高齢者の服薬管理|飲み忘れの原因別の対策

高齢者の服薬管理で、まず勧められるのが「一包化」です。ところが厚生労働省の指針は、「一包化を行うことが必ずしも服薬アドヒアランスを向上させる方法ではないことに注意する」と明記しています。
飲み忘れの原因は人によって違い、原因に合っていない対策は効きません。認知機能なのか、手指の機能なのか、視力なのか、意欲なのか。この記事では、厚労省の指針が挙げる飲めなくなる14の要因と、原因別の対策を整理しました。
この記事でわかること
- 飲み忘れが起こる14の要因(厚労省の指針)
- 一包化が万能ではない理由
- 原因別の対策の選び方
- 処方そのものを工夫する方法
- 認知機能が低下している場合の対応
- 家族が確認すべきこと
- 残薬をどうするか
- 訪問薬剤管理指導という選択肢
高齢者の服薬管理が難しくなる14の要因
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)は、「表2 服薬アドヒアランス低下の要因」として次を挙げています。原文のまま引用します。
指針の表2(原文より)
服用管理能力低下
- 1.認知機能の低下
- 2.難聴
- 3.視力低下
- 4.手指の機能障害
- 5.日常生活動作(ADL)の低下
そのほかの要因
- 多剤服用
- 処方の複雑さ
- 嚥下機能障害
- うつ状態
- 主観的健康感が悪いこと(薬効を自覚できない等、患者自らが健康と感じない状況)
- 医療リテラシーが低いこと
- 自己判断による服薬の中止(服薬後の体調の変化、有害事象の発現等)
- 独居
- 生活環境の悪化
注目したいのは、「忘れる」以外の要因が大半を占めることです。
- 難聴・視力低下:説明が聞こえていない、文字が読めない
- 手指の機能障害:包装から出せない、小さな錠剤がつまめない
- 嚥下機能障害:飲み込めない、のどに残る
- 主観的健康感が悪い:効いている実感がないのでやめてしまう
- 自己判断による中止:飲んだら具合が悪くなったのでやめた
これらは「飲み忘れ」ではありません。原因が違えば、対策も変わります。
ちびウルフ母が薬を飲み忘れるので、一包化してもらおうと思っています。
リハウルフまず「なぜ飲めていないのか」を確かめてください。厚労省の指針も「一包化が必ずしもアドヒアランスを向上させる方法ではない」としています。袋が開けられない方には、一包化はむしろ逆効果になることがあります。
一包化が万能ではない理由
指針の原文
「患者によって飲みやすい剤形や使用しやすい剤形が異なるため、患者が正しく使用できる剤形かを確認する必要がある。一包化を行うことが必ずしも服薬アドヒアランスを向上させる方法ではないことに注意する」
一包化が効くのは、「数が多くて管理できない」「どれをいつ飲むか分からない」というタイプの困りごとです。逆に、次の場合は効果が薄いか、かえって困ることがあります。
| 状況 | 一包化の効果 | より適した対策 |
|---|---|---|
| 数が多く管理できない | ◎ 有効 | 一包化+服薬カレンダー |
| 飲む時間がばらばらで複雑 | ◎ 有効 | 一包化+用法の単純化 |
| 袋が開けられない(手指の機能) | △ かえって困る | 開封しやすい工夫、家族が開けて渡す |
| そもそも飲む時間を認識できない | × 効果薄 | 1回分ずつ手渡しする介助 |
| 効果を実感できずやめてしまう | × 効果なし | 医師・薬剤師からの説明 |
| 飲み込めない | × 効果なし | 剤形変更、服薬ゼリー、簡易懸濁法 |
※一包化には条件があり、薬の性質によってはできない場合があります(湿気に弱い、光で分解する、途中で用量調整が必要など)。可否は薬剤師にご確認ください。
厚労省が挙げる処方の工夫と服薬支援
指針の「表3 処方の工夫と服薬支援の主な例」には、6つの方向が示されています。原文から整理します。
| 方向 | 具体例(原文より) |
|---|---|
| 服用薬剤数を減らす | 力価の弱い薬剤を複数使用している場合は力価の強い薬剤にまとめる/配合剤の使用/対症療法的に使用する薬剤は極力頓用で使用する/特に慎重な投与を要する薬物のリストの活用 |
| 剤形の選択 | 患者の日常生活動作(ADL)の低下に適した剤形を選択する |
| 用法の単純化 | 作用時間の短い薬剤よりも長時間作用型の薬剤で服用回数を減らす/不均等投与を極力避ける/食前・食後・食間などの服用方法をできるだけまとめる |
| 調剤の工夫 | 一包化/服薬セットケースや服薬カレンダーなどの使用/剤形選択の活用(貼付剤など)/分包紙にマークをつける、日付をつける/嚥下障害患者に対する剤形変更や服用方法(簡易懸濁法、服薬補助ゼリー等)の提案 |
| 管理方法の工夫 | 本人管理が難しい場合は家族などの管理しやすい時間に服薬をあわせる |
| 処方・調剤の一元管理 | 処方・調剤の一元管理を目指す(お薬手帳等の活用を含む) |
見落とされがちな2つの工夫
① 服用のタイミングをまとめる
「食前・食後・食間などの服用方法をできるだけまとめる」と明記されています。朝食後・昼食後・夕食後・就寝前と4回に分かれているものが、朝晩2回にまとまるだけで管理は大幅に楽になります。
② 家族の都合に服薬時間を合わせる
「本人管理が難しい場合は家族などの管理しやすい時間に服薬をあわせる」とあります。家族が立ち会える時間に合わせて処方を調整できる場合があるということです。日中独居で昼の薬が飲めないなら、その相談ができます。
いずれも医師・薬剤師に相談すれば検討してもらえる内容です。「決まっているもの」と思わずに伝えてみてください。
認知機能が低下している場合
指針の原文
「認知機能の低下による飲み忘れの場合、家族や看護師、介護職員などが1日分ずつ渡すなどの介助が必要である。やむを得ず自己管理を行う場合は、支持的態度で接し、残存能力に適した方法を工夫することも必要である」
ここでの要点は2つです。
- 1日分ずつ渡す:1週間分を渡すと、まとめて飲む・飲まないが起こります
- 支持的態度で接する:「また飲んでない」と責めると、隠すようになります
飲み忘れを責められた方が、飲んだふりをする・薬を捨てるという事態は現場で実際に起きます。そうなると、飲めていない前提を医師が把握できなくなり、より危険です。
本人が気づかないことを前提にする
指針は「認知機能の低下は患者本人との会話から気づくのは難しいため、家族や薬剤師、看護師、介護職員などから生活状況や残薬、服薬状況を確認することが望ましい」としています。
診察室で「きちんと飲めています」と答えていても、実際は違うことがあります。周囲が見た事実を伝えることが、正確な処方につながります。
家族が確認すべきこと
- 残薬の量:袋や箱に残っていないか。日付と数が合うか
- 飲めない理由:忘れる/開けられない/飲み込めない/やめている
- いつの分が残っているか:昼だけ残る、といった偏りはないか
- 市販薬・サプリメント:併用していないか
- 複数の医療機関の薬:重複していないか
- 体調の変化:薬を飲んだ後に具合が悪くなっていないか
特に「昼の分だけ残る」といった偏りは、重要な手がかりです。日中独居で声をかける人がいない、昼食を食べないことがある、といった生活の事情が背景にあります。薬の問題ではなく、生活の問題として解決できることがあります。
残薬はどうするか
- 自己判断で捨てない:調整に使える場合があります
- 薬局に持参する:多くの薬局で残薬の確認・整理に対応しています
- 受診時に持っていく:実際の服薬状況が医師に伝わります
- 次回の処方を調整してもらう:残薬分を差し引いた日数で処方されることがあります
残薬を隠すと、飲めている前提で処方が続きます。正直に見せることが、結果として本人を守ります。
服薬支援に使える道具
厚労省の指針が挙げる「調剤の工夫」には、具体的な道具も含まれています。原文では「服薬セットケースや服薬カレンダーなどの使用」「分包紙にマークをつける、日付をつけるなど」が挙げられています。
| 道具 | 向いている状況 | 注意点 |
|---|---|---|
| 服薬カレンダー(壁掛け) | 飲んだかどうかが視覚で分かる。家族も確認できる | 目につく場所に掛けないと意味がない |
| 服薬セットケース(引き出し型) | 曜日・時間帯ごとに仕分けできる | セットする人が必要 |
| 分包紙への記入 | 日付や「朝」「夕」を大きく書く | 薬局に依頼できる場合がある |
| 貼付剤(貼り薬)への変更 | 飲み込みが難しい場合。貼ったか目で確認できる | すべての薬にあるわけではない |
| 服薬補助ゼリー | 飲み込みにくい場合 | 薬によっては相性がある。薬剤師に確認を |
| アラーム・タイマー | 時間を忘れる場合 | 音が聞こえない(難聴)と機能しない |
服薬カレンダーは「置き場所」で決まる
買っても使われないケースの多くは、置き場所が生活動線から外れていることが原因です。
食卓の横、テレビの脇、よく座る椅子から見える位置。「薬を飲む場面」で目に入る場所に置いてください。寝室のタンスの上では機能しません。
道具だけでは解決しないこともある
服薬カレンダーにセットしても、そもそもカレンダーの存在を認識できない段階では効果がありません。指針も、認知機能の低下による飲み忘れには「1日分ずつ渡すなどの介助が必要」としています。
道具で補える段階と、人の介助が必要な段階があります。道具を試して効果がなければ、次の段階として訪問介護や訪問看護による声かけ・確認を検討してください。
入院・退院のときが見直しの機会
指針は、療養環境が変わるタイミングでの連携について具体的に記載しています。
指針の原文
「入院中は、専門性の異なる医師・歯科医師、薬剤師を中心として、看護師、管理栄養士など様々な職種による処方見直しチームを組織し、カンファランスなどを通じて情報の一元化と処方の適正化を計画的に実施し、かかりつけ医と連携することが可能である」
「短期の入院の場合は特に、退院後の継続的な見直しと経過観察につながるよう退院後のかかりつけ医に適切な情報提供を行う」
つまり、入院は処方全体を見直す数少ない機会だということです。複数の医療機関にかかっていて誰も全体を把握していない、という状態は、入院中に解消できる可能性があります。
入院することになったら、お薬手帳と、他院で出ている薬・市販薬・サプリメントの情報をすべて持参してください。「別の病院の薬だから関係ない」ということはありません。
在宅で使える支援
| 支援 | 内容 |
|---|---|
| 訪問薬剤管理指導/居宅療養管理指導 | 薬剤師が自宅を訪問し、服薬状況・残薬を確認して調整。医師へ報告する |
| 訪問看護 | 服薬状況の確認、服薬カレンダーへのセット、体調変化の観察 |
| 訪問介護 | 服薬の声かけ、見守り(一定の条件のもとで服薬の介助も) |
| かかりつけ薬剤師 | 複数医療機関の薬を一元的に把握。重複や相互作用の確認 |
指針も「訪問看護師と在宅訪問に対応する薬剤師の連携により、服薬状況、残薬の確認や整理、服薬支援を行うことなども、期待されている」としています。
また、看護師の役割について「服薬支援の中で、服用状況や服用管理能力、さらに薬物有害事象が疑われるような症状、患者・家族の思いといった情報を収集し、多職種で共有することが期待される」と明記されています。
薬剤師が家に来るという選択肢
「薬局に行くのが大変」「本当に飲めているか分からない」という場合、薬剤師の訪問が利用できることがあります。医師の指示が必要で、医療保険または介護保険で提供されます。
実際に自宅を見れば、どこに薬を置いているか、なぜ飲めていないかが分かります。残薬が大量に出てきて処方が見直された、というケースは珍しくありません。主治医・薬剤師・ケアマネジャーにご相談ください。
よくある質問
一包化すれば飲み忘れは減りますか?
原因によります。厚労省の指針は「一包化を行うことが必ずしも服薬アドヒアランスを向上させる方法ではないことに注意する」としています。袋が開けられない、飲む時間を認識できないといった場合は効果が薄く、別の対策が必要です。
飲み忘れ以外にどんな原因がありますか?
厚労省の指針は、認知機能の低下・難聴・視力低下・手指の機能障害・ADL低下・多剤服用・処方の複雑さ・嚥下機能障害・うつ状態・効果を実感できないこと・自己判断による中止・独居などを挙げています。
薬を飲む回数を減らせますか?
相談する価値があります。指針は「作用時間の短い薬剤よりも長時間作用型の薬剤で服用回数を減らす」「食前・食後・食間などの服用方法をできるだけまとめる」を工夫の例として挙げています。医師・薬剤師にご相談ください。
日中ひとりで昼の薬が飲めません。
指針は「本人管理が難しい場合は家族などの管理しやすい時間に服薬をあわせる」としています。家族が立ち会える時間に合わせて処方を調整できる場合があります。訪問介護による声かけという方法もあります。
飲み忘れを叱ってもいいですか?
避けてください。責められると、飲んだふりをする・薬を捨てるという事態が起こります。指針も「支持的態度で接し、残存能力に適した方法を工夫する」としています。
本人は「飲んでいる」と言うのですが。
指針は「認知機能の低下は患者本人との会話から気づくのは難しい」としています。残薬の量を確認し、周囲が見た事実を医師に伝えてください。それが正確な処方につながります。
残った薬はどうすればいいですか?
自己判断で捨てず、薬局や受診時に持参してください。残薬分を差し引いた日数で処方が調整されることがあります。隠すと、飲めている前提で処方が続いてしまいます。
錠剤が飲み込めません。
剤形の変更(粉、液体、貼り薬など)や、服薬補助ゼリー、簡易懸濁法といった方法があります。ただし粉砕や脱カプセルは薬の効果が変わることがあるため、必ず薬剤師に相談してください。
薬剤師に自宅へ来てもらえますか?
訪問薬剤管理指導(居宅療養管理指導)という仕組みがあります。医師の指示が必要で、医療保険または介護保険で提供されます。主治医・薬剤師・ケアマネジャーにご相談ください。
薬局はまとめたほうがいいですか?
おすすめします。指針も処方・調剤の一元管理を挙げています。複数の医療機関にかかっている場合、薬局を1か所にまとめることで重複や相互作用が確認できます。お薬手帳も1冊にまとめてください。
まとめ
- 厚労省の指針は一包化を「必ずしもアドヒアランスを向上させる方法ではない」としている
- 飲めない原因は14要因あり、「忘れる」以外が大半を占める
- 難聴・視力低下・手指の機能障害・嚥下障害も原因になる
- 効果を実感できずにやめてしまうことも要因の一つ
- 原因に合っていない対策は効かない
- 袋が開けられない人には、一包化はかえって困ることがある
- 服用のタイミングをまとめる工夫が指針に明記されている
- 家族が管理しやすい時間に服薬を合わせることも選択肢
- 認知機能が低下している場合は1日分ずつ渡す
- 飲み忘れを責めると、隠す・捨てるという事態を招く
- 本人との会話だけでは認知機能の低下に気づきにくい
- 「昼だけ残る」といった偏りは生活の事情を示す手がかり
- 残薬は捨てず、薬局や受診時に持参する
- 訪問薬剤管理指導で、薬剤師が自宅を訪問できる
- 服薬カレンダーは生活動線上に置かないと機能しない
- 道具で補える段階と、人の介助が必要な段階がある
- 入院は処方全体を見直す数少ない機会。すべての薬の情報を持参する
- 薬局とお薬手帳は1か所・1冊にまとめる
参考にした情報
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編・療養環境別)」(2019年6月)
- 厚生労働省「病院・地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」
- 厚生労働省「高齢者医薬品適正使用検討会」
※本記事の要因の一覧・服薬支援の方法は、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)の表2・表3にもとづいて整理したものです。本記事は特定の薬剤の中止・減量・剤形変更を勧めるものではありません。一包化の可否、剤形の変更、粉砕や脱カプセルの可否は薬剤の性質によって異なり、自己判断で行うと効果が変わったり危険な場合があります。必ず医師・薬剤師にご確認ください。飲み忘れや残薬がある場合も、自己判断で調整せず、正確な状況を医療者に伝えてください。訪問薬剤管理指導・居宅療養管理指導の利用要件や費用は、医療保険・介護保険の別や市町村によって取扱いが異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。





