよい

(Ⅱ)は5単位と小さいですが、求められるのは3年に1回以上の実地指導だけです。一度受ければ、その後3年間は月5単位が積み上がります。

100床の特養なら5単位×100人×12月=6,000単位/年。1単位10円換算で年約6万円。3年に1回の受入れで、これが継続すると考えると効率は悪くありません。

なお(Ⅱ)の相手は感染対策向上加算の届出医療機関に限られます。(Ⅰ)で認められる「外来感染対策向上加算」の届出医療機関では、(Ⅱ)の実地指導の相手になりません。

(Ⅱ)についても、実地指導の内容を施設内の研修・訓練に含めることが求められています。

(Ⅰ)と(Ⅱ)の併算定

告示の注には、(Ⅰ)と(Ⅱ)の間に排他規定が置かれていません。改定資料も、両者を別々の加算として並べて示しています。

請求前に指定権者へ確認を

条文上は排他規定がないため、両方の要件を満たせば合計15単位/月という読み方になります。

ただし本記事では断定を避けます。(Ⅰ)(Ⅱ)を同時に算定できるかは、必ず指定権者にご確認ください。

協力医療機関連携加算との関係

加算評価している内容
協力医療機関連携加算協力医療機関との定期的な会議による情報共有
高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)感染症に特化した連携体制と外部研修への参加

いずれも「医療機関との連携」を評価しますが、切り口が違うため、排他関係にはありません。協力医療機関連携加算の(1)50単位と、感染対策向上加算(Ⅰ)10単位は、それぞれ要件を満たせば別に算定できます。

実務としては、協力医療機関との年1回以上の対応確認の場で、感染症発生時の対応も取り決めてしまうのが効率的です。

算定にあたっての実務ステップ

  • 感染対策を担当する者を決める
  • 連携先が第二種協定指定医療機関に該当するか、かつ診療所・病院かを確認する
  • 第二種協定指定医療機関との間で、新興感染症発生時等の対応体制を取り決める
  • 協力医療機関等との間で、一般的な感染症の発生時等の対応を取り決める
  • 感染対策向上加算・外来感染対策向上加算の届出医療機関、または地域の医師会が行う研修・訓練を探す
  • 感染対策担当者が年1回以上参加し、指導・助言を受けて記録する
  • 持ち帰った内容を、施設内の感染症研修・訓練に反映させる
  • (Ⅱ)を狙う場合は、感染対策向上加算の届出医療機関に実地指導を依頼する(3年に1回以上)
  • 実地指導の内容も施設内の研修・訓練に含める
  • 都道府県知事へ届け出る
  • 新興感染症等施設療養費は、対象感染症が指定された場合に備えて要件を把握しておく

2つ目でつまずく施設が多いところです。「うちの協力医療機関は第二種協定指定医療機関か」を、まず確認してください。

よくある質問

3つの単位数は?

高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)は10単位/月、(Ⅱ)は5単位/月、新興感染症等施設療養費は240単位/日です。

新興感染症等施設療養費はすぐ算定できますか?

できません。対象の感染症は厚生労働大臣が指定する仕組みで、令和6年4月時点では指定されている感染症はないとされています。

新興感染症等施設療養費の算定期間は?

1月に1回、連続する5日を限度として算定します。

(Ⅰ)の要件は何ですか?

第二種協定指定医療機関との新興感染症発生時等の対応体制の確保、協力医療機関等との一般的な感染症の対応の取決めと連携、感染対策向上加算等の届出医療機関または地域の医師会が行う研修・訓練への年1回以上の参加です。

薬局や訪問看護ステーションとの連携でも要件を満たしますか?

満たしません。本加算における連携の対象となる第二種協定指定医療機関は診療所、病院に限るとされています。ただし薬局等との連携を行うこと自体は妨げられていません。

研修には誰が参加しますか?

高齢者施設等において感染対策を担当する者です。参加して指導及び助言を受けることが求められます。

医師会の研修でもよいですか?

よいとされています。地域の医師会が定期的に主催する院内感染対策に関するカンファレンス又は訓練が対象に含まれます。

外部研修に参加すればそれで足りますか?

足りません。施設内で行う感染症の予防・まん延防止のための研修及び訓練の内容に、外部の研修・訓練の内容を含めることが求められています。

(Ⅱ)の実地指導はどのくらいの頻度ですか?

少なくとも3年に1回以上です。

実地指導は誰が行いますか?

感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関に設置された感染制御チームの専任の医師または看護師等が行うことが想定されています。

(Ⅰ)と(Ⅱ)は両方算定できますか?

告示に排他規定は置かれていませんが、取扱いは指定権者にご確認ください。

協力医療機関連携加算と併算定できますか?

評価している内容が異なり、排他規定も置かれていません。それぞれの要件を満たせば別に算定できます。

まとめ
  • 令和6年度改定で特養の感染症対策に関する報酬が3つ新設された
  • 高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)10単位/月・(Ⅱ)5単位/月
  • 新興感染症等施設療養費240単位/日
  • 新興感染症等施設療養費は1月1回・連続する5日が限度
  • 対象感染症は厚生労働大臣が指定する仕組み
  • 令和6年4月時点で指定されている感染症はない
  • 将来のパンデミックに備えた枠組みとして理解する
  • 適切な感染対策は標準予防策・ゾーニング・コホーティング・健康観察
  • (Ⅰ)は第二種協定指定医療機関との新興感染症対応体制の確保が必要
  • 連携の対象となる第二種協定指定医療機関は診療所・病院に限る
  • 薬局・訪問看護ステーションでは要件を満たさない
  • 協力医療機関等と一般的な感染症の対応も取り決める
  • 感染対策担当者が年1回以上、外部の研修・訓練に参加する
  • 参加だけでなく指導及び助言を受けることが必要
  • 地域の医師会が主催するカンファレンス・訓練も対象
  • 外部研修の内容を施設内の研修・訓練に反映させる
  • (Ⅱ)は3年に1回以上の実地指導を受けていること
  • 実地指導は感染制御チームの専任の医師・看護師等
  • (Ⅱ)の相手は感染対策向上加算の届出医療機関に限られる
  • 協力医療機関連携加算とは評価する内容が異なり、別に算定できる
参考にした情報

※本記事の単位数・算定要件は、厚生労働省の告示、老企第40号の留意事項通知および令和6年度介護報酬改定の資料にもとづいて整理したものです。実際の算定にあたっては原文および指定権者(都道府県・市町村)の解釈をご確認ください。新興感染症等施設療養費の対象感染症の指定状況は変動します。本記事の「令和6年4月時点で指定なし」は通知の記載を引用したものであり、最新の指定状況は必ず厚生労働省の通知および指定権者にご確認ください。高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の併算定の可否、第二種協定指定医療機関の該当性、研修・訓練の内容が要件を満たすかについても、指定権者によって取扱いが異なる場合があります。単位数は1単位あたりの単価(地域区分)により実際の報酬額が変わります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。体制づくりに関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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