認知症の人が怒るのはなぜ?原因3つと対応のコツ

認知症の方が怒るとき、多くの場合本人の中には理由があります。理由がないように見えるのは、その理由が本人にしか見えていないからです。そして怒りの引き金は、性格ではなく、記憶の障害・体の不調・周囲の対応の3つに集約されることがほとんどです。
この記事では、認知症の方がなぜ怒るのかを原因別に整理し、それぞれへの関わり方をまとめました。理学療法士・介護支援専門員として在宅で関わってきた立場から、家族が実際にできることを書いています。
- 認知症の方が怒る理由が3つに整理できること
- 「忘れたこと」ではなく「指摘されたこと」に怒っている場合が多いこと
- 急に怒りっぽくなったときにまず疑うこと
- 夕方に不安定になりやすい理由
- 怒らせてしまいやすい声かけと、その言い換え
- 怒り出したときにその場でできること
- 家族が自分を守るために必要な考え方
- 受診・相談を検討する目安
認知症の方が怒るのはなぜか
認知症は、介護保険法施行令第1条の2で「アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患その他の疾患により日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態」と定められています。怒りやすさは性格の変化ではなく、この状態から生じていると考えるのが出発点です。
原因は大きく3つに分けられます。
| 原因 | 起きていること | 対応の方向 |
|---|---|---|
| 記憶の障害と自尊心 | 忘れた自覚がないまま、間違いを指摘される | 訂正しない。話題を変える |
| 体の不調 | 痛み、便秘、脱水、感染、薬の影響を言葉で伝えられない | 受診して原因を確かめる |
| 環境と対応 | 説明のない介助、急な接近、大きな音、慣れない場所 | 近づき方と手順を変える |
1. 忘れたことではなく「指摘されたこと」に怒っている
最も多いのがこれです。認知症では、忘れたという自覚そのものが失われます。本人にとっては「言われていない」「やっていない」が事実です。そこに「さっき言ったでしょう」と返されると、身に覚えのないことで責められた状態になります。
怒っているのは、忘れたことではありません。間違っていると決めつけられ、否定されたことに対してです。ここを取り違えると、説明を重ねるほど関係が悪くなります。
否定も肯定もせず、「一緒に探しましょう」と行動に移すのが実務的です。見つけたときは本人が見つけた形にすると、収まりやすくなります。
2. 体の不調が怒りとして出ている
言葉で伝えられない不快感は、行動として現れます。「急に怒りっぽくなった」場合は、性格の変化ではなく体調の変化を先に疑ってください。
- 便秘(数日出ていないだけで、強い不快感になります)
- 脱水(とくに夏場。ぼんやりする、いつもと違う言動が出ます)
- 尿路感染症・肺炎(高齢者は熱が出ないことがあります)
- 痛み(腰、膝、歯、皮膚、褥瘡)
- 薬の変更・追加(開始時期と一致していないか確認します)
- 眠れていない、日中に寝すぎている
訪問の現場でも、「暴言がひどくなった」と相談を受けて確認したところ、便秘と尿路感染が背景にあったというケースは珍しくありません。まず身体を確かめる、が原則です。
3. こちらの近づき方が引き金になっている
認知症では、周囲の状況を把握する力が落ちています。そのため、説明なく体に触れられることは、突然襲われたのと同じ体験になります。
- 後ろから声をかける、いきなり触れる
- 複数人が同時に話しかける
- テレビがついたまま、大きな音の中で話す
- 本人の視界の外から手を出す
- 急がせる、せかす
- 子どもに話すような言い方をする
とくに最後の項目は見落とされがちです。認知機能が低下しても、見下されたという感覚は残ります。丁寧に話しかけているつもりでも、口調で伝わってしまいます。
夕方に不安定になりやすい理由
夕方から夜にかけて落ち着かなくなる方がいます。原因は一つではありませんが、次の要素が重なると起きやすくなります。
- 日が落ちて視覚的な情報が減り、状況が分かりにくくなる
- 1日の疲れがたまり、判断する力が落ちている
- 周囲が夕食の準備などで慌ただしくなる
- 「家に帰らないと」という、過去の生活習慣に沿った行動が出る
対策としては、夕方の予定を詰めない、早めに照明をつける、この時間帯に難しい相談ごとを持ち込まないことが有効です。日中に体を動かして生活リズムを整えることも、結果的に効きます。
怒らせやすい声かけと言い換え
| 避けたい言い方 | 言い換え |
|---|---|
| さっきも言ったでしょう | そうでしたね(そのうえで、もう一度伝える) |
| 違います、そうじゃない | そう思われたんですね |
| もう食べましたよ | すぐ用意しますね(少量を出す、お茶を出す) |
| 危ないから座っていて | お茶を入れたので、一緒に座りませんか |
| お風呂の時間です | 足だけ温めませんか(段階を分ける) |
| なんでできないの | ここまでできましたね(できた部分を言う) |
共通しているのは、否定しない、命令しない、選ばせるの3点です。「〜してください」ではなく「〜しませんか」に変えるだけでも、反応が変わります。
ちびウルフ頭では分かってるんだけど、毎日だとつい言い返しちゃうんだよね。
リハウルフそれが普通です。専門職は数時間で交代しますが、家族は24時間ですから、同じ対応を求めるほうが無理があります。だから技術より先に、離れられる時間を作ることのほうが大事です。デイサービスやショートステイは、本人のためだけでなく、家族が言い返さずにいられる状態を保つためのものでもあります。
怒り出したときにその場でできること
- 言い返さない。説得しない(この場面で理解を求めても届きません)
- 正面ではなく、斜めの位置に立つ(正面は対立の姿勢になります)
- いったん離れる。可能なら別の人が入る
- 時間をおいてから、何もなかったように接する(本人は覚えていないことが多い)
- 落ち着いた後に、直前に何があったかを書き留める
最後の記録が、次の予防につながります。「入浴の声かけの直後」「テレビの音が大きいとき」など、きっかけが見えてくることがあります。ケアマネジャーや医師に相談するときの材料にもなります。
・眠れない、食事が喉を通らない
・本人の顔を見ると動悸がする
・つい手が出そうになった、強い口調になった
・誰にも話せていない
相談先は、担当のケアマネジャー、地域包括支援センター、かかりつけ医です。手が出そうになったと感じた時点で、それは相談する理由として十分です。
受診・相談を検討する目安
- 数日から数週間で、急に怒りっぽくなった
- 発熱、便秘、食欲低下、尿の変化を伴う
- 最近、薬が増えた・変わった
- 幻覚や妄想が強くなった
- 暴力があり、本人または家族にけがの危険がある
- 介護している人が体調を崩している
認知症の行動・心理症状(BPSD)全般については認知症のBPSD周辺症状とは?種類と対応方法解説にまとめています。入浴や食事の拒否など、場面ごとの対応も個別に整理しています。
よくある質問
認知症になると性格が変わるのですか?
性格そのものが変わったというより、認知機能の低下により状況を把握しにくくなり、不安や混乱が怒りとして現れることが多くなります。体調不良が背景にあることもあります。
急に怒りっぽくなりました。何を疑いますか?
まず体調を疑ってください。便秘、脱水、尿路感染、痛み、薬の変更などが行動として現れます。数日から数週間の変化であれば受診してください。
「さっき言ったでしょう」はなぜだめなのですか?
忘れた自覚がないため、本人にとっては身に覚えのないことで責められた状態になります。怒っているのは忘れたことではなく、否定されたことに対してです。
物を盗られたと言われます。どう答えればよいですか?
否定も肯定もせず、「一緒に探しましょう」と行動に移してください。見つけたときは本人が見つけた形にすると収まりやすくなります。
夕方に落ち着かなくなります。
視覚的な情報が減ること、1日の疲れ、周囲の慌ただしさなどが重なります。夕方の予定を詰めない、早めに照明をつける、難しい相談を持ち込まないことが有効です。
怒り出したらどうすればよいですか?
言い返さず、正面を避けて斜めに立ち、いったん離れてください。時間をおいてから、何もなかったように接します。落ち着いた後で直前の状況を書き留めてください。
つい言い返してしまいます。
家族は24時間関わるため、専門職と同じ対応を続けるのは無理があります。技術より先に、離れられる時間を確保してください。
手が出そうになったことがあります。
その時点で相談する理由として十分です。担当のケアマネジャー、地域包括支援センター、かかりつけ医に相談してください。誰にも話せていない状態がいちばん危険です。
薬で落ち着かせることはできますか?
状況によっては薬が検討されることがありますが、まず身体的な原因と環境の見直しが優先されます。判断は医師が行います。自己判断で市販薬を使わないでください。
- 認知症の方が怒るときは、本人の中に理由がある
- 原因は「記憶の障害と自尊心」「体の不調」「環境と対応」の3つに整理できる
- 忘れたことではなく、指摘され否定されたことに怒っている場合が多い
- 忘れた自覚が失われているため、本人には身に覚えがない
- 物盗られ妄想で近い人が疑われるのは、いちばん近くにいるから
- 否定も肯定もせず「一緒に探しましょう」と行動に移す
- 急に怒りっぽくなったときは、性格ではなく体調の変化を疑う
- 便秘、脱水、感染、痛み、薬の変更が行動として現れる
- 説明なく触れることは、本人にとって突然の出来事になる
- 子ども扱いの口調は、見下された感覚として残る
- 夕方は情報が減り疲れもたまるため、予定を詰めない
- 「〜してください」を「〜しませんか」に変えるだけでも反応が変わる
- 怒り出したら言い返さず、斜めに立ち、いったん離れる
- 落ち着いた後に直前の状況を書き留めると、きっかけが見えてくる
- 手が出そうになったと感じた時点で、相談する理由として十分
- 介護保険法施行令(平成10年政令第412号)e-Gov法令検索(第1条の2)
- 介護保険法(平成9年法律第123号)e-Gov法令検索
- 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)e-Gov法令検索
※本記事の認知症の定義に関する記述は、介護保険法施行令第1条の2にもとづいて整理したものです。原因と対応の対応関係は代表的な例にすぎず、医学的な診断を目的としたものではありません。実際の原因は診察と検査によってのみ判断できます。行動の変化が急に生じた場合や、暴力によりけがの危険がある場合は、自己判断せず医療機関または地域包括支援センターにご相談ください。服薬に関する判断は必ず主治医が行います。関わり方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理です。2026年9月時点の情報として整理しています。





