認知症の検査方法|長谷川式スケールとMMSEとは

「もの忘れ外来に行くと、何をされるんだろう」——受診をためらう理由の多くは、検査の中身が分からないことにあります。実際には、机に向かって質問に答える簡単なやりとりが中心で、痛い検査はありません。
この記事では、理学療法士・介護支援専門員として認知症の方に関わってきた立場から、認知症の検査で何をするのかを整理します。代表的な長谷川式(HDS-R)とMMSEについては、点数の意味と、点数だけで判断してはいけない理由まで踏み込みます。ここを誤解しているご家族が、本当に多いからです。
- 認知症の検査の全体像(何を、どの順番で調べるか)
- 長谷川式(HDS-R)とMMSEの中身と、点数の目安
- 2つの検査の違いと使い分け
- 点数が本当の状態より低く出てしまう5つの原因
- 検査をいやがる人への声かけと、結果を聞くときの注意
大前提:認知症の検査は「診断」ではない
最初にはっきりさせておきます。長谷川式もMMSEも、スクリーニング検査です。認知症の可能性がありそうかどうかを、短時間でふるい分けるための道具にすぎません。
認知症の検査の全体像
医療機関では、おおむね次の流れで進みます。すべてを一日で行うとは限りません。
| 1. 問診 | いつから、どんな症状が、どのくらいの頻度で。家族からの情報がここで最重要 |
|---|---|
| 2. 神経心理検査 | 長谷川式、MMSEなど。机上で質問に答える形式 |
| 3. 血液検査 | 甲状腺の働き、ビタミン欠乏、感染症など。治療で改善する原因を除外する |
| 4. 画像検査 | CT・MRIで脳の萎縮や、脳梗塞・出血・腫瘍・血腫の有無を見る |
| 5. 追加の検査 | 必要に応じて脳血流シンチ(SPECT)など。種類の鑑別に使われる |
ポイントは3番です。認知症に似た症状を出す、治療で改善が期待できる病気を除外することが、検査の重要な目的のひとつです。「認知症かどうか」だけを調べているわけではありません。
リハウルフ受診をためらう人に、私はよくこう言うんだ。「認知症じゃないことを確かめに行く」って。実際、他の病気が見つかることは珍しくないからね。
長谷川式(HDS-R)とは
基本情報
| 正式名称 | 改訂長谷川式簡易知能評価スケール |
|---|---|
| 項目数 | 9項目 |
| 満点 | 30点 |
| 目安 | 20点以下で認知症の疑い(20点/21点がカットオフ) |
| 所要時間 | おおむね5〜10分 |
| 経緯 | 1974年に長谷川和夫医師らが発表。1991年に改訂され現在の形に |
何を調べているのか
9つの質問は、それぞれ違う脳の働きを見ています。
- 年齢、今日の日付、今いる場所——見当識(今がいつ・ここがどこか分かるか)
- 3つの言葉を復唱する——新しいことを覚え込む力
- 100から7を順に引く——計算と、頭の中で情報を保持する力
- 数字を逆から言う——同じく、頭の中で操作する力
- さきほどの3つの言葉を思い出す——遅延再生。認知症でもっとも早く落ちやすい部分
- 5つの品物を見せて隠し、答えてもらう——記憶
- 知っている野菜の名前をできるだけ挙げる——言葉の引き出しやすさ
とくに重要なのが遅延再生です。「さっき言った3つの言葉」を、いったん別の作業(計算)を挟んでから思い出せるか。ここは、加齢によるもの忘れと認知症を分ける手がかりになります。
特徴
日本で開発された検査で、すべて口頭でやりとりが完結します。字を書く・図を描くといった動作がないため、手が不自由な方や、視力が落ちている方でも実施しやすいのが利点です。
MMSEとは
基本情報
| 正式名称 | Mini-Mental State Examination(ミニメンタルステート検査) |
|---|---|
| 項目数 | 11項目 |
| 満点 | 30点 |
| 目安 | 23点以下で認知症の疑い |
| 所要時間 | おおむね10〜15分 |
| 経緯 | 1975年に米国で発表。国際的に広く使われている |
長谷川式との違い
MMSEには、口頭のやりとりに加えて動作を伴う課題が含まれます。
- 文章を書く——自発的に文を作る力
- 図形を写す——空間を認識する力(図形模写)
- 書かれた指示を読んで、そのとおりにする——読解と実行
- 3段階の口頭指示に従う——複数の手順を保持して実行する力
この違いは重要です。図形が写せない、という形で現れる障害は、長谷川式では拾えません。レビー小体型認知症など、空間認識の障害が出やすいタイプでは、MMSEのほうが変化をとらえやすいことがあります。
長谷川式とMMSEの違い(比較表)
| 長谷川式(HDS-R) | MMSE | |
|---|---|---|
| 開発 | 日本(1974年/1991年改訂) | 米国(1975年) |
| 項目数 | 9項目 | 11項目 |
| 満点 | 30点 | 30点 |
| 疑いの目安 | 20点以下 | 23点以下 |
| 形式 | すべて口頭 | 口頭+書く・描く・読む |
| 得意なこと | 記憶の障害を拾う | 記憶に加え、空間認識や実行の障害も拾う |
| 使われる場面 | 国内の日常診療、介護現場 | 国内外、研究や薬の効果判定にも |
どちらが優れているという話ではありません。両方を実施する医療機関もあります。満点が同じ30点でも、目安となる点数(カットオフ)が違うので、別の検査の点数どうしを比べても意味がないことは知っておいてください。
ちびウルフ去年24点で今年22点。2点下がったってことは、進行したの?
リハウルフその2点は、体調や機嫌でも動く範囲なんだ。1回の点差で一喜一憂しないほうがいい。大事なのは、点数より生活で何ができなくなったかだよ。
点数が実際より低く出てしまう5つの原因
ここが、現場でいちばん伝えたいところです。検査の点数は、その日のコンディションでかなり動きます。
逆に、点数が高く出ることもある
いわゆる取り繕いです。長年の社会経験がある方ほど、その場をうまく切り抜けます。「日付ですか、今日は新聞を見ていないので」「野菜の名前?たくさんありすぎて困りますね」——受け答えが自然なので、検査だけでは実態が見えません。
点数は良いのに、家では家事がまったく回っていない。このギャップを埋められるのは、家族の情報だけです。
だからこそ、家族の情報がいちばん大事
診察室で本人が見せる姿は、生活のごく一部です。医師が本当に知りたいのは、日常で何が起きているかです。
受診の前に、次の3点をメモにして持参してください。
- いつから——「去年の夏ごろから」で構いません
- どんな場面で——「料理の味付けが変わった」「同じ物を何度も買う」など具体的に
- どのくらいの頻度で——「週に2〜3回」「毎日」
検査をいやがる人への声かけ
「もの忘れの検査に行こう」は、まず通りません。自分の衰えを突きつけられると分かるからです。
- 認知症を主語にしない。「血圧の薬をもらうついでに」「市の健康診断で」
- 家族を主語にする。「私が心配で眠れないから、付き合ってほしい」
- 家で予行演習をしない。「今日は何日?」と家族が試すのは逆効果。本番の緊張が増すだけです
- それでも動かないときは、家族だけで先に相談する。地域包括支援センターやかかりつけ医へ
結果を聞くときの注意
これも大事な点です。本人の前で点数を口にしないことをおすすめします。
「18点でした」と言われても、本人には何のことか分かりません。分かるのは「自分は悪い数字を取った」という感覚だけです。私が関わったご家庭でも、点数を聞いた日から本人がふさぎ込んでしまったケースがありました。
結果は、家族が別の機会に医師から聞く。本人には「大きな病気はなかったよ」「また相談していこうね」と伝える。本人に伝えるかどうか、どこまで伝えるかは、医師と相談して決めてください。
リハウルフ点数は本人を評価するための数字じゃない。これからどう支えるかを決めるための情報なんだ。ここを間違えると、検査そのものが本人を傷つける道具になってしまう。
検査を作った医師自身が、認知症になった
長谷川式を開発した長谷川和夫医師は、2017年に自身が認知症であることを公表しました。認知症研究の第一人者が、当事者として発信する側に回ったのです。2021年に92歳で亡くなるまで、講演や著書を通じて「認知症になっても人は変わらない」と伝え続けました。
ご本人は、自分が作った尺度が点数だけで人を判断する道具として使われることに、繰り返し警鐘を鳴らしていたと伝えられています。この記事で「点数だけで見ないでほしい」と書いてきたのは、そういう背景があるからです。
ちびウルフ検査を作った先生自身が認知症になるって、なんだか不思議な感じ。
リハウルフ不思議じゃないんだ。誰でもなりうるということを、いちばん説得力のある形で示してくれたんだと思う。だから「なった人」を測るんじゃなくて、「これからどう暮らすか」を一緒に考えるための検査なんだよ。
費用と保険
これらの検査は健康保険の対象です。長谷川式やMMSEのような簡易な検査であれば、自己負担は数百円程度に収まることが多いです。画像検査(CT・MRI)が加わると、初診料や他の検査と合わせて数千円程度になるのが一般的です。
(金額は自己負担割合・検査の組み合わせ・医療機関によって変わります。目安としてお考えください。)1か月の自己負担が高額になった場合は、高額療養費制度の対象になります。
よくある質問
検査の内容を、事前に練習させてもいいですか?
何点だと要介護認定が受けられますか?
もの忘れ外来と、普通の内科ではどちらがいいですか?
点数は毎回下がっていくものですか?
検査は何回も受ける必要がありますか?
- 長谷川式もMMSEもスクリーニング検査。点数だけで診断はできない。
- 長谷川式は9項目30点、20点以下が疑いの目安。すべて口頭で完結する。
- MMSEは11項目30点、23点以下が目安。書く・描く・読む課題を含む。
- 満点が同じでも目安の点数が違うため、検査どうしの点数を比べても意味がない。
- 難聴・緊張・体調・うつ・薬で、点数は実際より低く出る。
- 取り繕いで高く出ることもある。家族の情報がギャップを埋める。
- 受診前に「いつから・どんな場面で・どのくらいの頻度で」をメモして、本人のいない場面で渡す。
- 本人の前で点数を言わない。結果の伝え方は医師と相談する。
- 加藤伸司ほか「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の理解と活用」(J-STAGE掲載。HDS-Rの成り立ち、9項目の内容、20点/21点のカットオフ、点数のみで判断する問題点)
- 厚生労働省「政策レポート(認知症を理解する)」(認知症の定義、中核症状と周辺症状)
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」(相談窓口)
※本記事の内容は2026年8月時点の情報にもとづいています。カットオフ値は「疑いの有無を判断する目安」であり、診断基準ではありません。費用は自己負担割合・検査内容・医療機関によって異なります。検査や診断に関する判断は、必ず医療機関にご相談ください。




