特養の身体拘束廃止未実施減算は、所定単位数の100分の10、つまり10%の減算です。特養の減算では最も重く、100床規模なら月に200万円以上の影響が出ます。重要なのは、身体拘束を行ったことへの罰則ではないという点です。記録・委員会・指針・研修の4つのうち1つでも欠ければ減算されます。

この記事では、指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)と老企第40号の原文を確認して、減算率・4つの要件・減算が始まるタイミング・改善計画の手続きを整理しました。

この記事でわかること

  • 特養の身体拘束廃止未実施減算は10%という減算率
  • 身体拘束を行ったこと自体は減算の理由ではないこと
  • 減算の対象になる4つの不備
  • 委員会は3か月に1回以上という頻度
  • 根拠になる指定介護老人福祉施設基準の条文
  • 改善計画を都道府県知事に提出する手続き
  • 事実が生じた月の翌月から減算が始まること
  • 他の減算との重さの比較

特養の身体拘束廃止未実施減算とは?

身体拘束廃止未実施減算は、身体的拘束等の適正化のために求められている取り組みを行っていない場合に、基本報酬を10%減額する仕組みです。

ここで最も誤解されるのが、何に対する減算なのかという点です。老企第40号 5の(5)は、冒頭で明確に否定しています。

身体拘束廃止未実施減算については、施設において身体的拘束等が行われていた場合ではなく、指定介護老人福祉施設基準第11条第5項又は第42条第7項の記録(中略)を行っていない場合及び指定介護老人福祉施設基準第11条第6項又は第42条第8項に規定する措置を講じていない場合に、入所者全員について所定単位数から減算することとなる。

拘束をしたから減算されるのではなく、拘束をしたときの記録を残していないこと、そして適正化のための措置を講じていないことが理由です。緊急やむを得ない場合の身体拘束は、要件を満たせば認められています。

ちびウルフちびウルフ

うちは身体拘束をしていないので、この減算とは無縁ですよね。

リハウルフリハウルフ

それが一番危ない考え方です。拘束をしていなくても、委員会を3か月に1回開いていない、指針がない、研修をしていない。このどれかがあれば減算されます。拘束ゼロの施設ほど、委員会が形骸化しやすいところがあります。

身体拘束廃止未実施減算の減算率

減算減算率対象
身体拘束廃止未実施減算所定単位数の10%入所者全員

他の減算との比較

減算減算率・額
身体拘束廃止未実施減算10%
夜勤職員基準減算3%
業務継続計画未策定減算3%
高齢者虐待防止措置未実施減算1%
栄養管理の基準未達1日14単位
安全管理体制未実施減算1日5単位

10%は突出して重い減算です。要介護3・多床室で1日800単位と仮定すると80単位の減。100床が1か月満床なら約240,000単位、金額にして230万円前後です。しかも減算は改善が認められるまで続きます。

身体拘束廃止未実施減算の対象になる4つの不備

老企第40号 5の(5)は、具体的に次の4つを挙げています。

  • 身体的拘束等を行う場合の記録を行っていない
  • 身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3か月に1回以上開催していない
  • 身体的拘束等の適正化のための指針を整備していない
  • 身体的拘束等の適正化のための定期的な研修を実施していない

4つのうち1つでも欠ければ減算

通知は4つを「又は」で並べています。すべてが揃っていなければならず、1つでも欠けた時点で減算の対象です。委員会の開催記録、指針の文書、研修の実施記録。この3点は書類として示せる状態にしておいてください。

根拠となる条文

内容根拠
身体的拘束等を行う場合の記録指定介護老人福祉施設基準 第11条第5項(ユニット型は第42条第7項)
適正化のための措置(委員会・指針・研修)指定介護老人福祉施設基準 第11条第6項(ユニット型は第42条第8項)

従来型とユニット型で条文が分かれていますが、求められる内容は同じです。

委員会は3か月に1回以上

4つのうち、頻度が明示されているのは委員会だけです。「3か月に1回以上」なので、年4回が最低ラインになります。開催月を年度当初に決めておくのが確実です。

研修は「定期的な」

研修については回数の明示がありません。高齢者虐待防止措置未実施減算が「年2回以上」と明記しているのとは対照的です。指定権者が目安を示している場合があるため、確認してください。

身体拘束廃止未実施減算の手続きとタイミング

  • 基準を満たさない事実が生じる
  • 速やかに改善計画を都道府県知事に提出する
  • 事実が生じた月の翌月から、入所者全員について減算が始まる
  • 事実が生じた月から3か月後に、改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告する
  • 改善が認められた月まで減算が続く
時点内容
事実が生じた月減算なし。速やかに改善計画を提出
翌月減算開始
事実が生じた月から3か月後改善状況を報告
改善が認められた月この月まで減算

改善計画の提出は「速やかに」

減算が始まるのは翌月ですが、改善計画の提出は事実が生じた時点で求められます。実地指導で指摘されてから動くのではなく、自ら気づいた時点で提出するのが本来の手続きです。委員会の開催が飛んだ、指針が古いまま更新されていない。こうした事実に気づいたら、まず指定権者に相談してください。

ちびウルフちびウルフ

委員会を1回飛ばしただけでも、3か月分は減算されるということですか。

リハウルフリハウルフ

通知の書き方だとそう読めます。改善が認められた月まで減算が続くので、翌月から報告までの間は10%です。委員会の1回が、金額にすると数百万円になり得るということです。

身体拘束廃止未実施減算の注意点

「拘束ゼロ」の施設ほど点検が必要

身体拘束をしていない施設では、記録の要件が発生しません。そのぶん委員会が「特に議題がない」まま形だけになりやすいのが実務の実感です。議事録に「該当事例なし」とだけ書かれた会が続いているようなら、開催の事実は残っていても中身が問われかねません。拘束につながりやすい場面の共有や、代替方法の検討を議題に置いてください。

研修の対象は全職員

通知は対象者を限定していませんが、身体的拘束等の適正化は施設全体の課題です。介護職員だけでなく、看護職員・機能訓練指導員・生活相談員・管理栄養士を含めた実施記録にしておくほうが安全です。

リハビリの視点から言えば、車いすのベルトやテーブルの使い方は、拘束か否かの線引きが曖昧になりやすい領域です。姿勢保持のための装具なのか、立ち上がりを妨げるための固定なのか。ここを委員会で扱っておくと、現場の判断が揃います。

指針は更新の記録も残す

指針は「整備していない」ことが減算の理由です。作成日が古いままでも整備されてはいますが、改定の経緯を残しておくと、委員会での検討が実際に行われている証拠になります。

ユニット型も同じ内容が求められる

条文は第42条に分かれていますが、記録・委員会・指針・研修という要件の中身は従来型と同じです。ユニット型だから緩い、ということはありません。

身体拘束廃止未実施減算のQ&A

身体拘束をしたら減算されますか?

されません。通知は「施設において身体的拘束等が行われていた場合ではなく」と明記しています。減算の理由は記録の不備と、適正化のための措置を講じていないことです。

拘束をしていなくても減算されることがありますか?

あります。委員会を3か月に1回以上開催していない、指針を整備していない、定期的な研修を実施していない場合は減算の対象です。

委員会の開催頻度は?

3か月に1回以上です。年4回が最低ラインになります。

研修は年に何回必要ですか?

通知は「定期的な研修」とするのみで、回数を明示していません。指定権者が目安を示している場合があるため確認してください。

減算はいつから始まりますか?

基準を満たさない事実が生じた月の翌月からです。事実が生じた月は減算されません。

減算はいつまで続きますか?

改善が認められた月までです。3か月後に改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告することになっています。

改善計画はいつ出しますか?

事実が生じた時点で「速やかに」都道府県知事に提出します。

ユニット型でも同じですか?

同じです。条文は第42条に分かれていますが、記録・委員会・指針・研修という要件の中身は変わりません。

車いすのベルトは身体拘束にあたりますか?

目的と状況によります。姿勢保持のためか、立ち上がりを妨げるためかで判断が分かれる領域です。委員会で施設としての判断基準を整理しておくことをおすすめします。

まとめ

  • 特養の身体拘束廃止未実施減算は所定単位数の10%
  • 特養の減算のなかで最も重い
  • 身体拘束を行ったこと自体が減算の理由ではない
  • 減算の理由は、拘束時の記録の不備と、適正化のための措置を講じていないこと
  • 根拠は指定介護老人福祉施設基準 第11条第5項・第6項(ユニット型は第42条第7項・第8項)
  • 対象になる不備は記録・委員会・指針・研修の4つ
  • 4つのうち1つでも欠ければ減算される
  • 委員会は3か月に1回以上の開催が必要
  • 研修は「定期的な」とされ、回数の明示はない
  • 拘束をしていない施設でも、委員会・指針・研修の3つは必要
  • 事実が生じたら速やかに改善計画を都道府県知事に提出する
  • 減算が始まるのは事実が生じた月の翌月から
  • 事実が生じた月から3か月後に改善状況を報告する
  • 改善が認められた月まで減算が続く
  • 減算の対象は入所者全員

参考にした情報

※本記事の減算率・要件は、厚生労働省の告示および通知にもとづいて整理したものです。実際の取扱いにあたっては原文および指定権者の解釈をご確認ください。取扱いは都道府県・市町村(指定権者)によって異なる場合があります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。運用に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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