介護離職を防ぐには?仕事と介護を両立するために知っておきたい制度・支援策

結論から書きます。介護離職は「介護がつらいから」ではなく、「使える制度を知らないまま辞めてしまう」ことで起きているケースが多いのが実情です。総務省の令和4年就業構造基本調査では、介護・看護を理由に直近1年間で前職を離職した人は10.6万人。そのうち8.3万人は離職後に働いていません。一方で、介護をしながら働いている人は365万人います。両者を分けているのは、介護の重さそのものよりも、休業・休暇・勤務時間の制度と介護保険サービスを、辞める前に組み合わせられたかどうかです。
この記事では、育児・介護休業法の条文、雇用保険法の介護休業給付金の規定、厚生労働省の令和6年改正解説資料の原文を確認して整理しました。令和7年4月1日からは、会社側に「介護に直面した従業員への個別周知・意向確認」と「40歳等での事前の情報提供」が義務づけられています。制度は使う側が知らないと動きません。何が使えるのか、どの順番で手を打つのかを、在宅の現場から見た実務も交えて整理します。
この記事でわかること
- 介護離職している人の実数と、辞めた後にどうなっているか
- 介護休業は「介護をするための休み」ではなく「体制をつくるための休み」である理由
- 介護休業・介護休暇・所定外労働の制限など6つの制度の違いと使い分け
- 介護休業給付金がいくら出るか(賃金の67%)と、その根拠条文
- 令和7年4月に会社に義務づけられた「個別周知・意向確認」「40歳等での情報提供」
- 介護休暇の要件緩和で、入社間もない人も取れるようになったこと
- 会社に伝えるときの進め方と、ケアマネジャーへの相談のタイミング
- 辞める判断をする前に必ず確認しておきたいこと
ちびウルフ親が倒れたら、まず仕事を辞めて介護に専念するしかないんじゃないの?
リハウルフ逆です。辞めるのがいちばん危ない選択になりやすい。訪問リハで担当したご家族でも、辞めてから「収入が消えて介護保険の自己負担がきつい」と行き詰まるパターンを何度も見てきました。まず制度で時間をつくって、体制を組んでから判断する順番です。
介護離職とは?
介護離職とは、家族の介護や看護を理由に仕事を辞めることをいいます。法令上の定義がある用語ではなく、統計や政策上の言い方です。
総務省の令和4年就業構造基本調査によると、「介護・看護のため」に過去1年間に前職を離職した人は10.6万人。男性2.6万人、女性8.0万人で、女性が約4分の3を占めます。注目すべきは離職後の状態で、10.6万人のうち8.3万人(約78%)は離職後に働いていません。離職して別の仕事に就いた人は2.3万人にとどまります。
過去5年間で見ると「介護・看護のため」の離職者は47.4万人。前回の平成29年調査(49.8万人)より減ってはいるものの、直近1年間で見た数字は9.9万人から10.6万人へ増加に転じています。
介護をしながら働いている人のほうが圧倒的に多い
同じ調査で、介護をしている人は629万人、そのうち有業者は365万人(58.0%)です。年齢別に見ると50〜54歳の有業率が最も高く、男性88.5%・女性71.8%。つまり働き盛りの世代は、介護をしながら働き続けているのが多数派です。辞めるのが標準ではありません。
介護離職が起きてしまう3つの理由
1. 制度を知らないまま判断してしまう
厚生労働省は令和6年改正の解説資料のなかで、介護離職の要因について「社内で両立支援制度が整っているにもかかわらず、制度の内容や利用手続等を知らなかったために利用が進んでいないことも一因となっている可能性が考えられます」と明記しています。だからこそ令和7年4月から、会社に個別周知が義務づけられました。裏を返すと、これまでは制度があるのに誰も教えてくれない状態が普通だったということです。
2. 「介護休業=自分が介護する休み」だと誤解している
介護休業は通算93日、3回まで分割できます。この日数は、自分が介護をやり切るための期間としては明らかに足りません。制度の趣旨は「介護の体制を構築するため一定期間休業する場合に対応するもの」と厚生労働省の資料に書かれています。要介護認定の申請、ケアマネジャーとの契約、サービスの調整、住宅改修、施設見学。こうした段取りをつけるための93日です。ここを取り違えると「93日では足りないから辞めるしかない」という結論に飛んでしまいます。
3. 急に始まって、考える時間がない
現場で見ていて多いのが、脳卒中や大腿骨骨折で入院し、そのまま在宅復帰の話になって一気に決めさせられるケースです。退院前カンファレンスの席で「ご家族は仕事を続けられますか」と聞かれ、その場で「無理です」と答えてしまう。ここで一度持ち帰り、介護休業の申出をして時間を確保できるかどうかが、その後を大きく分けます。
介護離職を防ぐには?仕事と介護の両立を支える6つの制度
育児・介護休業法には、家族を介護する労働者が使える制度が6つあります。会社の就業規則に書かれていなくても、法律上の権利として請求できます。
| 制度 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 介護休業 | 対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して休業できる | 法第11条 |
| 介護休暇 | 年5日(対象家族2人以上なら年10日)まで。1日単位・時間単位で取得可 | 法第16条の5 |
| 所定外労働の制限 | 残業を免除。1か月以上1年以内の期間を指定して請求 | 法第16条の9 |
| 時間外労働の制限 | 1か月24時間・1年150時間を超える時間外労働をさせられない | 法第18条 |
| 深夜業の制限 | 午後10時〜午前5時の労働を免除。1か月以上6か月以内で請求 | 法第20条 |
| 所定労働時間の短縮等の措置 | 短時間勤務・フレックス・時差出勤・介護サービス費用の助成のいずれか。連続する3年以上の期間で2回以上利用できる | 法第23条3項 |
介護休業について、法第12条1項は「事業主は、労働者からの介護休業申出があったときは、当該介護休業申出を拒むことができない」と定めています。会社は断れません。申出は開始予定日の2週間前までに行います。
また「要介護状態」の判断基準は令和7年4月に見直され、介護保険の要介護2以上に該当すれば、それだけで常時介護を必要とする状態と扱われます。要介護1以下でも、厚生労働省が示す12項目の判断表(座位保持・歩行・移乗・食事・排泄・意思の伝達など)で該当すれば対象です。介護保険の要介護認定がまだ出ていなくても使えます。
介護休暇は「入社直後」でも取れるようになった
令和7年3月31日までは、労使協定で「継続雇用期間6か月未満の労働者」を介護休暇の対象から除外できました。令和7年4月1日にこの除外規定は撤廃されています。除外できるのは「週の所定労働日数が2日以下の労働者」だけです。転職直後に親が倒れた、というケースでも介護休暇は請求できます。
介護休業給付金はいくらもらえる?
介護休業中に会社から給与が出ない場合、雇用保険から介護休業給付金が支給されます。雇用保険法第61条の4第4項は本則で「百分の四十」と定めていますが、同法附則第12条により当分の間、休業開始時賃金日額の67%に読み替えられています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支給額 | 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67% |
| 支給期間 | 介護休業を開始した日から3か月を経過する日までの支給単位期間 |
| 回数・日数の上限 | 同一の対象家族について4回目以降は不支給/通算93日に達した後は不支給 |
| 受給要件 | 介護休業開始日前2年間に、みなし被保険者期間が通算12か月以上 |
| 休業中に給与が出た場合 | 賃金+給付金が賃金日額×支給日数の80%以上になると調整。賃金だけで80%以上なら不支給 |
月収30万円の人なら、おおむね月20万円前後が目安になります(保険料や上限額があるため概算です)。さらに、介護休業期間中も雇用保険の被保険者であり続ける点は見落とされがちです。辞めてしまうと、この給付も、その後の傷病手当金や失業給付の基礎も失います。
ちびウルフ93日を一気に使わないともったいない気がする…
リハウルフ3回に分けられるので、分けたほうが実務的です。入院・退院の調整で1回、在宅の体制が崩れたときに1回、施設入所の手続きで1回。介護は山が何度も来ます。最初に使い切ると、いちばん必要な場面で手札がなくなります。
令和7年4月に会社の義務が変わった
令和6年改正の育児・介護休業法により、令和7年4月1日から事業主に次の義務が加わりました。いずれも介護離職防止が目的です。
介護に直面した従業員への個別周知・意向確認(法第21条4項)
従業員が「家族の介護が必要になった」と申し出たとき、会社は①制度の内容 ②申出先 ③介護休業給付に関することのすべてを個別に知らせ、利用の意向を確認しなければなりません。方法は面談(オンライン可)・書面交付のほか、本人が希望した場合はFAX・電子メール等でも可能です。
厚生労働省の指針では、この周知にあたって「取得を控えさせるようなこと」は禁じられています。資料には、申出をしないよう抑制する、不利益をほのめかす、前例がないことをことさらに強調するといった言動が例示されています。「うちで介護休業を取った人はいない」と言われたら、それは制度上アウトの対応です。
40歳等での早期の情報提供(法第21条5項)
介護に直面する前の段階で情報を届けるため、会社は①40歳に達する日の属する年度、または②40歳の誕生日から1年間のいずれかの期間に、介護休業と両立支援制度、申出先、介護休業給付について知らせなければなりません。あわせて介護保険制度についても知らせることが望ましいとされています。40歳は介護保険の第2号被保険者になる年齢でもあり、そこに合わせた設計です。
雇用環境整備の措置(法第22条4項)
研修の実施/相談体制の整備/自社の取得事例の収集・提供/取得促進の方針の周知、のいずれかが義務です。厚生労働省のQ&Aでは「介護に直面した社員がおらず、採用予定もない場合でも必要か」という問いに対し、対象家族には直系の祖父母や配偶者の父母も含まれるためすべての事業主に必要と回答しています。
テレワーク等の導入(努力義務・法第24条4項)
要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワーク等を選べるようにすることが、事業主の努力義務になりました。遠方の親元から仕事をする使い方も想定されています。義務ではなく努力義務なので、会社に制度がなければ交渉になります。
辞める前にやること|介護保険サービスで時間を買う
制度で時間を確保したら、次は介護保険サービスで手を離せる時間をつくります。順番はこうです。
- 市区町村の窓口か地域包括支援センターで要介護認定を申請する(入院中でも申請できる)
- 居宅介護支援事業所と契約し、ケアマネジャーを決める
- 自分の勤務時間・勤務日を先に伝え、そこを埋める形でケアプランを組んでもらう
- 通所介護・訪問介護・訪問看護・福祉用具で日中と朝夕をカバーする
- ショートステイを定期的に組み込み、出張や繁忙期に備える
- 介護休業の残り日数と、会社の制度の使いどころを確認しておく
現場でお伝えしているのは「ケアマネジャーに自分の仕事の都合を先に言う」ことです。多くの家族は「本人の希望」だけを伝えて、自分の勤務シフトを言いません。ケアマネジャーは言われないと組み込めません。「火曜と木曜は19時まで帰れない」と最初に伝えるだけで、プランの形は変わります。
要介護認定は申請日にさかのぼって効力が生じる
介護保険法第27条8項により、認定は申請のあった日にさかのぼって効力を生じます。結果が出るまで平均1か月前後かかりますが、その間も暫定ケアプランでサービスを使えます。「認定が出てから」と待つ必要はありません。迷った時点で申請するのが正解です。
会社への伝え方と、辞める判断の前に確認すること
会社に切り出すときは、次の3点を言葉にしてください。感情ではなく事実で話すほうが通ります。
- いつから、どれくらいの期間、どの制度を使いたいのか(例:来月1日から介護休業を30日)
- 復帰後にどう働きたいのか(例:残業免除を1年、その後は短時間勤務)
- 不在中の業務をどう引き継ぐか(自分から案を出すと話が早い)
そのうえで、辞める判断に傾いたときは以下を確認してください。辞めてから取り戻せないものが多いのが介護離職の怖さです。
- 介護休業給付金(賃金の67%)を使い切ったか
- 所定労働時間の短縮等の措置を会社に請求したか(3年以上の期間で2回以上使える)
- ケアマネジャーに「仕事を辞めずに済むプラン」を明示的に依頼したか
- ショートステイやショート利用の空き状況を複数事業所で確認したか
- 地域包括支援センターの家族介護者支援・介護者の会につながったか
- 自分が抜けた場合の世帯収入と、介護保険の自己負担割合の変化を試算したか
最後の項目は特に重要です。世帯の所得が下がると自己負担割合が下がることもありますが、同時に高額介護サービス費の区分や生活そのものが変わります。感覚ではなく数字で並べてから決めてください。
よくある質問
介護休業は会社に断られることがありますか?
できません。育児・介護休業法第12条1項が「事業主は、労働者からの介護休業申出があったときは、当該介護休業申出を拒むことができない」と定めています。ただし開始日の指定はでき、申出日の翌日から2週間より前の開始を希望した場合、会社は2週間経過日までの範囲で開始日を指定できます。
パートやアルバイトでも介護休業は取れますか?
取れます。有期雇用の場合は、介護休業開始予定日から93日を経過する日から6か月を経過する日までに労働契約が満了することが明らかでないこと、という要件があります(法第11条1項ただし書)。日々雇用される人は対象外です。
対象家族の範囲はどこまでですか?
配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母です(法第2条4号)。省令で祖父母・兄弟姉妹・孫も含まれます。同居・扶養の要件は平成29年に撤廃されており、離れて暮らす親も対象です。
介護休業を93日使い切った後は何も使えませんか?
介護休業以外の制度は残ります。介護休暇(年5日)、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮等の措置はいずれも介護休業とは別枠です。特に所定労働時間の短縮等の措置は、連続する3年以上の期間のなかで2回以上利用できます。
介護休暇は半日や時間単位で取れますか?
時間単位で取得できます(法第16条の5第2項)。労使協定により、業務の性質上時間単位の取得が困難と認められる業務に従事する人は時間単位の対象から除外できますが、1日単位の取得は拒めません。
要介護認定が出ていなくても介護休業は使えますか?
使えます。育児・介護休業法の「要介護状態」は介護保険の要介護認定と別の基準です。令和7年4月の見直しで要介護2以上なら該当と整理されましたが、それに満たなくても厚生労働省が示す12項目の判断基準で該当すれば対象になります。
介護休業を申し出たら不利益な扱いを受けませんか?
法第16条・第21条6項・第23条の2により、申出や制度利用を理由とする解雇その他不利益な取扱いは禁止されています。また法第25条で、制度利用に関する言動による就業環境の悪化(ケアハラスメント)を防ぐ体制整備が事業主に義務づけられています。
会社が制度を教えてくれないのですが違法ですか?
令和7年4月1日以降、介護に直面した旨を申し出た従業員への個別周知・意向確認は事業主の義務です(法第21条4項)。行われない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。
介護休業給付金はいつ申請しますか?
原則として介護休業終了後に、事業主を通じてハローワークへ支給申請します。休業開始時賃金日額を出すために、休業前の賃金台帳や出勤簿が必要です。会社の担当部署に早めに伝えておくと手続きが滞りません。
遠距離介護でも制度は使えますか?
使えます。同居要件はありません。令和7年4月からは、要介護状態の家族を介護する労働者がテレワーク等を選択できるようにすることが事業主の努力義務となり、厚生労働省の資料でも遠隔地の家族の家から業務を行う使い方が想定として挙げられています。
まとめ
- 介護・看護を理由に直近1年間で離職した人は10.6万人(令和4年就業構造基本調査)
- そのうち8.3万人は離職後に働いておらず、再就職できているのは2.3万人
- 一方で介護をしながら働いている人は365万人おり、両立が多数派
- 介護休業は通算93日・3回まで分割可。会社は申出を拒めない(法第12条1項)
- 介護休業は「介護をする休み」ではなく「体制を構築するための休み」
- 介護休暇は年5日(家族2人以上で年10日)、1日単位・時間単位で取得可能
- 所定外労働・時間外労働・深夜業の制限、所定労働時間の短縮等の措置も別枠で使える
- 所定労働時間の短縮等の措置は連続する3年以上の期間で2回以上利用できる
- 介護休業給付金は賃金の67%(雇用保険法附則第12条による当分の間の措置)
- 令和7年4月から、介護に直面した従業員への個別周知・意向確認が事業主の義務
- 40歳等の早期段階での情報提供、雇用環境整備の措置も同時に義務化
- 介護休暇の「継続雇用6か月未満は除外」の労使協定規定は撤廃された
- 要介護2以上なら育児・介護休業法上の「常時介護を必要とする状態」に該当
- 要介護認定は申請日にさかのぼって効力が生じるため、迷った時点で申請してよい
- 辞める前に、給付金・短時間勤務・ケアプランの見直しをすべて試したかを確認する
参考にした情報
- 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(e-Gov法令検索)
- 雇用保険法(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省「育児・介護休業法 令和6年(2024年)改正内容の解説」
- 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」
- 厚生労働省「育児・介護休業法について」
- 介護保険法(e-Gov法令検索)
※本記事の制度に関する記述は、育児・介護休業法および雇用保険法の条文、厚生労働省「育児・介護休業法 令和6年(2024年)改正内容の解説」、総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」にもとづいて整理したものです。実際の制度利用にあたっては原文および勤務先の就業規則、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の解釈をご確認ください。介護休業給付金の支給額は上限額・下限額があり、記載した金額は概算です。介護保険サービスの利用手続や自己負担は市町村によって異なります。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改正により取扱いが変わる可能性があります。ケアプランの組み方や家族への助言に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。




