特養の生産性向上推進体制加算は(Ⅰ)100単位・(Ⅱ)10単位、いずれも1月につき。10倍の差がつきます。令和6年度改定で新設されました。

差を生むのは3点。①テクノロジーを複数導入しているか、②職員間の役割分担に取り組んでいるか、③提出したデータで業務改善の成果が確認されたかです。

そして「複数導入」の定義がかなり具体的です。見守り機器・インカム等・介護記録ソフト等の3類型すべてを使い、しかも見守り機器は全居室に設置、インカム等は全ての介護職員が使用する。「2種類入れた」では足りません。

この記事では、指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(厚生省告示第21号)、厚生労働大臣が定める基準(平成27年厚生労働省告示第95号)、令和6年度介護報酬改定における改定事項についてを突き合わせて整理しました。筆者は理学療法士16年目・介護支援専門員です。

この記事でわかること
  • (Ⅰ)100単位・(Ⅱ)10単位という単位数と併算定の可否
  • 委員会で検討すべき4つの事項
  • 「見守り機器等のテクノロジー」3類型
  • 「複数導入」の厳密な定義(全居室設置・全介護職員使用)
  • 見守り機器は利用者の意向確認が必要なこと
  • (Ⅱ)で提出する3項目のデータ
  • (Ⅰ)で提出する5項目のデータ
  • 「成果が確認された」の意味
  • (Ⅱ)を経ずに(Ⅰ)を取れる場合があること
  • 事業年度ごとの厚生労働省への報告

単位数は100単位と10単位

区分単位数算定の単位
生産性向上推進体制加算(Ⅰ)100単位1月につき
生産性向上推進体制加算(Ⅱ)10単位1月につき

ク 生産性向上推進体制加算

注 別に厚生労働大臣が定める基準に適合しているものとして、(中略)届出を行った指定介護老人福祉施設において、入所者に対して指定介護福祉施設サービスを行った場合は、当該基準に掲げる区分に従い、1月につき次に掲げる所定単位数を加算する。ただし、次に掲げるいずれかの加算を算定している場合においては、次に掲げるその他の加算は算定しない。

(Ⅰ)と(Ⅱ)は二者択一

ただし書きにより、(Ⅰ)と(Ⅱ)は同時に算定できません。

100床の特養なら、(Ⅰ)で月10,000単位=1単位10円換算で約10万円、年約120万円。(Ⅱ)は月1,000単位=約1万円、年約12万円です。差は年間100万円以上になります。

共通の土台——委員会で検討する4つの事項

(Ⅰ)(Ⅱ)に共通する基礎要件が、厚生労働大臣が定める基準に置かれています。

(1) 利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会において、次に掲げる事項について必要な検討を行い、及び当該事項の実施を定期的に確認していること。
(一) 介護機器を活用する場合における利用者の安全及びケアの質の確保
(二) 職員の負担の軽減及び勤務状況への配慮
(三) 介護機器の定期的な点検
(四) 業務の効率化及び質の向上並びに職員の負担軽減を図るための職員研修

  • ①介護機器活用時の利用者の安全とケアの質
  • 職員の負担軽減と勤務状況への配慮
  • ③介護機器の定期的な点検
  • 職員研修

検討するだけでなく、実施を定期的に確認するところまでが要件です。委員会の議事録に、検討内容と実施状況の確認の両方を残してください。

「見守り機器等のテクノロジー」3類型

見守り機器等のテクノロジーとは、以下のアからウに掲げる機器をいう。
ア 見守り機器
イ インカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器
ウ 介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に資するICT機器(複数の機器の連携も含め、データの入力から記録・保存・活用までを一体的に支援するものに限る。)

類型機器の例目的
見守り機器(センサー等)安全確認・訪室の効率化
インカム等職員間の連絡調整の迅速化
介護記録ソフト・スマートフォン等記録作成の効率化

ウには条件があります。「データの入力から記録・保存・活用までを一体的に支援するものに限る」。単なる文書作成ソフトや、記録を紙からデータに置き換えただけのものは想定されていません。

(Ⅱ)10単位——テクノロジー1つ以上から始められる

【生産性向上推進体制加算(Ⅱ)】(新設)
○ 利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の開催や必要な安全対策を講じた上で、生産性向上ガイドラインに基づいた改善活動を継続的に行っていること。
見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入していること。
1年以内ごとに1回、業務改善の取組による効果を示すデータの提供(オンラインによる提出)を行うこと。

(Ⅱ)は「1つ以上」でよい

すでに介護記録ソフトを導入している施設は多いはずです。ウの機器が要件を満たしていれば、テクノロジーの要件は「1つ以上」でクリアできます。

残るは委員会の開催・生産性向上ガイドラインに基づく改善活動・年1回のデータ提出。10単位は小さいものの、(Ⅰ)へ進むための第一歩として位置づけられています。

(Ⅰ)100単位——3つの上乗せ

【生産性向上推進体制加算(Ⅰ)】(新設)
(Ⅱ)の要件を満たし、(Ⅱ)のデータにより業務改善の取組による成果が確認されていること。
見守り機器等のテクノロジーを複数導入していること。
職員間の適切な役割分担(いわゆる介護助手の活用等)の取組等を行っていること。
○ 1年以内ごとに1回、業務改善の取組による効果を示すデータの提供(オンラインによる提出)を行うこと。

要件(Ⅱ)(Ⅰ)
委員会・改善活動必要必要
テクノロジー1つ以上複数
職員間の役割分担必要
データによる成果の確認必要
データ提出3項目5項目

「複数導入」の定義が厳しい

見守り機器等のテクノロジーを複数導入するとは、少なくともアからウまでに掲げる機器は全て使用することであり、その際、アの機器は全ての居室に設置し、イの機器は全ての介護職員が使用すること。なお、アの機器の運用については、事前に利用者の意向を確認することとし、当該利用者の意向に応じ、機器の使用を停止する等の運用は認められるものであること。

ちびウルフちびウルフ

「複数」って、2つ入れればいいんじゃないんですか?

リハウルフリハウルフ

そこが落とし穴。「少なくともアからウまでに掲げる機器は全て使用すること」——つまり3類型すべてが要る。

しかも量的な条件まで付いている。見守り機器は全ての居室に設置、インカム等は全ての介護職員が使用。一部のフロアだけ、夜勤者だけ、では足りない。

100床の特養なら見守り機器100台、インカムは介護職員全員分。初期投資はかなりの規模になる。年120万円の加算と、機器の導入・維持費を並べて判断する話だと思う。

ひとつ良心的なのは、見守り機器は利用者の意向を確認して、嫌がる方には止めてよいと書いてあること。全居室設置は求めるが、使用の強制まではしない。ここは押さえておきたい。

提出するデータの項目

(Ⅰ)において提供を求めるデータは、以下の項目とする。
ア 利用者のQOL等の変化(WHO-5等)
イ 総業務時間及び当該時間に含まれる超過勤務時間の変化
ウ 年次有給休暇の取得状況の変化
エ 心理的負担等の変化(SRS-18等)
オ 機器の導入による業務時間(直接介護、間接業務、休憩等)の変化(タイムスタディ調査)

〇 (Ⅱ)において求めるデータは、(Ⅰ)で求めるデータのうち、アからウの項目とする。

項目(Ⅱ)(Ⅰ)
ア 利用者のQOL等の変化(WHO-5等)必要必要
イ 総業務時間・超過勤務時間の変化必要必要
ウ 年次有給休暇の取得状況の変化必要必要
エ 心理的負担等の変化(SRS-18等)必要
オ タイムスタディ調査必要

「成果が確認された」の意味

(Ⅰ)における業務改善の取組による成果が確認されていることとは、ケアの質が確保(アが維持又は向上)された上で、職員の業務負担の軽減(イが短縮、ウが維持又は向上)が確認されることをいう。

  • ア(利用者のQOL)が維持または向上していること=ケアの質の確保
  • イ(総業務時間・超過勤務)が短縮していること
  • ウ(年次有給休暇の取得)が維持または向上していること
「効率化したがQOLが下がった」では通らない

成果の定義は「ケアの質が確保された上で」職員の負担が軽減されることです。業務時間だけ短くなっても、利用者のQOLが下がっていれば成果として認められません。

機器の導入が「見回りを減らす」方向にだけ働くと、この条件を満たせない可能性があります。浮いた時間を何に使うかまで設計しておく必要があります。

(Ⅱ)を経ずに(Ⅰ)を取ることもできる

注:生産性向上に資する取組を従来より進めている施設等においては、(Ⅱ)のデータによる業務改善の取組による成果と同等以上のデータを示す等の場合には、(Ⅱ)の加算を取得せず、(Ⅰ)の加算を取得することも可能である。

すでにテクノロジーの導入と業務改善を進めてきた施設は、(Ⅱ)を1年経由せずに(Ⅰ)から入れます。年間100万円以上の差がある以上、該当しそうな施設は指定権者に確認する価値があります。

事業年度ごとの厚生労働省への報告

厚生労働大臣が定める基準は、報告についても定めています。

区分報告する内容
(Ⅰ)委員会の取組、介護機器の複数活用、業務分担の明確化等の取組の実績
(Ⅱ)委員会の取組、介護機器の活用の実績

いずれも事業年度ごとに厚生労働省へ報告します。データ提供は「1年以内ごとに1回、オンラインによる提出」です。

算定にあたっての実務ステップ

  • 利用者の安全・介護サービスの質の確保・職員の負担軽減を検討する委員会を設置する
  • 委員会で4つの事項(安全とケアの質・負担軽減と勤務状況・機器の点検・職員研修)を検討し、実施を定期的に確認する
  • 生産性向上ガイドラインに基づいた改善活動を継続的に行う
  • 導入済みのテクノロジーが3類型のどれに当たるかを整理する
  • まず(Ⅱ)を目指す場合は、1つ以上の導入を確認する
  • ア(利用者のQOL)・イ(総業務時間・超過勤務)・ウ(有給取得)のデータを収集する
  • 1年以内ごとに1回、オンラインでデータを提出する
  • (Ⅰ)を目指す場合は、ア〜ウの3類型すべてを導入する
  • 見守り機器を全居室に設置し、事前に利用者の意向を確認する
  • インカム等を全ての介護職員が使用する体制にする
  • 職員間の役割分担(介護助手の活用等)に取り組む
  • エ(心理的負担)・オ(タイムスタディ)を加えた5項目のデータを提出する
  • 事業年度ごとに取組の実績を厚生労働省へ報告する

4つ目から始めるのが現実的です。すでに入れている機器が要件に当たるかを整理するだけで、(Ⅱ)が見えてくる施設は少なくありません。

よくある質問

単位数はいくらですか?

生産性向上推進体制加算(Ⅰ)は100単位/月、(Ⅱ)は10単位/月です。

(Ⅰ)と(Ⅱ)は両方算定できますか?

できません。いずれかの加算を算定している場合は、その他の加算は算定しないとされています。

委員会で何を検討しますか?

介護機器を活用する場合の利用者の安全とケアの質の確保、職員の負担軽減と勤務状況への配慮、介護機器の定期的な点検、職員研修の4つです。検討に加えて実施を定期的に確認することも必要です。

「見守り機器等のテクノロジー」とは何ですか?

ア見守り機器、イインカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器、ウ介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に資するICT機器の3類型です。

(Ⅱ)はテクノロジーを何種類導入すればよいですか?

1つ以上です。

(Ⅰ)の「複数導入」とは2種類のことですか?

違います。少なくともアからウまでの機器を全て使用することとされ、さらに見守り機器は全ての居室に設置し、インカム等は全ての介護職員が使用することが求められます。

見守り機器を嫌がる利用者がいる場合は?

事前に利用者の意向を確認することとされ、意向に応じて機器の使用を停止する等の運用は認められています。

提出するデータは何ですか?

(Ⅱ)は利用者のQOL等の変化、総業務時間・超過勤務時間の変化、年次有給休暇の取得状況の変化の3項目です。(Ⅰ)はこれに心理的負担等の変化とタイムスタディ調査を加えた5項目です。

データはどのくらいの頻度で提出しますか?

1年以内ごとに1回、オンラインによる提出です。

「成果が確認された」とはどういう状態ですか?

利用者のQOL等が維持または向上し、そのうえで総業務時間・超過勤務時間が短縮し、年次有給休暇の取得状況が維持または向上していることです。

(Ⅱ)を1年取ってからでないと(Ⅰ)は取れませんか?

そうとは限りません。生産性向上に資する取組を従来から進めている施設等が、同等以上のデータを示す等の場合には、(Ⅱ)を取得せずに(Ⅰ)を取得することも可能とされています。

厚生労働省への報告は必要ですか?

必要です。事業年度ごとに、委員会の取組や介護機器の活用等に関する実績を報告することとされています。

まとめ
  • 特養の生産性向上推進体制加算は(Ⅰ)100単位・(Ⅱ)10単位、1月につき
  • 令和6年度改定で新設された
  • (Ⅰ)と(Ⅱ)は併算定できない
  • 100床なら(Ⅰ)で年約120万円、(Ⅱ)で年約12万円の差
  • 共通の土台は委員会での4事項の検討と実施の定期確認
  • 4事項は安全とケアの質・負担軽減と勤務状況・機器の点検・職員研修
  • テクノロジーは見守り機器・インカム等・介護記録ソフト等の3類型
  • 介護記録ソフト等は入力から記録・保存・活用まで一体的に支援するもの
  • (Ⅱ)はテクノロジー1つ以上、生産性向上ガイドラインに基づく改善活動、年1回のデータ提出
  • (Ⅰ)は3類型すべての導入が必要
  • 見守り機器は全ての居室に設置する
  • インカム等は全ての介護職員が使用する
  • 見守り機器は事前に利用者の意向を確認し、意向により使用停止も可
  • (Ⅰ)は職員間の役割分担(介護助手の活用等)の取組も必要
  • (Ⅱ)のデータは3項目、(Ⅰ)は5項目
  • 成果の確認はQOLの維持・向上を前提に業務時間の短縮と有給取得の維持・向上
  • 効率化してもQOLが下がっていれば成果と認められない
  • 従来から取り組む施設は(Ⅱ)を経ずに(Ⅰ)を取得できる場合がある
  • データ提出は1年以内ごとに1回、オンライン
  • 事業年度ごとに取組の実績を厚生労働省へ報告する
参考にした情報

※本記事の単位数・算定要件は、厚生労働省の告示および令和6年度介護報酬改定の資料にもとづいて整理したものです。本加算の詳細な取扱いは、別途通知「生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について」に定められています。実際の算定にあたっては当該通知および指定権者(都道府県・市町村)の解釈を必ずご確認ください。導入した機器が「見守り機器等のテクノロジー」に該当するか、データの収集・提出方法、(Ⅱ)を経ずに(Ⅰ)を算定できる場合の判断については、指定権者によって取扱いが異なる可能性があります。単位数は1単位あたりの単価(地域区分)により実際の報酬額が変わります。本文中の収益の試算は1単位10円で計算した概算です。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。導入判断や運用に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。

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リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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