老健の高齢者虐待防止措置未実施減算とは?

老健の高齢者虐待防止措置未実施減算は、所定単位数の100分の1、つまり1%の減算です。令和6年度改定から適用されました。身体拘束廃止未実施減算と同じく、虐待が起きたことへの罰則ではありません。委員会・指針・研修・担当者の4つのうち1つでも欠ければ減算されます。
この記事では、指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)と老企第40号の原文を確認して、減算率・4つの要件・研修の回数・減算のタイミングを整理しました。
この記事でわかること
- 老健の高齢者虐待防止措置未実施減算は1%という減算率
- 虐待が発生したこと自体は減算の理由ではないこと
- 減算の対象になる4つの不備
- 研修は年2回以上という明確な回数
- 担当者を置くことが要件に含まれること
- 身体拘束廃止未実施減算との違い
- 事実が生じた月の翌月から減算が始まること
- 委員会は身体拘束の委員会と兼ねられるか
老健の高齢者虐待防止措置未実施減算とは?
高齢者虐待防止措置未実施減算は、虐待の防止のために求められている措置を講じていない場合に、基本報酬を1%減額する仕組みです。令和6年度改定から適用が始まりました。
老企第40号 5の(6)は、身体拘束の減算と同じ構造で説明しています。
高齢者虐待防止措置未実施減算については、施設において高齢者虐待が発生した場合ではなく、(中略)規定する措置を講じていない場合に、入所者全員について所定単位数から減算することとなる。
虐待が起きたかどうかではなく、防止のための体制があるかどうかを見ています。虐待が一度も発生していない施設でも、委員会を開いていなければ減算されます。
ちびウルフ1%なら、そこまで大きな話ではない気もします。
リハウルフ金額の話ならそうです。ただ、この減算を受けたという事実が残ることのほうが重いと思います。要件も難しくありません。年2回の研修と担当者を置くこと。落とすほうが不自然な水準です。
高齢者虐待防止措置未実施減算の減算率
告示第21号の介護保健施設サービスの注5に定められています。
5 別に厚生労働大臣が定める基準を満たさない場合は、高齢者虐待防止措置未実施減算として、所定単位数の100分の1に相当する単位数を所定単位数から減算する。
| 減算 | 減算率 | 対象 |
|---|---|---|
| 高齢者虐待防止措置未実施減算 | 所定単位数の1% | 入所者全員 |
要介護3・多床室で1日900単位と仮定すると9単位の減。100床が1か月満床なら約27,000単位です。身体拘束廃止未実施減算(10%)と比べると10分の1の重さになります。
高齢者虐待防止措置未実施減算の対象になる4つの不備
老企第40号 5の(6)は、次の4つを挙げています。
- 虐待の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催していない
- 虐待の防止のための指針を整備していない
- 虐待の防止のための研修を年2回以上実施していない
- これらを適切に実施するための担当者を置いていない
研修は「年2回以上」と明示されている
身体拘束廃止未実施減算の研修が「定期的な研修」とだけ書かれているのに対し、虐待防止の研修は年2回以上と回数が明示されています。ここは数えられる要件なので、実施記録を年度単位で確認してください。年1回で済ませていると、それだけで減算の対象です。
担当者を置くことが要件
4つ目の「担当者」は、身体拘束の減算にはない要件です。委員会・指針・研修を適切に実施するための担当者を明確にしておく必要があります。職名だけでなく、誰が担当者かを文書で特定できる状態にしてください。
委員会の頻度
虐待防止の委員会は「定期的に開催していない」とされ、回数の明示がありません。身体拘束の委員会が「3か月に1回以上」と明示されているのとは逆の関係です。
| 要件 | 身体拘束廃止未実施減算 | 高齢者虐待防止措置未実施減算 |
|---|---|---|
| 減算率 | 10% | 1% |
| 委員会の頻度 | 3か月に1回以上(明示) | 定期的に(明示なし) |
| 研修の回数 | 定期的に(明示なし) | 年2回以上(明示) |
| 指針 | 必要 | 必要 |
| 担当者 | 要件になし | 必要 |
| 記録 | 拘束時の記録が必要 | 要件になし |
2つの減算は要件が微妙に食い違う
似た構造の減算ですが、明示されている項目が互い違いです。身体拘束は委員会の頻度が明示で研修は不明示、虐待防止は研修の回数が明示で委員会は不明示。片方の感覚でもう片方を運用すると穴が空きます。
委員会は兼ねられるか
身体拘束等の適正化のための委員会と、虐待の防止のための委員会。どちらも設置が求められますが、告示・老企第40号とも兼ねることの可否を明示していません。
実務上は、議題として両方を扱い、議事録の見出しを分けておく形が現実的です。ただし身体拘束の委員会には3か月に1回以上という頻度要件があるため、その間隔に合わせて開催することになります。兼ねられるかどうかの最終的な判断は指定権者に確認してください。
ちびウルフ委員会が増える一方で、現場が回りません。
リハウルフよく聞く話です。会議体を増やすより、1つの会議で議題を分けて議事録の見出しを立てるほうが続きます。ただ、それぞれの要件を満たしていることを議事録から示せる形にしておくのが前提です。
高齢者虐待防止措置未実施減算のタイミング
老企第40号 5の(6)の手続きは、身体拘束の減算と同じです。
- 基準を満たさない事実が生じる
- 速やかに改善計画を都道府県知事に提出する
- 事実が生じた月の翌月から、入所者全員について減算が始まる
- 事実が生じた月から3か月後に、改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告する
- 改善が認められた月まで減算が続く
| 時点 | 内容 |
|---|---|
| 事実が生じた月 | 減算なし。速やかに改善計画を提出 |
| 翌月 | 減算開始 |
| 事実が生じた月から3か月後 | 改善状況を報告 |
| 改善が認められた月 | この月まで減算 |
高齢者虐待防止措置未実施減算の注意点
年度の切り替わりで研修回数を確認する
研修は年2回以上です。年度末に1回、年度当初に1回という組み方だと、暦年で数えたときと年度で数えたときで回数が変わります。どの期間で数えるのかを指定権者に確認したうえで、記録を整理してください。
研修の対象は全職員
虐待防止の研修は、直接介護に関わる職員だけの問題ではありません。リハビリ職・支援相談員・管理栄養士・事務職を含めた実施記録にしておくほうが安全です。
リハビリの場面に引きつけて言えば、訓練を嫌がる人に無理に立たせる、痛みの訴えを軽く扱うといった対応は、虐待の入り口になり得ます。研修の題材として、リハ場面での関わり方を扱う意味は小さくありません。
指針は他の指針と分けて整備する
身体拘束等の適正化のための指針と、虐待の防止のための指針は別のものです。1つの文書にまとめる場合でも、それぞれの内容が明確に区分されていることが必要です。
令和6年度改定からの適用
この減算は令和6年度改定で導入されました。それ以前は虐待防止措置が義務化されていても減算はありませんでした。義務化された時点の対応のまま更新していない施設は、要件を満たしているか点検してください。
高齢者虐待防止措置未実施減算のQ&A
虐待が起きたら減算されますか?
されません。通知は「施設において高齢者虐待が発生した場合ではなく」と明記しています。減算の理由は防止のための措置を講じていないことです。
研修は年に何回必要ですか?
年2回以上です。回数が明示されている数少ない要件のひとつです。
委員会の開催頻度は決まっていますか?
通知は「定期的に開催していない」とするのみで、回数を明示していません。身体拘束の委員会(3か月に1回以上)とは書き方が異なります。
担当者は誰が務めますか?
通知は職種を特定していません。委員会・指針・研修を適切に実施するための担当者として、文書で特定できるようにしておいてください。
身体拘束の委員会と兼ねられますか?
告示・通知に明示がありません。議題として両方を扱う運用が現実的ですが、可否は指定権者に確認してください。
減算はいつから始まりますか?
基準を満たさない事実が生じた月の翌月からです。
減算はいつまで続きますか?
改善が認められた月までです。事実が生じた月から3か月後に改善状況を報告します。
減算の対象は誰ですか?
入所者全員です。
身体拘束廃止未実施減算と同時に減算されますか?
それぞれ別の基準にもとづく減算です。両方の基準を満たさない場合の取扱いは指定権者に確認してください。
まとめ
- 老健の高齢者虐待防止措置未実施減算は所定単位数の1%
- 令和6年度改定から適用された
- 虐待が発生したこと自体は減算の理由ではない
- 減算の理由は虐待の防止のための措置を講じていないこと
- 対象になる不備は委員会・指針・研修・担当者の4つ
- 4つのうち1つでも欠ければ減算される
- 研修は年2回以上と回数が明示されている
- 委員会の頻度は「定期的に」とされ、明示がない
- 担当者を置くことが要件に含まれる(身体拘束の減算にはない要件)
- 身体拘束廃止未実施減算とは、明示されている項目が互い違いになっている
- 事実が生じたら速やかに改善計画を都道府県知事に提出する
- 減算が始まるのは事実が生じた月の翌月から
- 3か月後に改善状況を報告し、改善が認められた月まで減算が続く
- 減算の対象は入所者全員
参考にした情報
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)介護保健施設サービス 注5
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準等に関する留意事項について(老企第40号)5の(6)、8の(9)
※本記事の減算率・要件は、厚生労働省の告示および通知にもとづいて整理したものです。実際の取扱いにあたっては原文および指定権者の解釈をご確認ください。取扱いは都道府県・市町村(指定権者)によって異なる場合があります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。運用に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。
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