高齢者の便秘は「女性の悩み」ではありません。国の調査では、65歳以上になると男女差がほとんどなくなります。

そしてもう1つ、見落とされやすい原因があります。飲んでいる薬です。厚生労働省の指針は、便秘を起こしやすい薬を薬効群ごとに挙げています。この記事では、調査データと指針の原文を確認して、原因の切り分けと、下剤を続けるときの注意点を整理しました。

この記事でわかること

  • 高齢者の便秘がどのくらい多いか(有訴者率)
  • 65歳を境に男女差が消える事実
  • 加齢で便秘が増える理由
  • 便秘を起こしやすい薬の一覧(厚労省の指針)
  • 下剤を長く続けるときの2つの注意点
  • 受診したほうがよい症状
  • 生活でできる対策
  • 介護する側が整えるとよい環境

高齢者の便秘はどのくらい多いのか

厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」で、便秘を自覚している人の割合(有訴者率・人口千対)を見ると次のようになります。

区分総数
全年齢35.927.543.7
65歳以上71.268.173.8

全年齢では女性が男性の約1.6倍ですが、65歳以上では68.1対73.8とほぼ並びます。男性の便秘が高齢期に急増するためです。

「便秘は女性のもの」という前提で見ていると、男性の便秘は見過ごされます。実際、訪問していて排便の相談を切り出しにくいのは男性のほうです。

高齢者の便秘が増える理由

加齢そのものによる変化と、生活の変化が重なります。

  • 腸の動きが弱くなり、便が大腸にとどまる時間が長くなる
  • 腹圧をかける筋力(腹筋・骨盤底筋)が落ちる
  • 食事量が減り、便のもとになる量が足りない
  • 水分摂取が減る(トイレが近くなるのを避けて控える人が多い)
  • 活動量が減り、腸への刺激が減る
  • トイレまで行くのが大変で、便意を我慢してしまう
  • 服用している薬の影響

下から2つめは見逃されがちです。トイレが遠い、間に合わない、手すりがなくて座るのが怖い。こうした理由で便意を我慢すると、便意そのものが起こりにくくなっていきます。環境の問題が便秘の原因になっている家庭は少なくありません。

便秘を起こしやすい薬がある

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」は、薬が原因で起こる老年症候群を一覧にしています。便秘の欄に挙げられているのは次の薬効群です。

指針の原文(便秘の原因となる薬剤)

「睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬(ムスカリン受容体拮抗薬)、腸管鎮痙薬(アトロピン、ブチルスコポラミン)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、αグルコシダーゼ阻害薬、抗精神病薬(フェノチアジン系)、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)」

よく処方されている薬ばかりです。特に睡眠薬と、頻尿に使う過活動膀胱治療薬は、高齢者に出されやすく、便秘と結びつけて考えられにくい組み合わせです。

指針は別表でも、過活動膀胱治療薬について「口腔乾燥、便秘の頻度が高い」「必要時、緩下剤を併用する」と書いています。便秘が出ることが前提とされている薬もある、ということです。

確認の手順

便秘が「いつから」始まったかを思い出し、その前後に始まった薬・変わった薬がないかを確認してください。あれば主治医か薬剤師に伝えます。自己判断で薬をやめないでください。

薬が原因で起こる症状は便秘だけではありません。ふらつき、もの忘れ、食欲低下なども同じ表に載っています。詳しくは高齢者の薬が多いとどうなる?ポリファーマシーの基準をご覧ください。

下剤を長く続けるときの注意点

ここが最も知られていない部分です。厚生労働省の指針(各論編)は、緩下薬について次のように書いています。

指針の原文(緩下薬)

「入院安静に伴い便秘となり、緩下薬を長期使用する場合が多く、マグネシウム製剤では高マグネシウム血症、刺激性下剤では耐性による難治性便秘に留意する。マグネシウム製剤や刺激性下剤以外の緩下薬の使用を含めて、適宜再検討を行う」

2つの注意点が書かれています。

薬の種類注意すること
マグネシウム製剤(酸化マグネシウムなど)高マグネシウム血症。腎機能が低下していると起こりやすくなります。吐き気、だるさ、血圧低下、意識がぼんやりするなどの症状に注意
刺激性下剤(センナ、大黄、ピコスルファートなど)耐性。使い続けると効きにくくなり、量が増え、やめられなくなります

「下剤を飲んでいるのに出ない」状態は、下剤が足りないのではなく、下剤が効かなくなっている可能性があります。量を増やす前に相談してください。

指針は、便秘で下剤を服用している場合を「モニタリングが必要と考えられる状況」の1つに挙げています。漫然と続ける薬ではない、という位置づけです。

もう1つ。指針の表では、食欲低下の原因となる薬に「緩下剤」が挙げられています。便秘を治そうとして食欲が落ちれば、食事量が減ってさらに便が出にくくなります。悪循環になりえます。

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市販の下剤で様子を見るのはだめなの?

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短期間ならともかく、続けるなら相談してください。市販薬の多くは刺激性下剤です。処方薬と重なっていることにも気づきにくいので、お薬手帳に市販薬も書いておくと安全です。

何日出なければ便秘なのか

「3日出なければ便秘」と言われることがありますが、回数だけでは決まりません。毎日出ていても、強くいきまないと出ない、出たあとも残った感じがする、硬くて苦しい、という状態は便秘として扱われます。

見るところ便秘を疑うサイン
回数本人のいつものペースより明らかに減った
硬さコロコロした硬い便、出すときに痛む
いきみ強くいきまないと出ない、時間がかかる
残便感出たあともすっきりしない
様子食欲が落ちる、機嫌が悪い、落ち着かない

最後の行が、介護している家庭では重要です。言葉で訴えられない方は、便秘を「落ち着かない」「食べない」という形で表すことがあります。認知症のある方で、急にそわそわし出したときに排便がないか確認すると、原因がそこだったという場面は珍しくありません。

いきむ力が落ちている方では、便が出口まで来ているのに出せないこともあります。この場合は薬を増やすより、姿勢の工夫や座る時間の確保が効きます。

受診したほうがよい場合

便秘は年のせいにされやすい症状ですが、次の場合は早めに受診してください。

  • 最近になって急に便秘が始まった
  • 血便が出た、便に血が混じる
  • 体重が減ってきている
  • 便が細くなった
  • 強い腹痛や嘔吐がある
  • 何日も出ないのに、水様便だけが漏れる
  • 発熱や、お腹が張って苦しい

最後から2つめは、便が詰まったまわりを液状の便が流れている状態のことがあります。下痢だと思って下痢止めを使うと悪化します。判断に迷ったら受診してください。

体重減少をともなう場合は、別の原因が隠れていることがあります。高齢者の体重減少|危険な目安と原因・対策もあわせてご覧ください。

生活でできる対策

薬の前に試せることがあります。厚労省の指針も、薬物療法に先んじて生活習慣の改善や環境調整を行うことが推奨されるとしています。

対策具体的にすること
水分1日の目安を決めて、時間で飲む。起床時のコップ1杯は腸への刺激になります
食事食物繊維と、発酵食品。ただし食事量が少ない人は繊維を増やす前に総量を増やす
活動座りっぱなしを減らす。立ち上がり、歩行、家事など日常の動きで十分
時間朝食後にトイレに座る習慣をつくる。出なくても座るだけでよい
姿勢足台を置き、前傾になって膝を股関節より高くする

姿勢は効果のわりに知られていません。洋式便器に浅く腰かけて背すじを伸ばした姿勢は、出にくい姿勢です。足台(20cm前後)を置くだけで変わる方がいます。

食事については注意が必要です。食べる量そのものが減っている人に食物繊維だけ増やすと、かえって便が硬くなったり、お腹が張ったりします。まず全体量です。

介護する側が整えること

排便は環境の影響を強く受けます。家族や介護する側ができるのは次のことです。

  • トイレまでの動線を短く、明るくする(夜間の足元灯)
  • 便座の高さを合わせ、手すりをつける
  • 間に合わないならポータブルトイレを検討する
  • 排便の記録をつける(日付だけでよい)
  • 「出た・出ない」を責めない

記録は地味ですが、受診時にいちばん役立ちます。何日出ていないかが分かるだけで、医師の判断材料になります。カレンダーに印をつけるだけで構いません。

トイレ動作が大変になっている場合は、福祉用具や住宅改修で解決できることがあります。福祉用具レンタル13品目一覧と自己負担額を解説をご覧ください。

よくある質問

高齢者の便秘はどのくらい多いですか?

2022年の国民生活基礎調査では、便秘の有訴者率は65歳以上で人口千対71.2です。全年齢の35.9と比べて約2倍になります。

便秘は女性に多いのではないですか?

全年齢では女性が多い傾向ですが、65歳以上では男68.1、女73.8とほぼ差がありません。高齢の男性でも珍しくない症状です。

薬が便秘の原因になりますか?

なります。厚労省の指針は、睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬、過活動膀胱治療薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬などを便秘の原因薬剤として挙げています。

便秘の薬は飲み続けても大丈夫ですか?

漫然と続けるものではありません。指針は、マグネシウム製剤では高マグネシウム血症、刺激性下剤では耐性による難治性便秘に留意し、適宜再検討を行うとしています。

下剤が効かなくなってきました。増やしていいですか?

自己判断で増やさないでください。刺激性下剤は使い続けると効きにくくなることが指摘されています。種類の見直しが必要な場合があります。

市販の下剤を使ってもいいですか?

短期間であれば選択肢ですが、続けるなら相談してください。市販薬の多くは刺激性下剤で、処方薬と重複することもあります。お薬手帳に記録しておいてください。

水分はどのくらいとればいいですか?

一律の基準はありません。心臓や腎臓の病気で制限がある方もいます。主治医に目安を確認し、時間を決めて飲む形にしてください。

食物繊維を増やせば改善しますか?

食事量が足りている場合は有効ですが、食べる量自体が減っている人が繊維だけ増やすと、かえってお腹が張ることがあります。まず全体量を確保してください。

すぐに受診すべき症状はありますか?

血便、体重減少、便が細くなった、急に始まった便秘、強い腹痛や嘔吐がある場合は早めに受診してください。何日も出ないのに水様便が漏れる場合も受診が必要です。

家族は何を記録すればいいですか?

排便のあった日をカレンダーに印をつけるだけで十分です。何日出ていないかが分かると、受診時の判断材料になります。

まとめ

  • 便秘の有訴者率は65歳以上で人口千対71.2(全年齢35.9)
  • 65歳以上では男68.1・女73.8で男女差がほぼない
  • 加齢による腸の動きの低下、筋力低下、食事量・水分・活動量の減少が重なる
  • トイレ環境が原因で便意を我慢しているケースがある
  • 睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬、過活動膀胱治療薬などが便秘の原因薬剤
  • 便秘が始まった時期と、薬が変わった時期を照合する
  • 自己判断で薬をやめない
  • マグネシウム製剤は高マグネシウム血症に注意
  • 刺激性下剤は耐性により効きにくくなる
  • 下剤が効かないときは、増やす前に相談する
  • 緩下剤は食欲低下の原因薬剤にも挙げられている
  • 血便・体重減少・便が細い・急な発症は受診
  • 水分・食事量・活動・排便の時間を整える
  • 足台を使って前傾姿勢をとると出やすくなる
  • 回数だけでなく、硬さ・いきみ・残便感でも判断する
  • 言葉で訴えない方は「落ち着かない」「食べない」で表れることがある
  • 排便の記録は受診時の判断材料になる

参考にした情報

※有訴者率は厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」の数値(人口千対)です。有訴者には入院者は含まれません。薬剤に関する記述は「高齢者の医薬品適正使用の指針」にもとづく整理であり、記載された薬剤を服用しているすべての方に便秘が生じるわけではありません。本記事は特定の薬剤の中止・減量を勧めるものではなく、薬の変更・中止の判断は必ず医師が行います。水分量や食事内容は、心臓・腎臓の病気などにより制限がある場合があります。症状が続く場合や上記の受診の目安に当てはまる場合は、主治医にご相談ください。制度・統計に関する記述は2026年9月時点の内容として整理しています。

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リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味